織斑先生に絞られた翌日、俺達3人は第4アリーナに集まっていた。
なにせ、今回は俺、頑張ったからな~……。
「よ~し、今日は山嵐の試し撃ちするぞ~」
「お~」
「ほ、本当に完成させたんだ……」
まあ1回目の夜なべでコツは掴んでたからな。昨夜から貫徹すればよゆーよゆー……眠ぃ……。
「それじゃあ簪、標的それぞれに1発ずつ当ててくれ」
「分かった」
俺は簪からの応答を聞くと、端末を操作した。すると、標的用ドローンが現れ、簪の前方を無秩序に飛び回り始めた。
「ターゲットロック……15……23……36……41……48! 山嵐、全弾発射!」
簪の掛け声とともに、ミサイルポッドからマイクロミサイルが次々に射出されていく。そして
――ドドドドドドドォォンッ!
爆音が響き、着弾地点周辺が爆炎に包まれる。そしてそれが徐々に晴れて行き……そこにはドローンの残骸だけが残っていた。
「や、やった……!」
「お~! 成功だ~!」
「よーしよし。これで名実ともに、打鉄弐式の完成だ!」
「やったね~! ハイターッチ!」
「おうよ」
「た、ターッチ」
のほほんが両手を伸ばして要求してきたから、俺と簪でそれぞれの手にタッチしてやった。
「山嵐も完成して、これで万全の状態で簪をクラス対抗戦に送り出せるな」
「ちなみにかんちゃん、自信のほどは~?」
「勝つよ。ここまでお膳立てされたんだから、優勝する」
のほほんに対して、簪は即答した。あの決闘から、自分に自信が持てるようになったようだな。これからが楽しみだし、俺も協力し甲斐があるってもんだ。
「簪、もし武装を追加するとしたら、どんなのがいいと思う?」
「追加武装?」
「ああ。例えばパイセンとの決闘の時に山嵐が完成してたらと仮定して、『こんな武装があったら良かったなぁ』とか」
「……」
俺の問いに、簪はしばらく考え込んでいたが、
「近距離武装が、もっと欲しいかも」
「夢現じゃ力不足かな~?」
「そうじゃない。でも、夢現の間合いの、さらに内側に入られたら……」
「あ~なるほど、インファイトに持ち込まれたら抵抗できないってことか」
「(コクリ)」
「でも、そんな武装のISって見たことないよ~」
「そうかもしれない。けど、それなら逆に、そこが私の有利な距離になる」
「あ~そっか~」
確かに簪の言う事は一理ある。至近距離で戦う術があるなら、相手によって対抗手段になったり、簪の独擅場にもなり得る。しかし至近距離かぁ……
「難しそう?」
「いや、案があるにはあるんだが……」
「あるんだ~?」
あるにはある。だがあれは……
「悪い、積めるかどうか検討から入らんとダメそうだから、今はあまり期待しないでくれ」
「ううん、大丈夫。今のままでも打鉄弐式は強いから」
「そだよ~、これでかんちゃんの優勝は間違いなしだね~!」
「うん。でも本音いいの? 私が優勝したら、賞品の……」
「あぁ!?」
その瞬間、のほほんが頭を抱えて膝から崩れ落ちた。え、どういうこと?
「クラス対抗戦の優勝クラスには、学食デザートの半年フリーパスがもらえる」
「はぁ……つまり簪が優勝すると、のほほんはそのフリーパスが手に入らないと」
「そういうこと」
「ひどいよ~! 神様はいじわるだよ~!」
のほほんよ、そんなアリーナの地面を叩くほどのもんなのか、フリーパス。
「分かった分かった。もし簪が優勝したら、俺のフリーパスをやるから」
「かんちゃんのために、一生懸命頑張りま~す!」
「「変わり身早っ!!」」
というか言ってから気付いたが、フリーパスで自分のクラスを売りやがったぞこいつ!?
ーーーーーーーーー
「う~む……」
廊下を歩きながら、俺は困っていた。
端的に言うと、帰された。簪とのほほんに。
『陸、今日は寮に戻って休むこと』
『そうだね~、山嵐を完成させるのに徹夜したんだし、休まないとダメだよ~』
そう言って、二人にアリーナから追い出しを食らってしまったのだ。解せぬ。
「だーれだ?」
「おやぁ? なんかちょうどいいところにへし折り甲斐のある腕が……」
「堪忍してつかぁさい!」
なぜか方言とともに、視界を塞いでいた手がどけられた。
振り向くと案の定、俺から少し距離を置いたパイセンがいた。
「まったく……学習能力が無いんですか」
「ひどーい! ちょっと構ってほしかっただけなのにぃ! 簪ちゃんみたいに! 簪ちゃんみたいに!」
「なんで2度言ったんすか」
俺が呆れてると、パイセンはコロッと表情を変えて近寄ってきた。まるでチェシャ猫だな。
「それで? 一人だけって珍しいわね」
「簪とのほほんに追い出されたんですよ……」
「あら、何したのよ?」
「別に、山嵐のシステム作るのに徹夜しただけです」
「貴方ねぇ……」
パイセンはどこからか扇子を出すと、それを広げつつ(なぜか『論外』と書かれている)ため息をついた。
「簪ちゃんのために頑張ってくれるのは姉としても嬉しいけど、それで無理したらダメでしょうに」
「いやぁ、興が乗ると止め時が……」
誰だってあるよな? 寝る前にちょっとゲームやり始めて、気付いたら日の出を拝んでた的な。
「確かに眠気はあるっちゃあるんですけど、今寮に戻って寝ると、夜また眠れなくなりそうなんすよねぇ」
「ああ……それは私も経験があるわ」
「だから、構ってあげるんで場所変えましょう」
「あらいいの? それじゃあお言葉に甘えてー」
そんなやり取りをしつつ、俺とパイセンは食堂に来ると、それぞれ飲み物を買って席に座った。ちなみに俺はコーヒー、パイセンは紅茶だ。
「ところで、山嵐のシステム作りで徹夜したって言ってたけど、完成したの?」
「……隠す必要もないんで言っちゃいますけど、完成しましたよ。それでさっきアリーナで試し撃ちしてたんで」
「ああ、なるほど」
納得した顔をして、パイセンはティーカップから紅茶を飲んだ。くそぅ、なんか様になってんな。
「貴方には感謝してるの。簪ちゃんを手伝ってくれたことや、私達姉妹が和解するきっかけを作ってくれたこととか」
「別に礼なんかいらないですよ。俺は自分のやりたいように動いただけですから」
簪を手伝ったのは俺にもメリットがあったし、二人が和解できたのは簪が覚悟を決めたからだ。俺がどうこうしたからじゃない。
「むしろ礼なら、のほほんに言ってやってください」
「もちろんよ。本音もそうだし、虚にも色々心配かけちゃったからねぇ」
「きっちり労ってください」
「ええ。ホント、勿体ないぐらい良い従者、幼なじみを持ったわ」
苦笑気味な顔をしつつ、パイセンはカップの中をじっと覗き込みながら呟いた。
「っと、そろそろ食堂もディナータイムになりそうよ」
「ん、もうそんなに時間経ったのか」
パイセンに言われて腕時計を見ると、確かに夕食時になっていた。どうりで受取口の奥から仕込みっぽい音が聞こえてくるわけだ。
「さて、簪ちゃん達に見つかる前に退散するわね」
「どういうことですか?」
「貴方、寮の部屋で休んでる設定でしょ? そこで私と話してる場面に出くわしたら」
「……まずいっすね」
非常にまずい。『陸ぅ……?(ギロリ)』っていう簪を幻視するぐらいにはまずい。
「それじゃあね~」
そう言って軽く手を振ると、パイセンは空になったティーカップを返却口に戻して食堂を出て行った。
そこから少しして、簪達が食堂に入ってきた。危ねぇ、入れ違いだったか。
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シャワーを浴びている間、私は陸の事を考えていた。
(陸、絶対部屋に戻ってなかった……)
食堂で会った時、本人は『寝て起きたら腹減ったから早めに来た』とか言ってたけど、絶対嘘。だって、目の隈がちっとも薄くなってなかった。
「陸、シャワー次いいよ」
体を拭いてパジャマに着替え終わり、陸に声をかけたけど返事がない。
「陸?」
シャワールームのドアを開けると、
「……」
ベッドの上で、制服を着たまま陸が寝ていた。たぶん限界が来て、そのまま寝落ちしたんだろう。
「まったくもう……」
そう言いながら、陸のベッドに腰かけた。
いつも頼りになる陸だけど、寝顔は可愛いかも……
『りったんとたっちゃんは、
『だから、かんちゃん頑張って~』
「……っ!」
どうしよう……あの時本音が言ったことを思い出したら……
「……ちょっとだけなら、いいよね?」
自分の中で言い訳しながら、私は陸が寝ているベッドの隙間に自分の体を滑り込ませた。ちょうど、陸の胸元辺りに丸くなるように。
「おやすみ、陸……」
部屋の明かりを消して、陸の鼓動、温もりを感じながら、私も眠りについた――