チェルシーの過去話回です。ほぼ創作なのは勘弁してください。(元々原作でも内容が大してないんですよこれ……)
オルコット家のメイドになる前、私はバーミンガムに住んでいました。
お嬢様もご存知の通り、バーミンガムは現代のスラム街と言われるほど貧民と不法移民の坩堝と言われております。
幼い頃に両親を亡くしてから、私は妹と生きるために、スリや置き引きなどの犯罪に手を染めていました。そうするしか、生きる術が無かったのです。
そんな私達に転機が訪れました。先代のオルコット夫人、奥様との出会いです。
「そんなことをしているぐらいなら、我が家のメイドになりなさい」
財布を掏ろうとして取り押さえられた私に、奥様は手を差し伸べて下さいました。
どうして私を、と聞いたら
「これでも人を見る目はあるつもり。そして貴女は義理を義理と理解できると思ったからよ」
とおっしゃいました。
そのような出会いを経て、私はいつ死んでもおかしくない浮浪児から、オルコット家のメイド見習い、チェルシー・ブランケットに生まれ変わることができたのです。
オルコット家のメイド見習いになった私は、拾っていただいた奥様の恩に報いるため必死でした。
お屋敷に来た当初は掃除や洗濯などしたことがありませんでしたから、手順を覚えるだけでいっぱいいっぱいでした。
夜は夜で、先輩メイドの方々の立ち振る舞いを思い出しては、何度も反復して体に覚えさせました。
もちろん辛いこともありましたが、スリなどよりやりがいのあるこの仕事を、やめようとは思いませんでした。
そしていただいたお給金で、妹のエクシアと質素ながらも、人として生活が出来たのです。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに……そう思っていた私の想いは、脆くも崩れ去りました。……3年前の、あの時に……。
ある日、エクシアが胸の痛みを訴えるようになりました。
とはいえ、医者に罹るお金もない私にはどうしようも無かったのですが、偶然そのことを知った旦那様が
「今すぐ病院に連れて行きなさい。妻にも口添えする」
とおっしゃってくださいました。……疑っておられますね?
確かに旦那様は表に出られる方ではありませんでしたし、奥様が会話することは多くありませんでした。ですがそれは、旦那様なりの考えがあったからでした。
「入り婿の私が大きな態度を取り、発言力を高めようとすれば、妻のやり方に反感を持つ者達の神輿にされてしまうかもしれない。そんなのは御免だ」
旦那様は自らを下に落としてでも、奥様を、オルコット家の安寧を選ばれたのです。
話が逸れましたね。
そういった流れを経て、エクシアはロンドン大学病院で検査を受けることになりました。その結果が……
「先天性の、心臓病……」
「それは、治せるのですか?」
「……いいえ、これは治療法が確立されていない病気なのです」
「それでは、エクシアは……」
「残念ですが、持ってあと3ヵ月かと……」
「そんな……!」
お医者様の宣告は、非情なものでした。
それから数日が経ち、私は奥様に呼び出されました。
部屋に入ると、奥様だけではなく旦那様もおられました。
「チェルシー、貴女に重要な話があります」
「はい」
「貴女の妹、エクシアの延命についてです」
「っ!?」
延命!? お医者様の話では、治療法はないと……!
「ただし、それは非合法の手段であり、露見すればオルコット家は終焉を迎えることになる」
「オルコット家の、終焉……?」
旦那様の言葉を聞いた時、私の頭の中にあったのは『どうして?』でした。
どうして、一介のメイドの妹に、そこまで……
「そしてチェルシー、そのために貴女にも泥を被ってもらうことになります」
「……何なりと」
奥様に問うことなく、私は深々と頭を下げていました。
お二方がそこまでの覚悟で以てお話してくださったのに、私がここで退くなどあり得ません。それこそ、かつて拾ってくださった恩に報いる時だと。
そして奥様から聞かされた内容は、正直耳を疑うものでした。
極秘裏にISコアを入手、生体融合処置を施すことで、エクシアの壊れた心臓の代わりとすること。
そして、いつか治療法が確立するまでの間、彼女を安全な場所に安置すること。
「君はセシリアの専属メイドとして、幼馴染として、姉代わりとして支えになってくれた。忠義を尽くしてくれた」
「そして貴女の妹には、セシリアの剣となって欲しいの。やがて来るべき時に、あの娘の力となるために」
それが、エクシアがエクスカリバーに"搭載"されることになった経緯です。
エクスカリバーは英米が共同開発したとされておりますが、本当は
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「これが一つ目の"どうして私が、機密情報であるエクスカリバーのことを知っていたか"という問いに対する回答です」
「そんな、ことが……」
わたくしは、何も知らなかった……。チェルシーのことも。お母様や、お父様のことも……。
「そして私は、エクシアに移植するISコアを得るため、奥様の名代として、ある組織と取引をしました」
「ある組織?」
「はい。そして多額の資金援助と引き換えに、ISコアを得たのです……亡国機業から」
「亡国機業……チェルシー、貴女……」
つまり、それは……
「そうです。奥様も旦那様も、そして私も、国を裏切りました。すべてはお嬢様のため、エクシアをセシリア・オルコットの剣とするために」
「すべて、わたくしのために……」
「しかしISコアの出処の件が米政府に気付かれ、お二方は……」
「そ、それでは、3年前の列車事故は……」
わたくしの問いに、チェルシーは首を縦に振りました。
両親はテロリストに関与し、その両親を米国が暗殺した……
「それが、お母様とお父様の死の真相……ですが、まだ答え合わせが終わってませんわ」
そう、"どうして貴女は、エクシア救出の嘆願と共に、わたくしに本国へ戻るように言った"かの回答が。
「先ほどもお話しした通り、私達3人は亡国機業と……テロリストと関わりを持ちました」
そう言ってチェルシーは立ち上がると、テーブルを迂回してわたくしの真横に立ちました。
「そして奥様と旦那様が謀殺され、残るは私のみとなりました」
そして彼女はわたくしの手を掴んで
――ガシャッ
「っ!?」
メイド服の袖から銃!? まさかスリーブガンを仕込んで!?
「亡国機業が壊滅したとはいえ、私という存在は、オルコット家繁栄の妨げとなるでしょう」
「……え?」
その銃を、わたくしに握らせて、銃口を自分の眉間に――
「なっ!」
「テロリストと内通していた私を撃って、お嬢様の……オルコット家の潔白を示してください」
「チェルシー、まさか貴女、このためにわたくしを本国に……!?」
「そして、身勝手なお願いではございますが……エクシアのこと、お願いいたします」
「やめて……!」
力尽くで握らされた銃の引き金が――
「チェルシィィィィィィィィ!!」
――パンッ
――放たれた銃弾はチェルシーの右頬を掠り、後ろの壁を浅く抉って止まりました。
「お嬢様、どうして……」
「どうして……どうしてですって……?」
「ふざけるんじゃありませんわっ!!」
――ドンッ
「がっ!」
メイド服の襟を掴み、壁に叩きつけました。それでも、わたくしの怒りは収まりません。
「オルコット家繁栄の妨げ? テロリストと内通? それで貴女を撃てと言うんですの!?」
「ですが……」
「わたくしはお母様を亡くしました! お父様も亡くしました! その上、貴女まで失えと言うんですの!?」
途中、何か温かいものが頬を伝っていきます。
「貴女は生きなさい! 生きてわたくしに、オルコット家に仕え続けなさい! 死んで、償おう、なんて、そんなこと、認めません、わ……!」
声を出す度に、ヒューヒューと音が漏れます。
「わたくしに、とって……貴女は、幼馴染であり、姉代わりで、あり、もう一つの……家族なん、ですのよ……」
だから――
「これ以上、わたくしから……家族を、奪わないで……」
寄りかかるように倒れ込んだわたくしの頬に、
「……承知いたしました。チェルシー・ブランケットは、これからもお嬢様にお仕えいたします。この命尽きる、その時まで……」
チェルシーから流れた涙が、伝い落ちてきました。
130話でやらかして、プロット修正してインド人を右にした結果がこれだよ!
主君に自分を討たせるとかどうなんよ……?
ちなみに、バーミンガムが『現代のスラム街』というのは創作ですが、イギリスで最も犯罪の多い都市らしいです。
それと、もう1,2話でエクスカリバー編終了の予定です。