「というわけで、お前らのISを俺と束が弄ることになった」
放課後、突然陸が宣言したことで、俺達専用機持ちの改修が行われることになった。
先日陸が言った、ラビット・カンパニーに各国から依頼が殺到したのが発端らしい。そして日本政府からも、俺と箒のIS改修依頼があったんだとか。
「さぁ、まずは箒ちゃんの紅椿からやっていこうか」
そう言って、束さんが拡張領域から色々機材を展開し始めた。
俺と箒のISは、製作者である束さんが面倒を見るらしい。……俺の白式も、倉持技研じゃなくて束さん作だったんだよなぁ。
「とはいえ、箒ちゃんの紅椿は、改修の必要が無いんだけどねぇ」
「姉さん、それはどういうことですか?」
「紅椿には、戦闘経験値が一定以上になると装備を新規構築する機能が付いてるんだよ。だから本来は、何もしなくたっていいんだけど……」
「つまり私の、経験不足が問題だと?」
「う~ん、模擬戦とかは結構やってるはずだけど、やっぱり実戦経験が少ないのが原因かなぁ?」
「実戦……」
二人揃って考え込んじまった。
「一応、方法がないってわけじゃないけど……試してみる?」
あんまり乗り気じゃないですって顔で、束さんが箒に訊ねる。
「他の皆が強くなる中、私だけ足踏みするわけにはいきません」
「そのために、代償があっても?」
「? 無論です」
俺と同じで一瞬首を傾げた箒だったが、最後は頭を縦に振った。
「そっか……りったーん!」
え? なぜそこで陸?
「おう、どうした?」
「実はね」
束さんは陸に何やら耳打ちしていたが
「……いいのか?」
「うん。箒ちゃんも了承済みだから」
「ったく……仕方ねぇなぁ」
そう言うと、陸は自分のISである陰流を展開して大太刀を箒に向かって構えた。
「箒ちゃん、これからりったんと戦ってもらうよ」
「宮下とですか? どうしていきなり」
「さっき言った"戦闘経験値"のためだと思っとけばいいよ」
「はぁ、分かりました」
いまいち納得出来ない中、箒も紅椿を展開して二刀を抜いて構える。
今更陸と戦ったって、何がどうなるって言うんだ?
「それじゃあ、始め!」
束さんが開始の合図をした瞬間
「っ!」
「なっ!」
突然、息苦しさが襲い掛かってきた。箒も俺と同じようで、刀を構えたまま息が荒くなって、汗が止まらなくなっている。一体どうして……。
「いっくん、これが殺気ってやつだよ」
「殺、気?」
束さんの言葉を聞いて、初めてこの正体を知った。これが殺気? けど一体そんなもの、どこから……。
「ああっ、りったんの方を見たらダメだよ。いっくんも箒ちゃんみたくなるから」
「そ、それじゃあ、まるで陸が箒に殺気を放ってるみたいじゃ……」
「そうだよ。それこそ束さんが、りったんにお願いしたからね」
さも当然と言わんばかりに返された。どうして、そんなことを……。
「いっくんも知っておくといいよ。実戦と模擬戦の違いって、『死ぬかもしれない』っていう状況の有無なんだよ」
「死ぬかも、しれない……」
「うん。ま、普通はそんな機会、滅多にないはずだけどね」
最初から最後まで顔色を変えずに、束さんは視線だけを箒達の方に向けた。
「さて箒ちゃん。この戦いでどれだけのものが得られるか、見させてもらうよ」
ーーーーーーーーー
息が苦しい。手の震えを抑えるのがやっとだ。
(こんなの、福音と戦った時以来だ……!)
普段は飄々としている宮下から発せられる殺気に、私は確かに恐怖していた。
「どうした、かかってこないのか? いつもの戦意旺盛な篠ノ之はどっか行っちまったのか?」
宮下が挑発してくるが、それでも私は動かない。いや、動けない。
「仕方ない。ならこっちから征くぞ」
「っ!」
――ガキィィィンッ!
「くぅっ!」
学年別トーナメントの時から知ってはいたが、奴の大太刀が重い……!
「篠ノ之、悪いことは言わん。ISを降りろ」
「な、にを……!?」
「あいつは、一夏はこれからも面倒事に巻き込まれるだろう。そして周りにいる連中を守ろうと躍起になる。お前も知ってるだろう?」
ああ、知っているさ。一夏のことなら、貴様よりも……!
「そんな中で、この程度の殺気で動けなくなるお前は、敵からしたら恰好のカモだ。はっきり言ってやる。足手纏いだ」
「――っ!」
足手纏い、だと? 私が……?
「もうあいつの嫁になったんだろ? なら、これ以上ISに乗れなくても、あいつの隣にいられるだろ。さっさと降りちまえよ」
「ふざけるな!」
そう声を張り上げていた時、先程までの殺気など、完全に意識から消えていた。
それは、否定されたことに対する怒りだった。強くなりたいと思って竹刀を振り続けてきた、福音との戦いで己の弱さを払拭しようとした、これまでの努力と決意の否定に対する怒りだった。
「紅椿! 見せてみろ、お前の力を!」
願った。この想いを具現化するものを。
『戦闘経験値が一定量に達しました』
「なっ!?」
突然パネルが現れたと思ったら、紅椿の肩部ユニットが音を立ててスライドした。まるで、巨大なクロスボウのような形に変化して。
『新装備、出力可変型ブラスター・ライフル《
その表示を最後に、パネルが私の目の前から消えた。
それと同時に、宮下から殺気が消えた。
「やっとか。束、これでよかったんだよな?」
「うん、協力感謝~♪」
今までのことは何だったんだと言わんばかりのほんわか雰囲気に、今の私はきつねにつままれた顔をしているんだろう。
「箒ちゃんに足りなかったのは、戦う熱意だったみたいだね」
「熱意?」
「そう。りったんが言ってた通り、いっくんと一緒にいるだけなら紅椿いらないでしょ? それでもISに乗るんだって意思が、紅椿に伝わってなかったんだよ」
「それは……」
姉さんの言葉を、私は否定できなかった。
最初は一夏の隣にいるための力が欲しくて姉さんに専用機を願った。だが、いつしかその気持ちが薄らいでいたのかもしれない。
(そうか……私は、腑抜けていたのだな)
腑抜けていた。今のままでも一夏の隣にいることは出来ると、心のどこかで安心してしまっていたのだ。
(すまなかったな、紅椿。私がお前を欲していたはずなのに、勝手にそれを蔑ろにする真似をしてしまって)
情けない。『紅椿に相応しい強さを得る』と啖呵を切った、過去の自分に叱責されるべき失態だ。
だが、改めて視点が定まった。
(私は、一夏を支える力が欲しい。あいつの"守る"という想いを支える、力が。だから、改めて頼むぞ、紅椿)
装甲を撫ぜる。心なしか、『頑張って、願いを叶えよう』と紅椿から返された気がした。
ーーーーーーーーー
いやぁ、箒ちゃんの凛々しくも慈愛に満ちた顔を見れて、束さん心が満腹じゃ~♪
ととっ、いっくんのこと忘れちゃだめだよ!
「箒ちゃんの紅椿が進化したところで、次はいっくんの白式だね」
「束さん、俺はとりあえず燃費をどうにかしたいです」
「直球だね!?」
よもや、いっくんがここまで火の玉ストレートを投げてくるとは思わなかったよ! そんなに扱いづらい?
「もうエネルギー切れで、何度模擬戦で負けたことか……」
「そんなに~? どれどれ~」
いっくんが展開した白式に、ケーブルを繋いでログを確認する。……これは
「これはひどい」
「束さん、陸と同じこと言ってます」
「マジかぁ……」
これは束さんも想定外だった。
確かに白式は零落白夜を使えるようにしたから、燃費は良くないよ? けど、
(りったんが模擬戦した時の音声ログが残ってるけど、確かにこれは欠陥だらけだぁ……)
特に多機能武装腕の雪羅をボロクソに言ってるけど、束さんも同意見だなぁ。いっくんに万能系装備とか、却って重荷だもん。
「よし、この雪羅だっけ? この武装を消そう」
「ええ!? そんなこと出来るんですか!?」
「大天才の束さんに任せなさい! そんじゃ、さっそく始めるよー」
いっくん達にバレないよう、こっそり束さんのIS『
むむっ? 修正コードを拒否った? 反抗期だな~。やっぱり
「どうしたんですか?」
「大丈夫だよ、ちょっと白式が雪羅を消すの嫌がってるだけだから」
「ああ、やっぱりそうなんですか。前にも雪片弐型以外の装備を拡張領域に入れられないか試したんですけど、尽く拒否されたんですよ」
「そっか~。さすが白騎士、
「何か言いました?」
「いやいや。でもこのままじゃ埒が明かないから、奥の手を出そうか」
再度白式に対して修正コードを送信。……それと一緒に、
『多機能武装腕『雪羅』から、荷電粒子砲とエネルギーシールドを削除。拡張領域を解放』
「おおっ! やりましたね束さん!」
「えっへん! これで他の非エネルギー装備を積めば、相対的に燃費が良くなるよ」
「うっしゃぁ! ところで、どうしてエネルギークローだけ残したんですか?」
ガッツポーズをしていたいっくんが、こっちを見て首を傾げた。
「ログを見たら、いっくん眼帯相手にクローを使ってたでしょ? 最近の使用頻度的にこれだけ残しといたんだけど、ダメだった?」
「いえいえ! むしろ今考えてる戦術のいくつかはエネルギークロー使う前提だったんで、消されなくて良かったですよ」
「そっかそっか、それは良かったよ」
さて、こっちは二人の改修が終わったし、りったんの方も……大体終わったみたいだね。
「それじゃあ最後の仕上げに……」
「仕上げに?」
「みんなで模擬戦しようか♪」
本作の箒、結構満足度高いから『赤月』の出番はなさそうです。
祝・白式の拡張領域に初めての空き。……空きがあっても、一夏は雪片以外の装備を使いこなせるのか? というか、自分の記憶違いでなければ、原作でも荷電粒子砲以外まともに運用してなかった気が……。福音の時にシールド使ったぐらい?
次回、改修大決戦。