臨海学校の時もそうだった気が……。
「なんやかんやでもう年明けか」
クリスマスが終わり、IS学園も冬休みに入ったと思ったら、あっという間に年末になっていた。
煤払いも昨日の内に終わらせたし、明日食べるおせちも用意は終わってる。
「あとは年越しそばでも作って、まったりするか。マドカは天ぷらときつね、どっちにする?」
「天ぷらがいい」
「はいよ」
こたつから頭だけを出して紅白を見てるマドカ。まるっきり、昔の千冬姉だな。
そう思っていたら、風呂から上がってきた千冬姉がやってきた。
「千冬姉、これから年越しそば茹でるけど、食べるよな?」
「ああ。いつも通り、きつねな」
「分かってるよ」
俺が年越しそばを作るようになってから、千冬姉はきつねそば以外選んだことがないからな。
「さて、俺も天ぷらにするか」
「一夏、一人前追加してやれ」
「は?」
「ああ、なるほど。ちょっと待ってろ」
千冬姉の意外なセリフにはてなマークを浮かべていると、マドカが何かに気付いたのか、こたつから出て庭に出た。
積もるほどではないけど、ちらちらと雪が降っている。
「ほら、出て来い。姉さんにもバレてるんだ」
すると、
「ら、ラウラ?」
冬迷彩のコートを着たラウラが、鼻を真っ赤にして出てきた。
「お前、いつからそこにいたんだよ……」
「夕暮れ前からだ」
「アホかぁぁ!」
胸張って言うことじゃないだろ! 風邪ひいたらどうんだよ!?
「なんで庭に隠れる必要があるんだよ。普通に訪ねてくればいいだろ」
「いや、私は織斑家の安全を陰から守るために……くしゅんっ」
「だーもう!」
とりあえずラウラを家の中に連行すると、こたつの中にシュゥゥゥ!した。まったく、手も冷え切ってるだろ。
「何か温かい飲み物用意するから、しばらくそこに入ってろ」
「おおっ、これがこたつか。確か猫の聖域とも呼ばれる、冬の風物詩だったな」
「誰だそんなこと言ったのは……一夏、私にもホットミルク」
「私には熱燗な」
「はいはい」
織斑家の女性陣からも注文が入ったし……。
「はい、おまちどーさま」
ラウラとマドカにホットミルクのカップを渡し、千冬姉には熱燗の徳利とお猪口を渡す。
「あつっ」
「なんだ、猫舌か」
「そ、そんなわけないだろ。ちょっと予想よりも熱かっただけだ」
そんなこと言いつつ、恐る恐るちみちみとホットミルクを飲むラウラの姿は、紛うことなき猫だった。
「さて、気を取り直してそばを茹でるか。ラウラ、しばらく千冬姉の話相手よろしく」
「ま、任せておけ」
……本当に大丈夫か?
「安心しろ。こいつがダメそうなら、私が適当に場を持たせておく」
マドカがそう言ってるし、大丈夫だろう。俺はそばの用意をするために、3人をリビングに残してキッチンに引っ込んだ。
ーーーーーーーーー
緊張しているのか、ラウラはガッチガチに固まっていた。
「えっと、教官……」
「家に来てまで教官はよせ」
プライベートでその呼び方をされても困る。というか、何度も言ってるが私はもう教官ではない。
「そ、それでは……あ」
「あ?」
「
「ぶふっ!」
マドカが吹いた。私も危うく酒が鼻に回るところだった。
「将来一夏と結ばれた時には、そ、そう呼ぼうと思っていて……」
「あ、ああ……」
確かに、一夏がラウラを始めとした連中と正式に婚姻したら、そう呼ばれてもおかしくはないが……。
「ぷくくく……! あと4人、なんて呼び方をされるんだろうな……くくくっ!」
マドカぁ、お前他人事だと思って……!
「それと、マドカのことはまーたんと呼ぶことにしよう」
「はぁ!?」「ぶっふ!」
ラ、ラウラ……まさかお前がそんなこと言うなんて想像してなかったぞ……!
「な、なんだその呼び名は!」
「好感度を上げるためにはあだ名で呼ぶものだと、ドイツにいる副官が」
「その副官解任しろ!?」
クラリッサめ。相変わらずあいつは、よく分からん知識を周囲に吹聴しているのか。
「い、いいか! 私はそんなあだ名を許可するつもりはないぞ!」
「なぜだ? そんなに悪い呼び名ではないだろうに」
「嫌だ! もしその名で呼んだら……」
「呼んだら?」
「貴様のこともラウラウって呼ぶぞ」
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
ラウラ、もうすでに布仏妹にそう呼ばれてるだろ……そんなに嫌だったのか?
その後、取っ組み合いをすることしばし。
「はぁ、はぁ……ふ、普通に名前で呼ぶぞ。いいな?」
「ああ……それで、いこう」
ということで決着した。最初からそれで良かっただろうに。
「はいよ。そばお待ち……って、なんかあったのか?」
キッチンの方から、ドンブリを盆に載せた一夏がやってきた。
「気にするな。ちょっとした戯れだ」
「はぁ、まあいいか。えっと、千冬姉とラウラがきつね、マドカが天ぷらな」
こたつの上にそばのドンブリが載ると、マドカとラウラが目をキラキラさせた。
「それではさっそく!」
「あっ! お前! い、いただきます!」
即そばをすすり出したマドカに対して、手を合わせてから食べ始めるラウラ。う~む、どこかでマドカに教育が必要だな。
「おおっ、これはなかなか……!」
「つゆの出汁がいいな。うまい」
二人が美味そうに食べるのを見て、私もそばをすする。うむ、うまい。
「今年は昆布からあごだしに変えたんだけど、好評みたいで良かったよ」
「あごだし? なんだそれは?」
「なんだったかな……あっ、そうだそうだ、トビウオからとった出汁なんだってさ」
「ほう、トビウオのことを"あご"と言うのか」
「まったく、どんどん女子力を上げおって」
「いや、女子力って……」
そんなことを言っていると、ぼーんと除夜の鐘が鳴った。
「あ、千冬姉」
「うむ。マドカ」
「ああ」
「「「今年もよろしくお願いします」」」
3人で頭を下げる。自分で声を掛けといてなんだが、マドカもちゃんと頭を下げたな。
それにラウラも慌てて倣った。
(去年は激動の1年だったが、今年も明けから一波乱ありそうだ)
一夏のIS学園入学を皮切りに、無人機の乱入にVTS事件、福音暴走。2学期に入ってからも亡国機業の襲撃、ハッキング事件、エクスカリバー、女権団消滅。大きな事件だけでこれだけある。
さらに1年4組の宮下が巻き起こした小事件も含めればキリがないほどだ。
三が日ぐらい学園の面倒事は忘れようと思っていたのだが、私の頭の中には終業式の直前に知らされた案件――3学期にルクーゼンブルグ公国から特別留学生がやってくる――が巡っていた。
ーーーーーーーーー
除夜の鐘が鳴って1月1日の元旦。ラビット・カンパニーの社長室は、今も煌々と明かりが点いていた。
「スコール……あと何枚だぁぁぁ……?」
「これで……」
ほぼ机に突っ伏しているオータムに問われた私は、最後の書類に印を押した。
「お……」
「「終わったーーーーー!!」」
クリスマス休暇が幻と消えた私達が、なんとか三が日を死守した瞬間だった。
「昔の軍人時代でも、こんなにひどい生活はしてなかったぞ……」
「私もよ」
アメリカの特殊部隊にいた時ですら、潜入任務中でもない限り、10日に1日は非番があったのに……。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……うわっ、私達35連勤もしてたのかよ!?」
カレンダーを眺めてたオータムが声を上げた。それを聞いて私も上げそうになった。
ただの35連勤ではない、"会社に泊まり込んで"の35連勤。地獄だったわぁ……。
「けど、これで私達は自由よ」
さっきも言ったように、三が日は死守した。しかも、それだけじゃない。
「ああ! これまでの代休分も含めて、成人の日? まで休めるんだよな」
そう、これから私達は、8連休に突入するのだ。
「オータム、リサーチは済んでる?」
「当然!」
自信満々で、私に端末の画面を見せる。
「この近辺で、元旦初売りをする店と福袋の内容、全部調べは済んでるぜ!」
「結構! 大変結構!」
この社長室の椅子に座らされてから、まともにショッピングも出来なかった憂さ、ここで晴らさせてもらうわよ!
「だがまぁ、とりあえずは……」
「とりあえずは?」
「久々に、シャワーじゃなくて風呂入ろうぜ」
「……そうね」
オータムの言う通り、社内のシャワー室ではなく、湯船に浸かりたいわ。
「そんじゃ、さっさと帰って風呂入って一旦寝よぉぜ」
「ええ。明日……もう今日ね。今日の朝は早そうだし」
そうと決まれば話は早い。私とオータムはテキパキと片付けると、借りたままほぼ帰っていないマンションに向かって、車を走らせたのだった。
年越し織斑家。原作にプラスして、マドカもいる光景。しかも性格が原作ブレイクしているからか、とっても書きやすくなりました。(オイ
スコールとオータム、やっとお家に帰れる。35連勤泊まり込みなので、社長と秘書に就任してから一度も帰ってません。そしてその反動で、元旦初売りとか言い出してます。(アメリカには初売りの風習はないらしいです)
次回、初詣をするか、さっさと3学期(新章)に入るか悩み中です。