生意気姫が国に帰った翌日、あたし達は初めて宮下達が自室謹慎になったことを知った。
「千冬姉「織斑先生だ(ブォンッ)」そんなのどうでもいいから! どうして陸達が謹慎処分なんだよ!」
「い、一夏、織斑先生の出席簿を……」
「躱した、だと……!?」
あの亜音速出席簿アタックを、スレスレとはいえ躱したのよ、あの一夏が!
とはいえ……
「まったく……回避が上手くなったのはいいが、少しは周りを気にしろ」
「周りって……あっ」
そこで一夏は初めて気づいたっぽい。
ここが第2アリーナで、他にも訓練機に乗った子達がいるってことを。
「す、すみません……」
「分かればいい。そして宮下達だったな。単純に『模擬戦中の危険行為』に対するペナルティだ」
「危険行為って……でもそれって、更識さんがアリス相手にやり過ぎたってだけだろ? ならどうして陸どころか楯無さんまで……」
「保護者の監督不行届ということで、本人達が望んだ。実際、その方が更識妹に対して罰の効果があったようだしな」
ああ、分かるわ。二人が連帯責任になった時、更識がどんな顔をしてたか。
「あの、織斑先生」
「なんだ凰」
「3人が自室謹慎なのは分かったんですけど、差し入れとかしたら……ダメですか?」
「差し入れだと?」
「はい。正直その話を聞いて、私も責任を感じたので……」
あの時、千冬さんの命令ですぐに更識を止めていれば、もしかしたらと思っちゃったから……。
「そんな、まさか鈴も自室謹慎するとか言うわけじゃ……!」
「言わないわよ。ただ、その詫びとして差し入れぐらいと思って」
「……いいだろう。ただし、私も同伴するぞ」
「分かりました」
まぁ、謹慎中の3人に会わせろって無茶言ってんだから、千冬さんの監視付きとはいえOKが出ただけ御の字ね。
「な、なら俺も……!」
「そうですわ、わたくし達も……」
「凰一人だから特別に許したのであって、何人もゾロゾロと面会させられるか!」
「「「「「うっ!」」」」」
千冬さんの一喝で、一夏を含め皆黙り込んだ。やっぱり怖いわぁ……
「それと凰」
「はい(バシンッ)ぎゃっ!」
「"千冬さん"ではなく、織斑先生と呼べ」
「あ、あい……」
どうして心の声まで読まれてるのよおかしいでしょ!
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それから購買で差し入れ(部屋から出られないらしいから、日持ちのする食べ物)を買って、千ふ(ギロッ)織斑先生と二人で宮下達の部屋の前までやって来た」
――コンコン
「はいよぉ」
声の後にドアが開くと、部屋の中なのに制服を着た宮下が出てきた。
「珍しい組み合わせだな」
「まぁ、そうだろうな」
「というかアンタ、部屋でも制服なの?」
上下ともにIS学園の白い制服姿で、まるで下校してきたばかりじゃない。
「いや、一応俺達謹慎中だからよ、もし寝間着姿で過ごしてて、抜き打ちで織斑先生がやって来た日には……」
「うむ、泣いたり笑ったり出来なくしてやったな」
「うわぁ……」
織斑先生、そんな満面の笑みを浮かべられても……
「それで、今回来たのは抜き打ち検査ですか?」
「いや、凰がお前達に差し入れをしたいと言い出してな」
「差し入れ?」
きょとんとした宮下の目が、織斑先生からあたしに向く。
「あたしが更識を止め遅れたのが、アンタ達の謹慎の一因でもあるから。その詫びとしてね」
「別に気にしてねぇのに。まぁいいや、有難くいただくよ」
「はいこれ。それで、更識達は?」
さっきから、まったく出て来ないけど。
「ああ、簪達なら……」
そう言って、宮下があたし達を部屋の奥に連れていく。すると……
「ゴーグル?」
更識と会長の姉妹が、あのVRゴーグルを付けてベッドの上で横になっていた。
「なるほど、仮想世界で訓練中というわけか」
「なんでここに……って、そういえばこのゴーグルの作者、アンタだったわね」
「おう。各クラスへの配布分の残りを使ってな。今回みたいなことがあるから、ローテで一人留守番役が残ってて、今が俺の番ってわけだ」
理解はしたけど、これは……
「これはうかうかしてられないな、凰」
「う、うかうかなんて!」
マズいわ……! まさか謹慎中、あたし達が授業を受けてる間も、こんな訓練をしてたなんて!
「こうしちゃいられないわ! それじゃ宮下、残りの謹慎期間も頑張りなさいよ!」
「お、おう」
相手の返事を聞く前に、あたしは急いでアリーナに戻るために走り出した――
「廊下を走るな!」
――ゴンッ!
「あだっ!」
織斑先生の投げた出席簿が、あたしの頭を直撃した……痛い……。
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「ん……」
目が覚めてゴーグルを外すと、ジュージューという音とお肉が焼ける匂いがしてきた。
「陸、今日の晩御飯はぁ……?」
「チンジャオロースにしてみた」
「やったぁ……」
音と匂いだけでもすごい幸せ。そして寝ぼけてた頭も動き出してきた。
陸の作るケーキも美味しかったけど、ごはんも美味しい。乙女のプライド? なにそれおいしいの?
「んぁぁ……」
「お姉ちゃんも目が覚めた?」
「ええ。今回もハードな訓練だったわね……」
「うん。ハードだった」
お姉ちゃんってば、せっかく幸せだったのに……。
陸が『昔
「まずあの巨体があり得ないわ! 一体全長何百mあるのよあの傘のバケモノみたいなの! そして近づく前にミサイルとレーザーの雨! しかも近づいたら近づいたで、ハリネズミのような機関砲の嵐! さらに時々バリアみたいなのが広がって、それに触れたらSEがゴリゴリ削れるし! 完全に『IS絶対落とすマシン』じゃない!」
「落ち着いて」
興奮するお姉ちゃんを宥める。でも、お姉ちゃんの言うように、あれはない。
「飯が出来たぞー。で、どうだった?」
「陸君、あれはないわぁ……」
「ミサイルの雨に蹂躙されること3回、あのバリアもどきに落とされること5回」
たぶんお姉ちゃんは、私以上に落とされてるはず。
「まぁ、そうなるな」
「そうなるな、じゃないわよぉ!」
頬を膨らませるお姉ちゃん。可愛い。
「簪ちゃんからも何か言ってよぉ!」
「陸、もっと難易度マイルドなのプリーズ」
少なくとも、あれはこの世界の人類には早過ぎる。色んな意味で。
「まあその辺は、飯食ってからにしようぜ」
「うん」
「ぶーぶー」
「刀奈は食わんのか?」
「食べる」
お姉ちゃん、チョロい。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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「は~、お腹いっぱい~ごちそうさま~」
晩御飯を食べ終わったお姉ちゃんは、すごく幸せそうな顔で手を合わせた。さっきまでの不満顔はどこに行ったのか。
「ごちそうさま。それじゃあ片付けは――」
「へーいお邪魔するよー!」
――バッ! ギュッ!
「もう恒例過ぎて逆に気持ちぃぃぃぃ!」
「し、篠ノ之博士……」
いつもの如く窓から飛び込んできて、陸の対空アームロックを受ける博士が危ない道に。
「それで、今日は何用だ?」
「そうそう、りったんにこれを見て欲しかったんだよ~」
陸がアームロックを外すと、博士は拡張領域から紙を取り出した。……紙?
「束が紙媒体とは珍しいな」
「なにせ急いで書き殴ったからねぇ。というわけで、感想ちょーだい」
「まぁいいや。どれどれ……」
陸が渡された紙を見ている間、私達はどうしよう? そう考えていたら
「チェシャ猫ちゃん、ISコアって何で出来てるか知ってる?」
「え?」
「実はね、ルクーゼンブルグの地下にある時結晶ってやつで出来てるんだよ」
「博士ぇ!?」
突然のカミングアウト!? それって世界で数人しか知らないはずの情報ですよね!?
「そ、そうなんですか? 初めて知った……」
「なにせちーちゃん含め、世界で数人しか知らない国家機密だからねー」
「ちょっとぉぉぉ!?」
うん、お姉ちゃんのその反応は正しい。正しいはず、だよね?
「おいおいおいおいっ! マジかよ!?」
ずっと黙って紙の中身を見ていた陸が、突然大声を上げた。
たぶん、今までで一番陸が興奮した声だと思う。
「り、陸君?」
「すごいでしょー?」
「えっと、何が書いてあったの?」
私が聞くと、陸は紙を私達の方に向けた。
これって……何かの設計図?
「時結晶を使わないISコア、しかも俺の劣化版と違って、正規品との性能比が97%以上だってよ!!」
「「ファー!?」」
時結晶を使わない!? しかも性能比97%って、ほぼ正規品と同じだよ!
「実はりったんのパチモンの設計図を見た時、束さんも作ってみたいなぁと思ってたんだよね」
「はぁ」
「で、この前の"あれ"があったでしょ?」
あれ……もしかして、あのお姫様の件? 織斑君を公国に連れ帰ろうとしたっていう。
「時結晶の件で、あの国とは個人的に付き合いがあったんだけど、あの件でそろそろ縁を切ろうかなーって」
「えぇ? でも博士、あの国からは特に抗議とかなかった上に、非公式とはいえ謝罪もあったのに」
「うん。チェシャ猫ちゃんの言う通り、それだけなら束さんも水に流そうと思ってたんだけどねぇ……」
そう言うと、博士はエプロンドレスのポケットからボイスレコーダーを取り出して再生ボタンを押した。
『殿下、もう織斑一夏のことは諦めた方が……』
『ジブリルよ、心配はいらぬ。どうやら篠ノ之博士は、我が国で産出される時結晶とやらを欲しておるようじゃ。それを交渉材料に、今度こそ織斑一夏を我が公国に連れ帰るのじゃ!』
「「「ええ~……」」」
これには私達3人ともドン引きだった。
あのお姫様、ホントどうしようもなかったんだ……。
「というわけで、近いうちにこのことを公表して、正式に縁を切るつもりだから。あ、りったん、その設計図いる?」
「いや、もう頭の中に入れたから返す」
えぇ、もう覚えたの?……法律系の知識もそれぐらいすぐ覚えられたら、去年の期末テストも慌てずに済んだのに。
「それじゃ、りったんの感想も聞けたし、束さんはクールに去るぜ!」
「ええっ!? ま、窓から!?」
いつも通りの帰り方をする博士を見て、お姉ちゃんが慌てる。そうか、お姉ちゃん、博士が帰るところ見るの初めてだもんね。
「か、簪ちゃん。もしかして、これっていつもなの?」
「うん、いつも」
「そ、そうなのね……」
お姉ちゃん、博士はもう"そういう存在"って思ってないと大変だよ?
一夏達、オリ主達の謹慎を知る。鈴が一番決闘の件に関わってるので、そのまま行ってもらいました。
簪、乙女のプライドより美味しいごはん。ちなみに、一夏ほどの味ではないです。
訓、練? 元ネタは言わずもがな。
束、報復準備。あの大天災なら、これぐらいしてくれるでしょう。そして馬鹿姫様の馬鹿は治らない。
次回、『篠ノ之束の憤慨 姫崩壊★一直線!』