俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ!   作:シシカバブP

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今年最後の更新になります。
再開は年明け1/5辺りの予定です。

それでは皆様、少し早いですが、良いお年を。


第15話 朴念仁からの脱却

新武装の動作確認を明日に控えた夜。寮の部屋で簪と茶を飲んでいると

 

――コンコン

 

「かんちゃーん」

 

「本音?」

 

簪がドアを開けると、そこにはのほほんと――

 

「貴方、確か2組の……」

 

「……」

 

2組のクラス代表、凰鈴音が目を真っ赤にして立っていた。

 

 

 

 

とりあえず2人を部屋の中に入れて、適当に机の椅子に座らせた。

 

「それでのほほん、どうして凰と一緒なんだ?」

 

「外のベンチで泣いてたのを連れて来たからだよ~」

 

「べ、別に! 泣いて、なんて……」

 

怒鳴ろうとした凰だったが、徐々に声が尻すぼみになっていった。目が赤いのはそういうことか。

 

「はい、麦茶だけど」

 

「あ、ありがとう」

 

簪から渡されたコップを受け取ると、凰はグイッと中身を飲み干した。

 

「はぁ……別に大したことじゃないのよ。ちょっと昔のあたしが馬鹿だっただけなんだから……」

 

そう言うと、凰はその"昔"を話し始めた。

 

 

 

凰は小学5年の頃、日本にやってきたそうだ。

当時は日本語が下手だったのが原因でいじめにあってたらしく、その時手を差し伸べてくれたのが一夏だったと。

それから一夏と仲良くなったそうだが、中学2年の時に両親の都合で中国へ帰国。

で、問題はその時交わした約束らしいんだが……

 

 

 

「あたし、一夏に言ったの……『料理の腕が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』って……」

 

「それって……」

 

「『毎日味噌汁を~』の亜種かな~?」

 

「そうっぽいな」

 

つまり、凰は一夏に告白したわけだ。

 

「それで今日の放課後、一夏に聞いたの。『あの時の約束、覚えてる?』って。そしたら……」

 

ちょっと待て。それで今凰が泣いてたってことは……

 

「まさか一夏の奴、その約束を忘れてたとか……」

 

「それならまだ良かったわよ……」

 

「え?」

 

 

 

「『酢豚奢ってくれるんだろ?』だって!!」

 

 

 

「「「あ~……」」」

 

俺、簪、のほほんの3人の声がハモり、手を目に当てて天を仰ぐところまでシンクロした。

一夏ぁ、お前って奴はぁぁぁぁ……

 

「でも~、おりむーにそんな遠回しな表現通じるのかな~?」

 

「そうよ……だから言ったでしょ、『昔のあたしが馬鹿だった』って」

 

「ああ、そういう……」

 

つまり、当時の一夏は婉曲表現なんてものを知らず、凰の告白を額面通り『毎日酢豚を食わせてくれる=奢ってくれる』と受け取ったわけか……。

 

「凰」

 

「なによ」

 

「消灯時間まで居ていいから、好きなだけ泣いてけ。なぁ簪?」

 

「うん。これは酷すぎる」

 

簪も頷いて、凰が手に持ったコップに麦茶を注ぎ足した。

 

「アンタ達……礼は、言わない、わよ……」

 

そう言いながら凰は、今度は麦茶をちびちび飲みながら、それと同じぐらいポタポタと涙を流し続けた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

凰も男の俺がいたら満足に泣けないだろうから、一旦部屋の外に出たんだが、

 

 

~~~♪

 

 

「誰だ? こんな時間に」

 

スマホのディスプレイを見ると、登録されていない番号だった。

 

「もしもし?」

 

『貴方が現地作業員とやらでよろしい?』

 

「……誰だ?」

 

()()()()を知ってるってことは、そっち(神界)関係の奴なんだろうが。

 

『わたくしはシギュン』

 

「シギュン……ってロキの嫁さんかよ!」

 

『今回、あの(ひと)に代わり、わたくしが貴方に指令を伝えることになりました』

 

「はぁ……それで、指令ってなんだ?」

 

 

 

『一夏様を育てるのです!』

 

 

 

「……はい?」

 

この女神、なんつった?

 

『この度の介入、当初は一夏様との接触を極力行わないよう伝えておりました』

 

「そうだな」

 

さ○ま○し風の指令書モドキまで見せられてな。

 

『しかし、それでは前回行われた悪行に対する償いにならないと、わたくしを含めた女神達が判断しました』

 

「はぁ……」

 

『ゆえに! 今回貴方を敢えて一夏様に接触させて、あの馬鹿が『アンチネタにされるような悪い部分』などとほざく"可愛い部分"を矯正し、最高の一夏様に育て上げるのです!』

 

あ~……神って馬鹿ばっか?

 

「同年代の野郎を育てるとかないわ~……」

 

『いいえ、貴方はすでに一夏様を育てています』

 

「は?」

 

『一夏様がイギリスの小娘に"ちょっと悪口"を言った際には、きちんと謝るように諭したではないですか』

 

「いや、諭したっていうか、確かに謝るようにアドバイスはしたが」

 

『それによって、一夏様の1組内での印象は大変良くなりました。そのようなシナリオを、わたくし達は望んでいるのです』

 

「さよで……」

 

そして一連のやり取りで思った。この女神、めっちゃ一夏のこと依怙贔屓してるじゃん。2次創作のアンチものかってぐらい一夏の事を毛嫌いしてた旦那(ロキ)と、よく夫婦になれたなおい。

 

「一応言っとくが、俺はあくまで一夏とはダチとして付き合ってくつもりだ」

 

『今はそれで構いません。貴方が一友人として助言することで、一夏様は理想の主人公へとなっていくでしょうから。それにどうせ、これから中国娘の件で一夏様の所へ行くのでしょう?』

 

「……なーんか心を読まれてるようで不愉快だが、確かに行く気だった」

 

今回は助言というよりSEKKYOUになりそうだがな。

 

『それによって、また一つ一夏様が成長することを期待しております』

 

 

 

 

というやり取りがあった後、俺は1025号室の前にいるわけだ。

 

「一夏~、いるか~?」

 

「陸か? 何か用か?」

 

ノックして呼びかけると、少ししてドアが開き、一夏が出てきた。そこをすかさず

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

 

 

アームロックをキメて、一夏ごと部屋の中に入る。廊下で話せる内容でもないからな。

 

「み、宮下!? 一体これはどういうことだ!?」

 

部屋の奥から、驚いた顔の篠ノ之が出てきた。ちょうどいい。

 

「なぁ篠ノ之。一夏は馬に蹴られて死ねばいいと思うか?」

 

俺のその問いに、篠ノ之は何かを察した顔をすると

 

「ああ。蹴られて死ぬべきだな」

 

即答した。

 

「箒!? 一体どういうことなんだだだだだだっ!」

 

とりあえず部屋には入れたから、アームロックは止めるか。

 

「なぁ一夏。日本には婉曲表現ってあるのは知ってるか?」

 

「痛たたた……いきなりなんだよ」

 

「その婉曲表現に『毎日味噌汁を作ってくれ』ってのがあるのは知ってるか?」

 

「なんだそれ?」

 

「要は『毎日味噌汁を作るために、ずっと一緒にいてくれ』って告白の意味になる」

 

「……ああ、なるほど」

 

俺の説明を理解できたのか、一夏は手を打ってコクコクと頷いた。

 

「ここで一夏に問題。今の表現を、作る側に置き換えたらどうなる?」

 

「え? それは『毎日味噌汁を作ってあげる』になるんじゃねぇの?」

 

「そうだな」

 

OK、ここまでは順調だ。

 

「なぁ、結局何が言いたいんだ?」

 

「焦るなって。それじゃあ今一夏が言った婉曲的な告白、中国人が言うとしたら、何て言うとピッタリくる?」

 

「中国人が? そうだなぁ……中国に味噌汁なんてないだろうし、別の中華料理に置き……換えて……」

 

腕を組んで考えていた一夏の顔が、徐々に青くなっていく。ようやっと気付いたか、馬鹿め。

 

「酢豚なんかピッタリだと思わないか? 凰とか、そう言いそうだよなぁ」

 

「……っ!」

 

俺の追い打ちに、一夏の方がビクンと跳ねる。

 

「で、でも、鈴だぜ? そんなわけが……」

 

俺に縋りつくような視線を向けてくる一夏の顔は、青と通り越して血の気の引いた白になっていた。

 

「俺は凰じゃねぇんだから、そんなこと言われても返答できんぞ。ただ言えるとしたら」

 

 

「自分じゃどうにもならない窮地を救ってくれた相手を、好きになることだってあるんじゃねぇか?」

 

 

「あ……」

 

凰と出会った時の事を思い出したのか、一夏は頭を抱え、力なく膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……でももし、陸の言ったことが本当なら……俺、鈴になんてこと言っちまったんだ……!」

 

「一夏……」

 

そんな一夏に篠ノ之が寄り添う。

 

「一夏、外野の俺が言うのはお門違いだってのは百も承知だ。けどな」

 

俺はしゃがみ込むと、頭を抱えている一夏の顔を覗き込んだ。

 

「まずは謝れ」

 

「あやま、る?」

 

「そうだ。理由も分からず適当に謝っても意味はないが、お前はちゃんと凰が怒って、泣いた理由も分かったんだろ? なら、きちんとした形で謝れるはずだ」

 

「きちんとした、形で……」

 

「おう」

 

形だけ謝罪したって誠意なんて伝わらんだろうし、下手すりゃ同じことをやらかして最初より悪化しかねないからな。

 

「ああそれと、『一度した約束を反故にするのは男らしくない』って理由で告白を受けるのは無しだぞ」

 

「え?」

 

え、じゃねぇよ馬鹿。

 

「お前なぁ……『告白だって気付かなかったけど、男らしくないんで付き合います』なんて、そんな誠意のない男女の付き合いをしたいのか?」

 

「一夏、さすがに私もそれはどうかと思う」

 

「そ、そうだな……」

 

そう言って、やっと一夏は顔を上げたが、まだまだ顔色は青いな。

 

「篠ノ之、散々引っ掻き回しておいて悪いんだが、あとは任せていいか?」

 

「ん? ああ、そろそろ消灯時間か」

 

俺としても無責任だとは思うが、寮長の織斑先生に絞られるのは前回の門限ブッチでたくさんだ。

 

「ところで、どうして宮下がこの話を知っているんだ? あの場には一夏と私の他は、鈴しかいなかったはずだが」

 

「その凰が泣いてるところを、のほほんが見つけて俺と簪のところに連れて来たんだよ」

 

「なるほど……分かった。あとは私の方で引き受けよう」

 

「すまん。頼んだ」

 

篠ノ之に手を合わせると、俺は1025号室をあとにした。

 

 

 

部屋に戻ると、凰とのほほんは帰った後だった。

簪曰く、『きょ、今日の借りは、いつか必ず返すんだからね!』とのことらしい。典型的なツンデレである。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宮下が帰った後、少しして一夏は立ち上がると、自分のベッドに座り込んだ。

 

「箒……俺、情けねぇよ……」

 

組んだ手の上に頭を載せて俯いていた一夏が、ボソリと呟いた。

 

「白式を手にした時さ、正直浮かれてたんだ。『これで誰かを守る力を手に入れた』って。だけど実際は、幼なじみとの約束ひとつ、まともに守れてないんだぜ? 何が守るだよ、俺って奴は……」

 

「一夏……」

 

「しかも俺は、その鈴からの好意を、陸に指摘されるまで気付きもしなかったんだ……最低だ」

 

俯いているから、一夏が今どんな顔をしているかは分からない。ただ分かるのは、その足元に水滴が落ちて染みを作っていることだけだ。

そんな一夏の目の前に、私もしゃがみ込む。

 

「宮下も言った通り、まずは謝るべきだ。過去を変えることはできないが、過去を省みることはできる」

 

「……ああ、そうだな……」

 

それからややあって、一夏が顔を上げた。目は赤くなっていたが、顔色は先ほどよりも良くなったようだ。

 

「悪いな箒、つまらない弱音を聞かせちまって」

 

「気にするな。たまには"幼なじみ"の弱音ぐらい聞いてやる」

 

「ありがとうな……って、なんで"幼なじみ"のところを強調したんだ?」

 

「別に。ただ、宮下の言っていた『自分じゃどうにもならない窮地を救ってくれた相手を、好きになることだってある』という言葉。まったくその通りだと思っただけだ」

 

「それって……え?」

 

「ほら一夏、もう消灯時間だ。寝るぞ」

 

当て付けのつもりで言ってしまった言葉を誤魔化すように、部屋の明かりを強制的に落として、私は布団の中に潜り込んだ。真っ赤になっているであろう顔を、一夏に見られないように。

 

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