8/1追記
誤字・抜け字を修正
多機能フォームで書いたのが反映されてなかった……orz
「学期末トーナメント、クロニクルが出られるようにするか」
ゴーグル増産の依頼をこなして暇になった陸が、寮の部屋に戻った途端、またトンデモなことを言い出した。
クロニクルさんが参加できないのは、体内に埋め込まれたISが競合するため。理論上はそれをどうにか出来ればいいんだろうけど……。
「さすがに技術的にも時間的にも無理じゃ?」
まず第1に、体内に埋め込まれたISをどうこう出来るのか。それが出来るなら、篠ノ之博士がすでにやってると思う。
第2に時間。おそらくクロニクルさんはすでに不参加を申告してるはずで、撤回するには今週中、つまりあと3日しかない。
「大丈夫だ、策はある。で、"あいつ"も巻き込めば……」
「あ、あいつ?」
私の疑問を後目に、スマホを操作して誰かに連絡を取り始めた。
一体だれを……あっ、あの人しかいないや。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
陸が連絡した相手というのが
「それで束さんを呼んだわけだね」
予想通り、篠ノ之博士だった。
「でもりったん、一体どうするつもり? くーちゃんのISを取り除くのって、正直無理だよ」
「やっぱりそうなんですか?」
「うん。あの金髪ドリル、セシリアだっけ? あれの身内と同じように、くーちゃんもISで体の足りない部品を補ってるんだよ」
たぶん博士は、エクシアさんのことを言ってるんだろう。
確かにそれは無理だ。無理にISを取り除いたら、そのままクロニクルさんが死んじゃうことになる。
「それなら心配ない。これを見てくれ」
そう言って、陸が端末に表示して見せたのは……ごめん、私には理解できない。何かすごい数式と専門用語の羅列なのは分かるんだけど。
「……こ、これは!?」
「これならいけそうじゃないか?」
「出来る……これなら出来るよ!」
なんか二人で意気投合してるけど、一体何が出来るんだろう……。
「でも、そうなると急がないと。くーちゃんのトーナメント不参加を撤回するには、あと3日しかないよ!」
「というわけで束、今夜はオールナイトでやるぞ!」
「合点承知の助!」
え、オールナイト? 何をするか知らないけど、一晩でどうにかする気なの?
「というわけで簪、俺はこれから束と作業に入るから。あ、それとボーデヴィッヒに明日の放課後空けとくよう言っといてくれ」
「え、ええ?」
どういうこと? なんかよく分からない内に話が進んでるんだけど!?
「それじゃありったん、さっそく束さんのラボにGO!」
「おう!」
「ちょっとま、陸ぅ!?」
私の声なんか全然届いていないのか、博士はいつものように、陸もその後を追って、ベランダの手すりを飛び越え、暗闇の中に消えていた。
「……とりあえず、ボーデヴィッヒさんに連絡入れとこ」
ここで織斑先生に連絡を入れない辺り、私も慣れてきてるなぁと思う。
ーーーーーーーーー
昨日の夜、突然更識から連絡が来た時は何かと思った。
『陸が、明日の放課後予定を空けてほしいって』
『明日か? まぁいいが、一体何をするつもりだ?』
『それが、博士と何かするつもりみたいで……』
『……』
そのやり取りだけで、正直危険な匂いがプンプンしてきた。
が、あの二人が何かするというのであれば、軍人として情報収集は必要だろう。だからこそ、こうやって放課後、指定された整備室に来たのだが。
「おうボーデヴィッヒ、突然呼び出して悪かったな」
「別に構わん。それで、今回は一体何をするつもりだ?」
整備室には宮下と更識、そしてその横には、まるで酸素カプセルのような装置が鎮座していた。
「見ての通り、今回はこれを使うんだが、それにはボーデヴィッヒの協力が必要でな」
「私の? 一体……」
どういうことだ、と聞く前に、
「やっほー、お待たせ~」
「あ、あの、束さま?」
篠ノ之博士と、クロニクル?
「さて、これで役者は揃ったな。それで、今回集まってもらったのは……」
「クロニクルの体内に埋め込まれたISの摘出と、それに伴う問題個所の治療。それが目的だ」
……は?
「ちょっと待て、確かクロニクルに埋め込まれたISは、セシリアのところのメイド妹と同じように、不足分の臓器を補っていたはずだ。それを摘出したら……
「そのためのこいつだ」
私の疑問に対して、宮下がポンポンとカプセルのような装置を叩く。
「その装置は一体何なんだ? 酸素カプセルというわけでもないのだろう?」
「それは私も知りたい」
なんだ、更識も聞いていないのか。
「この装置で、ISの摘出と足りない臓器の再生治療を同時進行で行う」
は? 今こいつ何と言った?
「さ、再生治療だと!? しかも臓器をか!?」
「そうだよ~。束さんとりったんが、頑張って作りました~!」
「た、束さまが?」
「やっぱり一晩で作ったんだ……。二人とも、無茶苦茶過ぎる」
「一晩!?」
更識、嘘だと言ってくれ! 私の中の常識が、常識が……! いや、この二人ならそうなるか。(諦観
「それで、どうして私が呼ばれたんですか?」
「おっ、冷静だね? もうちょっと慌てるかと思ったけど、結構結構」
「あんま言いたくないが、クロニクルの遺伝子には一部欠陥がある。だからそのまま再生治療しても効果はないんだ」
宮下の説明で、何となく納得がいった。
クロニクルは私と同じ
そしてこれは予想だが、再生治療とは幹細胞による機能分化クローニングのようなものなのだろう。であれば、元となる細胞に異常があれば意味がない。
つまり……
「つまり、私の遺伝子情報を使って欠けた臓器を作り出し、クロニクルに移植すると?」
「正解だ。理解が早くて助かる」
「それじゃあくーちゃん、さっそく始めようか」
「た、束さま。まだ彼女から同意が……」
「いいだろう。協力する」
「え?」
私が協力に同意する旨を口にすると、クロニクルが驚いた顔でこちらを見てきた。なんだ、そんなに不思議か?
「別に私の臓器を寄こせという話でもないからな。それに――」
そこで言葉を区切る。そして思い出す。修学旅行の帰り、こいつと、遺伝上の"姉"との会話の中で、私の中に出来上がったもの。
「こういう時に助け合うのが、"家族"というものなのだろう?」
「ラウ、ラ……私は……」
むっ、泣かれるために恰好をつけたとではないのだが……。
「くーちゃん、こういう時は素直に感謝しておけばいいんだよ」
「感謝……」
博士に諭されて、クロニクルは袖で目を拭くと
「ありがとう、ラウラ……」
「うむっ」
そうだ。それでいいのだ。その方が、私も手伝うと決めた甲斐があるというものだ。
「あ~……そんじゃ、始めていいか?」
「「「あ、はい」」」
完全放置されて目が死んでる宮下と更識に対して、私達3人は頷くしかなかった。
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いやー、まさかボーデヴィッヒとクロニクルの仲があんな感じになってたとは。
「ハッキング事件直後は、全然こんな感じじゃなかった」
「だな。もっと他人行儀だったはずだが……運動会や修学旅行で何かあったんだろう」
「かもしれない」
そう簪と話しながらも、再生治療用ポッド内のクロニクルの状態をモニターしている。
この装置、ベースはもちろん、
「ボーデヴィッヒから採取した細胞からDNA情報抽出、クローニング開始」
「こっちも、くーちゃんからISを摘出する準備完了だよ」
手順としてはまず、ボーデヴィッヒの細胞から人工臓器を作る。そして摘出したISと置換して、結合部をそのまま再生治療で繋げる。
それと並行して、別の場所も治すんだが……それは簪やクロニクルはおろか、束にも言ってない。サプライズってやつだ。
「クローニング完了。束、始めてくれ」
「りょーかい。それじゃ、摘出作業に入るよ」
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・
「ふぅ~……」
「宮下、終わったのか?」
「おう、なんとかな」
細胞の提供してくれたら帰ってもよかったのに、律儀にもボーデヴィッヒは整備室の隅っこで待ってたようだ。
「協力した身としては、結果を見届ける義務と権利があるだろう」
「それもそうか」
確かにもらうもんもらってポイとか、聞きようによってはヒデェ話か。
「それで陸、クロニクルさんはこのまま?」
「いや、あと少しすれば……」
――ピーッ!
アラーム音が鳴ると同時に、ポッドの上部がスライドして、ただのベッドのようになった。
「んん……」
「くーちゃん、起きて」
「たばね、さま……?」
「え?」
クロニクルを起こそうと顔を近づけた束が、驚いた顔で俺の方を見る。
「りったん、これって……!」
「俺からのサプライズだ。驚いてもらえて何よりだ」
「あ、あの、束さま、一体何が……」
状況が飲み込めていないのか、のっそりとクロニクルが起き上がる。と同時に、簪とボーデヴィッヒも驚き顔でこっちを見てきた。
「り、陸?」
「宮下、これは一体……!?」
「あの、みなさん、どうしたのですか?」
簪とボーデヴィッヒも驚く中、当の本人だけが首を傾げていた。
「くーちゃん、はいこれ!」
「鏡、ですか? これが一体……え?」
束から手渡された手鏡を覗き込んで、ようやくクロニクル本人も気付いた。
黒い眼球ではなく、ボーデヴィッヒと同じ、白い眼球と金の瞳になっていることに。
「これは……!」
「ボーデヴィッヒのDNA情報が手に入ったからな、目の方もついでに治しておいた」
臓器と違って徐々に置き換えても問題ない部位だったから、装置のオート機能で治療できる。なので俺の手間はほぼかかってない。ならやるだろ?
「これで、周りを気にする必要はなくなったな。なにせ、体内にISはないし、目も含めて外見は完全に普通に人間なんだし」
「りったん……」
「陸……」
「あ、ありがとう、ござい、ます……!」
「宮下、お前という奴は……」
だぁぁぁお前ら、泣くな泣くな!
「それよりほら、クロニクルのトーナメント不参加を撤回しに行かなくていいのか?」
「はっ! そうだった! くーちゃん、急げ急げ~!」
「た、束さま!? そんなに急がなくても、まだ期日は~~~~!!」
束の小脇に抱えられたクロニクルの声が、ドップラー効果のように響いて消えた。
「なぁ宮下。これ、セシリアのところのメイド妹にも使えないか?」
「エクシアだったか? たぶん使えると思うぞ?」
状況は同じだし、不足している臓器に付いても、チェルシーさんの体細胞を使えばいけるだろう。
「なら、頼めないだろうか」
「俺はいいが、束がなんて言うかなぁ……」
今回はクロニクルのためだから手を貸してくれただろうが、それ以外の人間を助けると言っても嫌がりそうなんだよなぁ。
「博士の説得は私がする」
「出来るのか? まぁ、もし出来たらやってもいいが……」
「え~? そいつ助ける理由ないし~」
案の定、クロニクルの不参加を撤回して戻ってきた束は嫌がったが
「博士、エクシアはセシリアの身内です。そしてセシリアは一夏の嫁、つまり身内なわけです」
「それってこじつけだよね~」
「一夏に褒められたくないですか?『束さん、エクシアを助けてくれてありがとう』と」
「よしやろう」
あっさり陥落した。ボーデヴィッヒ、恐ろしい子……!
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話を聞いたオルコットは、さっそくイギリスに連絡してメイド姉妹を学園に呼び寄せた。
そして翌日、オルコット家の自家用機で文字通り飛んできた姉妹が学園に。
「本日は、よろしくお願いいたします」
「お、お願いいたします」
姉のチェルシーさんから体細胞を採取、クローニングを行っている間に、エクシアをポッドの中へ。あとはクロニクルの時と同様。目の治療がない分、前回よりも治療時間は短かった。
それより問題になったのは
「それで、摘出したISだが……」
「エクスカリバー無き今、エクシアが所持する理由もありませんし……如何いたしましょう、お嬢様」
「元が亡国機業から齎された物である以上、オルコット家で所持し続けるのも問題がありますわね……」
摘出したISをどうするかということだ。
おそらくどこかから強奪されたものの、国の面子とやらで届けられてないものの一部なんだろう。
だから面倒事に巻き込まれたくないと、オルコットが放棄したいと言うのもよく分かる。
ちなみに、クロニクルから摘出したISも
「くーちゃん、摘出したコアで専用機作ったら、乗る?」
「いいえ、みなさんと同じ訓練機に乗ります。私はただでさえ、束さまの関係者ということで目を付けられていますので」
というやり取りがあり、こちらも処遇に困っている。
「もう面倒だし、ちーちゃんに丸投げしたら?」
「賛成ですわ」
「それでいこう」
こうして、クロニクルとエクシアから摘出した2つのISコアは、アラクネのコアと同様学園預かりとなるのだった。
『宮下ぁ! 束ぇ! お前達はまたぁぁぁぁぁぁ!!』
コアを手渡した時の織斑先生の顔、怖かったデス。
クロエ治療回。ただISが埋め込まれてるだけなら、束でも治療できると思うので、エクシアと同じ『ISで足りない臓器を補っている』という設定にしました。
追加でエクシアも治療。束を動かすには一夏を使えばいいという一例。ただしやり過ぎると『一夏を利用した』と判断されて消される模様。
ちーちゃん不憫。『千冬に!安息は!おとずれなぁい!!』