書かなきゃ。(使命感)
時系列的には、トーナメント1日目(前話で一夏が試合してる辺り)を想定して書いてます。
私は最初、この学期末トーナメントには不参加の予定でした。
かつて試験体C-0030と呼ばれていた頃。ヒトではなく、ただの記号でしかなかったあの頃に、私の体内にISが埋め込まれました。遺伝子強化素体の失敗作、それの有効活用として。
それによって、私はISに乗れない体となった。正確には『IS同士の競合によって出力が相殺されて、まともに扱えない』が正しいのでしょうか。
それでも、私は幸せでした。あの頃には想像も出来なかったモノを、私は手にすることが出来たから。
自分の行動を自分で選べる自由。IS学園の生徒という身分。そして、クロエ・クロニクルという名前を。
本当に、それだけで幸せでした。もう十分なほど、たくさんのものを得られたのだと。
けれども、束さま――私にクロエ・クロニクルという名を下さった方――から、私はまた幸せをいただけたのです。
「くーちゃん、調子はどうだい?」
「束さま。問題ありません」
第2アリーナのピットで、様子を見に来てくださった束さまに、私は力強く頷きました。
宮下さんに治していただいた目――遺伝子の欠陥による悍ましい黒い眼球から、白い眼球と金の瞳に変わった――で、束さまをしっかりと捉えて。
「そっか。心配はないと思うけど、無理しちゃだめだからね?」
「はい。無理はせず、さりとて全力で頑張ります」
「うん」
嬉しそうに微笑みながら頷き返してくる束さまを見て、私のやる気はさらに高まりました。
「それじゃあくーちゃん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
搭乗したラファールのマニピュレータで手を振り返すと、私はピットから出撃しました。
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くーちゃんを見送った後、私は観客席に来ていた。
来賓席に私の席があるってちーちゃんが言ってたけど、あんな面倒なところに行く気はない。
「あれ~、篠ノ之博士~?」
「あれ、のんたん? なんでここにいるの?」
のんたんもりったんが作った専用機を持ってるから、てっきり出場してると思ってたんだけど。
「私は初戦敗退しちゃったんで、そのまま観戦してます~」
「あらら、負けちゃったんだ」
「たはは~……。ここ、空いてますよ~」
苦笑いしながらあのダボダボの袖で自分の隣とペチペチ叩くから、誘われるままのんたんの隣に座った。
「博士、次の試合がくーちゃんだからここに来たんですね~」
「ま~ね。変かな?」
「変じゃないですよ~。"家族"なら普通だと思います~」
「……そっか」
裏表のなさそうなのんたんにそう言われると、なんだか嬉しいなぁ。
これが来賓席の連中だったら、思ってもいないおべっかと、気持ち悪い笑顔ですり寄ってきたんだろうなぁ。うわっ、想像しただけで気持ち悪っ!
「あっ、くーちゃんだ」
のんたんの声で視線を向けると、ラファールに乗ったくーちゃんが、同じラファールに乗った奴とアリーナの中央で対峙していた。
「くーちゃんの対戦相手、知ってる?」
「あれはぁ……2組の子かなぁ? 確か、リンリンと寮で同室の子だったはずです~」
「ふーん」
のんたんがパッと出て来ないってことは、有象無象の生徒の一人ってことか。
そう考えていたら、試合開始のブザーが鳴った。
「おおっ!?」
思わず声が出ちゃったよ。だって、くーちゃんが試合開始と同時に相手に肉薄して、ゼロ距離からショットガンを撃ちかましたんだから。
『ぐっ! やってくれたわねっ!』
『まさか、開幕瞬時加速するなんて思いませんでした?』
『思うわけないわよチクショウメェ!』
開幕ぶっ放したことで、相手の精神は揺さぶられてるようだ。くーちゃんグッジョブ!
「あ~これ」
「ん? どしたの?」
「今の開幕瞬時加速って、かんちゃんが前の試合で使った手なんですよ~」
「かんちゃんが?」
確かにあの子なら、それぐらい出来るだろうけど。なにせちーちゃんとやり合える腕があるんだから。
「そこから顔面にメメントモリを撃ち込んで、りったんをKOしちゃったんですよ~……」
「うわぁ」
りったん運悪ぅ! 初戦でかんちゃんに当たっちゃったの?
「対戦相手も、まさか同じ手をくーちゃんが使うとは思わなかったんだろうな~」
「いいねぇ」
束さんにとっては瞬時加速とか児戯に等しいけど、くーちゃんはそうはいかない。
それが出来るように、くーちゃんは今日まで努力を重ねてきたんだろう。
束さん、努力自体を否定する気は全然ないよ。その努力を、
「お~、今度は
「グルグル回りながら撃ち合うやつだね」
「博士~、それじゃあおりむーの感想みたいですよ~」
「いっくんとおそろ~」
喜んだら、のんたんに微妙な顔されたんだけど。解せぬ。
なんて思ってたら
『きゃあっ!』
『ごめんねクロエさん、こっちも負けてられないのよ』
ああっ! くーちゃんにアサルトライフルの銃弾当てるとか、あの乳女ぁ!
『まだまだいくよぉっ!』
――ドドドドッ!
――ガンガンガンガンッ!
『ぐぅっ!』
ああ……くーちゃんが、くーちゃんがぁ……!
「落ち着いて博士~」
「落ち着け? 落ち着けるわけないじゃん!」
「ほら~、ちゃんとくーちゃんの顔を見て~」
いつもの口調に苛立ちながらも、言われた通りくーちゃんの方を見た。
そして気付いた。
「ね~?」
のんたんの言いたいことが、分かった。
実体盾で何とか攻撃を防ぎながらも、苦悶の声を上げている。それでも
くーちゃんの目は、諦めてなかった。
まだ戦えると。まだ勝負は着いていないと。
「あ」
相手の銃が弾切れになり、別の銃に切り替えようとした瞬間
『これを待っていました!』
――ドンッ!
『なぁっ!?』
まさか2度目はないだろうと、誰もが思っていた。瞬時加速を使った、正面からの"奇襲"。
そして実体盾を放り捨てたくーちゃんが構えていたのは
六九口径パイルバンカー、
『いっけぇぇぇぇぇぇ!!』
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
奇しくも、くーちゃんと同じ言葉を叫んでいた。そして
――ズンッ!
『ごはっ!』
――ズンッ! ズンッ! ズンッ!
――ズンッ! ズンッ! カチッ カチッ
『ごはっ!』
6発全ての炸薬を使って叩き込まれた相手はアリーナの壁に叩きつけられ、そのままズルズルと倒れ伏した。
『ティナ・ハミルトン、SEエンプティ―。勝者、クロエ・クロニクル』
「勝った……?」
「勝ちましたね~」
「……すっごいよ、くーちゃん……」
束さんともあろう者が、そんなチープな言葉しか出て来ない。もう、湧き上がってくる興奮で、頭の中がどうにかなりそう。こんな感情、久々に感じた気がするよ。
「博士~、くーちゃんの迎えに行ってあげたらどうですか~?」
「はっ!」
のんたんに言われて、思わずハッとした。
そうだっ! そうしようっ! そうしなければっ!
「行ってくるよのんたん!」
「行ってらっしゃ~い」
ダボダボの袖をブンブン振って見送るのんたんを背に、くーちゃんが戻ってくるだろうピットに向かって猛ダッシュをかました束さんだった。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「くーちゃぁぁぁんっ!!」
ピットに来てさっそく私は、ラファールから降りたばかりのくーちゃんを抱き締めていた。
「た、束さま、苦しいです……」
「おっと」
危ない危ない。嬉しさのあまり、手加減なしで抱き締めちゃったぜい!
「束さま、私、やりました」
「うん! 見てたよ見てたよ! 初戦突破おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
はにかんだ顔のくーちゃん、最高です。
「束さま」
「ん? 何だい?」
「私は今、とても幸せです」
「……そっか」
それを聞いて、私の胸の中が、すごく温かくなった気がした。
「今日はもう試合は無いんでしょ? 一緒にお昼御飯食べよう! 今日はくーちゃん初勝利のお祝いに、束さん奮発しちゃうぞー!」
「え、ええ?」
「食堂で何頼んでもいいよー! 『本マグロてんこ盛り丼』でも、『満漢全席体験フルコース』でも、『マッカラン 12年』でも!」
「いえそんな……というか、最後のはお酒です束さま」
「ナイスツッコミ! さ、行こ行こ」
心中を見破られないようにしながら、私はくーちゃんを連れて校舎内の食堂に連れ立って行ったのだった。
クロエって原作でも出番多くない上に、戦闘シーンがほぼないので、すっげぇ難産でした。
本音、初戦敗退。これは予測可能回避不可能。
束が原作からどんどん離れていってるけど……原作崩壊タグ付いてるからヨシッ!