年末年始で帰省したら忙しすぎて(帰ってきたのを好都合とばかりに使いっ走りにされて)、全然書き溜め出来なかったっていうね……
ここ最近は毎日のように来ている第4アリーナ。今日は新装備のテストをしに来たわけだが、俺達3人以外にも……
「見学者よ」
「お、お姉ちゃん……」
そんなドヤ顔していう事じゃないでしょパイセン。
ほら、簪だってどう反応したらいいか困ってるし。
「りったーん、計測器の準備できたよ~」
「おう。こっちも準備万端だ」
さて、いつもは簪が弐式を操縦して、俺とのほほんがデータ取りをしているわけだが、今回は違う。なぜなら
「陸がIS乗るところ、初めて見た」
そう、偶々訓練機の空きがあったから、昨日アリーナと一緒に予約したのだ。
で、俺が作成者として対戦相手(という名の標的)を買って出たわけだが……
「りったん、大丈夫~?」
「あ~、やっぱ実技試験以来だから、戦闘機動は無理かもなぁ」
それでも、なんとか簪の前にまで移動はできた。パイセンも、のほほんの横に移動済みだ。
「それじゃあ簪、始めるぞ」
「陸……これ、本当に平気?」
俺と右手を見比べながら、簪が不安そうな顔をする。
「大丈夫だ。そのためのリミッターだろ?」
「……分かった。それと、危なくなったら即中止する」
「おう」
不安そうな顔をしていた簪だったが、
「それじゃあ、行く!」
気合の入った掛け声とともに、俺が乗った打鉄の左腕部を掴む。そして
「メメントモリ、起動!」
その瞬間、掴まれた箇所に赤黒い高周波の光が瞬き、打鉄のSEがみるみるうちに減っていく。800……700……600……
そして照射が終わった時には、SEは500近くまで削れていた。
最初あったSEは900。つまり……
「一撃で、半分近く持ってったの……?」
「す、すごい……」
「これ、凶悪すぎだよ~……」
パイセンも簪ものほほんも、みんなこの結果に唖然としていた。
リミッター付きでこれだ。もし外した状態で使ったら……いや、使わないといけなくなったら……
「是非とも、名前負けの武装のままであって欲しいな……」
「陸?」
「ん? ああ、何でもない。とにかくリミッターも含めて、テストは成功だな」
「そうね。簪ちゃんが何ともなくて良かったわぁ」
「もう、お姉ちゃんってば……」
弐式を待機状態にした簪に、パイセンが過度なスキンシップをしていた。
「これで来週の対抗戦はいただきだね~」
「油断はできないが、手札は揃ったな」
のほほんの頭をワシワシしながら、今朝玄関前廊下に張り出されていた紙の内容を思い出していた。
表題は『クラス対抗戦日程表』。組み分けは
第1試合 1組 vs 2組
第2試合 3組 vs 4組
と書かれていた。
3組に専用機持ちはいなかったはずだから、今の簪が負けるとは考えづらい。そうなると、一夏か凰、勝った方と決勝で戦うことになるだろう。
……パイセン、簪を弄り過ぎて脳天チョップ食らってら。
ーーーーーーーーー
何もない、真っ暗な世界。そこに私は、制服を着たまま立っていた。
ああ、これは夢なんだと、確信した。
何より、目の前の人が、
「ランディさん……」
「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」
陽気に手を振る赤毛の人は、もう片方の手に小さなグラスを持って、この真っ暗な世界になぜかポツンとあるソファに座っていた。
「えっと、あの時はありがとうございました」
「あの時……ああ、姉ちゃんとの決闘の時か。いいってことよ。自分なりのけじめをつけて、姉ちゃんと和解も出来たんだろ? なら俺も、手伝った甲斐があるってもんだ」
笑いながらそう言うと、ランディさんは手に持ったグラスの中を飲み干した。あの琥珀色の液体……もしかして、お酒?
「ランディさん、聞きたいことがあります」
「おう。俺で答えられることなら答えるぜ」
「あの紅い打鉄弐式は、一体……」
「ん? たぶん俺の力を流したからじゃねぇか? すまんが、俺にもよく分かんねぇんだ」
「そう、ですか……」
まだ分からないことだらけだけど、とにかくあの紅い弐式は『ランディさんが手を貸す時限定』らしい。
「それにしても嬢ちゃんのメカニック、ひどいネーミングセンスの持ち主だな」
「え?」
「『メメントモリ』の事だよ」
「な、なんで……」
なんで、ランディさんが弐式の武装を知ってるの?
「そりゃあ、
「自分に……?」
どういうこと? それじゃあ、まるで……
「『まるで俺が打鉄弐式みたいじゃないか』か?」
「っ!」
「だが嬢ちゃん、お前さんにも心当たりがあるんじゃないか?」
心当たりは……ある。
そもそも弐式が紅くなったのだって、ランディさんが弐式そのものなら簡単に出来る。
そして普通なら、こんな人格が機械にあるなんて世迷言、誰も信じない。だけど、ISなら話は別だ。
「コア、人格……」
「正解だ。正確には、元々あったコア人格と、別世界から飛ばされた"俺"の人格が混じり合った結果だがな」
途方もない話だ。
「最初嬢ちゃんに会った時、『心の世界が~』みたいなこと言ったろ? 今ならあの意味も分かるんじゃないか?」
「……トップクラスのIS操縦者は、コア人格と言葉を渡し合った事があると証言している」
「そうだ。元々ISって奴は操縦者と意思疎通が出来るようになってるらしい。ただ、条件が厳し過ぎる上、夢かどうかも分からん状況での話だから、誰もコアに人格があると証明できない」
「でも、今私とランディさんは話を出来てる」
それに決闘の時だって、ランディさんと対話していたはずだ。
「それは俺から話しかけたからだろ? ほとんどのコア人格はシャイなんだよ。いや、警戒してると言うべきか」
「警戒?」
「『自分達を道具としてしか見ていない。自分達の人格を否定されるんじゃないか』ってな」
「ああ……」
何となく分かる。よく授業では『ISはパートナーのように』と言ってるけど、なかなか難しいかもしれない。
「さて、これで俺については理解してもらえたか?」
「うん、それについては。でもまだ、『メメントモリ』については聞いてない」
「ああ、それか」
そう言うと、ランディさんは先ほどの琥珀色の液体が入った瓶をどこからか出してきて、グラスに注ぎ始めた。
「嬢ちゃん、あの武装をリミッターを外した状態で使ったらどうなると思う?」
「それは……相手はただじゃ済まない」
「はっきり言えっての。『確実に相手は死ぬ』ってな」
ランディさんの指摘に、私は反論できなかった。
「逆に、そんな物騒なもんを使わなきゃならんぐらい切羽詰まってる時に、使うことを躊躇ったら、どうなる?」
「それは……」
「想像がつかないか? 答えは『自分か仲間が死ぬ』だ」
「あ……」
銃を持ったテロリストを撃たなければ、自分や周りの誰かが撃たれる。つまりそういうことなんだろう。
「使おうが使うまいが、必ず誰かが死ぬ。ゆえに『
確かに、酷い名前かもしれない。だけど……
動作テストの時、陸が呟いていた言葉を思い出していた。
『是非とも、名前負けの武装のままであって欲しいな……』
「これは競技用。だから名前負けの武装、それでいいと思う」
「……そうかい」
「それに……」
「それに?」
「もしリミッターを外して使わないといけなくなっても、"討った事実"から逃げたくない。だから、戒めとしてちょうどいい」
「……」
ランディさんは一瞬呆けた顔をして、それから
「くくくっ……はははははははっ! まったく、あっという間にでっけぇ雌獅子に成長しやがって!」
手で目を覆いながら、声を大にして笑い出した。
「そんだけ自分で腹括れてんなら、俺があれこれ言うのも無粋か」
ひとしきり笑うと、ランディさんはまたグラスの中身を飲み干した。
「嬢ちゃんの決意、コアの中から見させてもらうぜ」
「うん」
私は頷くと、踵を返して何もない暗闇を歩き出した――
ーーーーーーーーー
「……」
目が覚めると、まだ日が昇る前だった。
(陸は……まだ寝てる……)
隣に視線を向けると、陸の姿があった。
起き上がって近づいてみたけど、よほどぐっすり寝ているのか、目を覚ます気配は無かった。
(私が強くなれたのは、陸がいてくれたから……)
あの日、陸と出会わなければ、今の私は無かった。本音と和解できず、お姉ちゃんと戦うことも出来ず、ずっと一人だったはずだ。
自分の"業"と向き合うことも出来ず、前に進むことも出来なかっただろう。
(陸……)
陸の顔を覗き込む。そうしていると、心の底が温かくなるのを感じる。
(やっぱり、私は……)
「私は、陸の事が……好き……」