生徒会室で面倒事の話をした後、俺達は食堂のテーブルで昼飯を食っていた。
「それじゃ本音、午後も頑張ってね」
「うう~、かんちゃんも手伝ってよ~!」
「ダメよ。来年になって私が生徒会を引退したら、貴女が生徒会長になるんだから。今の内にお仕事に慣れておかないと」
「ファッ!?」
何驚いてんだのほほん。刀奈だって、3年になって生徒会長は続けられんだろう。
「わ、私が生徒会長~!?」
「本音なら、私やお姉ちゃんを倒してるから、学園最強に相応しい」
「ここでタッグマッチのことを掘り起こさないでよ~!」
あったなそんなことも。あの時は泣いて辞退したのに、結局は先送りされただけだったわけか。
「相変わらず、このグループは賑やかなのサ」
「あ、アーリィさん」
簪が反応した通り、パスタ皿を乗せたトレーを持ったアーリィがこっちを見て笑っていた。
なんだろう、正直久々に見た気がするな。週2のIS実習で顔を合わせてるはずなんだが。
「相席失礼するヨ」
そう言って、俺らのテーブルの空いてる席に座った。まだ許可してないんだがなぁ……。まあいいけど。
「それにしても、この学園も面倒事が多いネ」
「えっと、どういうことですか?」
「タテナシが調べたんだロ? 女権団と米国の秘匿部隊の件」
後半だけ、周りに聞こえないように小声で話すアーリィに、俺達も声のトーンを落として話す。
「もう話が回ってるんですか?」
「ああ、さっきチフユから直接ネ。特に私とマヤは専用機を持ってるから、君らと同じように迎撃に回されることになりそうだヨ」
「そうなると、他の先生達はみんなの護衛や避難誘導に回るのかな~?」
「だろうネ」
なるほど。先生方も、今回は万全の態勢を整えてると。
学園祭、ハッキング事件、エクスカリバー。これまではいつも、事が起こってから泥縄式で対応するしかなかったからな。
「ダリルだっけ? あのアメリカ代表候補生。さっき廊下ですれ違ったけど、頭抱えてたヨ。『なんでいっつもアメリカなんだよ……』って」
「あの国は自他共に認める、人種と思想のサラダボウルだからな。それで危ない連中も集まってくるんだろう」
「まるで誘蛾灯みたいに言うわね」
「誘蛾灯……」
刀奈のセリフに、簪が後ろを向いた。その視線の先には
「いっく~ん」
「あ、あの、束さん?」
「姉さん! いつまで一夏とイチャイチャしてるんだ!」
「そうですわ! いくら篠ノ之博士といえど」
「「「一夏(嫁)の独占はんたーい!!」」」
「あっ、くーちゃん! こっちだよ~!」
「あ、あの、束さま?」
「『ママ』って呼んでよ~。でもそうなると、いっくんは『パパ』になるのかな?」
「「「「「ファーッ!?」」」」」
……そうだな簪、あれこそ紛うことなき『誘蛾灯』だな。
俺達5人、何も言わずに頷いていた。
「そ、それで、リクとカンザシに頼みがあるのサ」
「頼み?」
「なんだ、またテンペスタの改修とかか?」
というか、アーリィはあの超加速を御せるようになったのか? 前見た時は、
「違う違う。リクには教師部隊の装備を用意してほしいのサ。ほら、学期末トーナメントで使われた粘着弾頭」
「あれか」
確かにあれは、非殺傷武装としては悪くない性能だ。
「……それと、剥離剤もネ」
「分かってる。もう整備科の連中に恨まれたくないからな」
のほほんにボディブロー食らったあの日、他の整備科の面々にも白い目で見られたからなぁ……。俺悪くねぇのに。
「それと、またハッキングされたら困るから、カンザシにはその対策をしてほしいのサ」
「ハッキング対策、ですか? でもどうして私を?」
「かんちゃんのプログラミング能力なら、お声がかかっても不思議じゃないと思うけどな~」
「そうね。私も簪ちゃんが適任だと思うわ。篠ノ之博士は一応部外者だし」
そうだな。束に頼めれば一番なんだが、さすがに学園のセキュリティをあいつに触らせるわけにもいかないか。
……太陽光発電システムを握られてる時点で、首根っこ掴まれてるのは間違いないんだろうが。
「というわけで、二人にはこの後、地下区画に来て欲しいとチフユから伝言を預かってるヨ」
「それって……」
「あの先生、拒否られると微塵も思ってないのかよ……」
あの人のことだ、拒否ったら『命令だ、やれ』とか言い出しそうだな。
たぶん一夏も、そうやって調教されていったんだろう……合掌。
ーーーーーーーーーーーーー
「はぁ……」
昼食後、俺は校舎の屋上で一人黄昏ていた。
箒達はいない。というか、ちょっと頼んで外してもらった。
「お前が黄昏ても絵にならんぞ」
「そんな言い方は酷くねぇかな、千冬姉」
「織斑先生だと……いや、今は休校だから特別に許そう」
振り向きもせず掛け合いをした後、千冬姉は俺の横に立った。
「それで? 篠ノ之達を遠ざけてまで、何を考えている?」
「なんて言うか、まだ頭の中で整理が付いてないんだけど……」
「"守る"って、なんだろうって」
「……」
そんな曖昧な言葉に、千冬姉は何も言わず聞いてくれている。
「自分で言うのもあれだけど、俺ってIS学園に入学した当初は、めちゃくちゃ弱かっただろ?」
「そうだな」
「それから白式を手にして、『やっと力を手に入れた』って思ったんだ」
「浅はかだな」
「oh……」
千冬姉、容赦ねぇな……。その方が、らしいって言えばらしいけど。ただまあ、
「千冬姉の言う通り、浅はかだったよ。その時の俺は、
「馬鹿者め。まあ、それに気付いただけ及第点か」
「それに気付いたのは、学園祭の時だった」
「……白式が
「ああ」
他にもきっかけはあったんだと思う。けど、あの時が一番のターニングポイントだったのは間違いないはずだ。
「その時、白式に誓ったんだ。『"みんな"を守れるように強くなりたい』って」
「みんな、か」
「俺が守った人が、他の人を守る。その守られた人が、別の人を守る」
「鼠算だな。お前一人で全てを守ると言い出さなかったのは意外だった」
横を向くと、本当に千冬姉は意外そうな顔をしていた。
姉上、貴女の弟はそこまで考えなしじゃ……いえ、何でもないです。
「それから俺は、授業も模擬戦も頑張ったつもりだ。箒達の手も借りて」
「それは知っている。なにせお前達の成績をつけているのが、私と山田先生なんだからな」
1学期と2学期で比較したら悪くない伸びだったぞ、とお褒めの言葉ももらった。
「ありがとう。そうやって強くなってきたと実感出来るようになってさ、ふと思ったんだ」
いや、
「『強くないと、誰かを守れないのか』って」
それは、俺の今までを根本からひっくり返す考えだった。
「さっき食堂でさ、箒や鈴から言われたんだ」
「篠ノ之と凰から?」
「ああ」
束さんに抱き着かれて、箒達が怒りだした時に出てきた話。
「『あの時一夏が守ってくれたから、私は救われたんだ』ってさ」
箒も鈴も、小学生の頃イジメられていた。そこを俺が助けた。言ってみれば、ただそれだけだ。
けれど、それだけでも『誰かを助ける、守る』ことが出来たんだ。あの頃の、大した力もない俺がだ。
もちろん、あの頃と今じゃ状況は全く違う。強くあればあるほどいい。その考えは変わらない。
けど、何かを守るためには、強さ以外の何かが必要なんじゃないかと思うようになったんだ。
「なるほどな……その考え自体は間違っていないだろう」
「なあ千冬姉、俺に足りないものって何なんだ?」
「一夏」
俺が問うと、千冬姉は真剣な顔で俺の方を向いた。
「私には、その問いの答えを言うことは出来ない。それは、お前自身が見つけるべきものだからだ。おそらく、柳韻さんもそう言うだろう」
「柳韻さんか……」
懐かしい名前が出てきたな。箒の父親で、かつて俺と千冬姉が剣道を習っていた、師匠と言うべき人だ。
確かにあの人なら、そう言うだろうなと思っちゃうな。
「だから、私から言えるのは一つだけだ」
「それは?」
「最後まで、考えることを止めるな」
「考える、こと……」
「さて、宮下達に仕事を振った手前、私だけサボるわけにもいかんな」
そう言うと、千冬姉は屋上の出入り口の扉を開けて、校舎内に戻っていった。
「……結局、具体的なことは分からず仕舞い、か」
守りたいって意思はある。そのための力も得ようとしている。
それでも俺に足りないものって、何だろう……。
久々に登場アーリィ。まーやん共々、最後には出番を作りたいですねぇ。
誘蛾灯一夏。これがデフォなんて、こんなの絶対おかしいよ!(ラノベ界隈では普通)
一夏、悩む。『一夏はこんなこと言わない』と言われそうですが、気にしない。