みんなは『マーフィーの法則』って知ってるだろうか?
言ってしまえば、経験則をまとめたユーモア集みたいなものだ。
『トーストを落とした時、バターを塗った面が下になる確率は、敷いてあるカーペットの値段に比例する』とかが有名だろうか。
要は『嫌なことほどよく起こる』『可能性がゼロでなければ、いつか必ず起こる』ってことだ。
……ホント困ったことに、嫌なことというのは必ず起こるものなのだ。
その日、最初に異変に気付いたのは、学園周辺を監視するレーダー群だった。
このレーダーは先日、ラビット・カンパニー(の所属になってる陸)協力のもと、ステルス機も発見できるように強化されたばかりだった。
――ビーッ! ビーッ!
そのレーダーが、学園沖合の第一警戒線を突破した、所属不明機を感知したのだ。
学園の教師部隊は直ちに出撃準備を整え、各学年の専用機持ちにも召集がかかったのだった。
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「すまん! 遅れた!」
最後に一夏が会議室に入って来て、これで専用機持ち全員が揃ったことになる。
――ゴンッ!
「遅い! まあいい、状況を説明する」
「ひゃい……」
腕を組んでいた織斑先生は一夏の脳天に一撃かますと、投影ディスプレイを展開した。
「先ほど学園の長距離レーダーが、所属不明のISを補足した」
「それって……」
「ああ。おそらく先日話した、女権団の残党だろう。ついさっき、IS委員会から通達があった」
「IS委員会から? 何とおっしゃっておりましたの?」
「『女権団が隠し持っていると推測されていたISコアが、結局見つからなかった』だそうだ」
「すげー今更ですね」
そういうのって、もっと早く言うもんじゃねぇのか? 具体的には、女権団が壊滅した12月中に。
「宮下の言う通りだ。この件が終わったら、束を使って泣いたり笑ったり出来なくしてやろうと思う」
「お、織斑先生……」
「言ってること過激ぃ……」
片方だけ口角を上げる織斑先生に、デュノアと凰もドン引きだ。
「委員会が推測していたISコアの数は10。そして今接近しているISの数も10機だ」
投影ディスプレイに、さっき話してたレーダー画面が表示される。その円形スコープの右斜め上に、赤い点が10個映し出されていた。
「他所からちょろまかしたISコアを、さらに残党がちょろまかして機体を組んだってことっスか?」
「そういうことだ」
敵はISが10機。おそらくアンネイムドの連中もどこかに潜伏していて、波状攻撃を仕掛けてくるんだろう。
という想像を言ってみたところ
「私も宮下と同じことを考えていた。そこで専用機持ちには接近するISの迎撃を行ってもらう」
「とすると、
「そうだ。本来であれば、教師部隊が敵ISを迎撃するべきなんだが……」
そう言って別のディプレイが展開されると、そこに映っていたのは……
「紅、椿?」
「まさか……」
篠ノ之が乗る第4世代機に外見が酷似した、深紅のISだった。
「どうやら、倉持技研に送られていたデータが流出していたようだ」
「また倉持……」
ボソッと呟いた簪が『どうしてくれようか』って顔してやがる。ホント、何がしてぇんだよ倉持技研……。
「これがお前達に迎撃させる理由だ。敵ISの性能がオリジナルと同じ第4世代相当だった場合、第2世代機に乗る教師部隊では荷が重いと判断した」
ちなみに、織斑先生とアーリィはIS迎撃組、山田先生はアンネイムド迎撃組を指揮することになった。
アーリィの強みである速さを活かすなら、遮蔽物の少ない屋外がベストだし、山田先生もハッキング事件の時、防衛に参加した経験があるという理由で抜擢したらしい。
「確かに、これならオレ達がIS迎撃組に出た方がいいか」
「そうだな。幸い我々専用機持ちは敵より多い。教員二人を足して14人もいれば何とかなるだろう」
「マドっち、IS迎撃組は先生達を含めて15人だよ~?」
のほほんが不思議そうな顔で首を傾げる。
確かに、専用機持ちが1年10人、2年2人、3年1人で13人。そこに教員二人を足せば15人なんだが……。
「……」「……」「……」
俺も含め、全員がのほほんの方を見た。その視線が語っている。
『お前、まさか前線に出る気か?』
「え、ええ~……どうしてみんな、そんな目で見るの~?」
「それは、なぁ……」
「そうですわね……」
「お前にフレンドリーファイアされたら堪ったもんじゃない。大人しくしていろ」
「「「「「ラウラぁ(さん)!?」」」」」
うぉぉい!? ボーデヴィッヒの奴、みんなが言いにくいことをはっきりと!
そりゃタッグマッチの時、のほほんのナインテールは更識姉妹の脳天をぶち抜いたけどさぁ!
「お、おぉぉぉぉぉ……!」
「本音!?」
よほどボーデヴィッヒの言葉が刺さったのか、胸に手を当てたまま膝から崩れ落ちちまった。
まぁ、のほほんのことは置いておいて……
「先生、お願いがあるんですが」
「お願いだと? 言ってみろ」
一瞬眉をひそめられたが、続きを促されたので俺は、そのお願いの内容を口にした。
「俺の陰流は第2世代機です。今の説明だと俺も足手纏いになりそうなんで、アンネイムド迎撃組に回してもらえませんか?」
「陸!?」「陸君!?」
いやいや、そんな驚くことじゃないだろ。
実際問題、俺はISに乗ってるより、生身で刀を振り回してた方が役に立つはずだ。
「確かに一理あるな。だが、建前だけでなく、本心も話せ。それが条件だ」
「本心?」
「宮下が、何か隠してるってことですか?」
「別に隠してたわけじゃねぇんだけどな……」
陰流が第2世代機だからって理由はついでだ。本当にアンネイムド迎撃組に映りたい理由は
「手前ぇの尻ぬぐいは、手前ぇでやるべきだと思ったからですよ」
「……いいだろう、許可する」
「どういう意味だ? なぁ千冬姉「織斑先生だ(ゴンッ)」ぐぉ……!」
なんだ一夏、最近織斑先生の出席簿アタックを回避してると思ったら、拳骨はサポート対象外か。
「敵ISは、あと20分ほどで学園上空に到達する見込みだ。各員の配置データを送信するから、各自指定ポイント上空で待機しろ」
「「「「「はい!」」」」」
「宮下と布仏は地下区画入口だ。そこで山田先生の指揮下に入れ」
「分かりました」「了解です~」
「よし、解散!」
織斑先生の号令で、各々が慌ただしく会議室から出て行く。
その顔に、不安や悲壮感はない。実戦続きだったせいか、みんな場慣れしちまったんだろう。いい意味でも悪い意味でも。
「宮下」
「はい?」
呼ばれて振り向くと、
「……なんて顔してるんですか」
「別に普通の顔だ馬鹿者」
そんな悲しそうな顔で言われてもなぁ。
「それで、なんですか?」
「お前には、また泥を被らせることになるかもしれん(いや、血を被らせる、が正しいか)」
「でしょうね」
むしろそのために、俺はアンネイムド迎撃組に回ったんだ。
ハッキング事件の時、俺は連中のお仲間を切り捨てた。そのことについて後悔はしていない。
もし斬り捨てずに米国へ引き渡していたとしても、今回の襲撃がなくならず、女権団単体で行われたかもしれない。
それでも、もし俺の行動が引き金だった可能性があるなら……
「さっきも言った通り、手前の尻ぬぐいは手前でします」
「……そうか。分かった、ならばこれ以上は何も言わん」
最後に織斑先生は
「死ぬなよ」
それだけを言って、先に会議室を出て行った。
「なぁ陸、尻ぬぐいってどういう――」
「ほら一夏、急いで急いで! アンタの指定ポイント、ここから一番遠いんだから!」
「ちょっ、鈴まっ!」
俺に話しかけようとした一夏だったが、俺が反応する前に凰が引っ張っていっちまった。
むしろその方がありがたい。ちっとばっかきつい話になっただろうからな。あいつは、知らない方がいい。
そして最後の俺が会議室を出ると、簪と刀奈が待っていた。
「お前達は行かなくていいのか?」
「大丈夫。さっき配置図を見たけど、私とお姉ちゃんのポイントは近場だったから」
「そうか」
「陸」「陸君」
「ん?」
「「ちゃんと、無事に帰って来てね」」
つま先立ちで背伸びした簪の額が、俺の額にこつんと当たる。それに続くように、背中から刀奈が寄りかかるのを感じた。
「心配するなって。こっちだって山田先生を始めとして、教師部隊がいるんだぞ」
「それでも、陸君なら単独で突っ込んでいきそうで不安なのよ」
「もしくは、誰かを庇って熱線で焼かれたり」
「刀奈、俺を昔の一夏と一緒にすんな。そして簪、いい加減福音の時のことは忘れてくれ」
まったく……
「むしろ、敵機の性能が未知数なそっちの方が心配だ。油断すんなよ」
「もちろん」
「分かってるわ」
神妙に、しかし余裕を持った顔で頷く二人。余計なお世話だったか、これなら問題なさそうだな。
「そんじゃ」
「うん」
「ええ」
「「「また後で」」」
そうして、俺達はそれぞれの指定ポイントに移動を始めた。
(大丈夫、ちゃんと生きて帰ってくるさ)
俺はちゃんと約束は"守る"性質なんでな。だから……
(アンネイムド、ここで禍根を断たせてもらうぞ……お前達の命と共に)
それが俺なりの尻ぬぐい。一夏とは相容れぬであろう、俺の"守る"だ。
ちーちゃんキレる。前に束をイライラさせたIS委員会、その束に倍返しされることが確定しました。
のほほん、IS迎撃組から外される。ラウラの正論パンチでKOされました。実際のほほんが出たら、敵味方関係なくボコられそう。(ちーちゃんとアーリィも危ない)
オリ主、IS迎撃組から抜ける。彼と一夏の"守る"は相容れないのは、大体お察しだと思います。
オリ主の"守る"は『大切な"1"のために、それを害する"10"を切り捨てる』
それに対する一夏の"守る"、その答えを次回以降で書けたらいいなぁと思ってます。