女権団と米国秘匿部隊・アンネイムドの残党が引き起こした『IS学園襲撃事件』は、学園側の迎撃態勢が整っていたこともあり、短期間で解決した。
襲撃側はアンネイムド21名が全滅、女権団も1名が自爆により死亡した。対して学園側の被害は、専用機持ち2名が負傷という結果となった。
数値の上では大勝と言えるものであったが、この学園側の被害を許容できない者達もいたわけで……
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「山田先生、どういうことなんですかね~?」
「どうしてアンネイムドに撃たれた傷とは別に、陸が死にかけてるんです?」
会議室の片隅で、ニッコニコ笑顔で仁王立ちしている更識姉妹の目の前には、山田先生が正座させられていた。
「それは不可抗力ですってぇ……」
「不可抗力? それはそれは! 陸君をISに乗ったまま抱き締めて怪我を増やすのを、学園では不可抗力っていうんですねぇ!?」
「それは初めて知りました」
「あ、あうぅ~……」
大仰な言い回しをする(ただし目は笑ってない)姉に、勉強になったと言わんばかりの反応をする(ただし目は笑ってない)妹。
山田先生が助けて欲しそうにこっちを見ているが……
(すまん真耶、非力な先輩を許してくれ……!)
私のゴーストが囁くんだ……『今あの中に飛び込んではいけない』と。
そうして視線を別の方に向けてみれば
「ダリルゥゥゥゥ!」
「だから大丈夫だって。ISの絶対防御も、ちゃんと機能してたんだからよ」
「それでも! ダリルが自爆に巻き込まれて落とされたって聞いて、心配したんスよ!!」
「悪かったって。それでも、宮下ほど酷い傷じゃねぇんだから」
「それは、そうかもしれないっスけど……」
当初重傷と見られていたケイシーだったが、実際は爆風で脳震盪を起こしていただけで、その後すぐに意識を取り戻した。
そして最終的に、左腕骨折で全治1週間(ナノマシン注射で早めた)という診断結果が出た。
だから宮下と違って、腕をギプスで固定した状態でここにいるわけだ。
「それで千冬ね(ギロッ)……織斑先生、陸の容態は?」
一夏以外の面々も気になるのか、私に視線が集まる。
「まずアンネイムドから受けた攻撃で、内臓の一部が損傷。ただしこれは、日常生活をしている分には問題ないレベルだ。ISスーツのおかげだな」
「確か、拳銃程度なら貫通しないんだっけ?」
「そうだ。私も軍の訓練で試したが、貫通はしないものの、衝撃は殺し切れないからかなり痛かった記憶があるな」
「あたしもやったわそれ。幸い口径の小さい弾だったから、撃たれたところが赤くなっただけで済んだけど」
ボーデヴィッヒと凰の体験談に、他の連中がドン引きしていた。マドカは……あいつ、我関せずで一人ヌガーバー食ってるな……。
「それで済めばよかったんだが、
「「「「「「うわぁ……」」」」」」
ああ、さすがにこれには、マドカもドン引きか。
「宮下さん、山田先生から受けた傷の方が大きかったのでは……?」
「セシリア、それは言わないお約束だ」
「今は医療室にいるが、奴にもナノマシン注射をする予定だから、すぐに復帰できるようになるだろう」
「だといいんだけど……」
とりあえず、被害についてはこんなところだろう。次に話を聞かなければならないのは……
「織斑」
「は、はい」
「また白式の武装が生成されたらしいが、事実か?」
「はい」
神妙に頷く一夏に、ここまでの経緯を説明させた。
「敵の命さえ奪わない力、ねぇ。一夏らしいって言えばらしいのかしら」
「そうだね。一夏らしいよ」
小娘達が納得顔で頷く中、私は一夏の顔を真正面から捉える。
「一夏、それがお前の"守る"なんだな?」
「ああ、そうだ。俺は、命の取捨選択はしない。誰の命も奪わないし、奪わせない。そう、決めた」
「それが、ガキの戯言と言われるような事であることも、承知の上だな?」
「分かってる」
そう言い返した一夏の目は、気焔に満ちていた。
「例えそれが、偽善に満ちたものだったとしても……俺は諦めない。それを成す術を求め続ける」
「……そうか」
私は、見誤っていたのか。
弟の意志の強さは知っていた。それが原因で視野狭窄に陥り、空回りをして、時に失態を犯すことも。
だが、一夏はこの学園で学んだのだ。多くの仲間を得て、様々な経験を得て。時には情けない思いもしながら、一歩ずつ前に進んでいたのだ。
「ならば、その新武装を使いこなせるようになって――」
「それだけじゃダメなんだ」
「何?」
一夏から入った否定に、私は眉を顰めた。
「あくまでこれは、白式が用意してくれたものだ。俺の力じゃない。だからこれは、あくまで繋ぎだ。俺は、それとは別の方法も探さなきゃならない。自分の力で望みを叶える方法を」
「……」
私だけではない。そこにいた全員が瞠目していた。
本当に、私は目の前の弟を見誤っていたようだ。
「本当に山田先生って酷い人ですよね陸のこと傷つけてどうしたかったんですかそれとも陸を抱き締めたかっただけですかそうなんですかでもそんなの許しません陸は私とお姉ちゃんのものなんです先生が入る隙間なんて無いんです分かってますか分かりませんかもしかしてその胸に栄養全部持ってかれて頭がパーなんですか本当忌々しいですこの駄肉が!」
「か、簪ちゃん! 戻って来て! カムバァァァック!!」
「だ、誰か助けてくださぁぁぁぁぁぁぁい!!」
……感動の場面のはずだったのだがなぁ……。
しかし、更識妹に肩を掴まれて、ハイライトの消えた目で呪詛を吐かれている真耶を、そのままには出来んか。(さっき見捨てた罪悪感もあるし)
「こノだにクヲしマツしナクちゃ……!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
「ええいっ! お前達、更識妹を止めろぉ! どんな手を使ってでもだぁ!!」
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目が覚めると、真っ白い天井が目に入った。
「……知ってる天井だ」
何故知ってるかって? 無人機にやられて入院してたのと、全く同じ場所だったからだよチクショウメェ!
部屋はおろか、ベッドの位置まで同じとか……。
「目が覚めたのサ」
「おう、何とかな」
ベッドに寝たまま顔を傾ければ、部屋のドアを開けたアーリィがいた。
「マヤの抱擁でダメージ受けるとか、ギャグもいいところサ」
「……顔がニヤけてるんだが?」
「おっと、
謝る前に、そのニヤニヤ顔をやめろ。ったく、人の不幸を笑いやがって。……まあ、立場が逆だったら、俺も笑い転げてるだろうがな。
「それで、他の連中は?」
「ダリルが負傷したが、リクほどの重傷じゃないヨ」
「俺も本当は、軽傷で済んでたんだろうがなぁ……」
ライフル弾の衝撃で内臓がどうなってたかが不安だったが、少なくとも医療室に運ばれる事態にはならなかっただろうよ。
試しに、上半身を起こそうとしてみたところ
――ビキッ
「おごぉぉぉ……!」
「あ~、無理に起きない方がいいヨ。肋骨が2本ほど折れてるらしいからサ」
「マジか……」
「そのために、これ打っちゃうよ」
――プスッ
「ちょ、おま!」
「ナノマシン注射終わり! それでも2,3日はベッドの上で絶対安静らしいヨ」
「お前なぁ……」
何の説明もなく注射打つとか怖すぎだろ!
しかしそうか、しばらくはベッドの上で身動き取れねぇのか……。
「大丈夫よ~、お姉さんが看病してあげるから!」
またドアの方から声がして
「……楯無さんや、その恰好は?」
「病室と言ったらこれでしょ?」
そこには、ナース姿の刀奈が。いや、確かにそうかもしれんが……。
「退院まで、私と簪ちゃんがお世話してあげるわ♪」
「だーもう……ところで、その簪は?」
俺の問いに、刀奈だけでなくアーリィも顔を背けた。え、どゆこと?
「カンザシは、ネェ……」
「陸君の肋骨折った山田先生にじんも……ゲフンッ反省を促してたんだけど」
「今尋問って言いかけたよな? おい」
「ちょぉぉぉっと、変なスイッチが入っちゃって……」
「り~く~♪」
噂をすれば、簪が刀奈と同じナース姿で入って来て――
一瞬の間に、俺の横に立っていた。ええ……?
「か、簪?」
「だイじょウブだヨりく……わタシとオねエちゃんガちゃんトオセわスルかラ❤」
「簪ぃ!?」
怖い怖い怖い!! なんで!? どうしてこうなった!?
そんな恍惚のヤンデレポーズで宣言されても俺どう反応すればいいの!?
え、この状態で3日過ごすの!? 堪忍してつかぁさい!
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一方その頃
「いやぁ! やっぱ日本って言ったら温泉だよなぁ!」
「ええ、いいお湯だったわ。露天風呂も景色が素晴らしかったし、言うこと無しね」
4泊5日の旅行から、オータムとスコールは自分達のマンションに戻って来ていた。
明日出社した際に社員に配るお土産(温泉饅頭)を買っている辺り、もう完全に日本のサラリーマンです。本当にありがとうございました。
「さて、明日の用意をするかぁ……ん?」
「どうしたのオータム?」
「留守電が入ってら」
各自がスマホを持つようになって久しいが、未だに固定電話は廃れておらず、二人の部屋にも1台置いてある電話にメッセージが入っていた。
『束さんだよぉ! 来月にちょっと発表したいことが出来てねぇ。書類色々社長室に置いたから、決裁よろ~!』
「……」「……」
留守電に入っていたメッセージを聞いて、二人は固まっていた。
来月に発表する書類。つまり、今月中に処理しなければならないということ。
当然ハンコを押すだけでなく、書いてある内容によっては資材の調達から関係各所への根回しも必要になる。
二人揃ってカレンダーを見る。今月はあと、今日を除いて10日。
「「ふおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
その日、
ちーちゃん、一夏の成長に涙がちょちょぎれる……はずだったんですがねぇ。
簪、ヤンデレ化。ISのヒロインってみんなヤンデレの素質ありそう。(偏見)
スコールとオータム、また地獄を見ることが確定。また代休が増えるよ、やったね♪