クラス対抗戦当日。
組み合わせは一夏と凰。専用機持ち同士の戦いとあって、アリーナの観客席は満員状態。聞いた話だと、会場入りできなかった人達用に、リアルタイムモニターが設置されているらしい。
そんな中、俺は4組のクラスメイト達と一緒に観客席に座っていた。
「どっちが勝つかなぁ」
「私織斑君~」
「凰さんって中国の代表候補生なんでしょ? 私は凰さんだと思うな」
「宮下君はどっちが勝つと思う?」
「俺か? 俺も凰が勝つと思うな」
「やっぱり~?」
「え~」
一夏には悪いが、よほど機体性能に差がない限り、乗ってる時間が多いであろう凰の方が有利なんだよなぁ。
「更識さんも同じ予想?」
「うん。本音に聞いた話だと、織斑君の機体には遠距離武装がないって」
「「「「ええ!?」」」」
「は? 遠距離武装が無い?」
隣に座ってる簪からもたらされた情報に、俺を含め、周りの人間全員が唖然とした。
「『雪片弐型』って近接ブレードしかないみたい」
「で、でも、後付武装で追加してたり……」
「ううん。なんでも拡張領域がそのブレードに占有されてて、他に何も積めないらしい」
「マジか……」
強制ブレード縛りとかないわー。いや、あれこれ考えるのが苦手そうな一夏にはちょうどいいのか? ……別にディスったわけじゃないぞ。
「それにしてもブレード1本で拡張領域全部持ってくとか、よっぽどすごい武装なんだろうな」
「どうなんだろう。そこまでは本音から詳しく聞いてなかった」
「まぁそれも、これから見られるだろ」
そう言ってアリーナの方に目を向けると、ちょうど一夏と凰が入場したところだった。
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俺の視線の先には、IS『甲龍』を纏った鈴が、試合開始の時を待っていた。
『それでは両者、既定の位置まで移動してください』
アナウンスに従って、俺と鈴は空中で向かい合う。その距離5メートル。そこで、鈴からプライベート・チャネルが入る。
「一夏、今謝るなら少し痛めつけるぐらいで許してあげるわよ」
「そんなのいらねぇよ、全力で来い。ただ……」
「ただ、何よ?」
「"約束"については、あとで絶対謝る」
「は?」
「だから今は真剣勝負、お互い手を抜くのは無しにしようぜ」
「……そう」
鈴は一瞬キョトンとしていたが、
「いいわ。アンタが謝るっていうなら、今は勝負にだけ集中してあげる」
そう言って鈴が笑うと同時に
――試合開始のブザーが鳴った
その瞬間、俺と鈴は動いた。
――ガキィィン!
「くぅ!」
俺が展開した雪片弐型が、鈴が振り回す青龍刀――しかも二刀流――に弾かれる。
「ふうん。初撃を防ぐなんて、なかなかやるじゃない。それなら」
――ガキィン! ガキィン! ガキィン!
二刀流から繰り出される連撃に対して、俺の雪片弐型は1本だけ。今はなんとか捌いてるが、
(まずい! このままじゃ消耗戦になるだけだ! 一旦距離を――)
「甘いっ!」
――ドォン!!
「なっ!?」
な、なんだ……! 今、目に見えない何かに『殴られた』ような衝撃が――
一瞬飛びそうになった意識を慌てて取り戻すと、鈴の方を凝視した。すると
「肩部装甲が……」
肩の横に浮いている
「そこに気付いたのは褒めてあげる。でも、今のはジャブだから――」
鈴が不敵な笑み浮かべた瞬間
――ドォン!!
「ぐはっ!」
先ほどとは段違いの衝撃に、危うく地表に叩き付けられそうになった。これは、かなりまずい。
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「あれは、『衝撃砲』ですわね……」
1組側の観客席で、セシリアが呟いた。
「セシリア、その衝撃砲とは」
「空間に圧力をかけて砲身を生成、その時生じた衝撃を砲弾として撃ち出す、第3世代型兵器ですわ」
「つまり、不可視の砲撃ということか……」
「ええ。一夏さん……」
心配そうなセシリアの視線を追うように、箒もステージの方を見た。
じりじりとシールドを削られる、一夏の姿を。
(一夏……)
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「はぁ……はぁ……」
「よく避けるじゃない。衝撃砲『龍咆』は、砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」
(ハイパーセンサーに空気の流れを探らせてるが、それじゃ間に合わない。どこかで、先手を打たないと……)
回避行動を取りながらそう考えたところで、俺は先週の訓練を思い出した。
「バリアー無効化?」
「そうだ」
聞き返すと、千冬姉は小さく頷いた。
クラス代表決定戦の後、セシリア戦で敗北になった理由を箒とあれこれ考えていたが、今ひとつ結論が出てこない状況だった。それに業を煮やした千冬姉がやってきて説明、今に至るというわけである。
「相手のバリアー残量に関係なく、本体に直接ダメージを与えることができる。さて、そうなった場合はどうなる? 篠ノ之」
「は、はいっ。ISの『絶対防御』が発動して、大幅にシールドエネルギーが消費されます」
「その通り。私がかつて世界一の座にいたのも、この雪片の特殊能力によるところが大きい」
「つまり、あの一撃が当たってれば俺が勝ってた?」
「当たればな。そもそも、なぜ負けたと思う?」
そうだ。そもそもそれが話の発端だった。
「それは、シールドエネルギーが0になったから……」
そこまで言って、俺はふと気付いた。まさか――
「雪片弐型の特殊能力の、せい?」
「ほう、お前にしては察しがいいな。そうだ、あの特殊攻撃を行うためのエネルギーとして、白式のシールドエネルギーが使われている」
「な、なんて諸刃の剣なんだ……」
箒が唖然とした顔で呟くが、俺も唖然とした。
しかも、白式にはそんな諸刃の剣以外、武装がまったく無い。これでどうしろと。
「そんな顔をするな。本来拡張領域用の空きが全部埋まるほど、雪片弐型に処理を回してるんだ。その分威力は全ISでもトップクラスだろうさ」
「それは……そうか……」
言ってしまえば、一撃必殺の攻撃を持ってるんだ。なら、それを当てる努力をした方がいいのか。
「一つのことを極める方が、お前には向いている。そもそも仮に白式に銃器が積めたとして、反動制御や弾道予測からの立ち回り……出来るのか?」
「……ごめんなさい」
雪片弐型しか武装のない白式に対して、千冬姉に『あれこれ考えずにやれることをやれ』という遠回しな言葉をもらってから、訓練は近接戦闘と基礎移動技能に費やした。
あとは気持ちの問題。今までやってきたことを信じて、やり切るだけだ。
そして衝撃砲をギリギリで躱した、このタイミングで――
「うおぉぉぉっ!」
「なっ!」
この1週間で身につけた技能『
おそらく2度は通じない奇襲と、自分のSEを消費することで発動する諸刃の剣。だけど、今の俺と鈴の実力差を埋めるには、これしかない。
「いけぇぇぇぇっ!」
バリアー無効化の刃が、一瞬動きの鈍った鈴に届きそうになった瞬間、
――ズドォォォォンッ!!
突然大きな衝撃がアリーナ全体に走った。
「な、なんだ……?」
周りを見渡すと、ステージ中央からもくもくと土煙が立ち上っている。どうやらさっきの衝撃は、アリーナの遮断シールドを『なにか』が貫通した結果のようだ。
「一夏、 試合は中止よ! すぐビットに戻って!」
鈴からのプライベート・チャネル?
「鈴? 一体――」
どういうことだ、という前に、ハイパーセンサーが緊急通告をしてきた。
――ステージ中央に熱源。正体不明のISと断定
――警告! 正体不明のIS、射撃体勢に移行
「あぶねぇ!」
反射的に急加速した直後、さっきまでいた空間が熱線で焼かれた。
「ビーム兵器かよ……しかもセシリアのより出力が上だ」
「一夏、平気!?」
鈴が、先ほどビームを撃ってきた"土煙"を迂回するように、こちらにやってきた。
「ああ、なんとかな。だが……」
その土煙が徐々に晴れていき、そこから姿を現したのは……
「なんなんだ、こいつ……」
「
肩と頭が一体化したような、首のないフォルム。つま先よりも下まで伸びた、異様に長く、そしてビーム砲口を左右4門もった手。
俺と鈴の目の前には、そんな異形な姿のISが中空に鎮座していた。
あれ? 一夏が主人公してる……?