「なに、あれ……」
一夏と凰の試合に乱入したISに、女子生徒の誰かが呟いた。
と、次の瞬間
――ガシャンガシャンガシャン!
観客席とステージの間に隔壁のようなものが降りてきた。
「遮断シールド!?」
「一体何なのよぉ!」
突然の出来事に、観客がパニックを起こし始めた。
「え!? ドアが開かないんだけど!?」
「み、みんな落ち着いて!」
エドワース先生が声を上げるが、誰も聞く余裕が無く、パニックはどんどん伝播していく。
「陸……」
「簪、お前のISから、管制室に通信ってできるか?」
「それは……できる、と思う」
「やってくれ」
そもそも遮断シールドが降りてくること自体異常なんだが、それなら警報が鳴らないのもおかしな話だ。だからまずは、情報が欲しい。
「陸」
「どうだった?」
「あまり詳しくは教えてもらえなかったけど……IS学園のシステムがハッキングを受けてて、警報も鳴らせないし、遮断シールドやドアロックも解除できないって……」
「マジかよ……」
IS学園のシステムは軍事施設並だって、以前どこかで聞いたことがある。そこにハッキングを仕掛けるとか、一体どんな奴だよ。いや、そんなことよりまずは
「簪はエドワース先生に、今聞いたことを伝えてくれ」
「陸は?」
「なんとかして、パニックを起こしてる連中を黙らせる」
簪にそう言うと、俺は立ち上がり、壁際まで歩いて
――ドゴンッ!
「ギャーギャー騒いでんじゃねぇぞボケナス共がぁ!!」
「「「「ひぃっ!?」」」」
「り、陸……?」
いや簪、お前まで引かなくていいんだぞ? ちょっと壁殴って大声上げただけだから。
「みんな黙ったな? それじゃあエドワース先生、あとはよろしくお願いします」
「え? ちょっと宮下君?」
これで先生の指示もちゃんと通るだろう。先生含めてみんな引いてるって? 知らん知らん。
ーーーーーーーーー
謎のIS相手に、俺と鈴は攻めあぐねていた。
とにかく相手のスラスター出力が尋常じゃない。その所為で、鈴がどれだけ引き付けても、俺の斬撃――バリアー無効化攻撃――をするりと躱してしまうのだ。
「一夏、アンタのSE残量は?」
「そろそろ60を切りそうだ。そっちは?」
「180ってところね」
なにせ試合中に乱入されたから、お互いSEの余裕なんて全くない。しかも俺の場合、バリアー無効化でSEを使うから、ほぼカツカツだ。おそらく、攻撃はあと1回が限界だろう。
その1回に賭けるために、再度集中力を高め……ん?
「なぁ鈴。あいつの動き、おかしくないか?」
「はぁ? おかしいって何がよ?」
「なんつーか……機械じみてるっていうか」
「ISは機械でしょ」
「いや、そうじゃなくて……あれ、本当に人が乗ってるのか?」
「何言ってるのよ、人が乗らなきゃISは……」
そこまで言って、鈴の言葉が止まる。
「……つまり、あれは無人機だって言いたいの?」
「もしかしたら、な。……織斑より管制室」
『織斑君ですか!? まだやられてないですよね!? 凰さんも平気ですか!?』
管制室に通信したら、山田先生の慌てた声が聞こえた。
「こっちは大丈夫です。それより山田先生、お願いがあります。あの正体不明のISに生体スキャンをかけてもらえませんか?」
『へ? 生体スキャンですか? できますけど……』
「お願いします!」
『わ、分かりました! スキャン開始……え?』
「山田先生?」
『せ、生体反応、無し……』
「やっぱりか!」
「一夏の見立て通りってわけね」
人が乗ってないなら、雪片弐型を全力で振るっても問題ない。最悪の事態を考えなくていいからな。
「それで? 無人機なのは分かったけど、これからどうするの? アンタの攻撃が当たらないのは変わらないわよ」
「策がある」
「へぇ」
俺の返答に、鈴がにやりと不敵に笑った。これはあれだ。『間違ってたら駅前のクレープ奢りなさいよ』という顔だ。1年ちょっと前までよく見たから覚えてる。
「あたしは何をすればいい?」
「俺が合図したら、あいつに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」
「それじゃ当たらないだろうけど……まぁいいわ。アンタの"策"とやらに期待するわ」
「おう」
俺は雪片弐型を構えて、無人機に向き直る。そして
「鈴、やれ!」
鈴に合図を送ると共に、突撃姿勢に移行、瞬時に加速する。
「ちょっと何してるのよ! どきなさいよ!」
鈴の慌てた声が聞こえてくる。それはそうだ。何故なら俺は無人機と鈴の間、つまり衝撃砲の射線上にいるんだから。だが、
「いいから撃て!」
「ああもう! どうなっても知らないわよ!」
背後から放たれた衝撃を受ける瞬間、俺は
俺の速度じゃ、無人機に躱される。
なら、
背中に衝撃砲の砲弾を食らい、ミシミシと体が軋む感覚を受けながら、無人機との距離が一気に縮まっていく。
そしてその距離が雪片弐型の有効範囲に入ったところで
「うおぉぉぉぉぉ!!」
エネルギー刃を形成した必殺の一撃は、無人機の頭と右腕を切り飛ばした。
無人機は残った左腕を伸ばしてきたが、頭があった場所からボンッと爆発を起こすと、そのまま地上に落ちていった。
「やった……」
「ええ……」
俺も鈴も、ただただ落ちていく無人機を目で追うことしかできなかった。
『織斑君! 凰さん! 大丈夫ですか!?』
あ、そういえば管制室に繋ぎっぱなしだった。
「はい、こっちは何とか……」
『良かったです! こちらも遮蔽シールドとドアロックが解除されたところです!』
観客席の方を見ると、隔壁のようなシールドが上がっていくのが見えた。
「ふぅ。これで終わった――」
――警告! 敵ISの再起動を確認!
「なっ!?」
突然の警告に気付いた時には、無人機に残っていた左腕が最後の力とばかりに、ビームを撃ち出した後だった。
遮蔽シールドが上がったばかりの、観客席に向かって――
ーーーーーーーーー
陸の怒声(本人は"大声"って言ってたけど)で静かになったおかげで、観客席の混乱は最小限で抑えられた。
エドワース先生から説明を受けたことで、みんなも指示に従っている。やっぱり何も情報が無いのは怖いよね。
「あ! ドアが開くよ!」
「ホントだ!」
「みなさん! 順番に、落ち着いて脱出してください!」
やっと外に出られる安心感からか、みんな私の誘導に従ってぞろぞろと案客席を出て行く。
「宮下君、他に生徒は残ってますか?」
「いいえ、こっちのエリアは今並んでるので全員です」
先生からの指示で、生徒の誘導をしていた陸がこっちに戻ってきた。
「それにしても、一体何があったんだか……」
「う~ん……あ、遮蔽シールドが」
ほとんどの人が脱出したタイミングで、遮蔽シールドが上がっていった。
そこには、さっきまで試合をしていた織斑君と凰さんがいた。それと、地上に落ちてるのは――
「!? 簪ぃ!」
――ドンッ!
「きゃっ!」
陸の声が聞こえたと思ったら、突然視界が真っ暗になって、その直後
――ドゴォォォォォォン!!
轟音と、衝撃によるものであろう振動を、背中で感じた。
その振動が落ち着くと、視界は灰色の煙でいっぱいになっていた。
「い、一体……」
起き上がろうとしたけど、私の上に何かがのしかかっていて起き上がれない。
何とかどかそうとすると、左手にヌルっとした感触があった。なんだろうと手をかざすと、それは
アカイイロヲシタ、テツナマグサイ、ナニカ――
「え……」
その
背中が真っ赤に染まった陸が、私に覆い被さっていた。
「り、く……?」
「……」
声をかけるけど、返事が返って来ない。
「陸、悪い冗談はやめてよ……」
「……」
なんで? だって、さっきまで普通に話して……
「あ、ああ……」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
気付いた時には、私は打鉄弐式を展開していた。
「さ、更識さん!?」
誰かが私を呼んだ気がしたけど、今はどうでもいい。今必要なのは――!
(メメントモリ、リミッター解除)
――警告、リミッター解除はレギュレーション違反にな(解除) 警告、リミッター解除は(解除!) 警告(解除解除解除解除解除解除解除解除解除解除解除!) 了解、リミッターを解除します
そうしている間にも、私はスラスターを全開にしてステージに向かって加速する。
織斑君や凰さんのISには、あんな攻撃出来る武装は積んでなかったはず。なら、これを使うべき相手は――!
頭と右腕が無くなっている、
私はそのISに残った左腕を右手で掴んだ。そして
「弾け飛べぇぇぇぇ!!」
メメントモリを起動させた。
赤黒い光が瞬き、掴んでいた左腕からぼこぼこと装甲が膨らんでいく。やがて全身が膨らんだところで
――バガァァァァンッ!
ISは爆発、崩壊した。
「はぁ……はぁ……」
少ししてエネルギーが切れたのか、弐式が展開解除された私は、
「陸……りくぅ……」
両ひざをついて、泣き崩れることしか出来なかった。