第1話 ファーストコンタクト
――IS学園、1年4組の教室
さて、何だかんだでIS学園に入学した俺だが、居心地は正直言って悪いの一言。
元々ISが女しか乗れなかったせいだろうが、このIS学園、ほぼ女子校と言っていい場所だ。
そんなところに、たった2人だけ野郎が、しかも別々の教室に放り込まれたわけだ。つまり、分かるな?
「あれが2人目の男性操縦者なんだってー!」
「1組の織斑君はハンサム系だったけど」
「こっちのワイルド系もいいかも~!」
俺は上野のパンダかよ
教室内の女子生徒の視線が、ほぼ全て俺に集中しているわけだ。ストレスで禿げそう……。
ーーーーーーーーー
「SHRを始めますよー」
教室の前ドアから大人の女(たぶんあれが担任なんだろう)が入ってくると、今まで騒がしかった教室が静まる。
「まずは皆さん、入学おめでとう。私が1年4組の担任になったエドワース・フランシィよ。よろしくね」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
「それじゃあさっそくなんだけど、皆に自己紹介をしてもらおうかしら」
そう先生が言うと、名前順に自己紹介が始まった。
自己紹介ねぇ……名前だけっていうのもダメだろうし、どうしたもんか……。
と考えている間に、俺の番が回ってきたようだ。早ぇな、俺の苗字『宮下』だから、だいぶ先だと思ったぞ。
「あー……先月の全国検査に引っかかってIS学園に来ました、宮下陸です。趣味も特技も機械弄りです。これからよろしくお願いします」
――パチパチパチ
どうやら、無難に終わらせられたようだ。良かった良かった。
『もうちょっと何かないの?』みたいなことを言われても困るからな。
「ちなみに宮下君は、ISに早く乗ってみたかったりする?」
いや先生、貴方が率先して話を振らんでくださいよ。
周りを見渡すと、他の生徒達もなーんか期待した目をしてるし……ったく……
「ないですね。俺はISに乗るより、研究・開発する方が興味あります。言ったじゃないですか、『趣味も特技も機械弄り』だって」
「あら、そういえばそうね。ということは、宮下君はメカニック志望かしら」
「そうなるでしょうね」
ここまで答えればいいでしょう? という感じで、俺は椅子に座った。
ーーーーーーーーー
で、入学日なのに、なぜかIS学園は授業がある。マジかよ。
そして授業内容については……
「――それでは、ここまでで質問がある人ー」
まあ、誰も手を挙げたりしないよな。
ここにいる面子は全員、超高倍率の入学試験を潜り抜けてきたわけだから、これくらいの内容わけないか。
「宮下君は?」
「ええっと……ここのアラスカ条約の特記事項についてが――」
「あぁここね。そこは次のページの注釈に――」
「これですか。……ああなるほど、理解しました」
という俺と先生のやり取りを、周りのクラスメイトが生暖かい目で見てくるのが辛い……。
くそぅ……俺だってISの構造云々についてはそらで言えるぐらい頭に入ってるんだ。ただ、興味のない法律関係の知識を入れる脳内ストレージが小さいだけで。
「仕方ないわよ。宮下君のIS学園入学が決定したの、1週間前だったんだし」
そんな俺を見かねたのか、先生が援護射撃を入れてくれた。
「そ、そうなんですか?」
「それじゃあ宮下君、ISの知識がないのも仕方ないのかぁ」
「でもそれにしては、他の質問をされてませんが……」
クラスメイト達がひそひそ話を始めた。
「そういえば宮下君。IS学園入学が決まった時、参考書が渡されてたはずだけど」
「ああ、これですよね」
そう言って俺は、電話帳か広辞苑かと言いたくなる分厚さの参考書を掲げた。
「俺の頭じゃ、1週間で半分読むのが精一杯でした」
これを渡してきた人(鋭いツリ目で長い黒髪の、おそらくIS学園の教師)は『1週間で覚えろ。出来なければ死ね』と言わんばかりだったんだが、どうやっても無理だった。
「あら、半分読めたなら問題ないわね」
「え? そうなんですか?」
「ええ。だってその参考書、1学年を通して使うものだもの。それを半分読んだってことは、"半年分の予習が出来てる"ってことよ」
「……ああ、なるほど」
確かに、そう言われてみればそうなるのか。なんだよ、脅され損じゃねぇか。
「ただし、法関係の部分はこれからちゃんと覚えていきましょうね」
「うぐぅ……」
きっちり釘を刺された……周りからもクスクス笑いが聞こえてくるし、辛い……。
ーーーーーーーーー
昼飯を挟んで午後の授業も終わり、放課後。
いや、このIS学園はすげぇな。学校の学食っていうから、定食が2,3種類ぐらいから選ぶ感じかと思ったら、和洋中なんでもござれのレストランじゃねぇか。
久々に俺、刺身定食を食っちまったよ。(ちなみに金は、日本政府から『男性操縦者のデータ取り』という名目でいくらかもらえてる)
それはさておき、俺は放課後、行ってみたかった場所に足を向けていた。
――IS学園、整備室
そう、整備室! 訓練用のIS(入学前に乗せられた打鉄と、もう1つは確かラファールだったか)がずらりと並んだこの光景……これだけで白米いけるな。
「ん?」
そんな妄想に浸ってると、部屋の奥に整備中なのか、ISが1機鎮座していた。
「これは……打鉄、か?」
ぱっと見は打鉄だが、スラスターの形とか装甲の厚みとかが微妙に違う。バリエーション機か?
「……何してるの?」
「あ?」
振り向くと、眼鏡をかけた青髪の見知らぬ女が立っていた。 いや、見知らぬじゃねぇな。確か……
「更識簪、だったか?」
そうだそうだ、思い出した。同じ4組の更識簪だ。『日本の代表候補生』とかいう肩書が珍しくて、記憶の片隅に残ってたんだな。
「苗字で呼ぶのはやめて。嫌だから……」
「そうか。それじゃあ簪って呼ばせてもらう。っと、まだ俺の方が名乗ってなかった――」
「知ってる。宮下陸」
「……クラスメイトだし、お互い知ってて当然か」
「(コクリ)」
「まぁ、宮下でも陸でも、好きな方で呼んでくれや」
「じゃあ、陸で……」
「おう」
会話は一旦それで終わり、俺の視線はまた件のISに向いていた。
「これ、お前のISなのか?」
「そう、『打鉄弐式』。打鉄の後継機で、防御重視の打鉄に対して、機動性に特化してる……予定」
「予定?」
俺が聞き返すと、簪は視線を逸らして
「これはまだ、未完成だから……」
「未完成……」
つまり、この打鉄弐式は整備中じゃなく、未完成品ってことなのか……。
……ちょっと待て。簪は日本の代表候補生で、俺が『お前のISなのか?』という問いに頷いている。つまり、これは簪の、日本代表候補生の専用機ってことだ。
ならなんで、
普通こういうのは、どっかの機関や企業が作って、完品を渡すもんじゃねぇのか?
それなのに、未完成品がここにある。まさかとは思うが……
「もしかして、この打鉄弐式、簪が作ってるのか?」
「(コクリ)」
「はぁ!?」
「(ビクンッ!)」
「ありえねぇ! 日本政府か委託された企業か知らんけど、馬鹿なのか!?」
F1カーの組み立てをドライバーにさせるようなもんだぞ、正気の沙汰じゃねぇだろ!
「あの……未完成品を引き取ったのは私で……」
「は? なんで未完成品を引き取ったんだ?」
「それは……」
簪はそれだけ口にすると、また視線を逸らしてダンマリになった。
う~ん、モヤモヤするが……
「分かった、これ以上は聞かねぇ」
「うん……」
知り合って間もない俺が、あまりずかずかと簪の事情に深入りするのも良くないな。
誰しも、言いたくないことの一つや二つはあるだろうし、これ以上はやめておこう。
「それで、完成したら打鉄弍式はどんな機体になるんだ?」
暗くなった雰囲気を逸らすのと、元々興味があった質問をしてみたが、それが功を奏したのか
「う、うん。 この打鉄弍式には、連射型荷電粒子砲の『春雷』と6機×8門のミサイルポッド『山嵐』を載せる予定で……」
と、先ほどよりも流暢に話し始め、俺もそれを聞きつつ、時々質問や指摘を交え、気付けば1時間は話通しになっていた。
「話し込んじゃった……」
「ああ、これは俺も悪かったな。ついつい白熱しちまった」
おそらく、もうすぐ整備室も閉まる時間なのだろう。簪は諦めた顔をしながら工具を片付け始めた。
「俺も寮に行ったら、荷解きしないとなぁ……」
「陸、寮に入ったの……?」
「おう。本当は来週からのはずだったんだがなぁ……」
セキュリティの事情だか何だかで、急遽決まったらしい。しかも突貫調整だったらしく、本来なら
っていうか、まさかあの馬鹿神共が『一夏様と一緒になんてできませんわ!』みたいなことを言った結果じゃねぇだろうな……。
「エドワース先生から、鍵も渡されちまったし」
そう言って、SHRの後に渡された寮部屋の鍵をチャラチャラ振りながら、簪に見せた。
「そう、大変そう……え?」
「どした?」
俺の鍵を見て驚いた顔をした簪は、スカートのポケットをまさぐると、おそらく簪の部屋のであろう鍵を取り出した。
「これ……」
「……Oh」
鍵のキーホルダー部分に部屋番号が書いてあるのだが……俺が持ってるものと、簪が持ってるもの。番号が……まったく同じ。
「つまり……」
「そういう、こと……」
お互い、何とも言えない顔をしていた。
「あー……色々迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼む」
「う、うん。よろしく……」
とりあえず握手をしたが、めっちゃぎくしゃくしていたと言っておく。