「う……痛つつ!」
背中の激痛で、俺は目を覚ました。
周りを見渡すと、白いカーテンで仕切りがされてる空間。病室の大部屋みたいな場所のベッドに寝てるようだ。
(えっと……確か一夏と凰の試合中に学園がハッキングされて、遮蔽シールドが上がったと思ったらなんかが光って、ヤバいと思って簪を押し倒して……)
起き抜けのぼんやりした頭で情報の整理を始めたが、いまいち纏まらない。
とりあえず起き上がろうと、背中の痛みと格闘しつつ上半身を起こしたところで、シャッとカーテンが引かれた。
「……陸?」
そこには、なぜか呆然としてる簪が立っていた。
「どうした簪、そんなぼーっとして」
「陸……」
突然俺に抱き着いて……って!
「お、おい、簪……」
「陸! りくぅぅぅぅ……!」
簪の目には、涙が溜まっていた。
「……わりぃ。心配かけちまったな」
俺は、簪の頭をポンポンと撫でた。抱き着かれて背中が痛いが、そこは男の意地で我慢する。
しばらくそうしてやると簪も落ち着いたのか、俺から離れた。
「私、今回のことではっきり分かった」
「ん?」
「私、陸の事が好きなんだって」
「……簪?」
聞き間違いか? そう聞こうと思ったが、出来なかった。
そりゃ、そんな真剣な目をされたらなぁ……。
「陸が私を庇った時……血塗れになった陸を見た時、頭の中が真っ白になった……それくらい、陸がいなくなるのが怖かった……。だからやっぱり、私は陸の事が好きなんだと思う」
「……知ってるだろうが、俺は相当な機械馬鹿な上に、一夏のような異性に好かれる要素なんか零だぞ?」
「関係ない。そこも含めて、私は陸の事が好き」
「……」
ここまではっきり告白されて、正直、嬉しさ半分、困惑半分って感じだ。簪にも言った通り、今まで機械弄り一筋で、異性との付き合いなんて片手で数えられるぐらいしかねぇからなぁ。
だが……
「本当に、俺でいいのか?」
「うん。陸がいい」
「ふぅ……分かった」
そこまで言われて、俺も腹を括った。そして簪の腕を取って
「り、陸!?」
さっきとは逆に、俺が簪を抱きしめた。
「言っとくが、クーリングオフは効かねぇからな」
「ん。絶対しないし、する気もない」
ーーーーーーーーー
それから少しして、だんだん恥ずかしくなったのか、簪は今までの事を話し始めた。
「つまりなんだ。クラス対抗戦から2日経ってると?」
「うん。昨日まで陸、医療ポッドの中にいたんだよ」
「マジかぁ……」
どうも俺の背中は熱線と飛び散った観客席の破片でズタズタになってたらしく、医療ポッドとナノマシン注射の併用で、なんとかここまで持ち直したらしい。どうりで今も背中が痛いわけだ。
「まぁ、それで簪が無傷だったんならいいか」
「陸ぅ?(ギロリ)」
「手前ぇの女を守り切ったんだから、男としては上出来だろう」
「陸ぅ……///」
簪さんや、照れ隠しに胸板をポカポカ叩かない。
それにしても、付き合うと決めたからか、簪の行動がいちいち可愛いと思えてくる。惚気か? 惚気だな。
「それで? 私はこの惚気をいつまで見てればいいんだ?」
「お?」
「お、織斑先生!」
そこには、げんなりした顔の織斑先生が立っていた。 心なしか、こめかみがピクピクしてるような気もする。
「まったく……宮下、気分はどうだ?」
「背中がじわじわ痛い事を除けば、それなりです」
「そうか」
俺の返答に頷くと、先生は手に持っていた書類の束を捲り始めた。
「更識から聞いてるとは思うが、昨日まで医療ポッドにいた身だ。今日1日はここで安静にしていろ」
「了解です」
「よし。次に対抗戦であったことだが、箝口令が敷かれることになった」
「箝口令、ですか?」
「そうだ。更識が破壊した謎のISの事も含めな」
「簪が破壊したIS?」
「なんだ更識、説明してなかったのか?」
簪の方を見ると、首を縦に振った。
「更識が専用機に搭載された武装で、乱入したISを破壊したんだ」
「弐式に搭載された武装……まさかっ!」
ISを破壊する武装なんて、あれしかねぇだろ!
「まさか簪……使ったのか? リミッターを外した、メメントモリを」
「……(コクリ)」
「先生! あれを搭載したのは俺です! だから――」
「落ち着け。お前が心配してるような事にはなってはいない」
「は?」
いやだって、簪が謎のISを破壊したって……
「これも箝口令の対象だが……乱入してきたISは、無人機だった」
「無人、機?」
「そうだ。だから更識は『誰も殺していない』」
「……そうですか」
それを聞いて気が抜けたのか、俺の上半身はそのままベッドに倒れ込んだ。
「ふっ……もし有人機だったら宮下、更識を庇う気だったろう」
「そりゃそうですよ」
「陸……」
「また惚気る気か? まったく……」
先生は口をへの字にして、こちらを睨みつけてきた。
参ったなぁ、自分でも歯止めが掛からなくなってるみたいだ。反省反省。
「ところで、結局対抗戦ってどうなったんですか?」
「どうもこうも、あんなことがあったんだ。中止だ」
それもそうか。
ん? ということは、当然優勝賞品も立ち消えになるわけで……
「なぁ簪、のほほんは……」
「うん、昨日から死んだ目になってる」
「ああ、やっぱりかぁ……」
ーーーーーーーーー
保健室を出ると、私は先ほどまで話していた宮下について考える。
(両親をテロで亡くし、児童養護施設に入れられた後、一夏がISを動かしたために行われた一斉検査で適性が見つかり、そのままIS学園に入学となる)
出自の特殊性を除けば、特筆すべき点はあまりない。担任のエドワース先生にもあらかじめ確認したが、学力面もごくごく普通。機械理論が得意で、法関係が弱いぐらいだ。IS適性もD+と、今年の入学生の平均よりやや下といったところ。身贔屓に聞こえるかもしれないが、日本政府が適性Bの一夏の専用機を先に用意したのも納得できる。
しかし、宮下にはそれを補って余りある実績がある。1組の布仏と共同とはいえ、ISを1機、しかも専用機を組み上げてしまったのだから。
(本当に、謎の多い男だ……)
ため息をつくと、山田先生が残骸を解析している部屋を目指して歩き出した。
もっとも、あれだけ破壊……いや、崩壊した残骸で、何か情報が出てくるとも思えないが。
ーーーーーーーーー
「鈴、ごめん」
放課後の屋上で、俺は鈴に頭を下げていた。
「一応確認だけど、それは何の『ごめん』かしら?」
「お前が中国に帰った時の"約束"。それを分かってなかったことについてだ」
「そう……まぁ、そんなことだろうとは思ってたわ」
鈴は腰に手を当ててため息をついた。
「そして、ごめん。今の俺には、鈴の告白は受けられない」
「え……」
一瞬、鈴の顔が驚愕に変わった。
「陸に言われて、やっと約束の意味が分かったんだ。ホント、つくづく馬鹿だよな、俺って奴は」
「一夏……」
「ずっとさ、鈴とは仲のいい、弾と同じ親友だと思ってたんだ」
「もういいわよ。その先を言われたら、あたしが惨めになるだけだから」
「だから……」
「一夏!」
「だから俺に、時間をくれ!」
「……は?」
「鈴を"女の子"として見てなかった俺に、告白を受ける権利も無ければ、断る権利すらない。だから、俺に時間をくれ。鈴を"女の子"として見る時間を」
「……はぁ、ずいぶんと勝手な事を言うのね」
「勝手なのは承知の上だ。だから、頼む」
そう言って、俺はもう一度頭を下げた。それが今俺が思いつく、鈴に対するけじめだと思うから。
「……いいわ」
「鈴?」
顔を上げると、すぐ目の前に鈴がいた。
「まだ一夏が"受けて"くれる可能性があるなら、少しぐらい待ってあげるわよ」
そう言ってニコッと笑うと、鈴は俺に顔を近づけて
――チュッ
頬に、キスされた?
「り、鈴!?」
「鈴、貴様ぁ!」
「な、なんてことをしますの!?」
振り向くと、なぜかそこに箒とセシリアが。
「い、一夏! 私もお前のことが!」
「わ、わたくしも! お慕いしておりますわぁ!」
「何よぉ! あたしが一番一夏のことが好きなんだから!」
3人にもみくちゃにされて、視界がぐるぐる回って気持ち悪くなってきた。
「お、お前ら……もうちょっと落ち着いて……」
そこまで口にして、俺は屋上の冷たい地面に倒れた。
ーーーーーーーーー
「ふむふむ、これがいっくんの試合のデータかぁ」
ラボ『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』の中で、私は
ゴー君自体は破壊されちゃったけど、必要なデータは十分取れたかな?
「自分から衝撃砲を受けて加速するなんて、いっくんも無茶するなぁ」
でも、そういう創意工夫をすることについては、束さん、花丸あげちゃおう!
「それにしても……」
確かにいっくんの攻撃でゴー君は戦闘不能になったけど、実際に破壊したのは別のISだった。
束さん的にはそれが気に食わなかった。だけど、詳細を見て気が変わった。
「高周波を連続して照射することで内部崩壊を起こすなんて、面白い機構を考えるなぁ」
第3世代がーとか宣ってる凡愚共とはどこか違う発想の武装――ゴー君を完膚なきまでに破壊した――を見て、すこーしだけ興味が湧いたよ。
「どこかのタイミングで、お邪魔しに行こうかなー♪」
ゴー君が送ってきた最後の映像。そこに映っている、青髪の眼鏡っ娘に――
ようやっと原作1巻が終了しました。長いねぇ。
そして簪が(とばっちりで)ターゲッティングされました。