(この回を飛ばしても、シナリオにはさほど影響はありません)
「嗅がせてくれ。それが手向けだ」
保健室から解放された翌日、俺は今まで通り登校していた。
箝口令の関係上、俺は対抗戦での避難誘導中に怪我をして、様子見のために休んでいたという設定らしい。嘘は言ってないな。
で、4組の教室まで来たわけだが……
「……」
「ええっと、宮下君……」
「
呆気に取られたクラスメイト達の視線の先には、俺の左腕があった。……正確には、俺の左腕にしがみ付いている簪が。
「あ~……色々あったというか……」
「色々って……」
俺がどう答えようか考えてる間に、簪が
「……///」
顔を真っ赤にしながら、腕でなく胴体にしがみ付いてきた。 ちょっと簪さん!?
「「「「キャー!!」」」」
黄色い悲鳴が教室中に響いた。
「い、いつからそういう関係に!?」
席に座っていた生徒達も集まって来て、俺と簪は完全に囲まれてしまった。
「ほらほら、SHRも始まりますから、みんな席に着いてー」
「「「「ええ~……」」」」
質問攻めに遭う前に、エドワース先生が止めてくれて助かった……。
「ちなみに今日のSHRは、宮下君と更識さんの馴れ初めについて聞いてみましょう♪」
――神は死んだ……。
ーーーーーーーーー
4組の連中(+エドワース先生)にもみくちゃにされた後の昼休み。
「簪ぃ……」
「ごめんなさい……自分の気持ちを抑えられなかった……」
それは分かってる。なぜならこうやって昼飯食ってる間も、俺の制服を指で摘まんでるわけだし。
「かんちゃんとりったん、やっとくっ付いたんだね~」
俺達の向かいには、ニッコニコののほほんが座っている。
ちなみに俺がチョコレートケーキを奢るまでは、死んだ魚のような目をしていたんだがな。そこまで欲しかったか、デザートフリーパス。
「やっとってなんだよ、やっとって」
「りったん気付いてなかったの~? かんちゃん、たっちゃんとの決闘の時から――」
「ほ、本音~!」
簪が慌ててのほほんの口を塞ごうとするが、時すでに遅し。というか、決闘の時からってマジか?
視線を簪に向けると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「Oh……」
マジかぁ……俺も一夏のこと、朴念仁とか言えねぇじゃん。
「そういえば、一夏と凰は仲直りできたのか?」
一夏へのSEKKYOUは二人に話してないから、あくまで"酢豚事件"についてだけのほほんに聞いてみた。
「それがねぇ~……」
珍しく、のほほんの顔が引きつっている。え? どゆこと? あいつ、またなんかやらかしたのか?
「よう、陸……」
「一夏か。今お前の、話、を……」
聞き覚えのある声に振り返った俺は、目の前の光景に固まった。
一夏を中心に、左腕に篠ノ之、右腕にオルコット、腰に凰がしがみ付いてる状態って……何お前ら、ファイナルフュージョンでもする気か?
簪も呆気に取られてるし、のほほんは引きつった顔を継続中だ。
「とにかく、説明を求む」
「えっとだな……鈴に"約束"のことを謝ったんだよ」
ほうほう、そこまでは想定通りだ。むしろよくやった。
「で、『今のままじゃ、"約束"を受けることも断ることも出来ないから、時間をくれ』って鈴にお願いして……」
「それは……よく凰が許したな」
「それはマジで感謝してる。してるんだが、その場面に箒とセシリアもやって来てな……」
ちょっと待て。ここまでの話の流れで、今この状況ってことは……
「「「私達、一夏の恋人候補になった/わ/んですの!」」」
「……」
まさかの女性陣公認3股発言に、二の句が継げなくなった。むしろこの状況で、何を言えってさ。
「3人とも、本当にそれでいいの?」
再起動を果たした簪が3人に疑問をぶつけたが、
「本当は私だけを選んでほしいがな……」
「それが一夏さんの魅力でもありますし……」
「し、仕方ないじゃない。それぐらい一夏のことがす、好きなんだから……」
三者三様顔を赤くしながら返された。何このハーレム。いや、元々この外史は一夏を中心としたハーレムだったか。
「陸、俺に何か助言を……」
「背中を刺されないように頑張れ」
「はい……」
がっくり項垂れる一夏。お前はそういう星の下に生まれてるんだろう、諦めろ。
ーーーーーーーーー
放課後。今日は打鉄弐式の整備と、メメントモリのリミッターを付け直すだけで止めておいた。本当ならエネルギー効率の向上とか、色々やってみたいことはあったんだが……
「陸は病み上がりなんだから、自重する」
「いや、傷は塞がってるし、痛み止めも保健室の先生にもらったのをちゃんと飲んでるし」
「む~……」
膨れっ面の簪に止められた。それで止めるとは、俺も丸くなったなぁ。
で、そのまま簪と寮の廊下を歩いていたところで
「うわぁぁぁぁ!!」
「おいおい、なんだ今の悲鳴!」
しかもこの声、一夏か!?
「あっちから聞こえた!」
簪が指さす方を見ると、入口のドアが開きっぱなしの部屋が一つ。
「おい! 大丈夫……」
部屋を覗き込んだ俺が見たもの。それは床に尻もちをついてる一夏と、
「「「あ……」」」
ベッドの上に上がって、(たぶん一夏のものであろう)Yシャツを顔の下半分に押し付けてる、
「で? 一体何がどうなってんだ?」
「それは……」
「ちょっとした出来心ですの……」
「見なかったことにしてよぉ……」
俺、簪、一夏の前で、正座している3人。いや、言い訳はいいから。
とりあえず篠ノ之に説明をさせることにした。
「最初は一夏が帰ってくるのを待っていたんだ。山田先生から頼まれ事をされたらしくてな」
一夏の方を見ると一夏が頷いていたので、そこは事実なんだろう。
「で、ただ待っているのも時間が勿体ないと思って、部屋の掃除をしようとしたんだ。そうしたら一夏の洗濯物が目に入って……」
「それでクンカーになったと?」
「うっ……」
簪の指摘に、篠ノ之が言葉に詰まる。というか簪、クンカーってなんだよ。
「そうしたら、セシリアと鈴に現場を見られて……」
「魔が差したのよ……」
「日本には『赤信号、みんなで渡れば怖くない』という言葉もありますし……」
魔が差すなよ凰。それとオルコット、それはダメな集団心理の言葉だからさっさと捨ててくれ。というか自分達がやってたことが赤信号な自覚はあったんだな。
「なぁ陸、俺、これからどうすればいいんだ……?」
一夏が今にも泣きそうな顔で、情けない声を出して聞いてきた。いや、どうすればって……。
「3人とも、Yシャツで満足なの?」
「え? 簪?」「更識さん?」
「どうして織斑君を直接嗅がないの?」
「「「っ!?」」」
3人に電流走る――! いや走んなよ!
「3人とも、いつも織斑君にくっ付いてるんだから、その時に自然にクンカーできるのに」
「そ、そうですわ……!」
「確かにそれなら……!」
「妙案だ……! ありがとう更識!」
なんか正座状態から簪を崇め始めたんだが。というか簪、お前そんな性格だっけ?
「な、なぁ陸。これって俺、明日からずっと3人に……」
「一夏……」
俺は一夏の肩をポンと叩くと
「頑張れ」
逃げた。お前の嫁(候補)だろ、自分で何とかしろよ。
その後、取り残された簪にポカポカ叩かれた。置いてったのは悪かったけど、なーんか釈然としねぇなぁ……。
ーーーーーーーーー
さて、そんな濃ゆいイベントを消化して消灯時間。あとは寝るだけなんだが……
「えーっと、簪?」
「何?」
「これは一体、どういうことなのかなぁっと」
マジで説明してくれ。どうしてさも当然のように、お前のベッドと俺のベッドの間が0cmなんだ。今朝は間にサイドテーブルがあっただろう。(仕切り? 戻すのが面倒でドア側にずっとそのまま)
「陸の温もりを感じながら寝たいから」
「おおぅ。男として喜んでいいやら、直球過ぎてビビればいいのやら……」
少なくとも、入学当初の簪はもういない。
なんて思っている内に、簪が自分と俺の枕と掛け布団を中央に寄せ始めた。わー積極的ー。
「ほら陸。早く寝よ?」
「……そうだな」
俺は考えることを止めた。簪がいいならいいや。(現実逃避)
「……」
「温かい」
あの~簪? 寝る時も俺の腕にしがみ付くのか?
「すごく落ち着く」
「そうか……」
……うん、簪が落ち着いて寝れるならいいか。(2度目の現実逃避)
「それに、陸の匂い」
「おいばかやめろ」
それはダメだ。クンカー?は一夏ハーレムの連中だけで十分だから。
ギャグ回のはずなのに、気付けば甘じょっぱくなってもーた!