第21話 それでバレないってマ?
クラス対抗戦で負った怪我の痛みも無くなった頃、ようやっと座学以外の授業が出始めてきた。
「来月の学年別トーナメントに向けて、明日から実機訓練が始まります。みんな、ISスーツを忘れずに準備してね。忘れたら……学園指定の水着で授業を受けてもらいますからね」
「「「え~やだ~」」」
SHR、エドワース先生の注意事項に、女子生徒達は笑っていたが
「あら、笑っていていいの? 宮下君にスクール水着姿を見せたいなら止めないけど」
「「「あ……っ」」」
一変、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「先生、俺を出しにしないで下さいよ」
「はいはい。そういう宮下君も、当日はドギマギしないようにね」
「勘弁してくださいよ……」
正直、ISスーツもスクール水着と変わらんよ。めっちゃ視線に困るんだって。
「……(ジト目)」
……簪からの視線も困るんだよなぁ。
「そういえば宮下君知ってる?」
SHRが終わってすぐ、隣の席のクラスメイトから声をかけられた。
「何がだ?」
「1組に転校生が入ったんだって。しかも2人も!」
「あれでしょ? フランスとドイツから来たっていう」
「へぇ、1組に転校生ねぇ……」
きっと一夏目当てなんだろうなぁと頷きそうになったが、ふと思った。
「2人とも? 普通、各クラスの人数を揃えるようにバラけさせるんじゃ?」
「う~ん……そこは送り込んだ各国と、学園側との交渉なんじゃないかなぁ」
「思い切り干渉受けてるじゃんIS学園」
『いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない』って建前はどこに行ったよ?
「あはは~……」
さすがにデリケートな話題なためか、苦笑いで流されてしまった。
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いつもよりはカロリーを消費しなかった(法関係の内容じゃなかった)授業後の昼休み。簪とのほほんを拾って食堂に行こうとしたタイミングで、一夏からメールが来た。
『みんなで屋上で食べようって話になったんだけど、一緒にどうだ?』
昼飯の誘いだった。そういえば屋上は行ったことなかったな。
「で、どうする?」
スマホの画面を、隣を歩いている簪に見せる。
「私も行っていいの?」
「別に俺だけって書いてないし、いいんじゃねぇか?」
「……本音も一緒に」
「おうよ」
『簪とのほほんも一緒でいいよな?』と送ると、すぐに『いいぜ。のほほんさんには俺から声かけておくわ』と返ってきた。
そして俺達が屋上に着くと、向こうの面子はすでに揃っていた。
一夏、篠ノ之、オルコット、凰、のほほん、そして……知らない顔だな。
「男……?」
簪が隣で驚いた顔をしていた。え?
「シャルル・デュノアだよ、よろしく」
そう挨拶するのは、中性的な顔立ちに、金髪を首の後ろで束ねた、『貴公子』風の人物だった。いやまぁ、スカートでなくズボンを穿いてるけど、え?
「お、おう。4組の宮下陸だ。よろしくな」
「同じく、更識簪」
「宮下君に更識さんだね、よろしく」
自己紹介を済ませると、各々持ってきた昼飯を取り出す。
「一夏は……用意する必要ないよな」
「いや、一応購買でパンを買って……」
「そうだな! なにせ!」
「わたくしたちが!」
「用意してるからね!」
一夏の主張をかき消すかのように、篠ノ之が弁当箱を、オルコットがバスケットを、凰がタッパーをドーンと一夏の前に置いた。
「あはは……僕、同席して良かったのかなぁ?」
そう苦笑するデュノアの手にも、購買の惣菜パン。
「のほほんは……菓子パンばっかかよ」
「メロンパンがおいしいんだよ~」
「本音、太るよ?」
「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」
簪のクリティカル攻撃を受けて、のほほんは(現実から)逃げ出した。
「なぁデュノア、二つほど聞いてもいいか?」
「え? 何?」
首を傾げるデュノア。
「一つ目。1組に転校生が2人入ったって聞いたんだが、お前がその内の1人か?」
「そうだよ。フランスから来たんだ」
「そうか」
となると、もう片方がドイツから来た奴になるわけだ。
「それと二つ目。答え辛いことかもしれないんだが……」
ここにいる誰も指摘しないし、暗黙の了解みたいなのがあるのかもしれないが、気になって仕方ない。
一夏がハーレム3人の弁当攻勢を受け、簪がのほほんを弄り倒していて、こっちの声が聞こえてないタイミングを見計らって
「
「っ!?!?」
え? そんな驚愕の顔する?
「ちょ、ちょっとこっち来て!」
「お、おいおい……」
デュノアに手を引かれて、俺は屋上の出入口、ちょうど一夏達から見えない位置まで連れて来られた。
「ど、どうして僕が男装してるって……!」
「いや、どっからどう見ても女だろ。ってちょっと待て。まさか一夏達、気付いてないのか?」
「宮下君が初めてだよ……」
「ええー……」
体格も声も、どう見ても女だろ。なのに誰からも指摘されなかったん? クラス全員から? マ?
「それで、なんで男装なんかしてんだよ。転校するだけなら、そんな必要ないだろうに」
元々IS学園自体が女子校みたいなもんなんだし、女がわざわざ男装して入ってくる意味が分からん。というか性別詐称だろ、むしろどうして入れた。
「それは……」
「言えない事情があると」
「うん……」
しょんぼりした顔すんな。俺が悪いことしたみたいじゃねぇか。
「あ~……分かった分かった。俺は何も気付かなかったし、何も聞かなかった。それでいいな?」
「え……黙っててくれるの?」
「俺以外誰も気付いてない現状、黙ってても問題ないからな。無論、こっちに火の粉が飛んで来たら話は別だが」
だから俺を巻き込むなよ、と遠回しに釘を刺しておく。
「分かった、気を付けるよ」
「そうしてくれ」
俺は打鉄弐式を改造するだけの生活がしたいんだ。他のハプニングは全部一夏にプレゼントフォーユー。頑張れ原作主人公。
デュノアと話を付けて、簪達のところに戻ると
「セシリア! 今度は一体何をしたんだ!?」
「わ、わたくしは、本と同じように作っただけで……」
「ならなんで一夏が泡吹いてるのよ!?」
凰の言う通り、一夏が泡を吹いて倒れていた。話の流れから、凶器は一夏の手に残された、オルコット製のBLTサンド。
「人間って、あんな一瞬で赤くなったり青くなったりするんだね……」
おそらく一部始終を見ていたであろう簪が、恐ろしいことを口走っていた。
なぁオルコット。お前が見てたのは、本当に料理本だったのか?
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結局一夏は昼休み中に復帰できず、保健室にシュゥゥゥーッ!!された。
なお、下手人のオルコットは般若顔になった織斑先生に連行されていった。南無。
そして簪と教室に戻る途中
「それにしてもデュノアかぁ……どっかで聞いた名前なんだよなぁ」
頭の隅っこにあるはずなのに出てこない、もどかしい感じだ。
「フランスのIS開発企業にデュノア社がある。ラファールを作ったところ」
「ああなるほど、つまりデュノアは」
「うん。たぶんそのデュノア社社長の子」
いいとこの御曹司(お嬢様)なわけか。余計に男装して来る意味が分からんな。
「でも、おかしな点がある」
「おかしな点?」
やっと簪も気付いたか。
「私の家、更識家はちょっと特殊で、国内外の色々な情報が入って来るんだけど……」
あれ? デュノアが女だって気付いたんじゃねぇのか。
「デュノア家に、私達と同年代の人間はいない、はずなんだけど……」
「何?」
男とか女とかでなく、そもそもいないだと?
「じゃああいつは何者なんだ?」
「分からない。IS学園に入れるってことは、IS委員会の調査をパスしてるはずだけど」
調査と言っても、男装をスルーしてるからなぁ……謎が深まるが……
「とりあえず静観だな」
「いいの?」
「こっちに火の粉が飛んで来ないなら、面倒事に巻き込まれたくない。俺は機械弄りだけしていたいんだ」
「ふふっ、陸らしい」
「理解してもらえたようで何より。さて、そろそろ昼休みも終わるしさっさと教室に戻るか」
「うん」
もはや日常となりつつある、簪が左腕にしがみ付いた状態で、俺達は4組の教室に戻っていった。
デュノア家については、簪より楯無(当主)の方が知ってるはずですが……まいっか!