それは突然だった。
打鉄弐式に太陽炉を付けて、アリーナを予約して、食堂で晩飯を食って、あとは寝るだけと部屋に戻った時。
鍵を開けて中に入ったところまでは何もなかった。だが、後ろから入ってきた簪がドアを閉めて明かりをつけようとした、その時だった。
――ヒュッ
俺の横を"何か"が通り過ぎようとした。いや、簪に向かって、何かが突っ込んできたが正しいか。
「簪!」
咄嗟に声を上げた俺は
――バッ! ギュッ!
「あだだだだだだだ!」
……思わずアームロックをキメちまったんだが、あれ? 突っ込んできた"何か"って人? 不法侵入者?
「り、陸!?」
「簪、とにかく明かりをつけてくれ」
「う、うん」
明かりがつき、侵入者の姿が……
「……なぁ、簪」
「何?」
「最近の不法侵入者って、こんな格好してるんだな」
青と白のエプロンドレスに、ウサミミっぽいものを頭に付けた紫髪の女。それが、俺にアームロックをキメられている侵入者だった。
「放せよー! こ、この束さんをもってしても抜け出せないなんて……!」
「ほう、束って名前なのか」
「お前のような奴が名前で呼ぶな!」
「あ、そう」
――ゴリゴリゴリ……
「ぎにゃあああああああ! か、関節が! 関節が死んじゃうぅぅぅぅぅ!!」
「陸、鬼畜だね……」
「不法侵入の上、口まで悪いんだから仕方ないだろ。とりあえず簪は織斑先生呼んできてくれ」
「うん。分かった」
「ちょ! ちーちゃんを呼ぶなんて――」
――ゴリィ!
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
少しして、簪が連れて来た織斑先生は
「束……大丈夫か?」
アームロックで左腕を固められ、めそめそ泣いている侵入者を心配し始めた。おいおい、どうしてそっちを心配すんの? というか織斑先生の知り合い?
ーーーーーーーーー
学生寮1032号室、つまり俺と簪の部屋で、なぜか織斑先生と先ほどの侵入者が椅子に座っている。ちなみに俺と簪はベッドしか座る場所がない。
「それで、織斑先生はこの侵入者と知り合いなんですか?」
「ああ、困ったことにな……」
俺の問いに、織斑先生は大きなため息をついた。
「束、自己紹介しろ」
「え~、面倒~」
「宮下、こいつにもう1回アームロックを――」
「篠ノ之束だよ!」
織斑先生が言い終わる前に、ウサミミ侵入者がシュバッと手を挙げた。いい感じにトラウマになったようだ。
それにしても篠ノ之って……
「し、篠ノ之博士!? ISの生みの親の!?」
「え? ああそうか。そういえばそうだったな」
授業で習ったっけか。確か467個のISコアを作った後出奔、世界中を逃げ回ってる重要人物だ。
「そうだったって……陸は何だと思ったの……」
「いや、1組の篠ノ之の関係者なのかなーと。ほら、もうちょっとツリ目にしたらそっくりじゃね?」
「へぇ、なかなか良い目をしてるねぇ」
つまらなそうにしてた篠ノ之博士が、突然嬉しそうな顔に変わった。なんだろう、どこかの生徒会長みたいだな。
「それで束、お前は一体何しに来たんだ」
「んーとねー、そこの眼鏡っ子のISに興味が湧いたからお邪魔しに来たんだ~」
「打鉄弐式に?」
「打鉄弐式っていうんだ? そのISに積んである武装、『メメントモリ』だっけ? それが気になってね」
「束……まさかあの無人機はお前が」
「んー? ちーちゃんどうしたの?」
「……いや、何でもない」
織斑先生は何か言いたげだったが、最後はため息をついて誤魔化した。
あーこれはあれか。クラス対抗戦の無人機を送り込んできたのはこの博士なのか。それならメメントモリのことを知ってるのも頷ける。おそらく無人機にカメラでも仕込んでたんだろうよ。
「あれは君が付けたのかい?」
「あれは……」
博士に話を振られた簪は、俺の方を見た。
「あ、作ったのはそっちなんだ」
「おう」
頷くと、博士はずいっと近づいてきて
「あれって原理としては――」
「――だからエネルギーラインはこっちにした方が――」
「いやいや、それだと効率悪いから――」
いきなり俺と博士の間で、技術交流会もどきが始まった。
ーーーーーーーーー
「……更識、あいつらの言ってること、分かるか?」
「いえ、半分も……」
突然陸と篠ノ之博士が話し始めたと思ったら、私や織斑先生ではついていけない内容になっていた。
そして、2人は10分ほど話すと
――ガシ!
あ、握手してる!?
「いや~、なかなか良い時間だったよ~」
「こっちこそ。ここまで突っ込んだ話が出来る奴が周りにいなかったから、いい勉強になったわ」
えー……なんか友情が芽生えてる? 陸が目上の人(確か博士って織斑先生と同級生だったはず)相手にため口なの、初めて見たかも。
「た、束が他人と握手するなんて、初めて見たぞ……」
織斑先生は、まるであり得ないものを見たような顔をしていた。そ、そんなに?
「そういえば2人とも、まだ名前を聞いてなかったね」
「そうだった。宮下陸だ」
「さ、更識簪ですっ」
「陸と簪……りったんとかんちゃんだね!」
「お、おう……」
「か、かんちゃん……」
ま、まさか本音みたいに呼ばれるとは……。
「りったんには友情の証として、これをあげよう! はい!」
そう言って博士がエプロンの前ポケットから取り出して陸に渡したのは、握り拳大の球体……ってあれは!
「あ、ああ、ISコア!?」
「束、お前なんてものを……!」
「いいのか? 限定品なんだろ?」
「いいのいいの! 束さんにかかれば、いくらでも作れちゃうんだから♪」
「そうか……それなら有難くもらっておこう。サンキュな」
陸ぅ! そんな軽ーい感じでもらっていいものじゃないからっ!
織斑先生からも何か言ってください!
「まったく……宮下、話がある」
「何です?」
そう! ガツンと言ってください!
「もしそのコアでお前の専用機を組むのなら、すぐに報告するように。書類上は訓練機の1機を回してカスタムしたことにしておく」
あれ?
「いいんですか?」
「どうせ止めたって作るんだろう? なら、こちらの目が届くようにした方がマシだ」
ええー……。
「ああ、分かってる。なにせお前のように、やりたいことがあると周りが見えなくなる親友がいるものでな……」
そう言って、織斑先生は篠ノ之博士の方を見た。あ、そういう……。
「りったんの専用機かぁ。どんなのが出来るか楽しみだな~!」
「専用機か……いや、作るにしても資材が無いから、すぐには無理だな」
「そっかぁ、残念」
あ、そうか。弐式の時はフレーム部分は元からあったし、整備科の余剰部品をもらってなんとかなったけど、もう1機組むほどは残ってないはずだ。
「う~ん、もらいっぱなしってものあれだし、俺からは博士に「束だよ」あ~、束にこれをあげよう」
陸の懐から出てきたのはメモリースティック。あれ、何か既視感が……。
「何かな?」
「まぁまぁ、それは中身を見てのお楽しみ」
陸が渡したメモリースティックを、博士はさっそく端末(また前ポケットから出てきた)に差し込んだ。
「おお? おおおおお!?」
「どうだ? ISコアと釣り合うかは怪しいんだが」
「全然問題ナッシング! 衛星軌道からの太陽光発電とマイクロウェーブ送電の概要と設計図! 十分すぎるよ!」
「「ぶふっ!」」
私と織斑先生が思いっきり吹き出した。 陸、なんてものを!
「いやぁ、今日は大収穫だったよ! さっそく試作品を作らねば! それじゃあ3人とも、まったね~!」
「あっ、おい束!」
織斑先生の制止を無視して、博士は部屋の窓を開けると、そのまま『とぉ!』とか言ってベランダを飛び越えて行った。いくらここ1階だからって……
「……更識」
「……何ですか?」
「もし常備薬に胃薬があれば、すまんが分けてもらえないか……?」
お腹を押さえる織斑先生に、私はキッチン棚から救急箱を引っ張り出して、薬を渡した。 先生、近い内に検査した方がいいと思います。
ISコアの形状はアニメ2期準拠です。(オータムがアラクネ自爆前にコアを抜いたシーンから)