珍客が現れた翌日、予定通り第6アリーナで機動力テストをしにきたわけだが、
「見学者よ」
「お、お姉ちゃん……」
メメントモリの時と同じように、パイセンがドヤ顔で立っていたので、
――バッ! ギュッ!
「があああああああ!」
とりあえずシメておく。
「来るなとは言いませんけど、そのドヤ顔がムカつきます」
「そんな理由ででででででででっ!」
「陸、そのくらいで」
「か、簪ちゃん……!」
……簪がそう言うなら仕方ない。
俺がパイセンの解放すると、簪はパイセンに近づいて
「あんまり自重しないと、虚さんにアームロックを覚えてもらわないといけなくなる」
「……はい、自重します」
あ、パイセンが簪の口撃に負けた。
「まったく……のほほん、そっちの準備はいいか?」
「オッケーだよ~」
さて、計測機器の準備も済んだし、そろそろ始めるか。
「そんじゃ簪」
「うん」
待機状態が解除され、打鉄弐式に乗った簪が現れる。
「最初は飛ぶ前に、横移動からにするか」
『分かった』
「ああそれと、出力自体が上がってるから、いつもより抑え目で――」
――ドゴォォォォォォンッ!
「簪ちゃーーーーーーんっ!?」
――どうやら遅かったようだ。簪の乗った打鉄弐式は残像を残したかと思うと、アリーナの壁にめり込んでいた。
『陸ぅ……(# ゚Д゚)』
いや怖いから。通信機から聞こえてくる声が怖いから。
だから抑え目って言おうとしたやん。俺は悪くねぇ!
「りったん、これリミッターが必要だよ~……」
「だな……」
よもや、ISでトランザムもどきが見られるとは思わんかったよ……。
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その後リミッターを付けたことで、今まで通りの機動を行えるようになった。
ただし、
「通常時でもリミッターぎりぎりまで動かしたら、瞬時加速と同じぐらいの速度が出てるんだけど……」
横から計測結果を覗いていたパイセンにツッコまれた。
「貴方、簪ちゃんを一体どこに導くつもりなのよ……」
「モンド・グロッソですが?」
それは以前言ってあるはずですがねぇ?
『陸は私に何を期待してるの……?』
「何って、ブリュンヒルデになることを期待してるが」
それも以前言ってあるよな?
「正直私、今の打鉄弐式に勝てる気がしないんだけど」
「事実上エネルギー無制限な上、常時瞬時加速可能で
『先に私自身が慢心しないか心配になるレベル』
「それぐらい良い機体になったってことで」
「「『違う、そうじゃない』」」
3人から揃ってツッコまれた。解せぬ。
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予定していたテストも終わり、簪の着替えが終わるのを待ってた時
~~~♪
スマホの着信音が鳴った。ディスプレイを見ると、登録はしてないが見覚えのある番号。そう、あの
「もしも――」
『マーーーーーーーベラス!』
「うっせぇ! 声量下げろや馬鹿野郎!」
ぐぁぁ、まだ耳がキィィンって鳴ってやがる。
『あら失礼。興奮のあまり思わず』
「何に興奮してんだよ……」
『それはもちろん! 一夏様のことです!』
「さいで……」
そりゃそうか。こいつら、一夏オタクだって言っても過言じゃねぇだからな。
『一夏様が異性に対する自覚を持ったことで、彼のハーレムが完成に近づいていくのですから!』
「あんたら、一夏にハーレムを作って欲しかったのか?」
俺の知ってるオタクは、推しの恋愛とか嫌う連中だと思ってたが。
『何を言っているのです。男として優れているから、複数の女を持つのですよ?』
あ、そういや神って、一夫多妻制だったな。いっぱい女を囲えるのが良い男って考えか。
「だが、この日本は一夫一妻制だぞ」
いくら一夏でも、その内誰か1人を選ばなきゃならん日が来るんだ。
『普通ならそうでしょう。ですが一夏様は織斑千冬の弟君であり、希少な男性操縦者、ならば――』
「……その一夏と繋がりを持つために、各国が例外的に多妻を認めるよう申し合わせする、と?」
『貴方のような勘のいい人間は嫌いではありませんよ』
「マジかぁ……」
駄女神がそう言うってことは、おそらく各国ですでに提案・検討されているんだろう。つまり、一夏があの3人を名実共に嫁にするのは時間の問題と。
頑張れ一夏。いや、ぶっちゃけ一夏が誰か1人を選ぶ光景が想像出来ないから、却って良かったのか?
『それと……』
「まだ何かあるのかよ」
『近い内に、また一夏様への試練が訪れるでしょう。そして貴方の助言によって、さらに一夏様が成長することになるのです!』
そう不吉なセリフを残して、駄女神からの通話が切れた。やめてくれよぉ……。
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そんな面倒事を聞かされた夜、いつものように簪と茶を飲んでいると
「陸っ!」
――バンッ!
織斑さん家の一夏君が、ノックもせずに部屋に入ってきたんですがー。
「一体なんだよ」
「いいから来てくれ!」
「ちょっ、おま!」
こっちの言う事も聞かず、俺は一夏に腕を掴まれて部屋から引きずり出されてしまった。そしてそのまま一夏の部屋へ。
「だーもう! 一体なんだって……」
「や、やぁ、宮下君……」
なぜかそこには、顔色が悪そうに見える、男装女子のデュノアがいた。
「どうしてここにデュノアが?」
「実は僕、一夏と同室なんだ」
「シャルルが転校してきた日に、箒と入れ替わりにな」
「そうか」
デュノアがこの部屋にいる理由は分かった。
「で? 俺がここに連れて来られて理由は?」
「陸の力を貸して欲しいんだ!」
「力って……何のだよ」
「実は、シャルルは女だったんだよ!!」
「知ってた」
「へ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる一夏。あれだけ力いっぱいカミングアウトしてこれなら、そんな顔にもなるか。そうか、とうとう一夏にもバレたのか。
「はぁ……デュノア、俺言ったよな? こっちに火の粉が飛んで来たら話は別だって」
「ご、ごめんなさい……」
「どうしてシャルルが謝るんだよ!? それに陸、お前シャルルが女だって知ってたのか!?」
「屋上でみんなで昼飯食った時から気付いてたっての。で、こっちを巻き込まない限り黙ってるって話になってたんだよ」
それがいざ蓋を開けてみれば、デュノアの落ち度でなく、一夏の手によってあっさり巻き込まれたわけで。
「そ、それなら話が早い!」
そう言って、一夏はデュノアの事を説明し出した。おい、俺を勝手に巻き込んだところは無視かよ。
デュノアは父親であるデュノア社長と愛人の間に出来た子で、母親が亡くなった2年前にデュノアに引き取られ、IS適性が分かってから会社の非公式テストパイロットになったそうだ。
そしてこれは初めて聞いたんだが、デュノア社は第3世代機開発の遅れが原因で、経営不振に陥っているらしい。だから、会社の命令で一夏と専用機のデータを盗むため、一夏と接触しやすいように、わざわざ男装して学園へと来たと。
失敗したら、経歴詐称してIS学園に不正入学したとして強制送還のち投獄。成功したらしたで、正真正銘産業スパイ。どう転んでも犯罪者になる道しかない。
「……ここまでの経緯は分かった。で? 繰り返しになるが、俺がここに連れて来られた理由は?」
「だから、シャルルを助けるために力を貸してくれ!」
「一応聞くが、何か策はあんのか?」
「いや、その策を考えるために、陸の力を……」
「あのなぁ……」
一夏の無鉄砲さに、さすがの俺も頭が痛くなってきた。
「デュノア社という大企業、しかも性別詐称でIS学園に入れたってことは、フランス政府やIS委員会ってデカい組織も絡んでるんだろ? そもそも、俺達のような一学生でどうこう出来るわけないだろ」
「「あっ……」」
あってなんだよ。しかもデュノア、お前も気付いてなかったんかい……。
「というか、俺よりも織斑先生に相談しろよ。あの人の方が俺よりそっち系の伝手も多いだろ」
「それは……ダメだ。千冬姉に迷惑が掛かる」
……お前、それを言っちまうのか。さすがにこれはイラッと来たぞ。
「一夏、お前がデュノアを助けたいってのは分かった。そして姉である織斑先生に迷惑を掛けたくないってのもな」
「なら……!」
「バカタレがぁ!」
――ガンッ!
「いってぇ!」
「い、一夏っ!?」
アームロックだと思ったか? 残念、脳天への鉄拳制裁だ。
「お前、デュノアと同室である以上、もし今回の件がバレればお前にも疑いの目が行くんだぞ」
「そ、それは分かって……」
「分かってるだと? ならその責が、
「えっ?」
やっぱり分かってないのかよ……。
「つまり、僕が捕まるような事になれば、一夏も共犯扱いされて、織斑先生も巻き込まれる……」
「そんな! 千冬姉は関係――!」
「お前がどう思おうが、周りの人間はそう考えるし、そうなるんだよ」
「そ、そんな……」
俺の説明を聞いて、一夏は呆然と立ち尽くす。っていうか、そのくらいは気付いてくれよ……。
「分かったら四の五の言わず、さっさと寮監室に行って、織斑先生に相談して来い。デュノア、お前もな」
「ぼ、僕?」
「当たり前だろ。さっきから一夏ばっか喋ってるが、お前は
「僕が……?」
何驚いた顔してんだよ。
「お前がどうしたいか言わねぇと話が進まねぇだろ。お前の人生が掛かってんだぞ」
「それは……」
そう呟いて、デュノアも固まってしまった。
不幸な運命に対して足掻こうとせず、流されるだけの
「ったく……今日の事は誰にも言わん。あとはお前らで決めてくれ」
そう言って、俺は部屋を出て行った。
言うだけ言って無責任かもしれないが、これは一夏とデュノアが自分の意思で決めなきゃならんことだろうよ。
相変わらず説教系っぽくなっちゃいましたねぇ。
これで一夏が何もしなければ(orオリ主に恨み言を吐くだけなら)アンチものが出来上がりますが、本作は基本アンチなしなので、次回一夏には頑張ってもらいます。