『放課後、屋上に来て欲しい』
一夏に鉄拳制裁をした翌日。奴からのメールを見た俺は、一人で校舎の屋上に来た。そこにはすでに一夏が居て、俺に持ってた缶コーヒーを投げて寄こしてきた。
「奢りなんてどうした?」
「急な呼び出しに対するお礼兼口止め料だ」
「なるほど、おしゃべり厳禁な内容か」
落下防止用の手摺りに寄りかかってる一夏の横に並ぶと、俺も手摺りに寄りかかる。そして渡された缶のプルタブを開けて、微糖な中身を一口飲んだ。 正直無糖ならベストだったんだが、正味女子校のIS学園の中でそれは無茶な注文か。
「それで、呼びだした理由は?」
「昨日、千冬姉のところに行ったんだ。陸にぶん殴られた後に、さ」
「ほう」
あそこで意固地にならずに行ったか。すこーし心配してたんだが。
「それで、シャルルを助ける目途が立ったんだ」
「そりゃ良かったじゃねぇか」
「ああ。束さん……箒のお姉さんが情報提供してくれてな」
「篠ノ之の姉ねぇ……」
やっぱり束は篠ノ之箒と姉妹だったのか。前にどこかで聞いたような気がしてたが、記憶は合ってたようだな。そんで、昨日頼んだ"あれ"は無駄にならなかったと。資材や現ナマを我慢した甲斐があるな。
「ありがとうな、陸」
「お前に礼を言われるようなことをしたか? まさかお前、殴られて喜ぶような……」
「ちげぇよ馬鹿! あの時発破をかけてくれたから、俺もシャルルも千冬姉に話す決心がついたし、さっき言ったように解決の目途も付いたんだ。これはその礼だ」
「大したことはしてないんだが……まぁこれも含め、受け取っておくさ」
そう言って、俺は半分飲みかけの缶コーヒーを一夏に振って見せた。
「ところで一夏。お前こんなところで一人でいて問題ないのか? 一夏ハーレムの連中放っておいて」
「ハーレム言うなよ……。このあと第3アリーナで、セシリア達と模擬戦する予定だけどな。陸こそいいのか? もうすぐ学年別トーナメントも近いのに、全然練習してるところ見たことないぞ」
「いいんだよ。そもそも俺はメカニック志望だからな」
「ああ、だから更識さんのIS開発に関わってたのか」
「そういうこった」
一夏と違って、こっちはIS適性も乗り回す気もほとんど無いからな。悪いが、希少な男性操縦者としてのデータ取りは全部任せるぞ。
「さて、そろそろ簪達の所に戻るか」
「そうだな。俺もあんまりセシリア達を待たせるとまずいし」
俺も一夏も手摺りから体を離したところで
――バンッ!
「一夏っ!」
屋上の扉が思い切り開き、デュノアが飛び込んできた。
「シャルル、一体どうしたんだ?」
「せ、セシリアと鈴が……!」
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クラス対抗戦の時に(遺憾ながら)お世話になった保健室。デュノアに連れて来られた俺と一夏の前には、ベッドの上で包帯を巻かれたオルコットと凰がいた。
「い、一夏さん……」
「かっこ悪いところ見られちゃったわね……」
「かっこ悪いとかどうでもいい。それより、怪我の具合はどうなんだ?」
「こ、こんなの! 怪我の内に――いたたたっ!」
「も、問題ありませんわ! そもそもこうやって横になるほど――つううっ!」
虚勢を張るな、虚勢を。余計に一夏が心配そうな顔しちまってるじゃねぇかよ。
「もう、二人とも……」
「篠ノ之、結局のところどうなんだ?」
デュノアがため息をつく中、俺はベッド横の椅子に座っていた篠ノ之に話を振った。
「先生曰く、怪我自体は打撲がほとんどで大したことは無いとのことだ」
「そうか……」
「だが、二人のISのダメージレベルがCを超えているらしい。当分は修復に専念せざるを得ず、学年別トーナメント参加も許可できないと、山田先生に釘を刺されている」
「そうなのよね……」
「非常に不本意ですが……」
2人の顔が曇る。だが仕方ないだろう。
「?」
この中で、一夏だけが分かってない顔してるな。
「IS基礎理論の蓄積経験値についての注意事項第三だよ、一夏」
「ダメージレベルがCを超えた状態で無理にISを動かすと、変な形にエネルギーバイパスが構築されちまうんだよ。そうなると、修復されて平常時に戻ってもバイパスが変な形のままで稼働に悪影響が出る」
「『骨折した時に無理に動かすと、変な形で骨がくっ付いちまう』みたいなことか」
「まあ、そんな認識でいいか」
そういうわけで、今後の事を考えれば、オルコットと凰はトーナメントを棄権せざるを得ないわけだ。
「というか、何で2人がそんな怪我する羽目になったんだ?」
一夏が至極真っ当な質問をすると、オルコットと凰は顔を逸らした。おい……。
「篠ノ之」
「私は説明役じゃ無いのだぞ……」
そう言いつつ、篠ノ之は事の経緯を説明し始めた。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……つまり、そのボーデヴィッヒとかいう転校生の挑発に、2人ともまんまと乗っちまった挙句、ボコボコにされたと」
「うぅ……」
「お恥ずかしながら……」
何やってんだ代表候補生。私闘で機体壊してトーナメント出れませんとか、確実に国からの評価はマイナスだぞ。発端がボーデヴィッヒ側という点で、弁明の余地はあるとはいえ。
「それは……」
「あの女、一夏のことも……」
「それで2人が怪我しても、俺は嬉しくねぇよ」
「「はい……///」」
おぉっと一夏のセリフでオルコットと凰の顔が真っ赤! そして篠ノ之は羨ましそうな顔だぁ! 俺、何見せられてんだろうな?
ドドドドドドドドッ……!
「な、何だ? 何の音だっ?」
突然の地鳴りのような音に、一夏だけでなく、俺達全員が周囲を見回した。
近付いてきているのか、その音はどんどん大きくなり
バァンッ!
「織斑君!」
「デュノア君も!」
「あっ! 4組の宮下君もいる!」
保健室のドアが乱暴に開けられる。そして入ってきたのは……いや、なだれ込んできたのは、数十人の女子生徒だった。
そして一瞬の間に、俺達はその女子生徒達に完全包囲されていた。ナニコレ怖い。
「み、みんなどうしたんだ?」
「これ!」
代表して聞いた一夏に、包囲網の最前列にいた女子生徒の1人が見せて来たのは、学内の告知文が書かれた申込書だった。
「『今年の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人1組での参加を必須とする』――」
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「クラスは違うけど、宮下君はどうかな!?」
全方位から伸びてくる、申込書を持った手。怖っ! 一夏とデュノアも、あまりのホラーに顔が真っ青だ。
しかしデュノアが女子と組むのは、男装してるのがバレる危険があるんだがなぁ。
そう思って一夏の方を見ると、あいつもそこに思い至ったのか
「悪い。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
一夏の一言に、保健室中が途端に静かになる。
「まぁ、そういうことなら……」
「他の女子と組まれるよりは……」
しぶしぶながら納得した様子で、一夏とデュノアに伸びていた手が引っ込む。これはこれは怖いんだが。
「あ、それなら宮下君は?」
引っ込んだ手が、全てこちらに伸びてきた。だから怖ぇって!
「陸」
突然聞こえた声に、保健室内の視線は、すべて廊下を向いた。
「簪?」
「なかなか整備室に来ないから、あちこち探し回る羽目になった」
「あ……すまん」
デュノアに連れて来られた段階で、メールのひとつでも投げるべきだったな。反省反省。
「ほら、本音も待ってるから」
「お、おう」
まるでモーセの十戒のように包囲が割れ、つかつか近付いてきた簪が俺の腕を掴む。
「あ、あの、宮下君。トーナメントのペア……」
一部の女子生徒が、簪に腕を引っ張られる俺に声を掛けようとするが――
「みんな、今日は陸に会わなかった。イイネ?」
「「「「アッハイ」」」」
簪の一言で黙らされた。
もしかして簪って、結構独占欲が強かったりするのか? そして独占対象の俺は、それだけ愛されてると喜べばいいのか、束縛されると悲しめばいいのか。
「せっかく、一夏さんとペアになるチャンスでしたのにぃ……」
「なんであんな挑発に乗ったのよぉ、あたしの馬鹿ぁ……」
「なぜ私でなくデュノアなのだ、一夏ぁ……」
保健室を出て行く直前、一夏ハーレムの嘆きが聞こえた気がした。
トーナメントのペア? すでに簪が俺の名前も書いて、提出する準備万端だったよ。
のほほんとは組まないのか聞いたが
「……陸と組むことしか考えてなかった」
今気づいたとばかりに返された。
……とりあえず、簪の頭を撫ぜた。
「……♪///」
簪も満更じゃなさそうなので、そのまま撫ぜてたら
「宮下君も更識さんも、ほどほどにねー」
エドワース先生に見つかり、顔を真っ赤にした簪にポカポカ胸を叩かれた。
うん、廊下でやっちゃダメだよな。またもや反省反省。
内向的で控えめな簪は死んだ! もういない!
その内、恍惚のヤンデレポーズが似合うようになりそう。