学年別トーナメント当日。
全生徒が慌しく走り回り、雑務や会場の整理、各国政府関係者を始めとした来賓の誘導などに駆り出されていた。
かくいう俺も、生徒会長であるパイセンと知り合いだったのが運の尽き。ぎりぎりまで雑務を押し付けられ、開会式が終わると大急ぎで男子用の更衣室まで走らされた。
「宮下君、大丈夫?」
「な、なんとかな」
ああそうか、デュノアはまだ男装してるからこっちの更衣室なのか。
「それにしても、すごいなこりゃ……」
一夏は我関せずで、更衣室に付いているモニターを見ていた。そこには、観客席に座る各国政府関係者、研究所員、企業エージェントなど、錚々たる面子が。
「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認のために、それぞれ人が来ているからね」
「ふーん、ご苦労なことだ」
デュノアの説明に、一夏はあまり興味がなさそうだな。というか、ピリピリしてるな。
「なぁデュノア、一夏の奴、なんか気負ってないか?」
「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいでね……」
小声で聞いてみると、どうも一夏はボーデヴィッヒに思うところがあるようだ。オルコットと凰が出場できなくなった原因と言えるから、分からなくもないが。
「一夏も、あまり感情的にならないでね」
「ああ、分かってる」
デュノアに指摘されて、一夏はおそらく無意識に握りしめていた左手をゆっくり開いた。
「あ、対戦相手が決まったみたい」
観客席を移していたモニターがトーナメント表に切り替わった。
さて、第1回戦は誰が相手……
「「――え?」」
一夏とデュノアはぽかんとした声をあげ、
「マジかよ……」
俺は天を仰いだ。
『Aブロック第1回戦 更識簪、宮下陸 vs ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒』
一夏の獲物を、俺と簪が分捕る形になっちまった。ってか篠ノ之、お前なんでボーデヴィッヒと組んでんだよ?
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「陸、どう戦おう?」
「どうもこうも……」
アリーナに入り、簪と合流した俺の目の前には、篠ノ之と、銀髪で眼帯をしたチビッ子がいた。あの銀髪がドイツからの転校生、ボーデヴィッヒか。
頭の中に、昨日まで調べていた情報を展開していく。
「ボーデヴィッヒのISに搭載されてる
「うん。特に陸は相性悪すぎ」
「だな」
なにせ俺のISには、実体系の武装しか積んでないからな。
「ところで陸、本当にそのISでよかったの?」
「何がだ?」
そのISも何も、ちゃんと渡された専用機である打鉄・陰流に乗ってるだろ。
「それ、渡されたままの未改修打鉄でしょ!」
「いやいや、ちゃんと武装は新規で作ったろ」
まぁそっちの慣熟訓練に時間を使い過ぎて、装甲やスラスターは据え置きになっちまったわけだが。
「だから日本政府の人達、目が死んでるんだよ……」
簪に指摘されて観客席を見ると……確かにあれは、冷凍サンマの方が活き活きした目をしてるな。期待してたカスタム機のデータが取れなくて残念だったな。そもそも適性D+で稼働時間も大してない俺が、カスタム機なんか乗っても使いこなせるわけないだろ。
それと倉持技研の馬鹿共、簪の専用機放り投げてアフターケアも無かったお前らに見せるデータなんざねぇよ。NDK? NDK? ちなみに弐式のデータは倉持技研に渡ってはいない。そこは開発が凍結された当時のパイセンが頑張って、倉持に権利を放棄させていたのだ。そっちから開発を放り投げたんだから、当然だよなぁ?
それはさておき、問題のボーデヴィッヒだ。
「ISの性能差も含めて、俺がボーデヴィッヒの相手をするのは無理がある。だから――」
「私がボーデヴィッヒさんを倒すか、陸が篠ノ之さんを倒して2対1に持ち込むまで耐えるか」
「俺の実力からして、篠ノ之を倒せるかあやしいんだがなぁ……すまんが任せた」
「任された」
作戦が決まり、相手側に向き直ったところで
試合開始のブザーが鳴ると同時に、俺と簪は別々の目標に向かって加速した。
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「私の相手は宮下か」
「おうよ。ところで篠ノ之、なんでわざわざボーデヴィッヒと組んだよ?」
「し、仕方ないだろう!? 一夏がデュノアと組んだから、他に空いてる相手を探してる間に締め切りを過ぎてしまって、抽選でペアにされてしまったのだから!」
そういうことかよ。篠ノ之、もっと一夏関係者以外のダチも作ろうな?
「まぁ、こうなっちまった以上、ひとつ手合わせしてもらうぞ」
「ああ、もとよりそのつもりだ」
篠ノ之が刀を展開するのに合わせ、俺も武装を展開する。専用機受領から今日まで、作成と慣熟訓練に費やした、新規武装を。
「な、なんだそれは……」
「見ての通り、刀だ」
「そんなこと見れば分かる! だが、その長さは……」
篠ノ之が驚くのも無理はない。向こうが持ってる刀、『葵』の全長が約170cm。対して俺が展開した刀『
「言ってしまえば大太刀ってやつだ」
その長船を軽く振って感覚を確かめてから、上段八双に構える。知らない人間が見たら、バットを構えてるようだと言うだろうな。
「
集中力を引き出すための摩利支天経を口にする。見様見真似で口しつつ木刀を振るっていた、
「タイ捨流、宮下陸。一手所望だ」
「っ! 篠ノ之流、篠ノ之箒。相手になろう」
俺の名乗りに反応して、篠ノ之も正眼に構える。
「「征くぞっ!」」
俺も篠ノ之も同時に飛び出し、間合いを詰める。
「ツェァアアアアッ!」
先に間合いに到達する俺の長船が、篠ノ之に襲い掛かる。
「ぐぅっ! ……はぁっ!」
――キャリリ……ッ!
「なに……っ!?」
篠ノ之は俺の上段袈裟懸けを真っ向から受けた……かと思えば、そのまま斬撃の向きだけを変えるように受け流す。
「凄まじいな……。返すので精いっぱいで、反撃まで持っていけなかった」
「そっちこそ、まさか初太刀を躱されるどころか、受け流されるとは思ってなかった」
「篠ノ之流を舐めるな、と言っておこう」
そんな言葉の応酬を経て、俺も篠ノ之もお互い刀を構え直す。
やっぱ、しばらく鍛錬をサボった上にISにも慣れ切ってないせいか、斬撃に
こりゃ、簪に頑張ってもらうしかないな。
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(どういうことだ……! 織斑一夏以外の日本の専用機は、未完成のはずではなかったのか……!?)
ドイツで得た事前情報では、白式に人員を集中した結果、他の専用機開発は凍結されたはず。
であれば、目の前にいる日本の代表候補生、更識簪の乗る訓練機など物の数ではない。そのはずだった。
だが、実際は――
「はぁっ!」
――ドドドドドドドォォンッ!
「くそっ!」
奴のISから飛んでくる無数のマイクロミサイル――しかも、第3世代型兵器であるマルチロックオン・システム搭載――の嵐に、私は回避以外の選択を取れない。
「ならばっ!」
全力で距離を縮め、奴の懐に潜り込む。これならミサイルは使えまい。
「ふっ!」
「甘いっ!」
上段から振り下ろされた薙刀をAICで止める。あとはプラズマ手刀で――
「メメントモリ、起動!」
「何ぃっ!?」
奴が薙刀を手放し、右手で私の左腕を掴んだかと思えば、突然掴まれた箇所から赤黒い光が点滅し出した。
(し、シールドが!)
私のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』のSEが、恐ろしい勢いで減っていく。
「は、なれろ……っ!」
右腕のプラズマ手刀を振り下ろし、掴まれた左腕を離させる。
(なんなのだ、あれは……!)
気付けば、SEは残り1割を切っていた。
私の挑発で頭に血が上っていた分を差し引いても、イギリスと中国の小娘共より、強い。このままでは……
(このままでは……? まさか、負けるというのか、私は……!)
確かに相手の力量を見誤っていた私のミスだ。だが、しかし――
(私は負けるわけにはいかんのだ……!)
「どうして強いのか、か。……私には弟がいる。あいつを見ていると、強さとは何か、その先に何があるかが分かる時がある」
かつて教官に尋ねた時の、わずかに優しい笑みに、気恥ずかしそうな表情に、心がチクリとした。
「いつか日本に来ることがあれば、会ってみるといい。だが、ひとつ忠告しておくぞ。あいつは――」
(違う! 私が憧れるのは、強く、凛々しく、堂々としている貴女なのに……!)
許せない、教官にそんな表情をさせる存在を。認められない、教官をそんな風に変えてしまう
(決めたのだ。あの男を、私の力で敗北させると!)
だからこそ、こんなところで負けるわけにはいかない、いかないのだ……! そのためには――
――力が欲しいか?
私の中で、何かがうごめいた。
――汝、より強い力を欲するか?
(力があるのなら、それが得られるのなら、私によこせ! 例えこれが、悪魔との契約だろうと……!)
《 Valkyrie Trace System 》…… boot.
箒も返し技の一つぐらい使えるでしょう、と思って書きました。原作でも篠ノ之流は『けして受けることなく剣戟を流し』ってありますし。
え? 箒はもう一方の『相手より早く打ち抜き』の方だって? ……君のような勘のいい奴は嫌いだよ。
ラウラが打鉄弐式の情報を知らないのは仕様です。だって1度も公式試合に出てないですから。(姉妹喧嘩は非公式、対抗戦の無人機破壊は表向き無かったことになってます)