――IS学園、学生寮1032号室
「簪、手前と奥、どっち使ってる?」
「奥の方……」
「そうか。じゃあ手前を俺が使って、間に仕切りを増やせばいいか」
「うん……」
そんなやり取りをしつつ、俺は荷物が入っているだろう段ボールを、部屋に入って手前側のベッド横に置いた。
それにしても、段ボール2個分とか、こんなに俺の荷物なんか施設にあったか?
中身を確認してみると、1つは俺が施設時代(と言っても1か月やそこらだったが)で着ていた服。そしてもう片方が……
「……ああ、なるほど」
「どうか、した?」
「気にしないでくれ。そういやこれも送られてくるってのを忘れてただけだ」
「?」
簪が首を傾げるが、これを見たら、ますますISを組み立ててみたくてたまらなくなってきたなぁ……。
……ちょっと強引だが、聞いてみるか。
「……なぁ簪。放課後のことを蒸し返して悪いんだが、お前は
「……うん」
「それ、俺が手伝ったらダメか?」
「な、なんで……?」
おいおい……悩まれるとは思ってたが、なんでそんな警戒するんだ?
「まさか、お姉ちゃんに頼まれたの……?」
「お姉ちゃん?」
誰だ?
「え……?」
なぜか聞いた簪の方が目を見開いていた。いやいや、なんでお前が驚くよ?
「お前の姉ちゃんって、誰だよ?」
「知らない、の?」
「知るか」
「こ、この人……」
そう言って、簪は入学時にもらったパンフレットを開くと、その一部を指さして見せた。
「何々……『IS学園生徒会長・更識楯無』……へぇ、お前の姉ちゃん、生徒会長なのか」
「ほ、本当に、知らなかったの……?」
「興味ねぇよ」
ISの世代遷移についての説明部分なら、穴が開くほど読んだがな。
「じゃあ、なんで手伝いたいなんて……」
「理由は単純、ISを作りたいからだ」
「ISを、作りたい……?」
「同じクラスだから俺の自己紹介も聞いてるだろ? 俺はISの研究・開発がしたいんだ。だからお前の打鉄弐式を作る手伝いをすること自体にメリットがある」
一から作るってものあるが、ISコアとやらが限定品(467個しかないと、授業でも習った)である以上、元々コアを貸与されてる簪を手伝うのが手っ取り早い。
「そして簪は、専用機を作る上で人手が増える。WIN-WINの関係だと俺は思ってる」
「でも……これは私が一人で作らないと……」
「あん? 一人で?」
なんか、とんでもないこと言い出したぞ。
「どうして簪一人で作る必要があるんだ?」
「……」
ああ、ダンマリってことは、プライベートな部分なのな。
「分かった。これ以上は聞か「……お姉ちゃんは」お前の姉ちゃんが何だよ」
「お姉ちゃんは、自分だけで専用機を組み上げた……だから、私も自分だけで、打鉄弐式を、組み上げないと……」
「一人でISを組み上げたぁ?」
おいおい、マジかよ。お前の姉ちゃん、どんだけすげぇんだよ。
「だからって、お前はお前だろう――」
「陸には分からないっ!」
「うおっ!」
「何かをやり遂げても『楯無の妹だから当然』、何か失敗すれば『楯無の妹のくせに』! 誰も私を見てくれない! そんな日々を、苦しみを! 陸に分かるわけない!」
さっきまでの簪とは違う気迫に押されて何も言えなかった。
だが少しすると落ち着いたのか、深呼吸を一つして
「ごめん、なさい……」
「謝んな。こっちも深くは聞かないって言ってたのに、悪かった」
『兄が優秀だと、弟は苦労する』の姉妹版か。確かに
つまり、姉と同じように自分一人で専用機を作ることで、姉に対するコンプレックスを払拭したいのか。
でもなぁ……
「簪、正直に言わせてもらう。このまま一人で打鉄弐式を作ろうとして、完成の目途はあるのか?」
「それは……!」
「そして、もしお前一人で打鉄弐式を組み上げたとしよう。それでお前の苦しみは解決するのか?」
「え……?」
簪が驚いた顔をするが、
「また『楯無の妹だから当然』って言われたりしないのか?」
「それ、は……」
そうなっちまったら、意味がない。
「なら……なら、どうすればいいの……!?」
簪が、俺の胸に縋りつくように掴みかかる。
「簡単だ。完成したISで、お前の姉ちゃんと勝負すればいい」
「お姉ちゃんと、勝負……?」
「おう」
比較対象である姉の後ろを追っても、誰も認めようとしなかったんだろう。
なら、何かしらの勝負に勝てばいい。それなら、誰もお前を『楯無の妹』呼ばわりできないだろう。
「無理だよ……お姉ちゃんが相手なんて……」
「やる前から諦めてどうする。それに俺も言い出しっぺとして、出来る限りは協力すっからよ」
「協力……?」
「おうよ。もちろん、必ず勝てると確約はできんがな。それでもいくつか策はあるぞ」
さっきの段ボールに詰め込まれたものを、たんまり投入すれば、な。
「……」
しばらく考えていた簪だったが
「……少し、考えさせて」
「おう。色よい返事を待っておくさ」
真向否定されなかっただけ、今は良しとするか。
それにしても、早くIS弄りたかったとは言え、我田引水なマネして、簪には悪かったなぁ……
ーーーーーーーーー
消灯後、私はベッドの中で悶々としていた。
いつも、お姉ちゃんと比べられて生きてきた。
お姉ちゃんが自由国籍を取ってロシア代表になった時から、それはより一層顕著になったと思う。
私は、それを否定したくて努力した。代表候補生にもなった。でも、誰もその努力を見てくれなかった。誰も、"私"を見てくれなかった……。
おまけに、
だから、自分の専用機を自力で組み上げて、お姉ちゃんに並ぼうとしていた。でも……
(陸の言ってたこと、否定できない……)
確かに、お姉ちゃんに並んだだけじゃ、また『楯無の妹だから』と言われるだけ。
それに、私だけで打鉄弐式を組み上げる見込みは、立ってない。
荷電粒子砲のデータも足りないし、ミサイルポッドのマルチロックオン・システムだって完成していない。
こんなんじゃ、仮に完成させても意味がない。お姉ちゃんに並べない。いや、超えられない……。
(え……私、今お姉ちゃんを超えるって……)
自分でも驚いた。陸の前じゃ、『お姉ちゃんが相手なんて』って言ってたはずなのに……。
初めての事だった。今まで私を見ようとしなかった人達に、そしてお姉ちゃんに、私を認めてもらうために頑張ってきた。
でも、今私は明確に
(私……お姉ちゃんに"勝ちたい"って思ってる……)
たぶん、陸と会わなければ思いもしなかったこと。
『俺も言い出しっぺとして、出来る限りは協力すっからよ』
陸が言った言葉がぐるぐる私の頭を巡っていく。
やっぱり、陸に手伝ってもらうのが現実的……
(でも……)
ふと頭をよぎったのは、私の従者で親友の、布仏本音の顔だった。
親友のはずなのに、差し伸べられた手を払ってしまった、本音の顔を……
マタ、ニゲルノカ?
(え……!?)
驚いて起き上がるけど、周りには特に異常はなかった。
「んぁぁ? 簪、なんかあったかぁ?」
ベッドの間に増やした仕切りの向こうから、寝起きなのか、間延びした陸の声が聞こえてきた。お、起こしちゃった?
「う、ううん。何でもない!」
「そうかぁ……」
それだけ言うと、また仕切りの向こうから寝息だけが聞こえてきた。
(ニゲルノカ……逃げるのか、か……)
今聞こえた幻聴……幻聴にしては、あまりにもタイミングと内容が良すぎじゃないだろうか?
でも、確かにそうだ。陸に協力してもらう前に、まずは、本音と向き合わないといけない。だから――
(本音と話そう、そして謝ろう……まずはそれから……)
そう思いながら、私も夢の中に――