原作でも、VTS起動から撃破まで12ページしか使ってないし。
「何だありゃ……」
さっきまで鍔迫り合いをしていた俺も篠ノ之も、今は手を止めて目の前の光景に唖然とするしかなかった。
そこには俺達と同じく唖然とする簪と、装甲がぐにゃりと溶け、どす黒い粘土のようなものに飲み込まれていくボーデヴィッヒが。
「何なのだ、あれは……」
篠ノ之も俺と同じように呟く中、ボーデヴィッヒのIS……いや、奴を飲み込んだ泥人形は急速に変形していく。
そしてそこに立っていたのは、黒い、しかし対抗戦の時に襲ってきたものとは似ても似つかない、全身装甲のISのような『ナニカ』。
その黒いISが手に持っている武器。それは――
「一夏の武器に、似てる?」
「確かにあれは、雪片弐型にそっくりだ……」
その形がそっくりな武器を振り上げ、
「っ! 簪!」
『っ!?』
俺が叫ぶ前に、簪も危険を察知したのだろう。右後方に緊急回避した瞬間、さっきまで居た場所を縦一直線に斬撃が走った。
「簪、無事か?」
「危なかった……」
合流した簪を含めた俺達3人と黒いISが、アリーナの中央で対峙する。
「さて、これからどうするかだが……その前に、篠ノ之に聞いていいか?」
「なんだ?」
「あの黒いIS、どうもお前の篠ノ之流っぽい技を使ったように見えたんだが、気のせいか?」
そう、さっきまでチャンバラしていた篠ノ之と、術理が似てるような気がする。
「ああ……あの縦一文字の斬撃、間違いなく篠ノ之流の技の一つだ」
「そして雪片弐型に似た武器と、あのシルエット……まさか」
篠ノ之の回答と簪の推測、そこから導き出されるのは――
「ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
ってちょい待て! なんで一夏が白式乗って黒いISに向かって突撃してんだよ!?
「まずいっ!」
完全に理性を失った一夏の突撃など意に介さないかのように、黒いISは雪片弐型を弾き返し、返す刀であいつの首を――
切り飛ばすぎりぎりのところで、篠ノ之がなんとか一夏を引き離した。あっぶねぇ。
「馬鹿者! 何をしているんだ! 死ぬ気か!?」
「放してくれ箒! 許さねぇ、許さねぇ!」
「バカタレ!」
――ガンッ!
「ぐはっ!」
「り、陸……」
うん、
「一夏、いいから俺達に分かるように説明しろ」
俺にぶん殴られて怒りのボルテージが多少下がったようだが、それでも一夏は拳を握りしめながら
「……あいつは、千冬姉のデータだ。千冬姉のものなんだ。それを……くそっ」
「やはりそうか……」
「篠ノ之流の技と、織斑先生がかつて使っていた雪片。つまりあれは、国家代表時代の織斑先生を模倣したもの」
ブリュンヒルデのコピー品、か。
しかもあのIS、簪への攻撃と一夏への反撃以外微動だにしないな。まるで防衛機能だけ付いた自動プログラムのようだ。
『緊急事態発生、緊急事態発生。トーナメントは一時中断します───』
「今回はちゃんとアナウンスも流れたか。ということは、鎮圧用の教師部隊が来るまで粘れば勝ちだな」
篠ノ之が言う教師部隊の練度がどれほどかは知らないが、少なくとも俺達が頑張らなくてもいいってことだな。
「だから一夏、無理に危ないところに飛び込む必要は――」
「違うんだ箒。『やらなきゃいけない』じゃない。俺が『やりたい』んだ。千冬姉を侮辱するあの黒いのも、そのわけわかんねぇもんに振り回されるラウラも、気に食わねぇんだ」
「馬鹿者が! それで、お前一人でどうにかできるとでも!?」
「いいや。悔しいけど、俺一人じゃ力が足りない。だから……」
篠ノ之とやり取りをしていた一夏が、俺と簪の方を向く。
「陸! 更識さん! 俺に力を貸してくれ!」
そう言って、俺達に頭を下げてきた。おいおい……。
「さっき篠ノ之さんが言った通り、その内教師部隊が来るはず。わざわざ火中の栗を拾う必要はない」
「だな。それでも一夏、お前は戦いたいのか?」
「ああ。ここであの偽物野郎を前に引いちまったら、もう俺は俺じゃねぇ。織斑一夏じゃなくなっちまうんだ……!」
やれやれ……なんつー熱血馬鹿だよ。だが……嫌いじゃねぇよ、そういうの。
「絶対勝てるんだな?」
「宮下!?」「陸!?」
「ああ、約束する」
「そこまで啖呵切ったんだ。負けたら……分かってるよな?」
「うぐっ……大丈夫だ! 負けないからな!」
よし、その言葉が聞きたかった。
「簪、篠ノ之、もし手ぇ貸して一夏が負けたら、焼肉奢ってくれるってよ」
「え?」「は?」「ファッ!?」
「負けたら分かってるんだよ、なぁ?」
俺がものすっごいゲス笑顔をすると、
「なら、私も参加する。牛タン、上カルビ、特上ロース……」
簪も暗黒微笑で乗ってきた。
「お、お前達……! ええい、私も乗ろう!」
半ばヤケクソになったのか、篠ノ之も乗ってきた。これで役者は揃ったな。
「作戦って言えるほどのものはない。俺、簪、篠ノ之の3人が奴を引き付けて、一夏が、あ~『
「すごいあっさりした作戦」
「大丈夫なのか、それで」
簪と篠ノ之は微妙な顔をしてるが
「下手に複雑な作戦より、シンプルでいいじゃねぇか!」
さすが一夏、ノリとセンスで戦ってただけはあるな。言うことが違う。
「中にボーデヴィッヒがいる以上、弐式の山嵐もメメントモリも使用は避けるべきだ。となると、一夏の攻撃が有力で、かつそれを当てるための作戦になっちまうわけだ」
「そういう事なら……」
「仕方ないな……」
そこまで説明して、ようやっと女性陣も納得したようだ。
「そんじゃ行くか、簪、篠ノ之」
「うん」
「分かった」
俺の号令を合図に、3人が三方に散らばる。
まず正面の左右2方向から、俺と篠ノ之が刀を上段に構え突撃する。
それに反応するように、黒いISが向かって右方向から近付く俺に刀を振り下ろす。
――ガキィンッ!
「ぐぅ……っ!」
な、何とか受けたが、斬撃が重てぇ! だが、このまま力を拮抗させて鍔迫り合いに持ち込めば――
「はぁっ!」
「ふっ!」
黒いISの武器は刀1本のみ。それを俺が止めていれば、左側の篠ノ之の刀、そして背後に回っていた簪の夢現を止めることは出来ない!
――ザシュッ!
二人の斬撃が、相手の両腕を切り飛ばす。
「行けぇ! 一夏ぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
俺の合図をかき消すかのように、雄叫びを上げながら、白く輝く、日本刀の形に集約したエネルギー刃を携えて突撃していく。
そして俺と篠ノ之を間をすり抜け、刃を頭上に構えると
――ビュンッ!
縦に真っ直ぐ、黒いISを断ち切った。
「ぎ……ぎ、ガ……」
剣筋に沿って紫電が走ると、黒いISは真っ二つに割れて倒れた。
あとに残されたのは、ドロドロに溶けた装甲やフレームの残骸とコア。そして、気を失ったボーデヴィッヒだけだった。
一夏はそのボーデヴィッヒを抱きかかえると、
「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」
気の抜けたような、もしくは苦笑したような顔でそう呟いていた。
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さて、一見落着と言えれば良かったのだが、世の中そうはいかないようで。
「で? なんであんな無茶な真似をした! 言え!」
事情聴取のために連行された生徒指導室で、織斑先生に説明を要求されたから
「一夏に焼肉を奢らせるために頑張りました」
「同じく」
「わ、私は一人だけ何もしないわけにもいかず……」
「あれ!? 負けなかったのに奢ることになってる!?」
あの黒いISと戦った経緯を説明したところ
「馬鹿どもがぁ!」
――ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!
「いった!」
「あう!」
「ぐうっ!」
「な、なんで俺まで!?」
4人まとめて、ブリュンヒルデの
さらに事情聴取が終わって、晩飯を食おうと食堂に行くと
「僕を置いてくなんて……一夏の、一夏の馬鹿ぁ……」
一番奥のテーブル席で、デュノアがどす黒いオーラを周辺にまき散らしながらイジけていた。
そういやデュノアとペアだったのに、一夏の奴、頭に血が昇って置き去りにしちまってたのか。そりゃイジけるわ。
本作の一夏は、原作に比べナーフされてます。
最初に相対した完全武装時より、(シャルからエネルギーもらって)部分展開しか出来ない状態の方が強いとか、ちょっと反則過ぎませんかねぇ?