この外史に来て、かれこれ4ヶ月近く経つのか。
IS学園に強制入学させられて、整備室で初めて簪と出会って、のほほんも混ざって打鉄弐式を組み上げて、パイセンと決闘して。
その後もクラス対抗戦だったり学年別トーナメントだったりと、イベントには事欠かなかったな。
そして気付けば簪と付き合うようになって。ホント、人生ってやつは何があるか
オマエニ、シアワセニナルシカクガアルノカ?
「海っ! 見えたぁっ!」
「っ!」
気付けばそこは、バスの中だった。
「陸、大丈夫?」
「あ、ああ……」
隣の席から、簪が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「俺、寝てたのか……?」
「凄いうなされてた」
「そうか……あんまりいい夢じゃなかったからな」
くそっ、どうして今更になって……!
「そろそろ目的地に着くから、みんなちゃんと席に座ってねー」
「「「はーい」」」
エドワース先生の号令で、海を見るために右側に寄っていた左席の面子が席に戻り始めた。
もうひと眠り……する気にはなれんな……。
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ほどなくして、バスは目的地の旅館『花月荘』前に到着。出迎えてくれた旅館の人に挨拶を済ますと、みんな自分の荷物を持って中に入っていった。
「なぁ陸……って、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「平気だ平気。バスの中で寝てたら嫌な夢見ちまっただけだ」
「そうか……。それで、お前の部屋ってどこだ?」
「俺のか? そういえば知らねぇな」
「俺も、女子と寝泊まりさせるわけにはいかないからって、別の部屋を用意するとしか聞いてないんだよ」
「一夏もか?」
部屋割り一覧にも載ってなかったし、まさか男二人床で寝ろとか言わんよな?
「織斑、宮下、お前達の部屋はこっちだ。付いて来い」
と織斑先生に呼ばれ、女子達の部屋からそこそこ離れた先のドアには『教員室』の張り紙が。
「えっと……俺と陸が同室ってわけでは……」
「それだと、就寝時間を無視した女子が押し掛けてくるだろう。だから却下になった」
「「はぁ……」」
俺も一夏も、ついでに織斑先生も、ため息しか出なかった。
押し掛けられても困るんだが。あとで簪に脇腹抓られるから。
「なので、織斑は私と、宮下は山田先生と同室になったわけだ」
「よろしくお願いしますねー」
「あー、お願いします」
隣の部屋から、山田先生がひょこっと顔を出した。俺はそっちの部屋でお世話になるわけですか。
「一応大浴場も使えるが、男のお前達は一部の時間のみ使用可能だ。お前達2人のために、他の大多数の使用時間を削るわけにもいかんからな」
「そこは仕方ないでしょうね」
「まぁ、まったく入れないよりはいいか」
「さて、今日は一日自由時間だ。荷物を置いたら好きにしろ」
「「はい」」
織斑先生の指示に返事をすると、俺と一夏はそれぞれ自分の荷物を持って部屋に入った。
「おっ、結構広いな」
中は2人部屋なのか、広々とした作りになっていた。外側の壁が一面窓になっていて、すでに何人かの女子が海に飛び出すのも見えた。準備早いなっ!?
「宮下君、荷物はそこに置いてください」
「分かりました」
山田先生に指定された場所にボストンバックを置くと、中から小さめのリュックサック(水着やタオル類入り)を取り出す。
「楽しんできてくださいねー」
手を振る山田先生に見送られる形で、教員室を出て着替えに向かったのだった。
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「あっ織斑君だ!」
「うそっ! わ、私の水着、変じゃないよね!?」
「わ~、かっこい~。鍛えてるね~」
「宮下君も、ガッチリ鍛えてる感じ?」
水着に着替えて海に出てきた瞬間、女子からの視線が辛い。
「陸ってあんまり運動してるイメージなかったけど、結構鍛えてるのな」
「何言ってんだ。ほぼ毎日、弐式や陰流の装甲やら武装やら持ち上げたり運んだりしてんだぞ? ある程度筋力がなきゃやってらんねぇよ」
「それもそうか」
戦車程ではないものの、ISの装甲もそこそこの重さがあるからな。操縦者もそうだが、整備員も太ってる奴は少ない。というか、まともに整備してたら太りようがない。
「俺は泳ぎに行こうと思うけど、陸はどうする?」
「俺はとりあえず、簪と合流してから考えるわ」
「あ、そうか。俺も箒達と合流した方が……」
「いや、その必要はないぞ」
「へ?」
俺が指さした方を一夏が見ると、そこには一夏ハーレムの5人が勢揃い。
「「「「「いーちかっ!」」」」」
「う、うわぁっ!」
あっという間に揉みくちゃにされる一夏。男冥利に尽きるねー。(棒)
「陸」
後ろから聞こえた声に振り返ると――
「どう、かな?」
黒色に白いフリルの水着を着た簪が、足をもじもじしながら立っていた。
「お、おう……すげぇ似合ってる……」
「そ、そう……///」
お互い、そのまま固まってしまった。
「あ~! りったーん! かんちゃーん!」
「本音?」「のほほん?」
フリーズしていた俺と簪が、のほほんの声がする方を向くと
「「はぁっ!?」」
全身がスッポリ収まる狐の着ぐるみ。それがのほほんの今の姿だった。
「お前、水着はどうしたよ?」
「これが水着だよ~」
「これが!?」
いやいや、どうやったらそれで泳げるんだよ!?
「それより二人とも、早くあそぼー!」
「ちょ、本音……!」
「おまっ、引っ張るなって!」
のほほんに腕を掴まれ、そのまま海に向かって引っ張られていった。
その後はビーチバレーを観戦したり、沖まで出ない程度に軽く泳いだり、砂遊びをしたりして過ごした。
「砂遊びってレベルじゃなかったけど……」
「立派なお城が出来たよね~」
のほほんが言うように、結構な力作だったぞ。リヒテンシュタイン城。
「それにしても、まさかビーチバレーに織斑先生が参戦するとは」
「すごかったもんね~。あのパーフェクトゲーム~」
「対戦相手のデュノアさん、涙目だった」
「逆にラウラウは、尊敬の眼差しだったよね~」
結局その二人は、織斑先生のスパイクサーブを攻略できず、逆に自分達のスパイクは尽く防がれ、のほほんの言うように完敗したのだった。
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そんなこんなで日も暮れて、時刻は午後7時半。大広間を3つ繋げた大宴会場で、俺達は夕食を取っていた。
「それにしても、昼も夜も豪勢な食事だよなぁ」
「うん。IS学園は羽振り良すぎ」
そう言って、隣に座っている浴衣姿の簪も頷いた。
この旅館では『食事中は浴衣着用』、さらに座敷なので正座という決まりらしい。なんでだよ。
そんなわけで、ずらりと並んだ生徒は全員浴衣姿で正座だ。そして一人一人の前に膳が置かれている。
メニューは刺身に小鍋、山菜の和え物に、味噌汁と漬物。しかもなんと刺身はカワハギ(肝付)。金かかってんなぁ。
「っ~~~~~~~~!!!!」
「なんだ?」
くぐもった大声が聞こえた方を見ると、1組の列で、鼻を押さえて涙目になっているデュノアが。
「たぶん、わさびを一度に食べ過ぎたんだと思う」
「ああ、なるほど……」
隣に座っている一夏が茶を渡してるし、おそらく簪の推測が正解のようだ。
あ、オルコットが一夏に食わせてもらってる。正座が辛いのにかこつけて、おねだりでもしたか?
「まったく、お熱いこった。なぁ簪――」
1組の方を見ていた視線を戻すと、右側に刺身を持った箸が。
「あ、あ~ん……///」
「……」
すまん一夏。今日この時だけは、お前のことを笑えないようだ。
そして口にした刺身だが、気恥ずかし過ぎて、味なんて分からんかったぞ……。
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「「ぷはー!」」
なぜか旅館で風呂入ると、自販機の瓶牛乳を飲みたくなるんだよな。隣で一夏が飲んでるのはフルーツ牛乳だが。
「なぁ、陸」
「ん?」
「俺、どうしたらいいんだろうな……」
「何がだよ。目的語を付けろ」
「いきなり重婚許可なんて言われても、俺、どうしたらいいのか……」
おいおい、まだ悩んでたのか。
「織斑先生とは家族会議したんだろ?」
「千冬姉は『不実な真似だけはするな』ってだけ……」
「なんだ、その通りじゃねぇか」
「いやだって、複数の女性と結婚って、どう考えても『不実な真似』になるだろ」
一夫一妻制の日本で生きてきた一夏からしたら、嫁が複数いるのは不実って考えにもなるか。けど、
「俺はそうは思わんがな」
「え?」
唖然とする一夏を余所に、俺は自販機でもう1本瓶牛乳を買った。今度はコーヒー牛乳にすっか。
「篠ノ之達のこと、好きなんだろ?」
「そ、そりゃあ……」
「ならそれでいいじゃねぇか。全員を平等に愛せずに、誰か1人を贔屓しそうだってんなら話は別だがな」
「そう、なのかな……?」
「それに、だ。そもそも一夏が結婚できるようになるのは、3年は先の話だろ」
「あっ」
あっ、じゃないが。お前まさか、学生結婚とかする気だったんじゃねぇだろうな?
「ま、今焦って決める必要はないってことが分かればいいさ。『各国のお偉いさん達が、あいつらと一緒にいる口実をくれた』程度に思っとけ」
「そっか……まだ考える時間はあるんだもんな……」
やっぱいつかの織斑先生が言ってたように、一度思い込むと空回りして視野が狭くなるのが一夏の弱点だな。
「サンキュ、陸。なんかモヤモヤしてたのが晴れた気がする」
「おう。報酬はツケておくな」
「お、お手柔らかにな……」
さわやか笑顔を若干引きつらせながら、一夏は教員室の方に去っていった。
「さて、俺も引き揚げるか」
空瓶を回収用のカゴに入れると、俺も一夏のあとを追うように歩き出した。
「そういや、明日は七夕か」