目が覚めると、目の前に簪の顔があった。
「かん、ざ、し……」
「陸……やっと目が覚めたね……」
「おう、何とかな……」
体中の痛みと格闘しつつ、何とか上半身を起こした。
「あれから、どうなった……?」
「福音の撃破は成功。福音の操縦者も、無傷とはいかないけど無事。今先生達が、福音の残骸を回収してるところ」
「一夏達は?」
「二人とも軽傷」
「そうか……」
つまり被害らしい被害は俺だけってことか。
「また、対抗戦みたいになって……」
確かに簪の言う通り、ベッドか布団かの違いだけで、対抗戦の時とそっくりなシチュエーションだな。……簪の目に、涙が溜まってるところまでソックリだ。
「また、泣かせちまったな……」
「私、陸に泣かされてばっかりだよ……」
「ホント悪い。それでもあの時、飛び出さずにはいられなかったんだよ……」
「どうして?」
「……怖かったんだ」
「怖い?」
「何も出来ずに失うのが、な……」
柄にもなく、重ねちまったんだ。一夏と、
「大丈夫。陸はまだ、何も失ってない」
「簪……」
「だから……」
「だから陸はこの外史で、幸せになってもいいんだよ?」
「かんざ、し? お前、なんで……」
今、外史って……
「福音にメメントモリをぶつけた瞬間、陸の記憶が流れ込んできた、んだと思う」
「記憶が……?」
「うん。それで知った。外史のこと。管理神のこと。そして陸が、いくつもの外史を渡り歩いてきたことも……」
「そう、か……失望しただろ? いつも仲間を見捨てることしかできない、無様な俺を……」
「そんなことない!」
「か、簪……?」
俺が何か言う前に、簪は俺の頭を抱えるように、抱きしめていた。
「そんなこと、ないよ……だって、陸はその時その時のベストを尽くしたんでしょ? それなのに、自分を許せないなんて、そんなのダメ」
「だが……っ!」
「刹那さん達は、そんなこと望んでない」
「……っ!」
簪の言葉に、一瞬あいつらの顔がちらついた。未来のために、明日のために信念を貫いた、あいつらの顔が……。
本当は分かってたんだ。あいつらがそんなこと望んでないなんて。ただ、俺が自身の弱さを、あいつらを助けられなかった無能を、認めたくなかっただけだって……。
「弱くたっていい。無様だっていい。そんな陸だから、好きになったんだよ。私も……たぶん、刹那さん達も」
「……卑怯だろ、その言い方は」
とうに乾き切っていたと思っていたのに。ゼロ・レクイエムを見届けたあの日から、枯れ果てたと思っていたのに。
俺にまだ、流す涙があったなんて……。
「だからもう一度、幸せになろう?」
「……もう、失くすのは……一人は、嫌なんだ……」
「うん……ずっと、私が一緒にいるよ」
簪に抱きしめられたまま、俺はただただ、涙を流し続けた。
(刹那、ルルーシュ、スザク……こんな俺を、許してくれるか――?)
ーーーーーーーーー
「いやぁ、紅椿の稼働データがあんまり手に入らなかったのは誤算だったよ」
海面まで30メートルはある崖の端に座って、私は空中投影のディスプレイを見上げていた。
「紅椿はともかく、白式のデータも取れなかったのは痛いなぁ……」
いっくんも箒ちゃんも実戦で手を止めちゃうなんて、さすがの束さんも想定外だったよ。
いや、二人の青臭さを思えば、順当だったのかも。つくづく人間の感情って面倒だ。
「それでも、再戦の機会があればまた別だったんだけどね~」
けどそれも、りったんとかんちゃんが潰しちゃったからな~。ちょっと頑張り過ぎだよ二人とも。
「やぁ、ちーちゃん。りったんの様子はどうだい?」
「命に別状はない。今は更識が付いてる」
「そっか」
振り向かなくても、私とちーちゃんの会話は成立する。だから振り向かない。
「束、ひとつ聞いていいか?」
「なに~? ちーちゃんの質問なら、ひとつと言わず2個でも3個でもいいよ」
「……今回の件、お前が福音を暴走させたかどうか、そこは聞かん」
「あ、聞かないんだ?」
てっきりそれが聞きたいんだと思ってた。
「宮下が負傷したのは、お前の想定通りか?」
「ちーちゃん、いくら束さんでも怒るよ?」
「……そうか、悪かったな」
「うん、ホントだよ」
ようやく見つけた"束さんを理解し得る存在"なんだよ? そこらの有象無象と一緒にしないでよ。あ、もちろん身体能力は束さんの圧勝だけどね。
「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」
「そこそこにな」
「そうなんだ」
「そういうお前はどうなんだ?」
「すっごくつまらなかったよ、ぶっ壊してしまいたいほど。けど……」
ディスプレイを消して、勢いをつけて立ち上がると、そこで初めてちーちゃんの方を振り向いた。
「
ーーーーーーーーー
翌日、というより3日目の朝。
ISの絶対防御がギリギリ残っていたおかげで、陸の怪我は全身の軽い打撲で済んだ。
ただそれでも、4組のみんなと一緒に正座で食べられるほど完治したわけじゃない。だから……
「はい、あーん」
「あ、あの、簪さん?」
「何?」
「いや、膳を持ってきてくれたのは有難いんだが、一応自分で食えるっていうか」
「……あーん」
「……はい、いただきます」
陸は怪我人なんだから、ちゃんと食べさせてあげないといけない。陸も幸せ、私も幸せ。WIN-WIN。
「はぁ……また私は、お前らの惚気を見せられるのか……」
「あ、織斑先生」
「ど、どうも……」
それはそうと先生、襖を開ける前に一声かけてください。
「まったく……対抗戦の時の再現か?」
「痛いところが、前回の背中から全身にパワーアップしてますがね」
「ふっ、それだけ減らず口を叩けるなら、バスに乗っても平気そうだな」
「バスって……あっ、今日が臨海学校の最終日か」
そう、この臨海学校は2泊3日。つまり今日の朝食を食べ終わったら、撤収作業をして帰ることになっている。
「そういうことだ。更識、もし宮下が自力で歩けそうになければ、お姫様だっこでもしてバスまで連れてこい」
「分かりました」
「いやあの簪さん? 俺、お姫様だっこされてみんなの前に出てったら、色々終わっちまうんだけど……」
こうなってしまえば、陸は是が非でも自力で歩くだろう。織斑先生、ドS。
「ああ、あとこれは私個人からなんだが……」
「?」
「一夏を……私の弟を守ってくれたこと、感謝する」
そう言って頭を下げると、織斑先生は部屋を出て行った。
「……」
「今度は、失くさなかったよ。陸」
「ああ……そうだな」
少し照れたような、それでいて嬉しそうな顔の陸を見れたから、私としては満足。
ーーーーーーーーー
朝食後、2時間ほどで撤収作業が完了。全員がクラス別のバスに乗り込んだ。
ちらっと4組の方を見ると、陸が更識さんに肩を借りながら、席に座るところが見えた。
「……」
その様子を、隣の箒も見ていた。
「一夏……私は鍛え直さねばならないようだ」
「鍛え直す?」
「そうだ。私の心の弱さが、慢心が、今回の失態を招いた。だから、鍛え直すのだ。この紅椿に相応しい強さを得るために」
そう言って、箒は左腕に付けた金と銀の鈴が付いた紐――待機状態の紅椿――を撫でた。
「そうか……俺も参加するよ」
「一夏?」
「俺も、強くならなきゃいけないんだ。守られてばかりじゃない、守るために」
「一夏……」
「「「いちか(さん)~……?」」」
「うおぉ!?」
前の座席からラウラとシャル、後ろの座席からセシリアがにゅっと顔を出してきた。び、びっくりした……!
「2人で、随分楽しそうな話をしてるね~……?」
「昨晩に続いて、わたくし達は除け者ですの……?」
「嫁よ、それは無いんじゃないか……?」
「え、いや、その……」
ピロ~ン♪
「め、メール?」
スマホを開くと、差出人は……鈴だ。
『いちか~……学園に帰ったら、覚悟しなさい~……』
怖っ! えっ? どっかから見てんのか!?
「お前ら! 帰りぐらい静かにしろ!」
――スパパパパパァァンッ!
「「「「「ぎゃっ!」」」」」
俺達5人まとめて、千冬姉の出席簿アタックを食らってダウンした。
……強くなろう。せめて、千冬姉の攻撃を防御できるぐらいには。
というわけで、臨海学校編(原作3巻)終了でございます。
う~ん、当初の予定以上にオリ主が弱虫君になっちゃいました。まぁ本作の一夏と釣り合いが取れて来たとも言えますが。
逆に、自分が幸せになることを許したオリ主が今後暴れ出す可能性も微レ存。