開き直ったオリ主をお楽しみください。
第40話 オリ主、色々やり始める
午前5時、アラームが鳴る前にベッドから抜け出す。うん、まだ暑くはないな。
そしてジャージに着替えると、ベッドでまだ寝息を立てている簪を起こさないように、壁に立てかけてあったものを持って部屋を出た。
臨海学校から帰って来て3日、俺と簪の関係は変わったような、変わってないような。いや、少なくとも俺は変わった。
今までは簪から俺の腕にしがみ付いていたが、最近では俺の方から手を繋ぐために手を伸ばすようになった。まぁなんというか、『簪の温もりを感じていたいから開き直った』が一番近いだろう。
相変わらずクラスメイト達からは生暖かい目で見られてるが、それ以外は特に悪い噂とかは流れていない。
そして変わったことがもう1つ。
「ふっ……、ふっ……!」
早朝の稽古を始めた。タイ捨流剣術の稽古を。とはいえ、まだ始めて3日目の上、素振りが主であるが。
今日も今日とて、木刀(最近知り合った用務員の爺様に廃材を融通してもらって削り出した、120cm近くあるもの)をひたすら振っているわけだ。昔、とある外史で簡単な手ほどきを受けていた時の型稽古を思い出しながら。
「ん? 宮下か?」
「織斑先生?」
素振りをしている俺のところに、ランニングでもしていたのか、ジャージ姿の織斑先生が近付いてきた。
「いつもこの時間に走ってるんですか?」
「まぁな。現役引退した後も続けている日課のようなものだ」
「なるほど」
「お前の方は素振りか? 前までは見かけなかったが」
「つい最近始めたんですよ。ちょっとした心境の変化ってやつです」
己の無力さを恨みながらも何もしなかった自分を、簪のおかげで捨てることが出来た。だから新しい俺になるためと、手始めに剣の修練をやり直そうと思ったわけだ。
「そうか……宮下、ちょっと付き合え」
「はい?」
「なに、少しばかり模擬戦をしようというだけだ。最近まともに刀を振るってなかったからな、久々に振りたくなった」
「模擬戦って……織斑先生と!?」
いやいやいや! ブレード1本でモンド・グロッゾを勝ち抜いた猛者と戦えるほど、俺の腕は上がってないんですが!?
「何を驚いている。しっかり別の木刀も用意しているのに」
「いや、それは予備の木刀……」
「ふむ。少し重めだが、却って振りやすいな」
俺の言葉をガン無視して、先生は予備の木刀(今持ってるものより短め)をブンブン振り回して調子を確かめると、俺の前に立って木刀を中段に構えた。マジでやんの……?
「さぁ、時間が勿体ないぞ」
「はぁ……分かりましたよ」
これ以上言っても無駄だと悟って、俺も木刀を構える。
「それじゃあ、こちらから行きますよ」
「ああ、来い」
「ツェアアアアッ!」
――カンッ! カンッ!
「なるほどっ、学年別トーナメントで見たが、その刀の長さと重さは脅威だな!」
「それを防ぐ、先生も篠ノ之も、俺にとっては脅威です、よっ!」
上段八双の構えからの袈裟懸け、そこから得物の重さを利用しての横薙ぎ払い、それらが全て防がれる。しかも篠ノ之のように受け流すのではなく、がっちり鍔迫り合いに持ち込んでだ。
「だー! 篠ノ之流は化け物か!」
「化け物とは失敬な。さて、今度はこちらから行くぞ!」
――ヒュッ! カンッ! カンッ! カァァァァンッ!
「うおぁっ!」
初太刀の正面振り下ろしは囮、その後の連撃を2回までは捌けたものの、3撃目で俺の持っていた木刀は宙を舞った。
「参りました、降参です」
両手を上げる。さすがに無手で続行は無しでお願いしたい。
「精進あるのみ、だな。だが、囮の後の連撃を2回耐えたのは悪くなかったぞ」
「それはどうも」
「本心で言ってるのだがな……私は引き揚げる。宮下も遅刻しないようにな」
木刀を俺に渡すと、先生は寮の方へ去っていった。
さて、俺も一旦部屋に戻るか……あ~、木刀弾かれた手がジンジンする~……。
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部屋に戻ってシャワー浴びて、制服に着替えて、それから
「陸」
「おう」
「ぎゅ~」
簪とハグして(臨海学校が終わってから、いつの間にか日課になっていた)、のほほんと合流して朝飯を食ってる最中、ふと思い出した。
(金、どうすっかな……)
そう、以前先送りにしていた、補助金打ち切りの件だ。
臨海学校が終わり、再来週の期末テストが終われば夏休みだ。両親の墓参りだったり、簪とデート(未定)をしたり、金がかかるイベントが揃ってる。
また運よく学園内でバイト話があるとも限らんし、そろそろ金策を考えないとな……。
「おはよう、更識さん、布仏さん、宮下君」
「おはよう、デュノアさん」
「おはよ~でゅっち~」
「一夏と一緒じゃないなんて、珍しいな」
いつもなら一夏ハーレムを形成しているだろうに、今日はデュノア単体だ。
「一夏は朝練とか言って剣道場に行ったみたいでね。他の皆もまだ寝てるみたいだったし、僕だけ先に朝ご飯を食べに来たんだ」
「へぇ……」
あいつもやる気になったんだな~って、さっきの金策について、いい方法があるじゃん!
「なぁデュノア、お前のところの会社って落ち着いてきてるか?」
「え? 最近やっと第3世代機の開発に着手できるようになったって、お父さんから聞いてるけど……突然どうしたの?」
「陸、また何か企んでる?」
企むとは酷ぇ言い方だな簪。ジト目じゃなくて微笑なのは、信用の証ってことでいいんだよな?
「ちょっとデュノアに、というか、デュノアの親父さんにお願いがあってだな……」
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という話をした夜、俺はデュノアとボーデヴィッヒの部屋(学年別トーナメント後に同室になったらしい)を訪ねていた。
簪も付いてきたそうだったが、今回は遠慮してもらった。今更隠すことでも無いとは思うが、そこは男の意地というか、なぁ?
「悪いなデュノア、急な話で」
「偶々今日が定時通信の日だったからいいんだけど……お父さんと何を話すの?」
「朝言った通り、ちょっとお願い事をな」
「フランス大企業の社長にお願い事とは……シャルロットもとんだ話を持ち掛けられたな」
「あ、あはは……」
ボーデヴィッヒよ、そこまで言うか?
とかやってる間に、定時通信の時間になったようだ。PCのディスプレイに映った壮年の男性、アルベール・デュノア社長だ。(ちゃんと事前にデュノア社のHPを見て確認済)
『シャルロット、元気でやっているか?』
「うん、大丈夫だよ。先週臨海学校から帰ってきたところ」
『そうか……見慣れない者がいるようだが?』
画面越しの視線が、デュノアから俺に移る。
「実は、お父さんに会いたいって頼まれてね」
「初めまして、宮下陸です」
『宮下……"2人目"か?』
「初めて言われましたが、"
『そうか……それで、そんな君が私に何用かな?』
「まずはこれを見てください」
そう言って、俺はメモリースティックを取り出すと、PCに差し込んだ。
『何だねこれは……こ、これはっ!?』
「お、お父さん?」
「お、おい宮下、一体何を見せたんだ?」
「ドイツの
「「ちょっ、おま!」」
ボーデヴィッヒのAICは狭い範囲の物体を完全停止させるが、こっちの改造版のその逆。ISの前面を有効範囲として、効果も完全停止ではなく低減にして、さほど集中しなくても発動するようになっている。理論上では、
『……君は、私にこれを見せてどうする気だ……?』
「この設計図、買ってくれません?」
『「「ファーッ!?」」』
金が無いなら持ってるものを売ればいい。だけど倉持には売りたくない。なら、第3世代機を作るのに苦労してるデュノア社があるじゃない、というわけだ。
ちなみにこれ、当初は弐式に搭載する予定だったんだが、『威力低減させるぐらいなら、躱した方が良くない?』という簪の一声でお蔵入りになった代物だ。GNドライブ使って加速する方が、はるかに手っ取り早かったんだよなぁ……つまりこれ、不要在庫の処分も兼ねてるんだ。すまんな、そんなもの売りつけちまって。
「み、宮下! 貴様どうやってAICの改造なんて……! そもそも、どうしてAICの構造を知っている!?」
「お前と簪の戦闘データを見たら、何となく理解できたぞ」
学年別トーナメントで実物を見たらどうってことはない、単純に物体の加速度を0にするってだけの代物だった。PICの発展形って情報もあるんだ、スタートとゴールが分かっていれば解析も容易だったぞ。
「そんな……司令部に、なんて報告したら……」
ボーデヴィッヒがorzったが、無視しておく。今はアルベール社長との交渉が重要だからな。
「とはいえ、あまり安く買い叩かれたくはないもんで……」
『い、幾らぐらいを考えているのかね?』
「そうですねぇ……ユーロでこれくらい?」
俺はキーボードのテンキーで、希望金額を入力した。設計図1枚にしてはちょっと高めだが、相手が欲しいものは少しぐらい高くしても売れるはず……
『買う! 是非とも売ってくれ! というか買わせてくださいお願いします!』
「お、おうっ!?」
あれ、予想よりも食いつきがいいぞ!? あごひげはやしたダンディなおっさんが、めっちゃ頭下げてお願いしてる!?
「お、お父さん!? 宮下君、一体いくらを提示したの!?」
「え? いや、20万ユーロほど……」
「「20万ユーロ!?」」
「いやぁ、早く第3世代機を作るために欲しがるだろうから、少し吹っ掛けちまったんだが……」
「それで吹っ掛けたぁ!?」
血相変えたデュノアに肩を掴まれて、めっちゃ前後に揺らされて……き、気持ち悪くなりそうだから止めてくれ……
「ISの開発に、どれだけ掛かると思ってるの!? 第3世代機の、しかも主要部分の設計図が20万ユーロ!? それで開発できるなら、政府からの補助金なんていらないよ!」
「お、おう……」
その後もガクガク揺さぶられたが、なんとか胃の中の物をナイアガラ・リバースする前にデュノアが止まった。
「で、でもまぁ、こっちから言っちまった以上、値上げはしません。20万ユーロでお譲りします」
『ほ、本当か!? ありがとう! これでフランスも
「それでは、今お送りした口座への入金が確認でき次第、設計図のデータを――」
『今入金した! 確認してくれ!』
「早っ!」
念のため確認すると……入ってるわ、20万ユーロ(≒3000万円)。
「そ、それではデータをお送りしますね……」
メモリースティックのコピープロテクトを解除すると、中のデータをデュノア社――今通信で使ってるアルベール氏のPC――に送った。その後、メモリースティックを初期化。これは『余所に同じものは売らないよ』という俺なりの誠意、のつもりだ。
『……確かに、受領した。いやぁ、今回はとても素晴らしい取引だったよ!』
「あ、あんなお父さんの満面の笑み、見たことないかも……」
「それはそうだろう、20万ユーロであれが買えたのだから……」
なんかデュノアとボーデヴィッヒが遠い目をしてるんだが、大丈夫か?
そんなこんなで金が手に入った俺がホクホク顔で部屋に戻ると、簪が
「はい、これ」
とカップケーキを用意してくれていた。お、抹茶味か。
型紙を剥がして一口食べると、砂糖の甘みと抹茶の苦みがちょうどいい。
「ど、どう?」
「うん、美味い」
「良かった~……」
安心したのか、胸を撫で下ろす簪に、今度俺も何かプレゼントしようと決意したのだった。
デュノア社救済ルート入りました~。オリ主も懐が温かくなって、WIN-WINです。