もしかしたら、他章と同じぐらい(9~10話)引っ張るかもしれないです。
今日も朝の素振りをしていたところ、
「見学者よ」
なぜかパイセンが目の前にいるんだが?
「俺の素振りを見て、何が楽しいんです?」
「見学はついでで、ちょっと聞きたいことがあってね~」
「はぁ」
「簪ちゃんと、何かあった?」
えらく直球で聞いてくるなこの人。
「何かとは?」
「なんか距離が近くなった気がするのよね~」
「距離が近くなったねぇ……」
心当たりが……あるな。十中八九、臨海学校の
「心当たりがありそうね?」
「ありますけど、それを聞いてどうするんですか?」
「べっつに~。ちょっと気になったから聞いただけよ~」
そんなあからさまにジト目しながら言われても、どう信じろと?
「大したことじゃないですよ。ちょっと簪に俺の秘密がバレただけで」
「秘密?」
「ええ、もちろんパイセンには教えませんがね」
嘘は言ってない。その秘密が、
「普通、秘密がバレたら仲が悪くならない?」
「それは俺も思ってたんですがね。こればっかりは簪の器がデカかったとしか」
「う~ん、姉として喜んでいいのか、複雑だわ……」
「俺としては嬉しい誤算でしたけどね」
おかげで俺はこうやって、もう一度幸せになろうと思えるようになったわけだし。簪と出会えて良かったと、心から思っている。
「……宮下君、貴方変わったわね」
「また突然、何ですか」
「何でもな~い」
「いやもう、一体何なんですか……」
「まぁいいわ。ちょっと予想と違ったけど、聞こうと思ってたことは聞けたから、退散するわね~」
何か一方的に話を終わらせて、パイセンが引き揚げて行った。
で、結局何がしたかったんだ? あの人は。
「変わった、か……」
最後にパイセンが口にした言葉。パイセンにとっては何となく言った言葉なんだろうが、今の俺には嬉しい言葉だ。
それは俺が、"新しい俺"になれ始めてるってことだから。
ーーーーーーーーー
「……」
「お嬢様、いつも以上にぼーっとしてますが、どうしましたか?」
「虚、いつも以上って酷くないかしら?」
「ご不満でしたら、この書類の山を片付けていただけると」
「分かってるわよぉ……」
昨日もそうだったけど、どうして夏休み前ってこんなに書類が多いのかしら……。しかも嘘か真か、教職員が処理する書類も同じぐらいの量って話だし。どうなってるのよIS学園。今のご時世、もっとペーパーレスにならないの?
「それで、宮下君の朝稽古を見学されたようですが、どうでしたか?」
「どうもこうもないわ。簪ちゃんの懐が大きかったってだけの話みたい」
「はい?」
首を傾げる虚に、私は今朝のやり取りを話した。
「なるほど、簪様が宮下君に近づいていったと聞こえますね」
「そう。『貴方の秘密を知っても、貴方のそばにいます』って言ってるようなものよ。なーんか女としては、簪ちゃんに負けた気分よ……」
「少し前の簪様では想像も出来ませんね……」
確かに一途なところはあったけど、まさか簪ちゃんに恋愛関係で先を越されるとは、思ってもみなかったわ……。
「それに、宮下君自身も変わったわ」
「変わった?」
「ええ。何というか、優しくなったわ。いいえ、心に余裕が出来たっていうのが正しいかしら」
「それはおそらく、簪様への隠し事が無くなったからではないでしょうか?」
「多分そうね」
今までは自由にしていても、どこか線を引いていたところがあった。けど、今朝の彼にそんなところはない……気がしたのよね。
「あ~あ、宮下君に簪ちゃんが取られちゃうみたいでヤダなぁ」
「なんですか取られちゃうって。簪様はお嬢様の妹であって、所有物ではありませんよ」
「分かってるけど~……」
「このシスコン」
「シスコンじゃないわよ! ちょっと簪ちゃんのことが好きすぎるだけですぅ!」
魂を込めて反論したら、虚にため息をつかれた。うぐぅ……
「大変大変~!」
「本音?」
「こら本音、そんなドタバタ走ってはいけないと――」
「そ、それどころじゃないよお姉ちゃん~!」
確かに、いつものほほんとしている本音がこんなに慌てるなんて、何があったのかしら?
「それで、一体何があったの?」
「け、今朝のSHRででゅっちーが話してたんですけど……」
「でゅっちー……ああ、デュノアちゃん」
男装もスパイもする必要が無くなって、社内の派閥闘争も落ち着いたって聞いてたけど、また何かあったの?
「りったんが、デュノア社に第3世代機の設計図を売っちゃったんです~!」
「「はいぃ!?」」
これには私も虚も悲鳴を上げた。
第3世代機の設計図を、売った? しかもフランスのデュノア社に?
「しかも売った理由が『倉持が嫌いだから』って~……」
「あ、終わった」
虚がボソッと呟いた。うん、倉持技研、終わったわ。簪ちゃんの打鉄弐式を(本音と共同ってことになってるけど、実質一人で)完成させた宮下君を、完全に敵に回しちゃったわ。
「失礼しま――ってのほほん、何やってんだ?」
「本音?」
そんな中、ちょうど渦中の人である宮下君と簪ちゃんが訪ねてきた。
「あ~っ! りったん! どうしてでゅっちーの会社に設計図売ったの~!?」
「設計図?」
あら? 簪ちゃんに話してないの?
「前にボーデヴィッヒのAICを改造した特殊兵装、あっただろ?」
「あの、完全停止じゃなくて威力低減にして有効範囲を広げたやつ?」
「そうそれ、その設計図をデュノア社に売却したんだよ」
「そうなんだ」
ええ! 簪ちゃんそれだけ!? 第3世代機相当の設計図よ!? それ売っちゃったのよ!?
「まったく、いくら倉持技研と揉めてお金がないからって、外国に売っちゃうなんて……」
「「倉持技研と揉めた? お金がない?」」
簪ちゃんと本音が首を傾げる。何? 話してないの?
「お姉ちゃん、どういうこと?」
「宮下君、倉持技研からの技術提出の要求をずっと突っぱねててねぇ……」
「あのぉパイセン、それぐらいで」
宮下君は教えたく無さそうだけど、もう遅い。
「逆恨みした倉持が日本政府を唆して、彼への補助金を打ち切らせたのよ」
「パイセェェン! なんで言っちゃうんですかぁ!」
「陸っ!」
「は、はい!」
おおう!? 簪ちゃんが怒鳴るところなんて、久々に見たかも……。
「いつから?」
「え?」
「補助金打ち切られたの、いつから?」
「あ~……学年別トーナメントの辺りから、だな」
「なら、臨海学校のものを買うお金はどこから?」
「織斑先生にお願いして、学内バイトしてた」
簪ちゃんの問いに、直立不動で答える宮下君。尻に敷かれてるわねぇ……。
「どうして相談してくれなかったの?」
「いやなんというか、そこは男の意地というか……」
「はぁ……まったくもう……」
そう言いながら、簪ちゃんは宮下君に抱き着き――ええぇぇっ!?
「今度は、そういう隠し事は無し、だよ?」
「うぐっ……はい」
あ~、こんなところでラブラブ具合を見せられても困るんですけど~。
簪ちゃん……もう恋愛については、お姉ちゃんを超えちゃったのね……。
「ところで宮下君は、どうしてここに?」
「そうだったそうだった。パイセンに教えて欲しいことがあって来たんでした」
「私に? スリーサイズは教えられないわよ」
「いらんです」
わー、即答されちゃったー。微妙に傷つくわー。
「そういうのは、一夏相手にやってください。あいつ俺以上に初心ですから、いい感じに慌てると思いますよ」
「あ、それはいいわね」
織斑君をからかう……っと。心のノートにメモ完了。
「それで、話を戻していいですか?」
「OK。教えて欲しいことって何?」
「自由国籍って、どうやったら取れますかね?」
「え?」
じゆうこくせき? 宮下君が? え、日本国籍抜ける気?
「倉持うざいし日本政府も信用に値しないことが分かったんで、いっそ日本人辞めちまおうかと。もちろん陰流はちゃんと返却して、後腐れなくするつもりです」
「か、簪ちゃん? 宮下君がとんでもないこと言ってるんだけど……」
「そこは陸の自由意思に任せたい。何なら私も自由国籍権を取って、一からその国の代表候補生を目指してもいい」
「か、簪ちゃ~ん!?」
だ、ダメだ! 簪ちゃんの目は本気だ!
「だ、だけど打鉄弐式は!? いくら倉持へのデータ提出をしなくていいって言っても、コア自体は日本政府に返却しなきゃならないのよ!?」
「大丈夫。陸が作り直してくれるから」
「作り、直す?」
簪ちゃん、何言ってるの?
「一応これがあるんで、やろうと思えば出来ますね」
そう言って宮下君が取り出したのは、握り拳大の球体……ってぇ!
「ISコア!?」
「以前
なんか最後の方でボソボソ言ってるけど、そこまで計画練って来てたなんて……これはまずい、まずすぎる……!
「それで、自由国籍について教えて欲しいんです。確かパイセンも自由国籍取ってましたよね?」
「そ、そうねぇ……教えてあげてもいいんだけど、色々資料や書類があった方がいいでしょ? だからちょっと時間をちょうだい?」
「はぁ、分かりました。そんじゃ、必要なもんが揃ったら連絡ください」
「ええ、分かったわ」
というやり取りの後、宮下君と簪ちゃんは生徒会室を出て行った。
「虚……どうしましょう?」
これはまずすぎる。ネームバリューは織斑君より無いけど、実績は確実に宮下君が上。その宮下君が日本を抜ける? 間違いなく大問題になる。そして日本政府のお偉いさんから、ちくちくと嫌味を言われるわね、これ……。
「私もどうすればいいか……とにかく、学年主任の織斑先生に相談しますか?」
「そうね、そうしましょう」
「あ、それ無理だと思う~」
え? 本音どうして?
「設計図の件で今朝のSHRが終わる前に、織斑先生お腹押さえながら教室を出て行ったから、たぶん胃薬を求めて彷徨ってるかと~」
「「……」」
虚と二人、それを聞いて途方に暮れるしかなかった。
まさかのISコアの使い道。いい加減ここまで来たら、倉持と縁を切りたいのです。