俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ!   作:シシカバブP

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夏休み編が何話ぐらいになるか見当がつかない……
もしかしたら、他章と同じぐらい(9~10話)引っ張るかもしれないです。


第42話 自由国籍

今日も朝の素振りをしていたところ、

 

「見学者よ」

 

なぜかパイセンが目の前にいるんだが?

 

「俺の素振りを見て、何が楽しいんです?」

 

「見学はついでで、ちょっと聞きたいことがあってね~」

 

「はぁ」

 

「簪ちゃんと、何かあった?」

 

えらく直球で聞いてくるなこの人。

 

「何かとは?」

 

「なんか距離が近くなった気がするのよね~」

 

「距離が近くなったねぇ……」

 

心当たりが……あるな。十中八九、臨海学校の()()だろうな。

 

「心当たりがありそうね?」

 

「ありますけど、それを聞いてどうするんですか?」

 

「べっつに~。ちょっと気になったから聞いただけよ~」

 

そんなあからさまにジト目しながら言われても、どう信じろと?

 

「大したことじゃないですよ。ちょっと簪に俺の秘密がバレただけで」

 

「秘密?」

 

「ええ、もちろんパイセンには教えませんがね」

 

嘘は言ってない。その秘密が、ちょっとスケールのデカい(俺が外史を渡り歩く存在という)話ってだけだ。

 

「普通、秘密がバレたら仲が悪くならない?」

 

「それは俺も思ってたんですがね。こればっかりは簪の器がデカかったとしか」

 

「う~ん、姉として喜んでいいのか、複雑だわ……」

 

「俺としては嬉しい誤算でしたけどね」

 

おかげで俺はこうやって、もう一度幸せになろうと思えるようになったわけだし。簪と出会えて良かったと、心から思っている。

 

「……宮下君、貴方変わったわね」

 

「また突然、何ですか」

 

「何でもな~い」

 

「いやもう、一体何なんですか……」

 

「まぁいいわ。ちょっと予想と違ったけど、聞こうと思ってたことは聞けたから、退散するわね~」

 

何か一方的に話を終わらせて、パイセンが引き揚げて行った。

で、結局何がしたかったんだ? あの人は。

 

「変わった、か……」

 

最後にパイセンが口にした言葉。パイセンにとっては何となく言った言葉なんだろうが、今の俺には嬉しい言葉だ。

それは俺が、"新しい俺"になれ始めてるってことだから。

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

 

「お嬢様、いつも以上にぼーっとしてますが、どうしましたか?」

 

「虚、いつも以上って酷くないかしら?」

 

「ご不満でしたら、この書類の山を片付けていただけると」

 

「分かってるわよぉ……」

 

昨日もそうだったけど、どうして夏休み前ってこんなに書類が多いのかしら……。しかも嘘か真か、教職員が処理する書類も同じぐらいの量って話だし。どうなってるのよIS学園。今のご時世、もっとペーパーレスにならないの?

 

「それで、宮下君の朝稽古を見学されたようですが、どうでしたか?」

 

「どうもこうもないわ。簪ちゃんの懐が大きかったってだけの話みたい」

 

「はい?」

 

首を傾げる虚に、私は今朝のやり取りを話した。

 

「なるほど、簪様が宮下君に近づいていったと聞こえますね」

 

「そう。『貴方の秘密を知っても、貴方のそばにいます』って言ってるようなものよ。なーんか女としては、簪ちゃんに負けた気分よ……」

 

「少し前の簪様では想像も出来ませんね……」

 

確かに一途なところはあったけど、まさか簪ちゃんに恋愛関係で先を越されるとは、思ってもみなかったわ……。

 

「それに、宮下君自身も変わったわ」

 

「変わった?」

 

「ええ。何というか、優しくなったわ。いいえ、心に余裕が出来たっていうのが正しいかしら」

 

「それはおそらく、簪様への隠し事が無くなったからではないでしょうか?」

 

「多分そうね」

 

今までは自由にしていても、どこか線を引いていたところがあった。けど、今朝の彼にそんなところはない……気がしたのよね。

 

「あ~あ、宮下君に簪ちゃんが取られちゃうみたいでヤダなぁ」

 

「なんですか取られちゃうって。簪様はお嬢様の妹であって、所有物ではありませんよ」

 

「分かってるけど~……」

 

「このシスコン」

 

「シスコンじゃないわよ! ちょっと簪ちゃんのことが好きすぎるだけですぅ!」

 

魂を込めて反論したら、虚にため息をつかれた。うぐぅ……

 

 

 

「大変大変~!」

 

「本音?」

 

「こら本音、そんなドタバタ走ってはいけないと――」

 

「そ、それどころじゃないよお姉ちゃん~!」

 

確かに、いつものほほんとしている本音がこんなに慌てるなんて、何があったのかしら?

 

「それで、一体何があったの?」

 

「け、今朝のSHRででゅっちーが話してたんですけど……」

 

「でゅっちー……ああ、デュノアちゃん」

 

男装もスパイもする必要が無くなって、社内の派閥闘争も落ち着いたって聞いてたけど、また何かあったの?

 

「りったんが、デュノア社に第3世代機の設計図を売っちゃったんです~!」

 

「「はいぃ!?」」

 

これには私も虚も悲鳴を上げた。

第3世代機の設計図を、売った? しかもフランスのデュノア社に?

 

「しかも売った理由が『倉持が嫌いだから』って~……」

 

「あ、終わった」

 

虚がボソッと呟いた。うん、倉持技研、終わったわ。簪ちゃんの打鉄弐式を(本音と共同ってことになってるけど、実質一人で)完成させた宮下君を、完全に敵に回しちゃったわ。

 

「失礼しま――ってのほほん、何やってんだ?」

 

「本音?」

 

そんな中、ちょうど渦中の人である宮下君と簪ちゃんが訪ねてきた。

 

「あ~っ! りったん! どうしてでゅっちーの会社に設計図売ったの~!?」

 

「設計図?」

 

あら? 簪ちゃんに話してないの?

 

「前にボーデヴィッヒのAICを改造した特殊兵装、あっただろ?」

 

「あの、完全停止じゃなくて威力低減にして有効範囲を広げたやつ?」

 

「そうそれ、その設計図をデュノア社に売却したんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ええ! 簪ちゃんそれだけ!? 第3世代機相当の設計図よ!? それ売っちゃったのよ!?

 

「まったく、いくら倉持技研と揉めてお金がないからって、外国に売っちゃうなんて……」

 

「「倉持技研と揉めた? お金がない?」」

 

簪ちゃんと本音が首を傾げる。何? 話してないの?

 

「お姉ちゃん、どういうこと?」

 

「宮下君、倉持技研からの技術提出の要求をずっと突っぱねててねぇ……」

 

「あのぉパイセン、それぐらいで」

 

宮下君は教えたく無さそうだけど、もう遅い。

 

「逆恨みした倉持が日本政府を唆して、彼への補助金を打ち切らせたのよ」

 

「パイセェェン! なんで言っちゃうんですかぁ!」

 

「陸っ!」

 

「は、はい!」

 

おおう!? 簪ちゃんが怒鳴るところなんて、久々に見たかも……。

 

「いつから?」

 

「え?」

 

「補助金打ち切られたの、いつから?」

 

「あ~……学年別トーナメントの辺りから、だな」

 

「なら、臨海学校のものを買うお金はどこから?」

 

「織斑先生にお願いして、学内バイトしてた」

 

簪ちゃんの問いに、直立不動で答える宮下君。尻に敷かれてるわねぇ……。

 

「どうして相談してくれなかったの?」

 

「いやなんというか、そこは男の意地というか……」

 

「はぁ……まったくもう……」

 

そう言いながら、簪ちゃんは宮下君に抱き着き――ええぇぇっ!?

 

「今度は、そういう隠し事は無し、だよ?」

 

「うぐっ……はい」

 

あ~、こんなところでラブラブ具合を見せられても困るんですけど~。

簪ちゃん……もう恋愛については、お姉ちゃんを超えちゃったのね……。

 

「ところで宮下君は、どうしてここに?」

 

「そうだったそうだった。パイセンに教えて欲しいことがあって来たんでした」

 

「私に? スリーサイズは教えられないわよ」

 

「いらんです」

 

わー、即答されちゃったー。微妙に傷つくわー。

 

「そういうのは、一夏相手にやってください。あいつ俺以上に初心ですから、いい感じに慌てると思いますよ」

 

「あ、それはいいわね」

 

織斑君をからかう……っと。心のノートにメモ完了。

 

「それで、話を戻していいですか?」

 

「OK。教えて欲しいことって何?」

 

 

「自由国籍って、どうやったら取れますかね?」

 

 

「え?」

 

じゆうこくせき? 宮下君が? え、日本国籍抜ける気?

 

「倉持うざいし日本政府も信用に値しないことが分かったんで、いっそ日本人辞めちまおうかと。もちろん陰流はちゃんと返却して、後腐れなくするつもりです」

 

「か、簪ちゃん? 宮下君がとんでもないこと言ってるんだけど……」

 

「そこは陸の自由意思に任せたい。何なら私も自由国籍権を取って、一からその国の代表候補生を目指してもいい」

 

「か、簪ちゃ~ん!?」

 

だ、ダメだ! 簪ちゃんの目は本気だ!

 

「だ、だけど打鉄弐式は!? いくら倉持へのデータ提出をしなくていいって言っても、コア自体は日本政府に返却しなきゃならないのよ!?」

 

「大丈夫。陸が作り直してくれるから」

 

「作り、直す?」

 

簪ちゃん、何言ってるの?

 

「一応これがあるんで、やろうと思えば出来ますね」

 

そう言って宮下君が取り出したのは、握り拳大の球体……ってぇ!

 

「ISコア!?」

 

「以前()()()()から入手しまして。こいつを『倉持から渡された時点の打鉄弐式』に付けて、連中に突っ返してやろうかと 貰いもんをこんな使い方して、不義理になっちまうけど……

 

なんか最後の方でボソボソ言ってるけど、そこまで計画練って来てたなんて……これはまずい、まずすぎる……!

 

「それで、自由国籍について教えて欲しいんです。確かパイセンも自由国籍取ってましたよね?」

 

「そ、そうねぇ……教えてあげてもいいんだけど、色々資料や書類があった方がいいでしょ? だからちょっと時間をちょうだい?」

 

「はぁ、分かりました。そんじゃ、必要なもんが揃ったら連絡ください」

 

「ええ、分かったわ」

 

というやり取りの後、宮下君と簪ちゃんは生徒会室を出て行った。

 

「虚……どうしましょう?」

 

これはまずすぎる。ネームバリューは織斑君より無いけど、実績は確実に宮下君が上。その宮下君が日本を抜ける? 間違いなく大問題になる。そして日本政府のお偉いさんから、ちくちくと嫌味を言われるわね、これ……。

 

「私もどうすればいいか……とにかく、学年主任の織斑先生に相談しますか?」

 

「そうね、そうしましょう」

 

「あ、それ無理だと思う~」

 

え? 本音どうして?

 

「設計図の件で今朝のSHRが終わる前に、織斑先生お腹押さえながら教室を出て行ったから、たぶん胃薬を求めて彷徨ってるかと~」

 

「「……」」

 

虚と二人、それを聞いて途方に暮れるしかなかった。




まさかのISコアの使い道。いい加減ここまで来たら、倉持と縁を切りたいのです。
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