パイセンに自由国籍について教えてもらおうと思ったんだが、後日にということになってしまった。やっぱ、色々条件があるんだろうか。
で、時間が空いた俺と簪はのほほんを誘って、一夏達の模擬戦に混ぜてもらっているわけだが……
「うおぉぉぉぉっ!」
――ガンッ!
「ぐはっ!」
「だから真っ正直に突っ込むなって言ってるだろ!」
一夏の機動はすげー分かりやすい。引っかけという概念がないのか、とにかく真っ直ぐ突撃して来るのだ。おかげでカウンターが決まる決まる。
「陸がその左腕の銃で牽制するから、正面しか行けなかったんだよ!」
「そこはフェイント技でも使ってどうにかするもんだろ」
そう指摘すると、一夏の奴、顔を背けやがった。
「フェイント技って……なんか卑怯じゃね?」
――ガンッ!
「痛ってぇ! 無言で殴んなよ!」
「お前が殴られるようなこと言うからだろうが」
何を言い出すかと思えば……このバカタレが。
「いいか一夏。よほど実力差がある場合を除いて、大抵はフェイントが上手い奴が勝つんだぞ?」
「そ、そんなはずないだろ!? 現に千冬姉だって、モンド・グロッソで……」
「織斑先生? この前強制模擬戦した時も、がっつり使ってたぞ、フェイント」
「えっ……?」
おいおい、フリーズしちまったぞ。俺相手にすら初太刀からフェイント入れてくるような人なのに、なんで実弟のお前がそれを知らんのさ。
「実際織斑先生と戦って……は無理だとしても、第1回モンド・グロッソの映像とかなら資料室に行けばあるだろうから、一度見ろよ」
「お、おう。そうするわ……」
まだ動揺しているな。
「実姉が偉大過ぎて、都合のいい所だけ見えちまってるのかねぇ……」
「いや、千冬姉のことはちゃんと理解してるつもりなんだが……すぐ服を脱ぎ散らかしたり、ゴミを捨て忘れたりするところとか」
「……聞かなかったことにするぞ」
そんな情報を拡散すんな。だから織斑先生に出席簿で叩かれるんだよ。
陸が織斑君と模擬戦をしている間、私は一夏ハーレムのみんなと交流を……と思ったけど、デュノアさんとボーデヴィッヒさんの目が死んでる。
「ちょっとアンタ達、一体どうしたのよ?」
「ああ、シャルロットとラウラは……」
「なんと申しましょうか……」
凰さんの問いに、篠ノ之さんもオルコットさんも困った顔をするだけ。本当に、一体どうしたの?
「りったんが、でゅっちーの会社に設計図を売ったからだよ~……」
「それでどうして二人が……ああ、ボーデヴィッヒさんは納得」
考えてみれば、自国の技術が解析されて、改造したものが他国に売られたんだから、ショックも受けるよね。
「でもデュノアさんは? 設計図を買った側でしょ?」
「かんちゃん、りったんがいくらで売ったか知ってる~……?」
「え? ううん、知らないけど……」
――ガシッ!
「え?」
突然目をカッと見開いたデュノアさんに肩を掴まれたんだけど?
「宮下君、あの設計図を20万ユーロで売っちゃったんだよぉ!」
「に、20万ユーロ?」
え? 陸、そんな値段で売っちゃったの? てっきりもっと高額で売ったと思ってたのに。
「おかげでデュノア社は同業他社からやっかみ受けるし、IS委員会からも裏取引を疑われるしで大変なんだよ!」
「なら、買わなきゃよかったのに」
「うぐっ!」
あ、デュノアさん崩れ落ちた。たぶん陸の気が変わる前に即決した結果なんだろうけど、私からしたら『知らんがな』。
むしろ私としては、今回の件が悪い前例になって、陸の持ってる情報を買い叩こうとする人達が出そうで心配。倉持とか、各国のIS企業とか、倉持とか、日本政府とか、倉持とか、国際IS委員会とか、倉持とか。
「私も本気で、日本人辞めようかな……」
「日本人を、辞める?」
「うん。陸とも話したんだけど……」
私は一夏ハーレムのみんなに、生徒会室であったことを話した。
「倉持技研……どこまで愚かなんだ……」
「それに唆される、日本政府もですわね……」
「いいんじゃない? なんだったら
「ちょ、ちょっと鈴! しれっと勧誘とかズルいよ!」
「そうだぞ! むしろドイツに来ないか!? 我がドイツ国防軍技術部なら、2人まとめて好待遇を約束してくれるはずだ!」
「そ、それでしたら英国はいかがです!? オルコット家当主として、推薦状を書きますわ!」
「ね、ねぇ! さっきの話は水に流して、デュノア社のテストパイロットとかどうかな!?」
「かんちゃ~ん、なんかみんな怖い~……」
本音が怯えるのも分かる。私も思い切り引いてる。
「今はまだ、自由国籍が取れるかも分からないから、何も言えない」
「「「「あ……っ」」」」
英中仏独の4人は、その当たり前のことに今更気付いたとばかりに、各々恥ずかしそうに顔を逸らした。
「なんだなんだ、そっちは楽しそうだな」
「なんかみんな顔が赤いけど、どうしたんた?」
模擬戦が終わったのか、ISを待機状態にした二人がこっちに歩いてきていた。
「箒、みんな一体どうしたんだ?」
「ああ、それなんだが……」
――篠ノ之箒の説明タイム――
「そうか、やっぱ20万ユーロは安すぎたか」
「今度は適正価格を調べてからにしよう?」
「だな」
「いやいや、そんなことより、陸が日本人辞めるってマジか? しかも更識さんも」
「自由国籍が取れたらって話だがな」
「マジかぁ……大丈夫なのか倉持技研。自分の乗ってるISだから、余計心配になってきた」
織斑君の心配はよく分かる。というか、本当に白式は倉持が作ったんだろうか? 織斑君に白式が渡ってから3ヵ月は経ってるのに、解析結果のフィードバック一つ無いなんて。
「臨海学校で一度束に見せてるんだろ? なら、ある程度は心配しなくていいんじゃねぇか」
「それもそうか。箒の紅椿をセットアップするついでに、見てもらったんだった」
確かに篠ノ之博士が一度見てるなら、少なくとも不具合とかは心配しなくて良さそう。
「本当にダメそうだったら、俺らと一緒に日本人辞めようぜ」
「いや、さすがにそれは……」
そうだよね。普通は自分の国を捨てるとか、簡単には決められないよね。私? 私は陸のいるところが祖国だから。(キッパリ)
「とにかく今は安心して、ハーレム連中にボコられてきな」
「ハーレム言うな! ていうかボコられる前提かよ!?」
ツッコミをいれた織斑君だったけど、今日の戦績は7戦全敗だった。特に同じ接近特化の陸に負けたのが悔しかったらしく
「ぜってー近い内に勝ってみせっからなぁ!」
と半泣きで宣言していた。
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「どうしましょう……」
昨日は適当なこと言って宮下君に帰ってもらったけど、いつかは話さないといけないのよね……。
「自由国籍……条件なんてあって無いようなものなのよね……」
そう、ぶっちゃけ国籍を変更する先の政府が了承すれば、成り立ってしまうのだ。もちろんスパイの可能性なども考える必要があるから、諸々の調査は必要だけど。
でもそれを正直に言っちゃったら、翌日にも宮下君は日本国籍を捨てちゃうはず……。
「ホント、どうしましょう……」
つい数秒前と同じセリフが出てくるあたり、完全に詰んでるわ……。今も間違えて『完勝』の扇子を出しちゃうし……。全然勝ってないわよ……。
「お嬢様……」
「う、虚?」
死んだ目で生徒会室に入ってきた虚を見て、私は察した。……ホントは察したくなかったけど。
「宮下君、ね?」
「はい……」
虚の返事を聞いて、まずは深呼吸。落ち着け私……。
「それで、何があったの?」
「宮下君と倉持技研の確執の件、全世界に拡散しました……」
「……えっ?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。たぶん、虚の言ったことを理解するのを、私自身が拒否したからだろう。
「宮下君や簪様から1年生の専用機持ちに、そこから各国政府に情報が伝わったようで……」
「どうしてこうなった……」
「さらに自由国籍の件も一緒に漏れたらしく、各国が宮下君を自国に引き込もうとしているという情報も……」
「……」
「お嬢様……?」
「うわぁぁぁぁぁんっ! もうやだぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お嬢様!?」
なんでこうなるのよぉ! 宮下君も簪ちゃんもわざと!? わざとなの!? そんなにお姉さんを困らせて楽しいの!?
「私も簪ちゃんと一緒に日本捨てりゅぅぅぅぅぅっ!!」
「お嬢様! しっかりしてください、お嬢様! そもそもお嬢様は国籍ロシアでしょう!」
その後正気を取り戻した私だったけど、直後に腹痛を感じて保健室に。そこで
「あ」「あ」
今まさに、保健室の先生から胃薬をもらっている織斑先生と鉢合わせたのだった……。
いじられキャラの楯無さん、本作ではこれがデフォです。