IS学園の夏休み初日。首都圏郊外の霊園に、俺は来ていた。
宮下家の墓は、霊園の中心部からやや外れた場所にあった。親類がいないと、俺を引き取った施設の人が言っていたのは本当だったのだろう。誰の手入れする人のいなかった墓石は雨風に汚れ、草も生え放題になっていたのを掃除するのに、1時間近くかかっちまった。
「親父、お袋」
そう呼んでみたものの、実感はない。なにせこの外史に転生した時には、テロによってこの世を去った後。その前の記憶も持ち合わせちゃいない。
転生当初は何も感じなかった、いや、敢えて目を背けてたくせに、今更亡くなったことに空虚感を持つなんて、身勝手もいいところだろう。
「そんな風に呼ぶ資格なんて、俺には無いのかもしれない。こんな親不孝者に、恨み言の一つや二つあるだろう。だけど、すまない。まだ、そっちに行くわけにもいかねぇんだ」
汲んでおいた水を、柄杓で墓石にかける。
「あいつと……簪と約束したんだ。もう一度、幸せになるって。だから、輪廻の先で会うのは、もうしばらく待ってくれ」
線香をあげ、最後に手を合わせると
「来年、また来るよ」
水の入っていたバケツと柄杓を持って、元来た道を戻った。
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俺が初日に墓参りをしたのは、人が混む盆の時期を外すためってのもあるが、単純に簪が実家の行事でいなかったからだ。
『私も陸の両親に挨拶したかった……』
と簪は言ってたが、実家の行事を優先してくれ。少なくとも、あいつには
(さて、午後からどうすっかなぁ……)
IS学園へ戻るモノレールの中で、俺はこれからの予定を考えていた。
さっき言った通り、簪は不在。従者であるのほほんも同様。一夏は倉持の研究員がデータ取りのためにIS学園へ来るらしく、その相手。
(昨日デュノアに、めっちゃ睨まれたんだよなぁ……)
『宮下君の設計図がすごかったらしくて、もう試作機が完成したんだよ……。だから、そのテストのために戻って来いって……』
『おお、それは良かったな。これで会社も安泰なんだろ?』
『そうだけどぉ~……せっかく一夏とデートしたり、ラウラと買い物する計画立ててたのに~!』
そんなわけで、デュノアの夏休み序盤はフランスで缶詰らしい。南無南無。
とはいえ、オルコットは英国貴族としてのイベントを消化するため、ボーデヴィッヒは俺の作った劣化版ISコアをドイツに護送するため、それぞれの理由で帰省している。
篠ノ之は学園長と面談。臨海学校の時に束から聞いたんだが、どうも紅椿は第4世代機に当たるらしく、未だ第3世代機を試作している各国からしたら、喉から手が出るほどの代物らしい。しかも紅椿は『どこの国にも属していない』というおまけ付き。つまりどの国も、篠ノ之をISごと自国に勧誘できるってことだ。場合によっては力尽くでも……。そのことに遅まきながら気付いた篠ノ之が、慌てて学園側に相談したというわけだ。
凰? 中国の候補生管理官って人に連行されていったよ。
『ドイツの候補生の挑発に乗った挙句、機体を破損して学年別トーナメントを棄権とは、その弛んだ性根を叩き直します』
『い~~~~や~~~~!!』
首根っこ掴まれて連行されていく凰は、さながら部屋を追い出される猫のようだったな。
~~♪
スマホの着信音で、俺の意識が引き戻された。簪はまだ行事の最中だろうから、一夏が予定より早く終わったか?
「もしもし?」
「もすもすひねもすぅ~」
……うん、初っ端こんなこと言い出すやつ、馬鹿ロキ以外あいつしかいない。
「束、何か用か?」
「用がないとダメなの~? りったん冷た~い!」
「……切っていいか?」
「わ~~っ! 待って待って! 実はりったんに相談したいことがあるの!」
「俺に相談?」
「臨海学校の時にお披露目した、太陽光発電についてなの」
ああ、デュノアが真っ青になって悲鳴上げてたあれな。普通に成功してたと思ってたんだが。
「地球って自転と公転してるでしょ? だから、人工衛星から受信アンテナにマイクロウェーブを当てるのがなかなか大変だよねぇ。衛星を大量に作るって手もあるけど、もっとスマートな方法ってないかなぁ?」
「なんだ、そんなことか」
「え!? あるの!?」
「何言ってんだ。そんなの、束が一番分かってるだろう」
「へ?」
スピーカーから聞こえてくるのは、本当に分からないって声色だ。マジか。
「なぁ束。ISってどうやって機体制御してる?」
「それは、PICを……ああっ!? そうだよ! PICを使って定点に留まっていれば、常に同じ受信アンテナにマイクロウェーブを当てられるんだ!」
「さらに言えば、発電時は太陽の方を向くように姿勢制御して、送電時に受信アンテナがある場所に移動すればいい。移動のエネルギーは発電した分で補えるはずだろ?」
かつての外史では、軌道エレベーターが必須だったが、こっちの外史ではISがある。この方法なら赤道以外でも設置が出来るし、軌道エレベーターの構造的脆弱性は考慮しなくていい。
「でもそうなると、発電用のISを常時宇宙に展開することになるよ? 交代制にでもするの?」
「それもいい方法があるだろう」
「えっ、何々!?」
白々しいのか、本当に気付いてないのか。一応、モノレールに俺以外誰も乗ってないのを確認する。
「……無人機」
「あ……っ!」
その反応、本当に気付いてなかったのかよ。束としてはISはあくまで動き回るためのもので、衛星みたいに固定して使うって発想がなかったのか。
「クラス対抗戦で乱入させた無人機、あれを使えばいい」
「そっか~、りったん気付いてたんだ」
「お前と初めて会った時、織斑先生とのやり取りを聞いてれば、そりゃ気付くって」
「なはは~、ちーちゃんとのやり取り、あからさまだったもんね~」
「話を戻すが、無人機ならルーティンプログラムを仕込んでおけば、24時間365日自動で発電と送電ができるわけだ。しかもISだから自己修復機能付き。あとはデブリ対策に、あのビーム砲を威力調整して付けとけばいいだろ」
「そして無人機を動かすエネルギーは発電の余剰分で……いける、いけるよ!」
おうおう、やる気になってるなぁ。放っておいたら、また試作機作りに精を出しそうだ。
「さっそく試作せねば! りったん、ありがとね! お礼は今度!」
プッ ツー、ツー……
案の定、試作機作るので頭がいっぱいになったようだ。
『終点、IS学園です――』
そしてちょうどよく、モノレールも学園に着いたようだ。
(あ……午後から何するか決めてねぇじゃん)
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昼飯を食った後、午後から何をするかといえば
「ふっ……、ふっ……!」
結局俺は、外で木刀を振っていた。
いつもは朝食前に振る程度だが、今日は時間がある。汗だくになるまで振り、水分補給をしたらまた振って、それを何度も繰り返す。そうやって、大太刀の長さと重心を体に覚え込ませるのだ。
「ふーっ……」
それからも素振りに集中していたからか、気付けば日も傾き始めていた。
(晩飯食う前に、シャワー浴びるか)
「陸!」
部屋に戻ると、簪から助走を付けたジャンピングハグで歓迎された。なんというか、行動がパイセンに似てきた気がする。姉妹だからか。
「もう戻って来てたのか」
「うん。お姉ちゃんは当主の仕事があって、今日は本家に泊まるみたいだけど」
「そうか」
というやり取りをしている間も、簪のハグが緩まない。いや、別に嫌なわけじゃ無いぞ? ただなぁ……
「簪、俺さっきまで素振りしてて汗臭いんだわ。だからハグはシャワー浴びてから――」
「すんすん……」
「やめぇい!」
いくら簪でも、それだけは許容できない! ベリッと音が出そうな勢いで簪を引っ剥がす。
「それじゃあ先シャワー浴びるな」
「う~……分かった……」
名残惜しそうにすんな。そこだけは俺、簪に対して不満というか不安だ。
2次創作の読み過ぎで、ISヒロインがクンカーになってしまう……