2/22追記:
どうして後書きで誤字るのか……修正しました。
夏休み中盤。俺と簪はいつぞやのショッピングモール『レゾナンス』に来ていた。
「ほら陸、早く早く!」
「そんなに急がんでも、ちゃんと予約は出来たんだろ?」
「それでも!」
「はいはい」
なぜ簪がこんなにもハイテンションかと言えば、答えは簡単。『初代仮面○イダー 限定復刻フィギュア』の発売日が今日だからだ。
そんで俺も買うものがあったから、一緒に出掛けようとなったわけだ。デートと言えばデートか。
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予約した店で予約番号を伝え、商品を受け取った簪は
「~♪」
フィギュアの入った紙袋片手に、さっきからこの調子だ。紙袋を振り回すわけにはいかんから、その分俺と手を繋いでる左腕はブンブン前後に振られてる。生暖かい目で見ちまいそうだから、ちったぁ落ち着け。
「すまん、ちょっと手洗いに行ってくる」
「分かった。ここで待ってるね」
「変な奴に絡まれないようにな」
「大丈夫。お姉ちゃんほどじゃないけど、私も体術の心得はあるから」
「なにそれ初耳」
なぜかここで簪の新しい一面を聞いたところで、俺は簪と別れ、男子トイレのある方に……行く振りをして、別の所へ。
(財布の中の現金、良し。のほほんから教えてもらった情報、良し。気張れよ俺……!)
そう、今回俺の本命の店へ。
「ふぅ……」
無事に買い物を済ませ、緊張の糸が切れた俺は、大きく息を吐いた。
ホント、今まで興味すら無かったもんを買うって、こんなに大変だったとは……。
「さて、簪は、っと……」
元の場所に戻りながら時間を確認すると、別れてから10分程経っていた。
(あらかじめ準備してたとはいえ、結構掛かっちまったな……。『手洗い場が混んでた』とか『近場が清掃中で別の場所探してた』とか言って誤魔化すか)
なんて考えていたら、簪……の周りに、チャラそうな男が3人ほど、呻き声をあげながら倒れてんだが……?
「陸、遅かったね」
「悪い悪い、近場が清掃中で別の場所探してたもんでな。……で、これは一体?」
「陸を待ってたら声を掛けて来て、断ったら強引に連れて行こうとしたから、正当防衛」
「正当防衛、な」
女尊男卑なこの世界でも、この状態は正当防衛が適応されるんだろうか……?
その後警備員らがやって来て、倒れてるチャラ男達を回収、俺達も事情聴取のためスタッフルームに連れて来られた。連れて来られはしたが、簪の証言に加えて監視カメラにも当時の映像がハッキリ残っていたため、俺達は5分ちょっとで解放された。
「すまんな簪。俺が別行動取らなきゃ、こんな面倒に巻き込まれなかったろうに」
「気にしてない。それより、ちょっと早いけどお昼にしよう?」
「……11時ちょっと過ぎか。なら、前行ったところとは別の店にするか」
「うん」
差し出した俺の手を簪が握ったのを確認して、フードエリアの方へ歩き出した。
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フードエリアをあれこれ歩き回っていると、簪が『ここ、どうかな?』とある店を指さした。
「@クルーズ、有名なのか?」
「メイド(&執事)喫茶、その筋では有名」
「お、おう……」
まさかのメイド喫茶かよ。今日の簪はずいぶんと攻めるな。
――カランカランッ
「お客様、@クルーズへようこ、そ……」
「「……」」
店に入ると、執事服姿のスタッフに声を掛けられた。それはいい。問題は、
「デュノア、何やってんだ……?」
なぜフランスの代表候補生であり、先日フランスから戻って来た一夏ハーレムの一員シャルロット・デュノアが、執事服姿で接客してるのかってことだ。
「み、宮下君……更識さんまで……」
「色々聞きたいことはあるけど、執事服は似合ってる
こらこら簪、何サムズアップしてんだよ。煽ってどうする。
「何をしている、次のオーダーが来て……」
「「……」」
俺と簪、本日2回目の絶句。
「ボーデヴィッヒ、お前もか……」
ドイツのIS部隊を指揮する現役軍人が、なぜかフリフリのメイド服で現れたら、絶句もするわ。
「お、お前達……み、みみ……!」
「ボーデヴィッヒさんも、グッジョブ
「見るなぁ! 私をそんな目で見るなぁ!」
あーあ、ボーデヴィッヒが顔真っ赤にしてしゃがみ込んじまった。
「とりあえず、席に案内してくんね?」
このまま店先で立ってても邪魔なだけだし、同級生にバレたのが恥ずかしいのは分かったから、キッチリ仕事しような?
「お、お待たせしました。ペスカトーレです……」
注文した料理を持ってきたデュノアだが、まーだ声が上擦っていた。
「それにしても、困ってそうな人に声かけたらそのままバイトに誘われて執事服とは、どんなだよ」
「さすが一夏ハーレム、織斑君本人がいなくても超展開」
「もう止めてってばぁ! どうぞごゆっくり!」
半泣きになりながらもマニュアル通りのセリフを言って、デュノアが逃げるように去っていった。ちょっと弄り過ぎたか。
「あ、でもIS学園って、基本バイトは禁止じゃなかったか?」
以前エドワース先生に、そう言われた記憶がある。
「……黙っててあげよう、執事服とメイド服のことも含めて」
「そう、だな。それがせめてもの情けか」
「うん。それに……」
そこで言葉を切ると、簪が俺にスマホの画面を向けて来た。
「なんだ……って、おいおい……」
「織斑君へのお土産」
「素晴らしい」
そこに映っていたデュノアの執事服姿とボーデヴィッヒのメイド服姿に、俺も簪もニヤッと笑ったのだった。
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@クルーズを出た後、俺と簪はモール内を巡りながら、ちょこちょこと買い物を楽しんだ。
出始めたばかりの秋物の服だったり、のほほんを気持ちよく動かすためのお菓子だったり、自由国籍の件で胃壁がすり減ったパイセンと織斑先生への詫びの品だったり。
「いっぱい買ったね」
「そうだな。まさか服が詫び品より嵩張るとは思わんかった」
「だって陸、今まで薄い春夏物ばっかりだったから」
「それもそうか」
俺がこの世界に来たのが3月頭だから、最初に来ていた服も、施設に入ってからの服も薄着しかない。送られてきた段ボールの底には、厚手のものもあるんだろうが、まだ確認すらしていない。その辺、俺ってズボラなんだよなぁ。
「買った服はクローゼットに突っ込んで、詫び品は……二学期入ってから渡せばいいか」
「それでいいと思う。それを見越して、賞味期限の長い物にしたから」
「さすが簪、その辺も抜かりなしだな」
「えっへん」
ドヤ顔の嫁が可愛すぎて辛い。
「そうだ。陸、帰りにクレープ食べよう」
「クレープっていうと、あの城址公園のクレープ屋か?」
「うん、ミックスベリー味」
以前簪と食べた、『ストロベリーとブルーベリーを分け合うと食べられる、幸せのミックスベリー』だったか。
「
「……そうだな。行くか」
最初に食べたのは、あの臨海学校の前だったか。なら、幸せになると誓った今、もう一度食べにいくのもアリだな。
「ほら陸、暗くなる前に」
「分かったから引っ張るなって」
簪に繋いだ手を引かれながら、俺達は件のクレープ屋を目指した。
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「ん~♪ ラウラ、すっごく似合うよ~」
「こ、これは本当にパジャマなのか……?」
「そうだよ」
IS学園の寮部屋で、僕とラウラは買ってきた猫のパジャマを着てみたんだけど……ラウラ可愛い!
「それにしても、今日は色々あり過ぎたな……」
「そうだね……」
やめてよラウラぁ、せっかく忘れてたのにぃ……。
ラウラと服を買いに行っただけのはずなのに、気付けばメイド(&執事)喫茶でスタッフになってて、しかもそれを宮下君と更識さんに見られて。さらに二人がお店を出て少ししたら、なぜか銀行を襲撃した逃走犯がやってきて立て籠もるし。僕とラウラで解決したものの、事情聴取とかされたくなくって急いでお店を出たから、午前中の買い物以外で落ち着いて何かした記憶がないよ。
――コンコンッ
「はーい、どうぞー」
「いや待てシャルロット! 今私達が着てるのは――」
ラウラの可愛さで油断していた僕は、誰かも確認せずに返事をしてしまった。ラウラが止めるけど、もう遅い。
「おおっ、黒猫と白猫だ」
来客は、一夏だった。そして彼が言った黒猫と白猫って、ラウラと僕のパジャマ姿……
「「わーっ!」」
「い、一夏!? ち、違うんだよ!? 今日たまたまショッピングで可愛かったから買ってきただけなんだよ!?」
「そ、そうだぞ嫁よ! だからいつもこんなものを着てるわけではないのだぞ! 本当だぞ!?」
「そんなに捲し立てなくても……二人揃って似合ってるっていうか、可愛いな」
「「か、可愛い……」」
んもー! 一夏ってば! 一夏ってばぁ! そういうところがズルいんだよぉ!
――ピローン♪
「悪い、メールだ」
そう言って、一夏はポケットからスマホを取り出した。
「珍しい、更識さんからだ。……へ?」
「どうしたの一夏?」
「いやぁ……」
言葉を濁した一夏は、僕とラウラに見えるように、持っていたスマホを向けて来た。
そこに映っていたのは……
「「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
ぼ、僕の執事服姿と、ラウラのメイド服姿! 更識さん、謀ったなぁぁぁぁ!!
次回、夏休み編ラスト&唯一のシリアス回。