生徒会長のパイセンと別れた後、整備室に戻ってみると
「あ、陸。おかえり」
「おう。で、そちらさんは?」
だぼだぼ袖の、見知らぬ女がいた。覚えがないということは、他クラスの生徒か?
「かんちゃんの従者の、1年1組、布仏本音だよ~」
「従者ぁ?」
え、何? 簪って良いとこのお嬢様だったんか?
「もしかして~、更識家について、何も聞いてない~?」
「ああ、全然」
「ええ~……」
いや、そんな顔されてもなぁ。
「まぁいいや、俺は――」
「知ってるよ~。2人目の男性操縦者、りったんだよね~」
「り、りったん?」
「ちょ、ちょっと本音……」
今までそれなりの時間を生きてきたが、そんなあだ名付けられたのは初めてだぞ……。
「あ~……俺はお前の事なんて呼べばいい?」
「好きに呼んでいいよ~。私もこれからりったんって呼ぶから~」
マジかよ……布仏本音だろ? それなら、苗字と名前から2文字ずつ取って……
「それじゃあこれから"のほほん"って呼ぶな」
「いいよ~」
いいんかい!っていやいや、なんか話が脱線してる気がする。
「それで簪。俺に買い物頼んだのは、このためか?」
「(コクリ)」
「かんちゃんの専用機作りを手伝うのだ~」
なるほど、一人で全部やるのを止めて、従者に手伝ってもらうか。
「いいんじゃねぇか。お互い、気心の知れてる奴とやった方が捗るだろうし」
うーむ、しかしそうなると、俺はお役御免か……。
「あ、あの!」
「おん?」
「それで、昨日の返事なんだけど……陸にも手伝ってほしいの」
「俺も?」
なんと。どうやらお役御免じゃなかったらしい。
「本当は、陸に手伝ってもらう気でいたの。でも、先に本音と話をしておきたかったから……」
「かんちゃん……」
「そうか……」
2人の顔を見るに、それこそさっきまで色々仲が拗れてたようだな。で、それを解決するまで俺を誘うことを躊躇ってたと。
「……ならよし!」
「「えっ?」」
「簪は簪なりの筋を通すために、俺への返事を保留してたんだろ? そういう理由なら問題なし!」
むしろ、仲が拗れたまま俺を誘ってたら、お仕置きアームロックが火を噴いてたな。
「何だろう……ちょっと寒気が……」
ーーーーーーーーー
「ではこれより、打鉄弐式を作っていきたいと思いまーす」
「わー!」
「わ、わー……」
うん、ちょっとふざけてみたが、のほほんは思った通りノリがいいな。
「それで、最初は何するのー?」
「ふふふ、それはだな……」
そう言って、俺は懐からメモリースティックを取り出した。
「ここに、荷電粒子砲のデータがある」
「なんで!?」
うむ、簪ナイスリアクション。
「こんなこともあろうかと、昨日ベッドの中で夜なべしてまとめておいた」
「りったんすごーい!」
「あの、すごいじゃなくて……」
このデータはすごいぞぉ。何せ別の外史に行った時に収集した、
「これで、『春雷』は完成の目途が立ったわけだ」
「こ、こんな簡単でいいのかなぁ……?」
簪、首を傾げない。いいじゃん、お前の専用機が早く完成するんだぞ?
「で、こっちが……」
懐から、もう1本メモリースティックを取り出す。
「そ、そっちには何が……」
「『山嵐』用のマルチロックオン・システム。昨日の話を聞いて興味沸いたから作ってみた」
「あ、あは、あはははは……」
「か、かんちゃん!?」
「私の今までの苦労って……苦労って……」
おや? 簪が遠い目をしながら笑い出しちまった。
って、そういえば……
「なぁ、打鉄弐式を組み上げるのはいいんだが、装甲や装備を作るための材料ってどうすんだ?」
やらかしたぁ! その辺ちゃんと確かめておくべきだった!
「それは大丈夫だよ~。整備科にお願いして、訓練機の修理用パーツの余剰分を分けてもらえることになってるから~」
「マジ?」
「うん。整備科に知り合いがいて、頼み込んだ」
「マジか~、良かった~」
マジで良かったー。その辺もフォローしてこそメカニックだろうに、俺も精進せにゃならんな。
「それじゃあ改めて、打鉄弐式を作っていくか」
「「おー」」
ーーーーーーーーー
自分で誘っておいてなんだけど……
「りった~ん、スラスターの部品が足りな――」
「加工済みだ」
「りった~ん、春雷を固定したいから――」
「電動ドライバーは足元。電源プラグも挿してあるからすぐ使えるぞ」
「りった~ん」
「そこの配線は左から青、緑、赤の順な。間違えると飛行中にボンッだから気ぃ付けろー」
なんか、陸と本音だけでどんどん打鉄弐式が組み上がってる気がする……。
どうして私、一人で全部やろうとしてたんだろう……。
「うーん、やっぱ即席のシステムじゃ、48本全部は無理かぁ……」
「それでも、半分の24本はマルチロックオン出来るみたいだし、十分だと思うな~」
私、何日もかけて出来なかったんだけど……。
「ほら簪、何してんだ。もうちょっとで出来上がるぞ」
「え!? もう!?」
ところどころボンヤリしていて気付かなかったけど、よく見たら、外見はほぼ完成していた。
春雷も、山嵐も、昨日陸に話してた装備は全部揃ってた。
「あとは近接武器の『夢現』だけだね~」
「何? その装備は初耳なんだが」
「昨日は言ってなかった。対複合装甲用の超振動薙刀」
「薙刀か。確かに簪には、刀の『葵』より似合ってそうだな」
「あ、ありがとう……」
な、何だろう……すごく気恥ずかしい……。
「それじゃある程度組み上がったし、今日ラストで、その夢現を作るとするか」
「ゆ、夢現も今日作るの……?」
「そうだね~、勢いがある内に作っちゃおうか~」
「ほ、本音……?」
「で、明日はテスト飛行といくか」
「おー、それじゃあアリーナの予約入れておかないとね~」
「頼むなー」
「え……も、もう?」
あれ……おかしいよね……だって、陸と本音が加わってから、まだ3時間ぐらいしか経ってないのに……いくら元々の打鉄のフレーム部分があったからって、そんな簡単にISって作れるものじゃないはずなのに……
こんなのって……
「こんなの絶対おかしいよ!」
ーーーーーーーーー
(簪ちゃん、大丈夫かしら……)
生徒会室の会長席で、私は紅茶を飲みながら考え込んでいた。
「政治、か……」
簪ちゃんの打鉄弐式が開発凍結になった時、私が倉持技研に対して行った抗議なんて、どこ吹く風だった。
倉持は、いや、日本政府は、1人目の男性操縦者、織斑一夏君の専用機作成を優先したのだ。
しかも聞いた話では、その織斑君はさっそく、同じクラスのイギリス代表候補生と一悶着起こしたらしい。
「この事を簪ちゃんが知っちゃったら……」
いつかは知られるだろうが、今から憂鬱になる話だ。
開発凍結に関して、織斑君自体に罪はない。別に彼が専用機を強請ったわけではないのだから。それでも、間接的な原因ではあるわけで。そんな織斑君が、クラスで騒動起こす子だって(今回はイギリスの子が発端みたいだけど)知られた日には……。
「あ~も~……」
机の上の書類も残ってるし、気が滅入るわ~……と思っていると
「お、お嬢様!」
「どうしたの虚、そんなに慌てて」
生徒会室に飛び込んできたのは、代々更識家の従者を輩出している布仏家の出で、私の幼なじみ、布仏虚だった。
「に、2,3時間ほど前、本音が整備科を訪ねて来まして……」
「本音が?」
「はい。なんでも、打鉄弐式を組み上げるために、訓練機の修理パーツをもらえないか、と」
なるほど。つまり簪ちゃんは、1人で組み上げるのを止めて、本音に協力を依頼したと。
どうやら、前に進めたようね、簪ちゃん……。
「それで、去年発注した予備パーツの一部が余剰となっていたので、それを供出したのですが……」
「何か問題があった?」
「いえ、先ほど私自身が様子を見に行ったのですが……」
「打鉄弐式が、ほぼ完成していました」
「あんですって~っ!?」
陸は機械チート、のほほんも同類という設定です。