「あの織斑君の接客が受けられるんでしょ!?」
「しかも執事服姿で!」
「それだけじゃなくて、ゲームもあるらしいよ?」
「しかも勝ったら写真も撮ってくれるんだって! ツーショットよ! これは並ぶしかないわ!」
……そんなわけで、1年1組の『ご奉仕喫茶』は盛況で、開幕からずっと長蛇の列を作っていた。
というか、俺が引っ張りだこな状態で、他のみんなは普通に楽しそうにしている。
「いらっしゃいませお嬢様♪ こちらの席へどうぞ」
とりわけ楽しそうなのが、メイド服を着たシャルだ。
夏休みの時に更識さんから送られた写真を見る限り、執事服も似合いそうなものなんだが、それをチラッと言ったら
『僕は絶対メイド服! 執事服は嫌だ!』
と、半泣き状態で主張したため、こうなったわけだ。まぁ実際似合ってるし、これはこれでOKだろう。
「お待たせいたしました。紅茶とシフォンケーキのセットになります」
そして意外や意外、セシリアも接客班(別名・コスプレ係)をこなしていた。確かセシリアって、イギリスの貴族なんだよな? そんなのがメイド服っていいのか?
ちなみに、接客班には他にラウラと箒もいる。……なんか、専用機持ちばっかじゃね?
「はーい、こちら2時間待ちになりまーす」
「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」
一番大変そうなのは、この長蛇の列を整理しているスタッフだ。各種クレーム(ほぼ待ち時間について)にも対応していて、もしかしたら俺より忙しそうだ。
「あっ! 織斑君だ!」
(やばっ! 見つかった!)
すると列整理スタッフの数人がすっ飛んできて、俺を教室内に叩き戻す。
「織斑君! 出ちゃダメって言ったでしょ!」
「混乱具合が増すから!」
そこまで言われたら仕方ない。俺は大人しく接客に戻った。
その後も、ギャン泣きしながらラウラが突撃してきたり、鈴が客としてやってきたり、生徒会長の楯無さん(更識さんと被るのと、本人から名前で呼ぶように言われた)と新聞部の黛先輩が乱入してきたり、IS関連企業の人達の名刺合戦に巻き込まれたり、陸から連絡がきて校門前まで来てみたら弾の奴が不審者扱いされて拘束されてたり……なんだろう、接客してた方が気が楽だった気がする。
ちなみに弾は、生徒会の先輩といい雰囲気だったからそのまま放置してきた。グッドラック!
それと、だな……鈴のチャイナドレス姿は、何というか……ドキドキした。
ーーーーーーーーー
やっと俺の休憩時間が回ってきたんだが、箒達が『誰が俺と一緒に回るか』で揉めてしまい、じゃんけんで勝った人が一緒に回ることになったらしい。で、そのじゃんけんに勝ったのが……
「ふふんっ! これが日頃の行いというものか」
俺の横で、ラウラがドヤ顔をしていた。他の3人の目のハイライトが消えていたが、俺は見なかったことにしておく……。
「確か茶道部に行きたいんだったよな?」
「ああ。それで、だな……」
なんだ? 疑問に思っていると、ラウラがすすっと左手を俺の方に伸ばして来た。なるほど。
「それじゃあ行くか」
「う、うむ。さすが私の嫁だ」
伸びた手を握ると、ラウラは顔を赤くしながらも、満更じゃない顔をしていた。少し前の俺だったら、何も考えずに素でやってたんだろうな。で、ラウラの恥ずかしそうな顔に気付かずに、脇腹に手刀を食らうっていう。
「はーい、いらっしゃーい。……おおっ! 織斑君だ!」
「茶道部は何をしてるんですか?」
「抹茶の体験教室をやってるわ。こっちの茶室へどうぞ」
案内された部屋に入ると、畳が敷かれた、教科書に出てきそうな茶室がそのまま再現されていた。さすが、世界中から入学者が殺到するIS学園といったところか。
「それじゃ、こちらに正座でどうぞ」
言われるまま、俺とラウラは靴を脱いで畳に上がる。うん、執事とメイドが茶室で正座、すごい絵面だな。
ラウラが白餡で作ったウサギの茶菓子を食べるのを躊躇したりはあったが、それ以外は特に大きなハプニングも無く、部長さんの点てた抹茶をいただいて茶室を出た。
「結構良かったな」
「うむ。やはり日本文化は興味深い」
「興味深いといえば、ラウラは和服は着ないのか?」
「わ、私がか? そういえば着たことはないが……み、見てみたいか……?」
そう聞かれ、ラウラが和服を着ている姿を想像してみた。
「……うん、見てたいな」
「そ、そうか……機会があれば、考えておこう」
「おう」
俺の勘違いでなければ、ラウラの手を握る力が、少しだけ強くなった気がした。
ーーーーーーーーー
休憩時間も残り少なくなってきたから、教室に戻る途中、陸達の4組に寄ってみたんだが……
「なんだ、これは……」
ラウラが唖然としてるが、俺もたぶんこんな感じになってるんだと思う。
1組では女子生徒が長蛇の列をなしていたが、ここ4組ではそれ以外――チケット入場した人達や、政府関係者やIS関係企業の人達――が列をなしていた。
耳をすましてみると、行列のそこかしこから
「仮想現実でISが体験できるらしいですよ」
「IS適性とやらがない男性でも、ISに乗った気分が味わえるらしいぞ」
「それこそ、生涯に1回あるかないかってイベントだよな」
という声が聞こえてくる。
「これって……」
「宮下だろうな……」
どうやら、俺とラウラの見解が一致したようだ。IS学園で、そんなことをやる生徒はアイツしかいない。
「はーい。ただいま30分待ちでーす」
「お1人様10分ですが、仮想世界では1時間分体験できまーす」
列整理のスタッフがいるところまで1組と一緒なんだが、言ってることがとんでもない。
「10分で1時間……間違いない。
「ゴーグルって、セシリアに並列思考を習得させるために使った、あの?」
「間違いないだろう。宮下も言ってただろう。『時間を縮めるのは全く問題ない』と」
確かに言ってた気がする。5分1ヵ月を10分1時間に短縮して、アトラクションとして使えるようにしたのか。
「これは、恐ろしいことになるぞ……」
「ラウラ?」
なんか深刻な顔になったが、何が恐ろしいんだ?
「嫁よ、考えてもみろ。『IS適性がなくてもIS体験』ということは、当然IS適性がある者もIS体験ができるわけだ」
「? そうだろうな」
「そして今のデチューン状態でも、10分で1時間ISに乗った体験、つまり訓練が積めるということだ」
「いやいや、所詮仮想世界での体験だろ?」
ラウラの懸念を否定する。だって、仮想世界でいくら訓練を積んでも、肉体にフィードバックされるわけじゃないんだ。
「確かに肉体へのフィードバックはないだろう。だが、それ以外の経験はキチンと得られるはずだ。なら、『フィードバックが必要な訓練のみ実機で行い、それ以外は仮想世界で行う』としたら?」
「あ……っ」
そこまで聞いて、やっと俺はラウラの懸念を理解した。
「いくらIS学園といえど、全員が乗れるほどのISは用意されていない。大半の連中は授業以外でISに乗れないのだ。しかしこれを使えば肉体に依存しない精神的、思考的な訓練を行うことが出来る。そうなった時、このゴーグルを優先的に使えるのは誰だ?」
「それは……陸だ」
「そうだ。さらに言えば、宮下の所属する1年4組が、他のクラスより優先度が高くなるだろう。そうなれば、4組が他クラスより圧倒的に経験値が多くなる。最悪、来年の学年別トーナメントが4組に蹂躙される可能性だってあり得る」
「うわぁ……」
ラウラの言ったことを想像した俺の顔は、おそらく青くなっているんだろう。
4組以外、1回戦を勝ち上がったクラスがまったくいないトーナメントを。ただでさえ、更識さんという最終兵器が鎮座しているのに。
「これは、教官に進言せねばならないな」
「ち、千冬姉に?」
ラウラの中では、それぐらいしないとならない事態のようだ。もうめちゃくちゃだよ……。
ーーーーーーーーー
休憩時間も終わりか。さて、もうひと頑張りするか――
「はーい、楯無お姉さんの登場です!」
職務放棄人間が現れた。
コマンド→逃げる
「だが逃げられない!」
「だぁ! 一体何なんですか!?」
「生徒会の出し物で演劇をするのだけど、織斑君、出演決定ね」
「命令形!? 疑問形ですらない!?」
「うん。決定だもの」
「俺の意思は……?」
楯無さん、首を可愛く傾げる。拒否権は無いですかそうですか……。
「あのー、先輩? 一夏を連れて行かれると、クラスの出し物が困るというか……」
ナイスシャル! もっと言ってくれ!
「デュノアちゃんも参加よ」
「ええっ!?」
「参加してくれたら、可愛いドレスを着せてあげるんだけどな~」
「可愛い、ドレス……」
ああっ! シャルが楯無さんって蜘蛛の糸に囚われかけてる! 頑張ってくれシャル!
「それじゃあ、一緒に来てくれるかしら?」
「は、はい……」
シャル、陥落。
その後も箒、セシリア、ラウラがやってきたが、楯無さんの前に尽く陥落。俺と一緒に連れて行かれるのだった。あ、演劇って何やるのか聞いてないや……。
よくよく考えると、10分が1時間になるだけでも、恐ろしい話ですよね。
例えば平日に1時間使えば、仮想世界で6時間分の搭乗時間になります。それを月~金までの5日間行えば30時間。10週、つまり2か月半もあれば、搭乗時間300時間オーバーの代表候補生並みになるわけで……。もちろんISコアの経験値は0のままですが。