俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ!   作:シシカバブP

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続けて一夏のターンです。そしていつもより少し長め。

それと巻紙さん(オータム)ですが、今回は出番ありまーす!
彼女がイキって返り討ちに遭う様をご覧ください。


第58話 灰被り姫、決意と覚悟

「一夏、準備出来てるか?」

 

「おう……」

 

第4アリーナの更衣室。生気のない一夏の声が聞こえてから、俺はドアを開けた。

 

「衣装、似合ってるじゃねぇか」

 

今の一夏の恰好は、白いズボンに肩章の付いた青いジャケット、白い手袋をして頭には王冠が乗っている。紛うことなき王子様スタイルだった。そう、今回の『シンデレラ』の主役は一夏なわけだ。

 

「どうして俺が……」

 

「パイセンに目を付けられたのが運の尽きだったな」

 

「なら陸がやったって良かったじゃねぇか!」

 

「俺? 俺は裏方だし~」

 

「ぐぬぬ……!」

 

「ほれ、そろそろ開演だろ? 急げよ」

 

「後で覚えてろよ……」

 

理不尽な恨みを俺に向けながら、一夏は舞台袖に移動するため更衣室から出て行った。

さて、次は照明の手伝いだったか。恨むぞパイセン……。

 

ーーーーーーーーー

 

舞台袖からちらっと覗いたが、第4アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。

一昨日までこんなの無かったはずなのに……。そう思っていたら、横にいた楯無さんから

 

『宮下君が2時間でやってくれました! まぁその間にお姉さん、簪ちゃんにキッチリ絞られちゃったけど……あと織斑先生からも』

 

という情報が。陸、お前はジェバンニか何かか……? そして2時間も陸を事前連絡なしで拘束したら、更識さんも怒るって。

ちなみに千冬姉が出て来たのは、セットを高速で作るために陸がISを展開して、それが千冬姉にバレたかららしい。陸自身はお咎めなしで、その分楯無さんが追加で怒られたんだと。

そんなことを考えていたら、ブザー音が鳴り響き、照明が落ちた。

 

(えーっと、確かこの後ライトが点灯するから、そこに向かって歩けばいいのか)

 

今回の劇、楯無さんから脚本や台本の類は無いらしい。大体はアナウンス通りに話を進めて、セリフに至ってはアドリブだそうだ。それって、俺が苦手なものなんだが……。

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」

 

セット全体にかかっていた幕が上がり、アリーナのライトが点灯して舞台中央を照らす。あそこに行けばいいんだな。

 

(それにしても、シンデレラ役は誰なんだ?)

 

などと考えながら、指示通りライトが照らす場所、セットの舞踏会エリアに向かう。

 

「否、それはただの名前に非ず。幾多の戦場(舞踏会)を駆け、群がる敵の軍勢(男達)をなぎ倒し、返り血(灰燼)を纏うことさえ厭わぬ地上最強の兵士。それこそが『シンデレラ(灰被り姫)』の称号!」

 

……はい?

 

「今宵もまた、シンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された国の機密情報を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」

 

「はぁ!?」

 

「もらったぁぁ!」

 

そこからシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴を筆頭に、箒、セシリア、シャル、ラウラの5人が襲い掛かって来た――!!

 

ーーーーーーーーー

 

あの後、どう逃げて来たか全然覚えていない。なんか途中からフリーエントリー組とか言って、数十人以上のシンデレラが雪崩れ込んできたし。

 

『王冠を手に入れたシンデレラには、織斑一夏と同室になる権利をあげちゃいまーす!』

 

とか言い出すし、何考えてるんだあの生徒会長は……。しかも

 

『あ、織斑君、面倒だからって適当な人にあげちゃダメよ。それ、外すと電流が流れるようになってるから』

 

何て言われたら、本気で逃げるしかないだろ。

 

「着きましたよ」

 

「はぁ……はぁ……ど、どうも」

 

そして俺は誘導されるまま、セット下を通って更衣室まで戻って……って、この人誰だ?

改めて確認すると、

 

「確か巻紙さん、でしたっけ?」

 

喫茶(出し物)の休憩中に名刺を渡してきた、IS関連企業の人だったか。

 

「どうして巻紙さんが……?」

 

「はい。この機会に、白式をいただきたいと思いまして」

 

「……は?」

 

白式を、いただく? 何を言って――

 

「いいからよこせよ、このクソガキ」

 

――ヒュンッ

 

「っ!」

 

ニコニコ顔を崩さないまま、巻紙さん……いや、目の前の女の背後から『爪』が飛び出してきたのを、ギリギリのところで躱す。

白式を緊急展開して再度女の方を見た時には、8本の装甲脚を持った、蜘蛛のようなISがいた。

 

「へぇ、このオータム様の一撃を躱すとは」

 

「お前は一体……」

 

いや、もしかしてこいつ、先日楯無さんが言ってた……

 

「亡国、機業……」

 

「知ってるのか? なら分かるだろ? 私が本気で白式をもらいに来たってなぁ!」

 

蜘蛛型IS、その足の先端が割れるように開いて出来た銃口から、実弾が8門斉射で飛んでくる。

 

「く、そっ!」

 

なんとか致命傷は避けてるが、それでもSEが少しずつ削られてジリ貧だ。しかも雪片弐型を叩き込むために近づく暇がねぇ!

 

「なかなかやるな。"あの時"のクソガキが、ここまでやるとはな」

 

「……は?」

 

こいつ、何を言って――

 

「教えてやるよ。第2回モンド・グロッソでお前を拉致したのはウチの組織さ! 感動のご対面ってか!? ハハハハッ!」

 

それを聞いた瞬間、俺の頭の沸点が超えた。

 

「だったら、あの時の借りを返してやらぁ!」

 

「クク、こんな安い挑発で突っ込んでくるとは、なぁ!」

 

――ガガガガガガッ!

 

「ぐああああっ!」

 

完全に頭に血が昇っていた俺は8門の集中砲火を食らい、ロッカーもろとも壁際まで吹き飛ばされた。

 

「さて、あとはその白式を、この剥離剤(リムーバー)でお前から引き剥がせば任務完了だ」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、オータムがこっちに近づいてくる。その手には、四本脚の装置を持っていた。

オータムの言ったことが事実なら、ここままじゃ白式をあの装置で奪われちまう……!

 

(くそ……体が……)

 

さっきの攻撃で、SEもほとんど持ってかれた。これじゃあ、零落白夜も使えない。

 

(だけどまだ……まだ、諦めるわけにはいかないんだ……!)

 

そう思った瞬間、俺は周りが静かすぎることに気付いた。

オータムの気に障る笑い声も、何も聞こえない。

 

「なん、だ……?」

 

 

オータムが、俺に剥離剤(リムーバー)を付けようとした状態のまま、止まっていた。

 

「時間が、止まってる?」

 

『なぜ、諦めないのですか?』

 

「え?」

 

突然の声に辺りを見渡すが、誰もいない。俺と、止まっているオータム以外は。

 

『貴方はなぜ、諦めないのですか?』

 

まただ、また聞こえてきた。

この時俺は、なんて答えようか考えていた。いつ時間が動き出して、オータムに白式が奪われるか分からないはずの、この状況で。いや、なんとなく確信していたんだ。"この問答が終わるまで、時間が動き出すことはない"って。

 

「そうだな……守りたいものがあるから、かな?」

 

『守りたいもの?』

 

「初めて零落白夜を、千冬姉と同じ武装を手にした時、千冬姉の名前を守ろうと思った。それからクラス対抗戦で無人機と戦った時、"みんな"を守ろうと思った」

 

そこで言葉を区切った俺は、自分の手のひら見た。

 

「けど、その時の俺は"みんな"の定義が曖昧で、何を守りたいのか自分でも分かってなかった。口先だけで、何を守りたいのか、理解してなかった。だからあの時、しくじった……」

 

思い出すのは臨海学校の2日目。箒が慢心していたから? そんなの関係ない。俺がその分カバーできていれば、あいつ()が墜とされることはなかったんだ。あの時俺は、守りたいもの、守るべきものを、取り零すところだったんだ。

 

「その時だ。人一人が守れるものは多くないと、本当に守りたいものは仲間だったんだと、理解できたのは」

 

 

「だから俺は、俺の周りにいる仲間を守る。そして、その仲間が他の人達を守って、その守られた人達がまた別の人を守ってくれれば……"みんな"を守れるはずだ。だから俺は、守れるように強くなりたい。それまで、諦めたりしない」

 

 

それが、あの日から考えていた俺の決意だった。たどり着けるかどうかは分からないけど、それでも俺が目指すべき場所……。

 

『分かりました……そこまで心が定まったなら、私も力を貸しましょう』

 

そこで声は途切れ、時間が動き出した瞬間、白式から眩い光が溢れ出した――

 

ーーーーーーーーー

 

織斑君が逃げ込んだ更衣室に着いた時、私は声が出なかった。

 

「くそぉ!」

 

それは、見覚えのないISを纏った織斑君が、謎のIS、おそらく亡国機業の女を翻弄する姿だった。

 

第二形態移行(セカンド・シフト)なんて聞いてねぇぞ!!」

 

「そんなの知るかよ! 雪片弐型、最大出力! 食らえぇぇぇ!」

 

織斑君のエネルギー刃を纏った斬撃を、亡国機業のISが8本脚で受け止め――られなかった。

 

「そん、な……!」

 

8本全ての脚が破片になって、辺りに飛び散った。さらにその勢いで、元8本脚のISが壁に吹き飛ばされる。ぶつかった衝撃で壁が崩れて、向こう側が見えていた。って、呆けてる場合じゃない!

 

「織斑君! その女を拘束して!」

 

「は、はい!」

 

「くっそ……ここまでか……」

 

プシュッと圧縮空気の音が響き、女とISが離れる。

 

「まずっ!」

 

慌ててISを緊急展開。水のヴェールを展開したほぼ直後、分離したISが大爆発を起こした。織斑君は……無事ね。

 

「楯無さん、今のは……」

 

「装備と装甲だけを自爆させたようね。たぶん、コアだけは直前に抜き取ったんでしょ。敵には逃げられたけど、織斑君も白式も無事だったから、一応は作戦成功かしら」

 

「そう、ですね……」

 

どうしたの織斑君? なんか元気ないぞー?

 

「今回無事だったのは、白式が力を貸してくれたからなんです。だから、俺自身がもっと強くならないと」

 

「……第二形態移行(セカンド・シフト)、したのね?」

 

「はい」

 

世界でも数例しかない第二形態移行(セカンド・シフト)が発現した。これは織斑君の周りが、また騒がしくなるわね……。

 

ーーーーーーーーー

 

「くそ……! くそぉ……!」

 

壁に出来た穴を通って私は、学園の敷地を走り続けていた。

もう少しであのガキのISを奪えるところだったのに、こんな結末になるなんて……!

 

(IS『アラクネ』はコア以外を喪失、剥離剤(リムーバー)も破壊され、戦果は一切なし……ん?)

 

気が付くと、目の前に学園の制服を着た奴がいた。さっきのガキと同じ、男物の制服を着た――

 

「宮下、陸……!」

 

"2番目"。拉致対象の男。そうだ! あのガキ(エム)より先に、私がこいつを拉致っちまえば……!

そうと決まれば話は早い。適当に痛めつけて、さっさと連れて帰るんだ。

 

「悪いが、私と一緒に来て――!」

 

腰からシースナイフを抜いて、男の太ももに突き立てようとした――

 

 

――ペキッ

 

 

「え……」

 

私の右腕が、あっちゃいけない方向に曲がっていた。

 

「ああ、あぐぅぅぅぁぁぁあああ!」

 

遅れてやってきた痛みでナイフを落とす。

 

「おい」

 

目の前には、さっきまで拉致ろうとしていた男が立っていた。周りには誰もいない。ちょっと待てよ……まさかこいつに、私は腕を折られたっていうのか!?

 

「お前が亡国機業って奴か?」

 

「だったら、なんだってんだよぉ!」

 

無事だった左手で落としたナイフを拾――

 

 

――ガッ

 

 

「ぐぁっ!」

 

その前に、男の右手が私の喉を掴んで持ち上げる。くそっ! なんて握力してやがんだ……! 殴ろうが爪を立てようがビクともしねぇ……!

まさか、このまま絞め殺す気じゃ……

 

「おいおい、なんて顔してんだよ? 秘密結社なんだろ? 聞いた話じゃ、散々人殺しまくってきたんだろ? なら、()()なる覚悟ぐらいしてるだろ?」

 

こいつ……平和ボケした、ただのガキのはずじゃ……

 

「俺か? 俺は『ソレスタルビーイング』であり『黒の騎士団』だ。自分の血を流す、悪党の返り血を浴びる覚悟は、当の昔に()()()()()()()()。ま、アンタに言ったって分からんだろうがな」

 

なに、いってんだ……

 

 

()っていいのは、()たれる覚悟がある奴だけだ」

 

 

その言葉を最後に、私の視界も意識も、暗闇に落ちていった――




福音戦で出来なかった白式の第二形態移行(セカンド・シフト)、ここで回収しました。やったね一夏! 燃費が余計悪くなるよ!(暗黒笑顔)

最期のセリフを書きたかったがために、オリ主を登場させました。原作通り、ラウラに追撃させても良かったんですがね。

次回はエムが簪に()()()()()()回です。本作の強化セシリア相手なら、意外といい勝負になったかも?(偏光制御射撃がある分、エムの方が優勢なのは変わらないでしょうけど)
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