それと巻紙さん(オータム)ですが、今回は出番ありまーす!
彼女がイキって返り討ちに遭う様をご覧ください。
「一夏、準備出来てるか?」
「おう……」
第4アリーナの更衣室。生気のない一夏の声が聞こえてから、俺はドアを開けた。
「衣装、似合ってるじゃねぇか」
今の一夏の恰好は、白いズボンに肩章の付いた青いジャケット、白い手袋をして頭には王冠が乗っている。紛うことなき王子様スタイルだった。そう、今回の『シンデレラ』の主役は一夏なわけだ。
「どうして俺が……」
「パイセンに目を付けられたのが運の尽きだったな」
「なら陸がやったって良かったじゃねぇか!」
「俺? 俺は裏方だし~」
「ぐぬぬ……!」
「ほれ、そろそろ開演だろ? 急げよ」
「後で覚えてろよ……」
理不尽な恨みを俺に向けながら、一夏は舞台袖に移動するため更衣室から出て行った。
さて、次は照明の手伝いだったか。恨むぞパイセン……。
ーーーーーーーーー
舞台袖からちらっと覗いたが、第4アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。
一昨日までこんなの無かったはずなのに……。そう思っていたら、横にいた楯無さんから
『宮下君が2時間でやってくれました! まぁその間にお姉さん、簪ちゃんにキッチリ絞られちゃったけど……あと織斑先生からも』
という情報が。陸、お前はジェバンニか何かか……? そして2時間も陸を事前連絡なしで拘束したら、更識さんも怒るって。
ちなみに千冬姉が出て来たのは、セットを高速で作るために陸がISを展開して、それが千冬姉にバレたかららしい。陸自身はお咎めなしで、その分楯無さんが追加で怒られたんだと。
そんなことを考えていたら、ブザー音が鳴り響き、照明が落ちた。
(えーっと、確かこの後ライトが点灯するから、そこに向かって歩けばいいのか)
今回の劇、楯無さんから脚本や台本の類は無いらしい。大体はアナウンス通りに話を進めて、セリフに至ってはアドリブだそうだ。それって、俺が苦手なものなんだが……。
「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」
セット全体にかかっていた幕が上がり、アリーナのライトが点灯して舞台中央を照らす。あそこに行けばいいんだな。
(それにしても、シンデレラ役は誰なんだ?)
などと考えながら、指示通りライトが照らす場所、セットの舞踏会エリアに向かう。
「否、それはただの名前に非ず。幾多の
……はい?
「今宵もまた、シンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された国の機密情報を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」
「はぁ!?」
「もらったぁぁ!」
そこからシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴を筆頭に、箒、セシリア、シャル、ラウラの5人が襲い掛かって来た――!!
ーーーーーーーーー
あの後、どう逃げて来たか全然覚えていない。なんか途中からフリーエントリー組とか言って、数十人以上のシンデレラが雪崩れ込んできたし。
『王冠を手に入れたシンデレラには、織斑一夏と同室になる権利をあげちゃいまーす!』
とか言い出すし、何考えてるんだあの生徒会長は……。しかも
『あ、織斑君、面倒だからって適当な人にあげちゃダメよ。それ、外すと電流が流れるようになってるから』
何て言われたら、本気で逃げるしかないだろ。
「着きましたよ」
「はぁ……はぁ……ど、どうも」
そして俺は誘導されるまま、セット下を通って更衣室まで戻って……って、この人誰だ?
改めて確認すると、
「確か巻紙さん、でしたっけ?」
「どうして巻紙さんが……?」
「はい。この機会に、白式をいただきたいと思いまして」
「……は?」
白式を、いただく? 何を言って――
「いいからよこせよ、このクソガキ」
――ヒュンッ
「っ!」
ニコニコ顔を崩さないまま、巻紙さん……いや、目の前の女の背後から『爪』が飛び出してきたのを、ギリギリのところで躱す。
白式を緊急展開して再度女の方を見た時には、8本の装甲脚を持った、蜘蛛のようなISがいた。
「へぇ、このオータム様の一撃を躱すとは」
「お前は一体……」
いや、もしかしてこいつ、先日楯無さんが言ってた……
「亡国、機業……」
「知ってるのか? なら分かるだろ? 私が本気で白式をもらいに来たってなぁ!」
蜘蛛型IS、その足の先端が割れるように開いて出来た銃口から、実弾が8門斉射で飛んでくる。
「く、そっ!」
なんとか致命傷は避けてるが、それでもSEが少しずつ削られてジリ貧だ。しかも雪片弐型を叩き込むために近づく暇がねぇ!
「なかなかやるな。"あの時"のクソガキが、ここまでやるとはな」
「……は?」
こいつ、何を言って――
「教えてやるよ。第2回モンド・グロッソでお前を拉致したのはウチの組織さ! 感動のご対面ってか!? ハハハハッ!」
それを聞いた瞬間、俺の頭の沸点が超えた。
「だったら、あの時の借りを返してやらぁ!」
「クク、こんな安い挑発で突っ込んでくるとは、なぁ!」
――ガガガガガガッ!
「ぐああああっ!」
完全に頭に血が昇っていた俺は8門の集中砲火を食らい、ロッカーもろとも壁際まで吹き飛ばされた。
「さて、あとはその白式を、この
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、オータムがこっちに近づいてくる。その手には、四本脚の装置を持っていた。
オータムの言ったことが事実なら、ここままじゃ白式をあの装置で奪われちまう……!
(くそ……体が……)
さっきの攻撃で、SEもほとんど持ってかれた。これじゃあ、零落白夜も使えない。
(だけどまだ……まだ、諦めるわけにはいかないんだ……!)
そう思った瞬間、俺は周りが静かすぎることに気付いた。
オータムの気に障る笑い声も、何も聞こえない。
「なん、だ……?」
オータムが、俺に
「時間が、止まってる?」
『なぜ、諦めないのですか?』
「え?」
突然の声に辺りを見渡すが、誰もいない。俺と、止まっているオータム以外は。
『貴方はなぜ、諦めないのですか?』
まただ、また聞こえてきた。
この時俺は、なんて答えようか考えていた。いつ時間が動き出して、オータムに白式が奪われるか分からないはずの、この状況で。いや、なんとなく確信していたんだ。"この問答が終わるまで、時間が動き出すことはない"って。
「そうだな……守りたいものがあるから、かな?」
『守りたいもの?』
「初めて零落白夜を、千冬姉と同じ武装を手にした時、千冬姉の名前を守ろうと思った。それからクラス対抗戦で無人機と戦った時、"みんな"を守ろうと思った」
そこで言葉を区切った俺は、自分の手のひら見た。
「けど、その時の俺は"みんな"の定義が曖昧で、何を守りたいのか自分でも分かってなかった。口先だけで、何を守りたいのか、理解してなかった。だからあの時、しくじった……」
思い出すのは臨海学校の2日目。箒が慢心していたから? そんなの関係ない。俺がその分カバーできていれば、
「その時だ。人一人が守れるものは多くないと、本当に守りたいものは仲間だったんだと、理解できたのは」
「だから俺は、俺の周りにいる仲間を守る。そして、その仲間が他の人達を守って、その守られた人達がまた別の人を守ってくれれば……"みんな"を守れるはずだ。だから俺は、守れるように強くなりたい。それまで、諦めたりしない」
それが、あの日から考えていた俺の決意だった。たどり着けるかどうかは分からないけど、それでも俺が目指すべき場所……。
『分かりました……そこまで心が定まったなら、私も力を貸しましょう』
そこで声は途切れ、時間が動き出した瞬間、白式から眩い光が溢れ出した――
ーーーーーーーーー
織斑君が逃げ込んだ更衣室に着いた時、私は声が出なかった。
「くそぉ!」
それは、見覚えのないISを纏った織斑君が、謎のIS、おそらく亡国機業の女を翻弄する姿だった。
「
「そんなの知るかよ! 雪片弐型、最大出力! 食らえぇぇぇ!」
織斑君のエネルギー刃を纏った斬撃を、亡国機業のISが8本脚で受け止め――られなかった。
「そん、な……!」
8本全ての脚が破片になって、辺りに飛び散った。さらにその勢いで、元8本脚のISが壁に吹き飛ばされる。ぶつかった衝撃で壁が崩れて、向こう側が見えていた。って、呆けてる場合じゃない!
「織斑君! その女を拘束して!」
「は、はい!」
「くっそ……ここまでか……」
プシュッと圧縮空気の音が響き、女とISが離れる。
「まずっ!」
慌ててISを緊急展開。水のヴェールを展開したほぼ直後、分離したISが大爆発を起こした。織斑君は……無事ね。
「楯無さん、今のは……」
「装備と装甲だけを自爆させたようね。たぶん、コアだけは直前に抜き取ったんでしょ。敵には逃げられたけど、織斑君も白式も無事だったから、一応は作戦成功かしら」
「そう、ですね……」
どうしたの織斑君? なんか元気ないぞー?
「今回無事だったのは、白式が力を貸してくれたからなんです。だから、俺自身がもっと強くならないと」
「……
「はい」
世界でも数例しかない
ーーーーーーーーー
「くそ……! くそぉ……!」
壁に出来た穴を通って私は、学園の敷地を走り続けていた。
もう少しであのガキのISを奪えるところだったのに、こんな結末になるなんて……!
(IS『アラクネ』はコア以外を喪失、
気が付くと、目の前に学園の制服を着た奴がいた。さっきのガキと同じ、男物の制服を着た――
「宮下、陸……!」
"2番目"。拉致対象の男。そうだ!
そうと決まれば話は早い。適当に痛めつけて、さっさと連れて帰るんだ。
「悪いが、私と一緒に来て――!」
腰からシースナイフを抜いて、男の太ももに突き立てようとした――
――ペキッ
「え……」
私の右腕が、あっちゃいけない方向に曲がっていた。
「ああ、あぐぅぅぅぁぁぁあああ!」
遅れてやってきた痛みでナイフを落とす。
「おい」
目の前には、さっきまで拉致ろうとしていた男が立っていた。周りには誰もいない。ちょっと待てよ……まさかこいつに、私は腕を折られたっていうのか!?
「お前が亡国機業って奴か?」
「だったら、なんだってんだよぉ!」
無事だった左手で落としたナイフを拾――
――ガッ
「ぐぁっ!」
その前に、男の右手が私の喉を掴んで持ち上げる。くそっ! なんて握力してやがんだ……! 殴ろうが爪を立てようがビクともしねぇ……!
まさか、このまま絞め殺す気じゃ……
「おいおい、なんて顔してんだよ? 秘密結社なんだろ? 聞いた話じゃ、散々人殺しまくってきたんだろ? なら、
こいつ……平和ボケした、ただのガキのはずじゃ……
「俺か? 俺は『ソレスタルビーイング』であり『黒の騎士団』だ。自分の血を流す、悪党の返り血を浴びる覚悟は、当の昔に
なに、いってんだ……
「
その言葉を最後に、私の視界も意識も、暗闇に落ちていった――
福音戦で出来なかった白式の
最期のセリフを書きたかったがために、オリ主を登場させました。原作通り、ラウラに追撃させても良かったんですがね。
次回はエムが簪に