「なに、この劇……」
生徒会の出し物『観客参加型演劇・シンデレラ』の会場である第4アリーナは、とんでもないことになっていた。
「一夏ぁ!」
「わたくしに」
「その頭に乗ってる」
「王冠を」
「渡すんだぁ!」
逃げる織斑君、武装して追いかけるハーレムの面々。さらに、さっきまで観客席にいた生徒達もシンデレラ姿で追加され、もはや収拾がつかなくなっていた。
「お姉ちゃん、これどうするの……?」
「いやぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかも」
頭掻いて誤魔化そうとしてるけど、あとで織斑先生に怒られる覚悟は必要だよ。
「っと、織斑君が見えなくなったわね……」
「え?」
お姉ちゃんにつられて見ると、確かに舞台の上はシンデレラだらけで、王子様の姿が見えなかった。
まさか……。
「こんなこともあろうかと!」
そう言って、お姉ちゃんがどこからか端末を取り出した。そこには、点滅する赤い光点が。
「お姉ちゃん、まさか織斑君に発信機を?」
「せいかーい! 王子様のジャケットにね。念のために付けてたんだけど、ビンゴだったわね」
移動を続けていた光点が止まった。場所は……更衣室?
「簪ちゃん。お願いがあるの」
「お願い?」
「これから私は織斑君の援護に向かうんだけど、敵が単機とはどうしても思えないの。だから――」
「増援の警戒?」
「うん。ISの使用許可はもらってるから、打鉄弐式を展開してアリーナの上空から警戒してほしいの。ここには宮下君もいるから、狙うとしたらここのはずよ」
「分かった」
頷くと、私は一度アリーナを出てから弐式を展開して飛翔した。そしてアリーナ上空についてしばらくすると、ハイパーセンサーが高速で移動するISを補足した。接敵まで、あと30秒。
(実戦は初めてじゃないけど……)
初めてではない。けれど、今までが特殊すぎた。クラス対抗戦の時は、相手が無人機だった。臨海学校の時は、有人だけど暴走状態だった。だからある意味、今回が本当の意味で"初めての実戦"なのかもしれない。
撃てるんだろうか? 私に、人を……
(ううん、私は躊躇わない。だって、そのせいで、陸を失いたくないから)
そのためなら……
("討った事実"を受け止める覚悟は、返り血を浴びる覚悟は、出来てる)
かつて
そして――メメントモリのリミッターを解除した。
ーーーーーーーーー
(上空に、IS反応?)
IS学園に向かっている途中で、その反応があった。オータムがドンパチを始めた頃合いだろうから、大方増援を警戒したのだろう。
(だが、1機だけ上げたのは失敗だったな)
確認した機体は第3世代機の『打鉄弐式』とやららしいが、所詮は第2世代の改造機。私に勝てるわけがない。
接敵まであと10秒、相手はまだ動かない。なにやら緑色の光が舞っているが、知ったことか。先日奪ったこの『サイレント・ゼフィルス』の動作テストをさせてもらうぞ。
「行け!」
6機のビットを展開、敵機に向けて――
――ドドドドドッ!
「なん、だと……」
突然、私の周りで爆発が起こった。それがビットが破壊された音だと認識するのに、数瞬の時を要した。
「そんな、あり得ん……」
「でも、これが現実」
オープン・チャネルなのか、相手の声が聞こえてきた。それと同じくして、奴――青髪の眼鏡女――の周りに何かが飛び回っているのも見えた。エネルギー刃を出した小型のビットが、いくつも。
「まさか、貴様もBT兵器を……!」
そんな情報はなかった。IS学園でBT兵器を使用しているのは、このサイレント・ゼフィルスの試験機であるブルー・ティアーズだけのはず……! そのはずだったのに……!
「そういう貴女も、もしかしてそのIS、イギリス辺りから奪ってきたもの?」
「そんな情報、ベラベラ喋るとでも!?」
手に持ったレーザーライフル『スターブレイカー』の引き金を引くと同時に、残った2基のビットからレーザーを放つ。このままでは簡単に回避されるだろう。だが!
(曲がれ!)
――キィィィンッ!
「……は?」
その瞬間、私の頭はこの状況を理解することを拒んだ。
敵ISが……消えた。そして敵が消えた場所を、レーザーが素通りしていく。
「そんな馬鹿な! どこだ! どこに消え――」
――ガァァンッ!
「ぐぁっ!」
背後からの衝撃とSE減少のアラーム音でようやく、私は察した。奴は消えたんじゃない。
「何なのだお前は……一体何なんだ……!」
「そんな情報、ベラベラ喋るとでも?」
「くっ……!」
意趣返しなのか、さっき私が口にしたセリフを吐いて、薙刀のような武装を構え直す。
そこからは、もはや"蹂躙"と呼ぶに相応しかった。
こちらの攻撃は、残像すら残らない高速移動で当たらない。そして背後や真下等の死角に回り込まれ、高周波振動でもしているのだろう、薙刀の一撃を何度も受け……気付けばビットは全て落とされ、SEも限界値に近づいていた。
「くそっ! クズ一人攫うだけのはずが、何てザマだ……!」
私が吐き捨てるように愚痴ると、敵が高速移動をやめた。なんだ……?
「貴女、陸を攫うつもりで来たの?」
「陸……ああ、"2人目"がそんな名前だったか。だったらなんだと言うんだ?」
その時、私は失敗していた。そんな問答なんぞせず、さっさとスコールに一報入れて引き揚げればよかったのだ。どうせここまで足止めされた以上、作戦は失敗していたのだから。
「そう……なら」
「貴女には、ここで消えてもらう」
「……っ!?」
なん、だ……? IS学園の生徒など、ISをファッションか何かと勘違いした、ただ平和ボケしたガキ共のはずだ。なのに……なぜ私の腕は、震えているんだ……?
一瞬。ほんの一瞬。それが戦場では命取りだと、分かっていたはずなのに。
――ヒュンッ
「あ……」
気付いた時には、奴の右手が私の頭を掴んでいた。
「貴女が陸を害するというなら、私は貴女の存在を否定する。貴女の返り血を浴びてでも。だから」
「さようなら」
「が、ああああああああああああっ!?」
なんだこれは! ISの絶対防御を超えて、頭が……!
なんとか抜け出そうと、赤黒い光の点滅の中抵抗していた時、視界に入ったものを認識した私は青褪めた。
サイレント・ゼフィルスの装甲が、内側から盛り上がって、弾けて……。もしかして、本当の意味で絶対防御が抜かれたら、私の頭も……? いやだ……いやだいやだいやだ! まだ私は……私は……!
だが、そうはならなかった。
「っ!」
急に奴が私の頭から手を放し、距離を取ったから。
「エム、無事のようね」
「スコー、ル……?」
奴と私の間に割り込む形で、IS『ゴールデン・ドーン』に乗ったスコールの姿があった。どうしてお前が……。
「撤退するわよ、エム」
「分かった……」
普段の私なら、反論の一つもしていただろう。だが、今は頷くしかなかった。
「というわけで、ここは退かせてもらうわね」
スコールはそう言うが、果たして敵が簡単に逃がしてくれるものか……。
すると、こちらに注意を向けつつも敵の手が止まった。通信でもしているのか?
「……今回は見逃す。けど、次にまた陸を狙うなら……本気で消す」
「分かったわ。感謝しておくわね」
どういう理由かは分からないが、私とスコールはそのまま、追撃を受けることなく戦域を離脱できた。
「オータム……」
スコールの口から、苦し気な呟きが漏れるのを聞きながら――
ーーーーーーーーー
簪ちゃんとの通信を切って、私は宮下君が相手していた亡国機業のエージェント――オータムと名乗っていたらしい――を拘束した。
幸い、右腕が折れてる以外は致命傷も無く、十分尋問にも耐えられるでしょう。
「パイセン、簪は?」
「侵入してきたISを返り討ち。追加でもう1機来たんだけど、退きたがってたから見逃させたわ」
「そうですか」
宮下君は大きく息を吐くと、近くに設置してあったベンチに座り込んだ。私も彼の隣に座る。簪ちゃん、今回は宮下君の隣、借りるわね。
「安心した?」
「ええ。こんなことで、簪が手を汚す必要はありませんよ。そういうのは――俺だけで十分ですから」
「いいえ、貴方の手を汚すまでもないわ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんよ」
実際、到着した私が止めなければ、彼はこの女の首をへし折ってたでしょうから。
普通『誰かの命を奪う』というのは簡単なことじゃない。例えそれが、自分のことを狙った相手だとしても。簪ちゃんや宮下君には、そうなって欲しくなかったな……。
「更識、宮下」
顔を声のする方に向けると、織斑先生が近付いてきていた。この女を回収する人員をお願いしていたんだけど、織斑先生が直々に来るとは思っていなかった。
「そいつが?」
「はい。オータムというコードネームらしいです」
「そうか」
それだけ聞くと、織斑先生は気絶して縛られたオータムを担ぎ上げた。俗にいう"お米様抱っこ"である。
「宮下、面倒事に巻き込まれて災難だったな。学園祭終了まであと1時間ほどあるから、更識……妹が戻ってきたら、ギリギリまで楽しんでくるといい」
最後に後ろ向きに手を振って、織斑先生は肩の荷物を物ともせずに去っていった。やだ、イケメンすぎ……。
それから簪ちゃんが戻ってくるまで、私は宮下君を弄って遊ぼうと思ったら
「今回、一夏を囮にしたように見られると思うんですよね。だから、一夏ハーレムの面々への言い訳を考えておいた方がいいですよ」
というアドバイスをされて、今更ながら頭を抱えることになった。どうやってあの子達を丸め込もう……。
オリ主のためなら、簪さん手を汚す覚悟OKになってます。ヤヴァイね。
次回は学園祭編ラストになる予定です。