それはキャノンボール・ファストを出場禁止になった翌日、いつものように食堂で晩御飯を食べている時だった。
「俺、もっと自由にやって良い気がするんだよな」
「……」「……」
陸の言葉を聞いて、私と本音は宇宙猫になった。
ポチャンッと音を立てて、すするはずだったうどんが箸から離れ、丼の中へ帰っていく。
「りったん、熱があるなら今日は早く休んだ方がいいよ~」
「おうのほほん、それはどういう意味だ?#」
「というか、突然どうしたの?」
これまでも突拍子もないことを言ってはきたけど、ここまで前振りがないのは初めてだ。
「最近、倉持や日本政府と揉めたり学園祭の出し物や演劇の設営したりで、機械弄りだけしたいっていう俺のスクールライフが大分崩れてきてるなぁと思ってな」
「ええ~? なんだかんだで弐式にツインドライヴやGNファングとか付けてるでしょ~」
「それじゃあ足りねぇ。というか、二人とも忘れてねぇか?」
「忘れてるって」「何を?」
「弐式も陰流も、拡張領域にほとんど何も入れてねぇだろ」
「「あ……」」
陸に指摘されて、私も本音も間の抜けた声を出した。
確かに、弐式の拡張領域には夢現以外の武装は入ってない。山嵐も春雷も、GNファングも外付け仕様だ。
それは陰流も一緒で、大太刀の長船を除けば打鉄時代から入っているアサルトライフルだけだ。
「つまりりったんは、後付け武装を作りたいってこと~?」
「それと弐式に新機能を付けたい」
「ま、まだ付けるの~……?」
ドン引きしてる本音じゃないけど、これ以上何を付ける気なの……? ツインドライヴだけでもお腹いっぱいなのに……。
「というわけで、俺はこれから整備室に忍び込んで作業すっから、また明日な!」
「う、うん……って忍び込む!?」
驚いた私が聞き返した時には、すでに陸の姿はなかった。ええ~……。
「りったん、今まで以上に弾けてるね~……」
「あれで、結構ストレス溜めてたのかなぁ……?」
昨日の焼肉じゃ、溜まったもの全部は吐き出しきれなかったんだろうか。
結局あれから陸が部屋に戻ってくることも無く、私は久々に一人で寝ることになった。……寂しい、陸の温もりが恋しいよぉ……。
ーーーーーーーーー
次の日の朝も、陸は部屋に戻ってなかった。
(今日の授業、どうする気なんだろう……)
そう思いながらも登校して、教室に入ると
「zzz……」
……机に突っ伏して寝てる陸がいた。たぶん、整備室から直でここまで来て、そこで力尽きたんだろう。
「は~い、SHRを始め……あら? 宮下君、居眠りするにはまだ早いわよ」
「「「くくくっ……」」」
ほらぁ、エドワース先生が来ちゃった。クラスのみんなも笑いを堪えるのに必死だし。
「ほら宮下君、もうSHR始まるって」
隣の席の子が肩を叩くけど、全然目を覚ます気配がない。
「できたぞぉ、新装備だぁ~……」
とうとう寝言まで言い始めた。
「簪ぃ……いくらなんでも、毎朝キスを強請るのは「わー! わー! わぁぁぁ!!」
なんで寝言でそのこと言っちゃうのぉ!?
「うわぁ、だいたーん」
「そっかぁ、更識さんの方が肉食なんだぁ~」
「陸ぅぅぅぅぅぅ!!」
――ポカポカポカッ
これ以上何か言われる前に、なんとしても叩き起す!
「いててててっ! あれ? もう授業始まんのか?」
「おはよう宮下君。今はSHRの時間よ」
「了解……ん? なんで簪が目の前に?」
「うぅ……」
もう恥ずか死にそう……。
その後も陸の寝言について、SHRが終わるまで追及は続いた。
私肉食じゃないもん、陸が草食系なのがいけないんだもん。
「(まぁ、強請られるのも満更じゃなくなってきたけどな)」
「~~!///」
卑怯! 卑怯すぎるよそのセリフ! しかも耳元で囁くなんて幸せ過ぎるありがとうございます!!
ーーーーーーーーー
「そんなわけで、放課後の整備室なのだ~」
「本音?」
「ナレーションだよ~」
「なんだそりゃ」
まぁのほほんが言った通り、俺達はいつものように、展開した弐式の前にいた。
「それで、かんちゃんの顔を真っ赤にした新装備って何かな~?」
「本音、色々混ざってる。あと、今朝は何もなかった、イイネ?」
「アッハイ」
今朝の事を弄ろうとしたのほほんが、簪の圧で黙らされる。俺もまさか、あんな寝言を漏らすとは思わんかった。失敗失敗。うん、だから簪、そのジト目はやめてくれ。
「それで、今日は何するの~?」
「おう。今日の目玉はこれだ」
そう言って取り出したるは……
「ISコア、だよね? 随分前に篠ノ之博士からもらった」
「そうそのコアだ。で、このコアを弐式に付ける」
「え~!? 一つのISにコアを二つ付けるの~!?」
のほほんが今まで見たことないぐらい驚いてる。普通は誰も考えないだろうな。ただでさえISコアって需要に対して供給が間に合ってないのに、IS一機にコア二つとか贅沢の極みだろう。
「あとは、拡張領域に入れる用の武装だな」
「あ、そっちも作ったんだ」
「もちろん。今朝までに動作確認はして陰流の拡張領域に入れてあるから、順次弐式に移していく予定だ」
なにせそのために、弐式と互換性のある打鉄を専用機として借りてカスタムしたんだからな。
「さて、まずはのほほん。昨日のうちに、ISコアを二つ付けられるように改造したユニットを作ったから、のほほんはこれの換装を頼むな」
「りょうかいなのだ~」
へにゃっとした敬礼をすると、作ったまま作業台に置きっぱなしにしてあるユニットに向かっていった。
「次に簪。さっき言った新装備の移し替えだ」
「分かった」
「よーし。そんじゃ、ちゃちゃっと始めるか」
――1時間後
「りったーん、ユニット換装終わったよ~」
「おう。こっちも装備の積み込み完了だ」
GNドライブの時ほど時間もかからず、当初の作業は完了した。まぁ同期とか気にしなくていい分、楽だったと言えばそれまでなんだが。
「換装してる時から思ってたけど、見た目はほとんど変わってないね~」
「うん。元々、打鉄弐式のコアが収まってる場所が背部の見えにくいところだし、そこのスロットが一つ増えただけ」
簪が乗るとちょうど隠れる位置にスロットがあるからな。というか俺も陰流を弄るまで、そこにスロットがあるの知らなかったし。
「それで、明日また動作テストするの?」
「いやいや、この後一夏達と訓練する約束してっから、そこで動作テストに協力してもらおうと思ってる」
「「きょう、りょく……?」」
なんだよ? 何二人して首傾げてんだよ。
ーーーーーーーーー
その後、約束していた第4アリーナで
「更識の、新装備?」
「それ、また僕達が巻き込まれるの……?」
デュノアも失礼な奴だな。というか他の面子も目からハイライトを消すな。
「今回はミサイルもファングも使わない。簪、展開してみてくれ」
「分かった」
頷くと同時に、簪の手に新装備が拡張領域から展開される。出て来たのは
「ライフル?」
「セシリアのものと同じぐらいのバレル長、スナイパーライフルの類か」
「ボーデヴィッヒの推察通り、オルコットと同じレーザーライフルだ」
「ああ、またわたくしのお株を奪っていくんですのね……」
だからハイライトを消すなって!
「そんじゃみんな、流れ弾が飛んでくる可能性があるから、シールドを準備しておいてくれ」
「流れ弾? アンタが作ったにしては、珍しいわね」
「そうだよな。陸の作った装備って、大体その辺の調整も済んでるもんばっかりだったし」
「まぁ今回は色々理由があってな……準備はいいか?」
実体、またはエネルギーシールドを持ってる奴が構えて、持ってない奴がその後ろに隠れる。
「簪、頼んだ」
「了解」
俺の合図で、簪がライフルを構え……引き金を引いた。
ーーーーーーーーー
『宮下君が夜中の整備室で何かをしていた』
その報告を虚から聞いた時、私は胸騒ぎを覚えて生徒会室を飛び出していた。
(急げ……! 急げ……!)
いつもなら、本音がアリーナの予約をした段階で身構えればいい。けど、最近はそのパターンが通じない。
(予約表では、今日織斑君達が第4アリーナを予約していたはず……!)
最近簪ちゃん達は、織斑君達と一緒に行動することが多くなった。お昼を食べる時も。そして、訓練の時も――
(間に合って……!)
私の希望は、アリーナに着いた時に打ち砕かれた。
「ああ……」
目の前には、頭を抱えている織斑先生。そしてアリーナの中央には
「うごごご……」
「だから私は嫌だって言ったのだ……」
「箒さん、それは今更ですわ……」
「嫌な予感はしてたのよねぇ……」
「鈴も、それならもっと早く言ってよ……」
「まったくだ……」
「ご、ごめんみんな、やりすぎた……」
ISを纏ったまま大の字で倒れている、
「よしよし。デュアルコア・システムは想定通り動いてくれてるな」
「りった~ん、よしよしじゃないと思うよ~……」
そして隅の方で腕を組んで頷いている陸君に対して、引きつった顔でツッコミを入れる本音。というか本音がツッコミ役って、何?
「あの、織斑先生、これは……」
「見てわからんか……?」
「いえあの、陸君が魔改造したISに乗った簪ちゃんが、専用機持ちを蹂躙したようにしか」
「それが全てだ……」
はぁぁぁぁ……! とクソデカため息を付く織斑先生。私が宮下君から陸君と呼び方を変えたことに対する指摘もなく、さっきまで頭を抱えていた手が腹部に移動している。
「私が来た瞬間に模擬戦が始まって、あっという間にこの光景だ。しかも、だ。更識姉、お前の妹がIS6機を撃破するのに、どれだけの時間がかかったと思う?」
「えぇ? ……10分、とか?」
普通なら頭おかしい数字だけど、あの打鉄弐式ならその短時間でやりかねない。
「20だ」
「え?」
20? 20分ってことかしら?
「お前の妹は、専用機持ち6人を20秒で撃破したんだ! なんだあのレーザーライフルは! 先行して液体金属のプリズムを射出して、そこにレーザーを当てて乱反射させるまではいい! その乱反射したレーザーが全部命中弾になるとか頭おかしいだろ!!」
「……」
織斑先生の言っていることが理解できない――理解することを本能が拒んだ――私は
「織斑先生」
「なんだ?」
「ちょっと保健室までご一緒しません? 胃薬をもらいに」
「……そうだな、付き合おう」
まだ目を回してるみんなには申し訳ないなぁと思いながらも、織斑先生とアリーナを後にした。
やりました! やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんですよ! ISに乗って、模擬戦をして、今はこうしてほぼギャグの道を歩いている。これ以上何をどうしろって言うんです? 何と戦えって言うんですか!
ツインドライヴ&デュアルコアとか、やりたい放題した結果がこれですよ。ホント、これから簪は一体何と戦えばいいんだろう……?
作中で千冬姉が言っていたレーザーライフルは、蜃気楼の『ゼロビーム』が元ネタです。デュアルにしたISコアに演算させて、ドルイドシステムの代わりにしてるわけです。(乱反射したレーザーが全弾命中したのはそのため)