俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ!   作:シシカバブP

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キャノンボール・ファスト、開始です。
今回は3,4回ぐらいに分けてお送りします。


第67話 キャノンボール・ファスト~訓練機の部~

キャノンボール・ファスト当日。天気は快晴、会場のアリーナは満員御礼で、空には花火も上がっている。

 

「おー、秋晴れってやつだな」

 

そんな空を、一夏が日差しを手で遮りながら見上げていた。

 

今日のプログラムは、最初に1年生の訓練機組のレースがあって、それから専用機組のレース、その後2年生のレースがあり、最後に3年生(+簪)によるエキシビジョン・レースという順番になっている。なお、訓練機の部は完全なクラス対抗戦になるらしく、例によって景品が出るとのこと。1学期のクラス対抗戦は無人機の乱入で有耶無耶になっちまったからな。その時の景品分の予算も回したと、楯無さんからそれとなく聞かされていたりする。

 

「一夏、こんなところにいたのか。早く準備をしろ」

 

「陸も、訓練機組が終わったらすぐだから、ピットに戻って」

 

「おう」

 

「はいよ」

 

一夏は篠ノ之に、俺は簪に促されて、それぞれピットに戻った。

 

「そういえば一夏、お前今回のチケットは誰にやったんだ?」

 

このキャノンボール・ファストも学園祭同様、一生徒に付き一枚チケットが配られている。俺は今回も一夏にくれてやったわけだが。

 

「弾と蘭に渡したよ」

 

「ああ、あの五反田兄妹」

 

一夏に言われて、レゾナンスで出会った赤髪の兄妹を思い出す。

 

「二人とも、迷子になってないといいんだが……」

 

「おいおい、さすがにそれは無いだろう」

 

いくらこのアリーナが大きいからって、なぁ?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一夏からキャノンボール・ファストのチケットをもらった俺達五反田兄妹は、さっそく迷子になりそうになっていた。蘭が俺をジト目で見てくる中、たまたま出会った救世主が

 

「すみません虚さん、席の案内までしてもらって」

 

「いいえ、これくらい問題ありませんよ」

 

そう、先日陸の策略でデートした、布仏虚さんだった。虚さんが生徒会の人なのは学園祭の時に聞いてたんだが、今回来賓の誘導等をするために観客席にいたところ、俺達を見つけたそうな。

 

「(お兄、この人誰?)」

 

「(布仏虚さん、IS学園の生徒会の人で、一夏や陸の知り合いだ)」

 

「(一夏さんと!? それに陸って、前にレゾナンスで会った?)」

 

「(おう。一夏の奴、相変わらずコミュ力があるよな)」

 

「(それがなんで、お兄と仲が良さそうなのよ!? どういう関係!?)」

 

「(あ~……学園祭の時に知り合って、今はメルアド交換した仲?)」

 

「(……っ!? 私だって、一夏さんのメアド交換するのに1年かかったのに……お兄に、お兄に先越された……!)」

 

「あの、弾君? 妹さん、どうしたんですか?」

 

「いえいえ、ちょっとショックなことがあっただけなんで、気にしないでください」

 

「??」

 

俺達の仲を知った蘭が膝から崩れ落ちたのをスルーしつつ、虚さんにチケットの場所まで案内してもらったのだった。……あとから蘭に思いっきり殴られたが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

市長から開会の挨拶が終わると、さっそく1年訓練機部門のレースが行われた。

 

各クラスから選抜された2名ずつ、計8名がマーカー誘導に従ってスタートラインに移動する。

クラス間で公平を期すため、打鉄とラファールの2機が各クラスに回されている。2人とも防御重視の打鉄、もしくは機動重視のラファールだと偏りができるからな。

選手が各自位置について、スラスターを点火する。そしてシグナルランプが点灯し――

 

ランプが赤から緑に切り替わった瞬間、8人全員が急加速で一気にスタートダッシュを決めた。

 

 

 

「お、始まったようだな」

 

俺達専用機組はピットの中で次のレースの準備をしながら、設置されたモニターでレースの様子を見ていた。

 

「みなさん、いい動きをしていますわね」

 

「ホント、もしかしたら本国の予備候補生よりも上手いんじゃない?」

 

「それはそうだろう」

 

そう断言するボーデヴィッヒに、全員の視線が向く。

 

「この学園には()()トンデモゴーグルがあるんだぞ? 訓練機組も、墜落や激突の心配をせず訓練ができるとなれば、あれぐらい堂々と飛べるようになるだろうさ」

 

「「「「「あ~……」」」」」

 

ボーデヴィッヒに向いていた視線が、なぜが俺の方に軌道変更してきたんだが。

俺は学園側、というか織斑先生に嗾けられた山田先生に泣きつかれて、仕方なく高機動モードのプログラムを作っただけだぞ? なのになんでそんな目で見られなきゃならんのだ。解せぬ。

 

「あっ! なんか4組の子が!」

 

ふとモニターに視線を戻したデュノアが、驚いた声を上げる。つられて他の面子もモニターを見ると

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

キャノンボール・ファストはバトルレースの名前通り、武器を使用した妨害もアリのレースである。そのため2組の選手も、4組の選手に向けてラファールのヴェント(アサルトライフル)を撃っているのだが

 

「な、なんなのよ! なんでこっちが撃ってるのに避けな「チェストぉぉぉぉ!」きゃあぁぁ!」

 

4組の選手は弾幕を最小限で避け、いや、命中弾が最小限になるように真正面から突撃をかけ、打鉄の()を上段に構えた状態から振り下ろし、相手選手をISごとコースの壁に縫い付けた。

 

「お、おかしい! 普通弾幕を避けるわよね!? なんで突っ込んで来るのよ! 怖くないわけ!?」

 

それを見ていた1組や3組の選手も顔を青くする中、4組の選手が言い放つ。

 

「そんなの、あの地獄に比べたら……」

 

 

(回想開始)

 

「とうとう明日が本番かぁ」

 

「頑張ろうね」

 

HRが終わった放課後、訓練機組として選抜された二人が話していると

 

「お二人さん、ちょっといいか?」

 

「宮下君? 何、明日の大会に向けて激励でもしてくれるの?」

 

「まぁ、本番二人に勝ってほしいって意味では激励か」

 

「「?」」

 

陸の言うことがいまいち理解できない二人が首を傾げる。すると

 

「まずはこれを着けてくれな」

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

有無を言わさず何かを被せられた二人。そして一瞬意識が飛んだと思った時には

 

「あれ? ここ、アリーナ?」

 

「仮想世界じゃない? たぶん宮下君に被せられたの、VRゴーグルだよ」

 

「ああ、確かにそうかも」

 

「というか、いつも一人で使ってたから知らなかったけど、二人同時に使うと同じ仮想世界に入れるんだね」

 

「あ、ホントだ」

 

実際は陸が今回のために調整したゴーグルを使っているからであり、各クラスに配布されたゴーグルでは使用者同士が仮想世界で出会うことはない。

 

『二人とも、聞こえてるかー?』

 

女子二人が納得していると、どこからともなく陸の声が聞こえて来た。

 

「宮下君? これ一体どういうこと?」

 

『明日競技に参加する二人に、俺から仮想の訓練相手を提供しようと思ってな』

 

「仮想の訓練相手?」

 

『そうだ。二人にはこれから、()()()を相手に戦ったり逃げたりしてもらう』

 

すると二人の正面、5mほど先の空間にノイズが走り、次の瞬間にISが1機出現していた。そのISは――

 

「「さ、更識さん!?」」

 

二人の前に現れたのは、打鉄弐式(シングルドライブver)に乗った簪だった。

 

「ど、どどどどういうこと!?」

 

『ちなみにその簪は偽物、昔の弐式のデータに戦術AIを乗せただけの代物だ。たぶん実力的には、今の本物の4割にも満たないんじゃねぇかな』

 

「いや、4割以下って言われても……」

 

「相手が出禁食らうほどの専用機とか、嫌すぎなんですけどぉ……」

 

『それじゃあさっそく、模擬戦開始な。大破しても仮想世界ならすぐ直せるから、間髪入れずに訓練できるぞ』

 

「「ガン無視!?」」

 

二人の背筋に、冷たいものが走る。

 

「それって、1時間(ゴーグルの制限時間)みっちり模擬戦し続けるってこと……?」

 

「きゅ、休憩はあるんだよね!?」

 

『安心しろ。大破したら10分のインターバルを入れる予定だから』

 

「はぁ、良かった……」

 

大破ごとに10分の休憩が入るなら、多くて3,4試合ぐらいだろう。そう思った二人は

 

 

『今回のゴーグルは10分1時間設定だから、6時間みっちり訓練できるぞ』

 

 

「「……っ!!」」

 

陸からの情報に、声にならない悲鳴を上げた――

 

(回想終了)

 

 

「「だからあんた達も、豚のような悲鳴をあげろぉぉぉぉぉ!!」」

 

「「「理不尽!?」」」

 

抗議の声を後目に、4組の二人が他の選手を追い立てる。

山嵐の全弾斉射にボロボロにされた恐怖、夢現に滅多打ちにされた恐怖、背後から首を掴まれてメメントモリを照射された恐怖――

彼女達にも、自分達が受けた恐怖をお裾分けするかの如く。

 

ある者には先ほどの3組生徒と同じように、上段から斬撃を叩き込み。またある者には、至近距離からレイン・オブ・サタディ(ショットガン)を撃ち込み。

 

「だっしゃああああ!」

 

「なっ!? がはっ!」

 

アサルトライフルの銃床で脳天をぶん殴るという荒技まで出てくる始末。

気付けばレース参加者8人の内、まともに飛んでいるのは4組の2人だけになっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「勝ったな」

 

「勝ったな、じゃねぇよ!!」

 

おいこらやめろ一夏、肩掴んでガクガク揺らすな、今朝食ったもんが出てくるから!

 

「宮下君、織斑先生から改造禁止令が出たと思ったら、そんなことしてたんだ……」

 

「転んでもただでは起きん奴だな」

 

「というか、他人の足掴んで転ばしにかかってるでしょ、これ」

 

「簪を出禁にして俺を暇にした運営が悪い」

 

「ええ~……そこに責任転嫁するのかよ……」

 

俺以外の顔が引きつってるが、俺悪いことしてないぞ? ()()()()()()()()()()()()クラスメイトの訓練を手伝っただけですしおすし。

 

 

『宮下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

どこかで織斑先生の呪詛が聞こえた気がしたけど、気のせいだな気のせい。

 

 

『陸君……』『陸……』

 

 

楯無さんと簪の諦め声も聞こえた気がしたが、き、気のせいだろ……。




ちーちゃんの敗因:陸を自由にしていた

原作からレースの順番を変えています。本来なら
二年→一年専用機→一年訓練機→三年
の順番なんですが、どうせエムの襲撃もないですから、学年順でやることにしました。

次回は専用機の部ですが、陸本人がいるのに荒れないはずもなく……

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