生徒会室からアリーナに戻ってくると、打鉄弐式を纏った簪とのほほんが待っていた。
「りったんおかえり~」
「おう、ただいま。準備は万端みたいだな」
「うん。……ところで陸、どこ行ってたの?」
「ああ、生徒会室にな」
「生徒会室……お姉ちゃんに会ったの?」
「お前との決闘についてとか、まぁ色々話があってな」
俺は簪とのほほんに、生徒会室であったことを話した。
「そう……来週以降になるんだ……」
「かんちゃん、おりむーについては……」
「大丈夫、本音。彼に当たっても仕方ないことは、分かってるから」
不安顔ののほほんにそう返しているが、あまりいい感情は持ってないな。やっぱ理性と感情は別物か。
「今はそれより、飛行テストをやっちまおうぜ。アリーナの予約時間も有限なんだしな」
「そうだね……」
「う、うん。それじゃあ準備始めるね~」
場を紛らわそうと俺が話を変えると、二人もそれに乗ってそそくさと準備を始めた。さて、俺も測定器とか準備するか。
――5分後
「それじゃあかんちゃん、今回が打鉄弐式の初飛行だから、最初はゆっくりね~」
「うん、分かってる」
そう言って頷いた簪は、PIC制御で中空に浮かぶと、ゆっくりと上空に加速していった。
ここまでは順調、だな。
俺は通信装置(ISのプライベート・チャネルにも繋がるらしい)を手に掴むと、打鉄弐式に繋いだ。
「簪、聞こえるか?」
『うん、聞こえてる』
「打鉄弐式に何か変なところは無いか? 異音とか振動とか」
『問題ない。普通の打鉄より、スムーズに飛んでくれてる』
「そうか。なら、さらに少しずつ加速してみてくれ」
『分かった』
通信が切れると、打鉄弐式はカスタム・ウィングの出力を上げて、アリーナの内側を回るようにさらに加速を始めた。
「さらに速度上昇……今、打鉄の最大速度を超えた」
「お~! やった~!」
俺の計測結果を聞いて、隣で双眼鏡を持ったのほほんがピョンピョン飛び跳ねていた。
おいおい……喜ぶのはいいが、ちゃんと打鉄弐式からの信号は確認しててくれよ?
「簪、一度戻っていてくれ」
『分かった……一つだけ、試してみたい事があるんだけど、いい?』
「試してみたい事? 危ない事じゃねぇよな?」
『大丈夫、弐式を壊すような真似はしない』
「……まぁいいか」
そう俺が了承すると、簪はこちらに戻って来て――待て、どうして減速しない?
どんどん俺達と簪の距離が近づいて……って、おいおい待て待て待て!
「ちょ、おま!」
――ブワッ
簪が急減速で停止したのは、俺との距離50cmやそこらだった。
「おま! 危ねぇじゃねぇか!」
危ない事じゃないって言ったよな!?
「陸を驚かせたかった。それに『弐式を壊すような真似はしない』とは言ったけど、危なくないとは言ってない」
「確かに、りったんの驚く顔はレアだよ~」
「お、お前らなぁ……」
「急減速の試験も出来たし、万事問題なし」
「そうだね~。フレーム負荷も許容範囲内だったし、飛行テストは大成功だよ~」
ダメだ、こりゃ何言っても多勢に無勢だ。
「分かった分かった。それじゃあ今日のテストはここまでにして、後日武装のテストをするか」
「武装……春雷はともかく、山嵐はさすがに……」
「う~ん、訓練機も借りられないから、夢現のテストも難しいかな~……」
対戦相手がいないと、薙刀の素振りぐらいしか出来ないもんなぁ。
「仕方ない、当分は春雷の動作確認を兼ねた射撃訓練を重点的にやるか」
「それしかない、かも」
「そだね~」
俺達3人は頷くと、計測機材等を片付けてアリーナから撤収した。
ーーーーーーーーー
「すごかったですね……」
「ええ、予想以上だったわ」
管制室からこっそり覗き見してたけど、簪ちゃんの真剣な顔、良かったわ~……じゃなくて!
「打鉄弐式。たった1日で組んだとは思えない出来だったわ」
「はい……本音も参加しているはずですが、それだけであれだけのものが出来上がるとは思えません」
「あら、姉としての贔屓目はないの?」
「贔屓目を勘定に入れても、です」
「つまり、宮下君の影響が大きいと」
「私はそう考えます」
「そうなるわよねぇ……」
私が知ってる中でも、本音は学園内で虚に次ぐメカニックだ。それを超える能力を持ち、希少な男性操縦者、か。
「お嬢様、彼を更識の家に取り込もうなどと、変な気を起こしませんよう」
「分かってるわよ。そんなことしたら――」
「アームロックですね」
「いい加減それから離れてくれない!?」
何!? 私ってもう宮下君にアームロックされるキャラで固定なの!? 実際まだ2回しかされてないわよ!
「ですが、あの打鉄弐式でも……」
「ええ、私の
残酷だけど、それが現実だ。虚から聞いている打鉄弐式の武装の内、警戒するべきは山嵐だけ。しかも、今の24本じゃない、48本フルスペックの場合だ。
現状では、ミステリアス・レイディを墜とすには、まだ足りない。
「まだ1週間以上あるんだし、何か手を打つんじゃないかしら」
「そう、ですね」
「とりあえず見るもの見たし、私達も引き揚げましょう」
「はい」
ーーーーーーーーー
――整備室
「それでは、打鉄弐式の強化を行いたいと思いまーす」
「お~」
「なんで!?」
簪、ナイスツッコミ。
「飛行テストも成功したのに、どうしていきなり強化って話になるの!?」
なんか最初の頃に比べて、簪の根暗っぽさが無くなってる気がするな。良い事だ。
「いやぁ、お前の姉ちゃんのISについて調べたんだが、ありゃエグいわ」
「たっちゃんのIS、そんなになの~?」
「ああ、エグいもエグい」
というかのほほんよ、パイセンってお前ら布仏の主家なんだろ? その呼び方でいいのか? ってそれを言ったら簪もなんだが。
「ナノマシンで水を操って防御フィールドを常時展開、しかもその水を水蒸気爆発させてリアクティブアーマー化。これだけでもエグい。さらに水を高周波振動させて武器に纏わせることで、切断力や貫通力をアップ。さらにエグい」
学園内で調べられる範囲でもとんでもない。今の打鉄弐式じゃ勝ち目が薄い。……やる前から『勝ち目は無い』なんて言うつもりはないぞ。
「うわ~……」
「……」
俺の話を聞いた二人も若干引いている。気持ちはわかる。
「とはいえ、今からゴテゴテと新装備をつけても簪の負担が増えるだけだ。だから出力配分やスラスターの調整による機動力強化だけに留めようと思う」
「そうだね~、かんちゃんには予定通り、春雷や夢現の訓練に集中してもらった方が良いかも~」
「うん。私もそう思う」
意見が一致したところで、俺とのほほんが機体の調整、簪が動作を確認する作業を、整備室が閉まる時間ギリギリまで続けた。
「出来れば春雷は、早めに射撃試験してぇなぁ……」
「どうして~?」
「いやぁ、
「りったん……それって、最悪春雷無しでたっちゃんと戦うことになるんじゃ~……」
「陸ぅ……?(ギロリ)」
いやいや簪さん! 怖いから! その睨み方は怖すぎるから!
「だ、大丈夫だって! もし動作確認時に動かなかったとしても、決闘当日までには間に合わせるから!」
「安請け合いは、いけないと思う……」
まーだ簪はジト目で見てくるが、問題ない。何故なら
「(授業全部)サボりも、(夜中整備室に不法侵入して)徹夜も、あるんだよ」
「危ない発言しかない!?」
「クラスのみんなには、内緒だぞ☆」
「こんなの絶対おかしいよ!」
「二人とも、仲がいいね~」
なお後日、春雷の試射をしたところ
――ドォンッ!
「問題無かったね~」
「ああ、そうだな(チラリ)」
「私悪くない……」
簪の膨れっ面が印象的だった。