そして"蹂躙"ということは……
陸のトンデモ武装によって大荒れに荒れた専用機の部と違い、2年の部は実にレースらしいレースになっていた。
「さすがIS学園の生徒会長か、飛行技術もコース取りも無駄がないな」
ラウラが格好良く言っているが、ピットの長椅子に横になったまま、未だ立てないでいる。というか、あの極太ビームを食らった4人とも、自力で立てない状態だ。陸、やり過ぎ。
「確か、2年には楯無さん以外にも専用機持ちがいるんだったよな?」
「そうだよ。ギリシャの代表候補生の先輩だね」
「その割には、あの会長が独走してるわよね?」
「そうですわね……」
ピット内のモニターを見ても、先頭に楯無さん、その後ろに見たことのないIS――たぶんあれが、ギリシャの専用機だろう――が飛んでいて、そのまた後ろを打鉄やラファールの集団が追っている形だ。そしてその列は、スタートダッシュの時点から崩れていない。終始楯無さんがトップをキープしている。
そしてその流れが変わることはなく、楯無さんが1位でゴールを決めた。2位はギリシャの専用機持ちの先輩、3位はサラ・ウェルキンという、セシリアと同郷の先輩が入賞した。
ーーーーーーーーー
2年の部が終わり、休憩時間を挟んで3年のエキシビジョン・レースが始まる。
そして機体性能から、私はこのエキシビジョンに参加することとなった。
「よう、お前が競技を出禁になった1年だって?」
ピットで弐式を展開して準備をしている最中に声を掛けられて振り向くと、両肩に犬頭の形をしたダークグレーの装甲をしたISに乗った、金髪の人がいた。確か
「アメリカ代表候補生の、ケイシー先輩でしたか?」
「おう、よく知ってたな。ダリル・ケイシーだ、よろしくな」
「更識簪です。ケイシー先輩の事は、2年のサファイア先輩共々『イージス』として有名ですから」
目の前にいる先輩と、2年のギリシャ代表候補生の先輩とのコンビネーションは、学園で少し調べれば出てくるぐらい有名。曰く、学園最強の生徒会長ですら攻めあぐねるほとどか。
「競技に出られなくなったのは残念ですけど、その分エキシビジョンで
「へぇ、お披露目ねぇ。色々噂は聞いてるが、そのISの性能、間近で見せてもらうぜ」
「ご随意に」
面白くなってきた、と言い残して、ケイシー先輩は一足先にピットを出て行った。
「あれが、ヘル・ハウンド」
炎を操る能力を持つISで、先ほどのギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアの氷を操るIS『コールド・ブラッド』と合わさることで、『イージス』と呼ばれる鉄壁の連携が生まれる。今回はヘル・ハウンド単体だけど、油断はしない。
「さ、更識妹……」
「織斑先生?」
ピットに入ってきたのは、2年の部が始まる時に簡易医務室に送った織斑先生だった。
「大丈夫なんですか、まだ寝てた方が……」
「いや、レースが始まる前に、言わなければならないことがある……」
胃痛で脂汗が頬を伝う状態にも関わらず、言わなきゃならないことって?
「更識妹、頼むから、頼むから"レース"をしてくれ……」
「はい?」
何言ってるんだろうこの先生は。
「いくら妨害アリとはいえ、他の出場選手を殲滅するような真似は止めてくれ……」
「ああ……」
そう言われて思い出すのは、訓練機の部と専用機の部だ。特に訓練機の部では、最終的に4組以外選手がいなくなっていたし。
「えっと……分かりました。山嵐もGNファングも、拡張領域に入っている拡散レーザー砲も使いません」
いくらエキシビジョンとはいえやり過ぎは良くないと、織斑先生を見て今更ながら思った。
「おおっ、すまんが頼む……」
私の回答に満足したのか、先生は膝をガクガク震わせながら、医務室の方に戻っていった。
「……うん、今回武装は夢現だけにしよう」
あと、GNドライブも片方だけにして、瞬時加速も封印。これなら、ちゃんとしたレースになるはず。
『これより、エキシビジョン・レースを開始します。参加者はスタートラインまで移動してください』
「行こう、打鉄弐式」
右腕の装甲を左手でポンポン叩くと、私もピットを出てスタートラインに向かって歩き出した。
『
ーーーーーーーーー
正直、オレはこんなレース興味なかった。だからフォルテと同じように、適当に飛んで茶を濁す気でいたんだが、気が変わった。
あの1年生、更識簪だったか。あの眼鏡娘の実力を試すいいチャンスだ。
(見せてもらうぜ。
3年がオレを含めて8人。そして右端に件の1年が並ぶ。そして選手がスタートラインに揃ったところで、シグナルランプが点灯し、
一斉にスラスターを吹かせて飛び出した。
「やるなぁ!」
スタートダッシュで他の連中を出し抜いたと思ったんだが、あの眼鏡娘、オレより頭一つ前にいやがった。
「この打鉄弐式は、機動力重視ですから」
「面白ぇ!」
――ピーッ!
――ドドドッ!
「おっと!」
ハイパーセンサーの警告音で横ロールした直後、マシンガンの弾が通り過ぎる。
「オレはこいつと勝負がしたいんでな。悪ぃが退場しててくれや」
両肩の犬頭が口を開き、後方に火炎をまき散らす。
「わわっ!」
「熱っつ!」
後ろを飛んでた連中は、オレの炎の壁を突破できずに足止めを食っている。しばらくそのままでいてくれ。
「さて、それじゃあオレと、勝負してもらおうか」
「レース、しないんですか?」
眼鏡娘が驚いた顔をしてる。
「オレはレースなんざ興味ねぇんだよ。いっちょ一騎打ちといこうぜ!」
「ええ~……、私は織斑先生に『レースをしてくれ』って」
「問答無用!」
そっちがやる気ないなら、やる気にさせるまでだ!
双刃剣『
――ガキィィンッ! ガキィィンッ!
オレが振り上げた双刃剣を、薙刀で上手く捌きやがる!
火炎も躱され……おい。
「お前、手ぇ抜いてるだろ……?」
「えっ?」
「なんでその薙刀しか使ってねぇんだよ! ふざけてんのかっ!?」
「だって、これレースだから……」
「あぁっ!?」
なめやがってぇ……!!
「いいからお前の全力を見せやがれ!」
「ええ~……織斑先生に怒られ――」
「いいからやれ!」
「……分かりました」
諦めたような顔をして、眼鏡娘がオレの方に向き直る。やっとやる気になりやがったか。
「もし織斑先生に怒られたら、ケイシー先輩も一緒に怒られてもらいますからね」
「別に構わねぇよ。怒られることには慣れてるんでな」
「そうですか。それでは――」
「GNドライブ、起動」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
エキシビジョン・レースが終わるとすぐに、オレは叔母に、亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』のリーダーであるスコール・ミューゼルに連絡を入れていた。
『組織を抜ける? 貴女何を言って――』
「ごめん」
そして向こうの返事も聞かず、通信を切った。悪い、叔母さん……。
「ダリル、どうしたっスか?」
振り向くと、フォルテがオレの顔を覗き込もうと上を見上げていた。
「なんでもねぇよ」
いつものように軽快に笑いながら、フォルテの頭をわしわしと撫ぜる。
「あーもう! 髪がボサボサになるっスよぉ!」
「そん時はまたオレが梳かしてやるよ」
そうしながら、オレはエキシビジョン・レースの事を思い出した。
1年の眼鏡娘と一騎打ちをして、それから……
装甲を破壊されて、頭を掴まれて、その直後に――アカグロイヒカリガ……!
「んぐぅっ!」
「だ、大丈夫っスか!?」
咄嗟に、こみ上げてくる吐き気を抑えつける。フォルテが心配そうに顔を覗き込んでくるが、それどころじゃねぇ。
(スコール叔母さんは、亡国機業は、あんなのを敵に回すつもりなのか!?)
あんなのと実戦でやり合うなんて、絶対に御免だ。
(あんなのと戦うぐらいなら)
運命だとか、炎の家系であるミューゼルの呪いだとか関係ねぇ。叔母さんには悪いが、オレはまだ――
「ダリル……?」
まだオレの顔を覗き込むフォルテを
――ガバッ
「ダ、ダリル!?」
オレは抱き締めていた。フォルテの体温を感じるたびに、さっきまでの恐怖が薄れていくのを感じる。
(このままフォルテと一緒に、学園にいよう)
もしかしたら組織の報復があるかもしれねぇが、その時は『イージス』の力を見せつければいい。
亡国機業のエージェント、レイン・ミューゼルは死んだ。今ここにいるのは、アメリカ代表候補生、ダリル・ケイシーだ。
まさかのダリル姐さん脱落のお知らせ。今後出番があるかは怪しいところ。
ちなみにダリルん、君が戦った打鉄弐式、GNドライブ片方しか使ってない上に、ミサイルもファングも使ってないんだよ?(悪魔のような笑顔)