『マァァァァベラス!!』
「だから声量下げろって前にも言っただろ駄女神ぃ!」
タッグマッチを明後日に控えたある日の晩、駄女神シギュンは無駄にハイテンションだった。
『ついに、ついに一夏様のハーレムが始動したのです!!』
「ああ、そうかい」
『大儀でした』
「なんか偉そう」
『偉いのです私は』
こんなのが神様とか、世の中間違ってると思う。どう考えても、ただの厄介オタクでしかないだろ。
『まぁ貴方のように女一人愛するのがやっとの男と一夏様とは、格が違うでしょうし理解ができないのも仕方ないことです』
ひでぇ言い様だな。確かにあの5人を相手してピンピンしてる一夏に対しては、ある意味格が違うとは思ってるが。
「シギュンさん?」
『なんですか眼鏡娘』
「陸の格が、何ですって?」
『……イエ、ナンデモアリマセン……』
「簪、ステイステイ」
なんか真っ黒なオーラが出てるから。通話先の駄女神を呪殺しかねないぐらい禍々しい気配が出てるから!
『わ、私を恐怖させるなんて……ロキってば、何が『人間って奴は面白い』ですか、全然面白くありませんわ……!』
簪にガクブルした事実は、駄女神のプライドを傷つけたらしい。今回関係ない怒りがロキを襲う――!!
「それで? アンタからしたら、もう一夏は最高の存在になったんじゃねぇのか?」
「最近の織斑君は訓練にも熱心になったし、ファンの子も増えてるらしいし、さらに篠ノ之さん達とも名実ともに恋仲になったし」
簪が挙げていったように、一夏は入学当初とは見紛うばかりに成長している(織斑先生談、なお本人には言うなと釘を刺された)。そして篠ノ之達を"抱いた"今、もはやかつての一夏はいない。織斑から『オリ斑』へと変貌を遂げたのだ。そういう意味では、『オリ斑育成計画』は成功したと言ってもいいだろう。
『いいえ! まだ足りないのです! 雄として
「……つまり、もっと一夏に女を抱かせろと?」
『有り体に言えば!』
ぶっちゃけたぞこの駄女神。
「言っとくが、俺は女衒じゃねぇんだ。一夏のことを好きでもない奴をくっ付ける気はねぇぞ」
確かに篠ノ之達を嗾けはしたが、それは一夏があいつらのことを意識してたからだ。じゃなかったら、あんな面倒なことしてねぇ。
「う~ん、織斑君を好きだって子はいるだろうけど、逆に織斑君が好きになりそうな子っていうと……」
「俺の認識では、五反田妹ぐらいじゃねぇか?」
以前レゾナンスで知り合った五反田蘭。脈があるとすれば奴ぐらいだろう。それにしたって、一夏が蘭の好意に気付いてるか正直怪しい。
「たぶん、凰さんと同じパターンな気がする」
「あ、それか」
『一夏様が目覚めたのが貴方と出会ってからですから、食堂娘に好意には気付いていない可能性が高いでしょう』
「食堂娘?」
『ええ。あの兄妹の実家は『五反田食堂』なるものを営んでいるそうなので』
「へぇ……」
弾達の家は食堂やってんのか。今度の休みに冷やかしがてら食いに行ってみるか。というか駄女神。お前『眼鏡娘』だの『食堂娘』だの、名前覚える気はさらさら無いのな。まるで束だな。
『あと脈があるとすれば、貴方達の学園にいるオッパイ魔人でしょう』
「お、オッパイ魔人?」
「……大体見当つくのが悲しいな」
「もしかして、山田先生?」
「それ以外いないだろ」
山田先生を頭の中で想像したのか、簪が納得した顔をしながら殺意のオーラを……ってやめぃ!
「……陸も、オッパイ大きい方がいいのかな……?」
「別に俺は、簪が何カップでもOKだが?」
「陸……」
『私の前でイチャラブするとか、いい度胸してますね……#』
おっと、出歯亀がいるのを忘れてた。
『というわけで、次はうまくオッパイ魔人を一夏様に嗾けてください』
「やるの前提かよ……」
「陸、織斑君の意思を確認してからやろう」
「当たり前だ」
さっきも言ったが、一夏が好きでもない奴を嗾ける気は無いし、やっても両方不幸になる未来しかないからな。
『……分かりました。詳細はそちらにお任せします』
めっちゃ不満そうな声を出しながら、駄女神との通話が終了した。あいつ、俺を一夏の世話役と勘違いしてねぇか? 奴に女を宛がう役目なんか負った記憶はねぇぞ。
「それにしても、山田先生かぁ……」
「なんだろうな、容易に想像できる組み合わせなんだが……」
俺の頭の中で、膝枕と胸部装甲のサンドイッチで一夏を甘やかす山田先生のシーンが再生された。うん、普通にあり得そう。
簪も俺と似た想像をしたのか、若干目のハイライトが消えていた。俺の嫁が時々怖い。
「陸」
「ん?」
――ポンポンッ
無言の簪に促されて、俺は膝枕を堪能(強制)したのだった。……簪さんや、横になってる俺の腹筋周りを弄るのは止めてくれ。めっちゃ手つきがエロいねん。
ーーーーーーーーー
翌日、寮の食堂で朝飯を食っていた俺達の目の前で
「一夏ぁ♡」
「あの、箒? 利き腕掴まれると飯が食べづらい……」
「いいなぁ箒」
「そういうシャルロットさんだって、一昨日はお楽しみでしたでしょうに」
「そうだぞシャルロット。順番だ」
「そもそも、喧嘩にならないようにってローテを決めたのはアンタでしょ」
ものの見事に、一夏ハーレムは爛れていた。
「みんな爛れてるよ……」
「かんちゃん、人のこと言えるの~?」
「私と陸は違う。愛欲じゃなくて愛情」
「何言ってるか分かんないよ~……」
ドヤ顔簪に呆れ顔のほほん。
「あ、みんな揃ってますね」
「山田先生」
食堂の入口で俺達を探してたのか、山田先生がこっちに近づいてきた。
「明日のタッグマッチですが、8時半までに第4アリーナに集合してください。当日くじ引きで対戦表を作ることになっています」
「当日決めるんですか?」
「はい。2学年と3学年には連絡済みで、あとは1学年だけだったんですが、みんな揃ってて良かったです」
「簪とのほほんが急遽参加することになったことも?」
「はい。それを聞いた3学年のケイシーさんが、何故か震えていましたが」
「「「「「残当」」」」」
「えぇ?」
一夏達の即答に、山田先生が困惑した顔をする。山田先生も簪と模擬戦すれば理解してもらえるかもな。
そうだ、ついでだから聞いておくか。
「山田先生」
「なんですか?」
「一夏の嫁になる気あります?」
「陸!?」「「宮下!?」」「「宮下君!?」」「宮下さん!?」
案の定、簪とのほほん以外から悲鳴のような声が出た。
「な、ななな、なにを言うんですかぁ!?」
山田先生が顔を真っ赤にして抗議するが……なんだろう、照れ隠しに見えるのは俺だけか?
「ちなみに一夏はどうなんだ?」
「それ聞くか!? 箒達がいる俺に聞くのか!?」
「じゃあ篠ノ之達は?」
話をハーレム連中に振ると
「これ以上嫁の嫁が増えるのは不本意だが……」
「一夏さんを好きになるのは仕方ないことですし……」
「僕達がダメとは言えないよ」
消極的肯定の声が。というより、『そこでダメって言ったら、私達はどうなの?』って話になって拒否れないというのが正しいか。
「あの、さすがに教師と生徒でそういうのはダメですから……」
「そうだぞ陸、俺と山田先生とか、あり得ないだろ」
「……」
山田先生、一夏にそう言われて悲しそうな顔するなら、そんな建前言わなきゃいいだろうに。
「お前達、何を騒がしくしている」
そんな中、さらに織斑先生が現れる。
「実はかくかくしかじかで……」
「……はぁ、どう考えても山田先生に迷惑がかかるだろ」
「そ、そうですよね!」
色々なことを誤魔化すように、一際大きな声で合の手を入れる山田先生。
「でも織斑先生、考えてみてくださいよ」
「何をだ?」
怪訝な顔をする織斑先生に、俺はまるで唆すように
「あの5人が先生の義妹になるのはほぼ確定として、そのまとめ役は誰がするんでしょうねぇ?」
「……っ!」
「あ、あの、千冬姉?」
俺の言葉でフリーズした織斑先生は、一夏に揺らされて再起動すると
「真耶! 不束な弟だが、よろしく頼む!」
「先輩ぃ!?」
まるで弟を嫁に出すかのような姉のセリフに、山田先生も学生時代に使っていたのだろう呼び方に戻っていた。
結局、山田先生は一夏ハーレムに加入せずに終わった。やはり『教師と生徒』という壁は大きいようだ。
それなら仕方ない、山田先生は縁が無かったということで。
『なぜそこで諦めるのですか!?』
……なんか駄女神の声が聞こえた気がしたが、気のせいだ気のせい。
ただ簪に膝枕をさせたい回だった……。
そして簪さん、とうとう駄女神すら凌駕する予兆が。今日の(も)簪は、阿修羅すら凌駕する存在だ!
山田先生は(作者が途中で血迷わなければ)一夏ハーレムには入らない予定です。あんまり増やすと収拾が……。