タッグマッチ決勝戦。俺と楯無さんの前には、簪とのほほんの姿。
「簪ちゃん、今回は勝たせてもらうわよ」
「そう簡単に、負けてはあげられない」
二人にはそれで十分なのか、お互い蒼流旋と夢現を構える。
「二人とも、私達そっちのけだよ~……」
「仕方ないな、こっちはこっちでよろしくやるか」
「え、遠慮したいな~……」
「まぁそういうなって」
俺が長船を構えると、のほほんも渋々テールブレードの自動防衛モードをONにする。
そして――試合開始のブザーが鳴った。
ーーーーーーーーー
――ドォン!
――ドドドドッ!
試合開始と同時に、私が春雷、お姉ちゃんが蒼流旋のガトリングガンによる撃ち合いが始まる。奇しくも、かつての決闘と同じ始まり方だ。
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時とは違う。今回は、最初から本気で行くわ」
そう言うと、ミステリアス・レイディのアクア・クリスタル――ナノマシンを含んだ水を生み出す、製造プラント――の色が赤に変わっていく。
「麗しきクリースナヤ、接続完了」
クリスタルだけじゃない、周囲に展開されている水のヴェールも、赤色に染まっていく。
「さあ、行くわよ!」
「っ!」
蒼流旋からの突き……ううん、違う!
「ミストルテインの槍!」
――ドゴォォォォォンッ!!
「くぅっ!」
咄嗟に回避行動したそばから爆風に吹き飛ばされ、私はアリーナの壁に背中から激突した。
「そんな……その技はチャージ時間があるはずなのに……」
「これがミステリアス・レイディの高出力モード『麗しきクリースナヤ』、私の切り札よ」
説明しながらも、蒼流旋にまた水のヴェールが集中し始める。嘘、ミストルテインの槍を連発できるの……!?
「くっ! ファング!」
慌てて10基のビットを射出、ミステリアス・レイディを狙って――
「ふふっ、そう簡単にはいかないわよ?」
その瞬間、ミステリアス・レイディの周囲が爆ぜて、ビットが爆風に煽られてあらぬ方向に飛んでいく。
(
どうして気付かなかったのか。ミストルテインの槍を連発できるぐらい瞬間的にアクア・ナノマシンを製造できるなら、水蒸気爆発を起こす分ぐらい瞬時に生み出せることに……!
「言ったでしょ、今回は最初から本気だって」
笑いながらも真剣な眼差しのお姉ちゃんを見て、痛感した。
私は、慢心していた。以前勝ったことがあるからと、心のどこかで気を抜いてたんだ。だから、こんな簡単に押し込まれる。
あの時に比べて、弐式は格段に強くなった。それなのに、それを操縦する私は気を抜いて、慢心して……無様にも程がある。
「ふぅ……」
――パァァンッ!
「か、簪ちゃん!?」
思いっきり叩いた頬は痛いけど、これで目が覚めた。
「お姉ちゃん。ここからは、私も本気を出すよ」
夢現を展開して、GNファングはバインダーに戻す。GN粒子はスラスターに全振り。
――ヒュンッ!
「っ!」
「まだまだぁ!」
――ヒュンッ! ヒュンッ!
高速移動からの斬撃を繰り返して、ミストルテインの槍を撃たせないように立ち回る。そして、斬撃からの突きが
――ザンッ!
当たった!?……でも、手応えが、ない?
「ざ~んねん」
「なっ……!」
目の前のお姉ちゃんが、霧になって消える。まさか、水で作った分身!?
そんな風に驚いている私を嘲笑うように、残った霧が大爆発を引き起こす。
「うぐ……」
何とか凌いだけど、ミストルテインの槍の分も含めて、かなりSEを削られた。
(お姉ちゃん、やっぱり強い……)
春の決闘で勝てたのは奇跡だったんだって、改めて思う。
「これだけやってまだSEが半分もあるなんて、陸君もずいぶん頑丈に作ってるわねぇ……」
爆発した分身から離れたところにいたお姉ちゃんが、呆れたような顔をしていた。たぶん、私の斬撃を躱してるどこかのタイミングで入れ替わって、その後は私の視界に入らないように立ち回っていたんだろう。
「GNドライブを積む時、いっぱい補強したから」
「なるほど」
私の回答に頷くと、再度槍を構え直す。
「そろそろ決めさせてもらうわ。『麗しきクリースナヤ』も、そろそろ時間切れが近いみたいだし」
「そうみたいだね」
私から見ても分かるように、さっきまで赤かったミステリアス・レイディが、少しずつ元の青色に戻っていく。
だからその前に、お姉ちゃんはミストルテインの槍を放つ気だろう。
「なら、私もこの一撃に全てを掛ける」
今まで推力に回していたGN粒子を右腕、メメントモリに集中させる。
「ミストルテインの槍!」「メメントモリ、起動!」
お互いの全力がぶつかろうとしたところで――お姉ちゃんが、消えた。
そして次の瞬間、私の意識も消えた。
ーーーーーーーーー
「たっちゃんもかんちゃんも、ドンパチやってるね~」
「どっちかって言うと、楯無さんが爆発させまくってるな」
試合開始のブザーが鳴ってからこっち、俺とのほほんは蚊帳の外になっていた。
というか、楯無さんあんな強かったのか。マジで春の決闘は勝てたのが奇跡だったんだな。
「さて、俺達もいい加減戦うとするか」
「ええ~、私は別にいいかなって~」
「いやいや、一応これも授業の一環らしいからな。サボりはいかんだろ」
「そんなこと「そんじゃいくぞ~」話を聞いてよ~!」
――ガキィィンッ!
のほほんの話を遮るように長船を振り下ろす。うん、テールブレードの自動防衛モードに遮られるな。
「も~! りったんのばか~!」
――ドドドッ!
怒ったのほほんが荷電粒子砲を放つが……やっぱり当たらんやん。俺、動いてないんだぜ?
「のほほん、せめて固定目標にぐらい当てようぜ……?」
「う~! こうなったら、数撃てば当たる作戦! ファイヤー! ファイヤー!」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
うわっ、のほほんお前、全弾打ち尽くす気か!? けど、そんな明後日の方向に飛んでく弾、当たるわけが――
「ぬるぽっ!」「がっ!」
「「え?」」
意味不明なセリフだが、聞き覚えがある声のする方に振り返ると……
「た、楯無さん!?」「か、かんちゃーん!?」
さっきまで真剣勝負をしていた二人が、揃って目を回して倒れていた。SEは……両方とも空っぽ。まさか、これって……
『宮下、布仏、落ち着いてよく聞け』
俺達が戸惑っていると、オープン・チャネルで織斑先生が通信を入れてきた。
『更識姉妹だが……布仏が撃った荷電粒子砲の流れ弾を食らってダブルK.O.だ』
「う、うわぁぁぁぁ! マジかぁぁぁぁ!」
「や、やっちゃった~っ!」
俺ものほほんも、これには頭を抱えるしかない。なんでこんな時に限って、百発百中なんだよバカヤロー! しかもフレンドリーファイアも百発百中だし!
『しかも、流れ弾の全てが頭部と胴体という、装甲外に当たったようだ。……布仏、確認だが、本当に狙ってやったんじゃないんだな?』
「ち、違います~!」
織斑先生が疑いたくなるのも分かる。普通あり得ないだろ。全弾装甲外とか、きっちり仕留めにかかってるやん。
「えっと、これからどうすれば~……」
『宮下と布仏で戦って、さっさと勝負をつけてくれ』
「デスヨネー」
二人が戦闘不能になった以上、それしかないよな。
「りったん……」
「のほほん、こうなったら仕方ない……」
俺は長船を地面に突き刺して手を離すと、
「学園最強姉妹を倒すような奴に勝てるわけねぇだろ! 俺は降参するぞ~~!!」
両手を挙げた。
『宮下選手のサレンダーにより、勝者、布仏本音、更識簪ペア』
「え? ええ!?」
「今日から布仏本音が学園最強! つまり新しい生徒会長だ~~!!」
「り、りった~ん!?」
学園最強の楯無さんを倒したんだから、のほほんが次の生徒会長だろ?
混乱するのほほんの腕を掴んで思い切り上げさせる。すると
「「「「生徒会長就任おめでと~~~~!!」」」」
ほーら、みんなのほほんを祝福してくれてるぞー(棒)。
「こ、こんなの……」
歓声の中、のほほんが俯いてプルプル震えだした。どうした? あまりの嬉しさに震えてきたか?
「こんなの絶対おかしいよ!」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
こうして全学年合同タッグマッチは、最後にのほほんが全てを掻っ攫う形で終了した。
ちなみに『
それと、のほほんは生徒会長就任を辞退した。
「嫌だよ~! 生徒会長になったら、お昼寝も満足に出来なくなっちゃうよ~!」
と、涙を鼻水を垂れ流しながら全力拒否。ある意味女を捨ててるんだが、そこまでしてやりたくないか、生徒会長。
「簪ちゃんとの真剣勝負だったのにぃ……」
「本音の馬鹿ぁ……」
その後、保健室で目を覚ました楯無さんと簪は、事の顛末を聞いて落ち込んだ。
「宮下君、どうしてあそこで降参したのぉ!?」
「そうだよぉ、あのまま戦えば勝てたかもしれないのに!」
俺は俺で、のほほん相手に降参したことを責められていた。主に俺と楯無さんのペアに賭けてた連中から。
うん、今回に関しては俺もちょっとお遊びが過ぎたと思ってる。だから正座は許してくださいません? そろそろ足が……。 あっこら突くな! マジでヤバいん――あふんっ
キャノンボール・ファストに続いて、今回もギャグエンドになっちゃいました。最初は更識姉妹のガチバトルになるはずだったんですがねぇ……のほほん、やってくれたぜ。
さて、次回から新章になります。原作通りだとワールド・パージ編ですが、現状束が仕掛ける意味が……どうしましょうね?