話が終わった後、私は楯無さんに案内されて、とある場所に来ていた。後ろには織斑先生が続く。カンザシさん――何度も"もう一人の私"って言うのもあれだから――はいない。
「生徒指導室……」
「まぁ、よほどのことが無ければ縁のない場所よね」
「いえ、ちょくちょく来てました。主に織斑先生に呼ばれて」
「ええ~……?」
楯無さんが形容し難い顔をしてこっちを見てくる。もしかして私、不良生徒と思われてる?
「大体は陸に巻き込まれてですけど」
「陸?」
「さっきお話しした、"2人目"です」
「宮下、それについては中で聞く。ここで話す内容ではないのでな」
「はい」
生徒指導室の中は元の世界と同じだった。パイプ椅子とテーブルがあるだけ。とりあえず適当な椅子に座ると、私の向かいに織斑先生、その隣に楯無さんが座る。
「さて、ここに来てもらったのは、寮では聞きにくい内容だからだ。さっきの2人目のことも含めてな」
「最初からここで話した方が良かったのでは?」
「……慌ててたんだ。気付かなかったことしてくれ」
当たり前のことを言ったら、織斑先生に目を逸らされた。学内でよく言われてる『パーフェクト・ウーマン』はどこに行ったんだろう……?
「それで宮下さん……うぅ、簪ちゃんと同じ顔だから違和感が……私達は、貴女のいた世界と、この世界にどれぐらい差異があるかを知りたいのよ」
「はぁ」
それは私も知りたい。いくら平行世界――元は同じ世界から枝分かれしたもの――だからと言って、向こうの常識がこっちでも通用するとは限らない。
「それじゃあ、私が知っている歴史をお話すればいいですか?」
「ああ。気になるところがあれば、逐次質問する」
「分かりました」
頷いて、私は白騎士事件、ISが登場してから今までのことを話し始めた。
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宮下――更識妹と瓜二つな奴――から聞いた話は、最初は普通に聞き流せる内容だった。
白騎士事件、篠ノ之束の失踪、女尊男卑の風潮。それらは全て、この世界と全く同じだからだ。だが、今年に入ってからの出来事が、あまりにも衝撃的だった。
「つまり、その宮下陸という男が、2人目の男性操縦者だと?」
「はい」
一夏がISを動かした後、全国で一斉検査が行われたが、それに続く者は現れなかった。この世界では。だが、別の世界では、もう一人の男性操縦者が現れたという。まずそこからして、衝撃的な差異だ。さらにそれだけでなく
「そ、それじゃあ、貴女の専用機は4月の時点で完成していたの!?」
「陸と本音に手伝ってもらって、入学後すぐに。山嵐だけは未完成でしたけど」
「……」
どうやらあちらの世界では、打鉄弐式はクラス対抗戦までには完成していたらしい。こちらでは学園祭後にようやっと、更識姉が一夏に頼み込む形で協力させて、さらに整備科の連中も巻き込んで完成させたのに、だ。聞いた感じでは、2人目はメカニックを自称していて、ISを動かすより作る腕の方がいいようだ。
そして話はクラス対抗戦に。
「織斑君と凰さんが戦ってる最中、無人機が乱入してきて……」
「そこはこちらの世界と同じか」
一夏と凰が協力して無人機を撃破したのも同じ。違うとすれば、こちらでは無人機の最後のあがきは一夏を狙ったのに対して、向こうでは観客席を狙ったことか。
「その後、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さんが織斑君に告白して」
「待て待て待てぇ!」
あの馬鹿共が、一夏に告白!? いつも意地とプライドで空回りしてるあいつらが!?
「その後、デュノアさんとボーデヴィッヒさんが転校してきて」
「さらっと流すな!」
「織斑先生、まずは話を聞きましょう」
「あ、はい」
更識姉に窘められるとは……。
その後の話はこちらとほぼ変わらない。ボーデヴィッヒが凰とオルコット相手に私闘をやらかしたところや、デュノアの正体――奴が実は男装した女だったこと――が一夏にバレたところも一緒か。
「織斑君とデュノアさんが織斑先生に相談して――」
「相談? あいつらが?」
「え? なら、デュノアさんの件はどうやって解決したんですか?」
「デュノアの件? いや、あいつが学園と協議して、女子生徒として再入学したと――」
「それじゃあ彼女はデュノア社と、アルベール社長との仲が拗れたままですか!?」
「あ、ああ……」
「そうですか……」
宮下が茫然として天を仰ぐ。『陸がいないだけで……』とブツブツ口にしているが、その2人目がいたから、向こうの一夏は私のところに相談しに来たのか。もしそうなっていれば、私のブリュンヒルデ時代の伝手を使って、別の結末もあったのかもしれんな。
そうやってしばらく天を仰いでいた宮下だったが、気を持ち直したのか、学年別トーナメントのことを話し始めた。
「ボーデヴィッヒさんのISが暴走して、それを私と陸、織斑君と篠ノ之さんの4人で止めました」
「なるほど、あの馬鹿が一人で吶喊したわけではないのか」
正確には一度吶喊した後、自分の力不足を悟って宮下達に頭を下げたと。今はそうでもないが、当時の一夏は考え無しの突撃しかできんイノシシだったからな。似た世界のはずなのにな。
「その後は臨海学校で、一夏君の白式が
「してませんよ?」
「ええっ!?」
まさかの事実に、更識姉が素っ頓狂な声を上げる。危うく私も上げそうになった。
「なら、どうやって福音を止めた?」
「陸が決死の覚悟で福音のスラスターを掴んでいる間に、私が」
「そうか……」
聞けば、向こうでは一夏の代わりに2人目が福音の砲撃を食らい、その後墜落したとか。
「それにしても、貴女は彼と仲がいいのかしら? 話を聞くに、ずっと一緒にいたみたいだけど」
「そうですよ。だって、私と陸は……」
更識姉の指摘に頷くと、宮下は右手の甲をこちらに見せて……いや、薬指に嵌ってるそれは、まさか……!
「だから"宮下"と呼ぶようにお願いしました。遠くない未来、
「「……」」
顔を赤くして両手を頬に当てる宮下に、私と更識姉、絶句。
「ちなみに織斑君は、嫁が5人います」
「ちょっと待てぇ!」
嫁が5人ってなんだ!
「ブリュンヒルデの弟で篠ノ之博士とも接点のある織斑君は、国連と国際IS委員会によって例外的に重婚が認められました」
「What !?」
「そして、専用機持ちの5人はめでたく、織斑君の
「嘘だぁぁぁぁ!!」
「簪ちゃんの顔でそんな話されたくなかったぁぁ!」
宮下からのカミングアウトに、頭を抱えたまま膝から崩れ落ちる。あの朴念仁が、5人まとめてとか、どうしてそうなった……!?
「その前に、学園祭で白式が
「えぇっ?」
そっちもどうしてそうなった……?
「こっちの世界では、学園祭に亡国機業って秘密結社が襲撃してきたんだけど、そっちは?」
「同じですね。アラクネとサイレント・ゼフィルスが来ました。その時、白式が
「一夏が……すると、サイレント・ゼフィルスは?」
「私が叩き潰しました。お姉ちゃんが止めなければ、仕留め切れたんですけど」
「仕留めるって……」
更識姉が嫌そうな顔をする。こいつからしたら、そういった血生臭いことを妹にはしてほしくないのだろう。だが、
「次は仕留めますよ。だって、そのせいで、陸を失いたくないですから」
そう話す宮下の目を見て、ゾッとした。あれはまるで……命を奪う覚悟をした者の目だ。
幸い、宮下の目はすぐ元に戻った。
「そうして、亡国機業のIS2機を撃破したためなのか、その後は特に襲撃もなくキャノンボール・ファスト、全学年合同タッグマッチが行われました」
「そこは羨ましいな」
なにせ、こちらはサイレント・ゼフィルスの再来に強化された無人機と、何かをする度に襲撃されているのだ。正直、学園の警備担当としても体が保たん。
「結局分かったのは、その宮下陸の有無であれこれ流れが変わったということだけか」
「そうですね。そしてその彼がこの世界にいない以上、考えても詮無いでしょう」
更識姉もお手上げといわんばかりにため息を一つ。
「私も、この世界の織斑君が朴念仁のままなのが分かっただけですね」
「……そうだな」
朴念仁か、5人も女を囲っているか。果たして、どちらの弟が良かったんだろうか。
「さて、話はここまでにするか」
「分かりました。それで、これから私はどうすれば?」
「そうだな……更識姉、宮下を他の生徒にバレないように、寮の空き部屋に移動できるか?」
「大丈夫です。今は休み時間ですから、それが終わったら移動しましょう」
「そうか。なら――」
――コンコン
「織斑先生、倉持技研のメンテの件……えっ?」
ノックだけして返事も聞かずにドアを開けた馬鹿が、宮下を見て固まる。
「か、簪? いやでも、さっき廊下ですれ違ったばっかで、えぇ!?」
「織斑先生、さっそくバレたんですが……」
宮下から、非難の視線が飛んでくる。ああ、私がこいつの保護者だからか。
「……すまん」
ありきたりだが、そう口にするしか今の私には出来なかった。
こうやって原作と比較すると、本作の原作崩壊率がよく分かりますな。根本部分が壊れないようには気を付けてはいるんですが。
本文にもあるように、ちーちゃんからしたら、どっちの一夏がいいんでしょうね?
朴念仁一夏 vs 女誑し一夏 ファイッ
……どっちも頭痛の種ですな。