ガキどもを電脳世界に隔離する退屈な任務。その退屈な状況が変わったのは、日が暮れ始めてきた時だった。
「ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始」
無機質な声色で報告するガキの目が見開かれる。その、黒い眼球に金色の瞳を見れば、胸糞悪ぃ実験の産物だってのが良く分かる。
「凰鈴音がワールド・パージを突破。他のターゲットへの警戒を強化。セシリア・オルコット、ワールド・パージを突破。リソースを残りの3人に分配」
そしてガキの報告を聞く限り、形勢は完全に逆転されたようだ。こっちもそろそろ潮時だな。
「スコール、どうやら『玩具』で遊ぶのも限界のようだ。撤収する」
『分かったわ。どうやらアメリカのお友達も『遊び疲れてみんな眠ってしまった』ようだし』
遊び疲れて眠った、つまり学園側の反撃にあって壊滅したってことか。特殊部隊が聞いて呆れるな。
「この『玩具』はどうする?」
『出来れば持ち帰りたいけど、無理そうならその場で捨てて構わないわ』
「了解だ」
『一応、回収のためにエムを向かわせているわ』
「あいつが?……大丈夫なのか?」
ただでさえ気に食わねぇ上に、以前の学園襲撃の際にトラウマ植え付けられたって話じゃねぇか。そんな奴に自分の身を預けるとか、恐ろしいことこの上ない。
『飛ぶだけなら問題ないわ。ただ、戦闘は避けたいから、撤収は早めにお願いね』
「分かったよ」
スコールとの通信を切ると、ガキはまだ命令を遂行しようとしていた。
「シャルロット・デュノア、突破。ラウラ・ボーデヴィッヒ、突破。篠ノ之箒、異常発生――」
引き際も分からず、ただただ命令通りにしか動けない、生きた玩具。
(エムが回収に来るって話だったか……なら、こいつはここで投棄決定だな)
荷物は少ない方がいい。
そう決めて、カフェのテラス席から立ち上がろうとした時
――ヒュンッ
視界が、ぐるりと回り出した。
「は?」
テラスのウッドデッキに肩がぶつかる。転んだ? 起き上がろうとするが、うまくいかない。
「なん――」
何でだ、そう思って上半身を起こしたら
無かった。私の左足が
「あ、ああああああああああああああああっ!?」
私の悲鳴と遅れて流れ出た血に、周りに座っていた連中も悲鳴を上げて店から逃げ出し始める。
そんな中で、逃げ出さない奴が二人。一人は座ったままのガキ。そして、もう一人は――
「あ……」
見上げた瞬間、呼吸が荒くなる。体の震えが止まらない。
「またお前か。今度はちゃんと、その首飛ばしてやるよ」
そこにいたのは、血に染まった抜身の刀をこちらに向ける、あの時のガキ、宮下陸だった……。
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IS学園にサイバー攻撃を仕掛ける以上、ISかそれに類する機材が必要になってくる。そして、そんなものを学園内に持ち込むのはセキュリティ的に困難だ。(どこぞの紫兎を除く) そうなると学園の周辺で、なおかつ長時間滞在しても怪しまれない場所……。
そう考えて、本土側の沿岸部で条件に合いそうな場所を虱潰しに確認していたら、案の定だった。そして、そいつは見覚えのある奴でもあった。
「またお前か。今度はちゃんと、その首飛ばしてやるよ」
亡国機業のオータムだったか。そして隣にいるのは……なんだ? 黒い眼球? まぁいいか。先にこっちだ。
「とりあえず、一つ聞いときたいことがある。あのギリースーツモドキ共を送り込んできたのは、お前達か?」
「ギ、ギリースーツ……? アメリカの連中を、まさかお前が……?」
「そうか」
左足を失って、腕の力だけで後ずさる様子からして、嘘は言ってないんだろう。
「分かった。なら――」
「苦しまないよう、楽に殺してやるよ」
「ひぃ!」
怯えるオータムを楽にしてやるために、三池典太を唐竹に振り下ろす。
――ガッ
「……何するんです」
「もういい宮下、ここまでだ」
いつの間にか後ろにいた織斑先生が、振り下ろそうとしていた俺の右腕を掴んでいた。そのせいで、刃先がオータムの顔面数センチ手前で止まっちまった。
「あ……」
オータムの奴、失神しやがったか。
「これ以上返り血を浴びてどうする」
「分かっちゃいるんですがね……」
楯無さんを傷つけて、簪を悲しませた連中をそのままにしたくなかった。報いを受けさせたかった。昔の一夏を笑えないぐらい、安い感情で動いていた。動かずにはいられなかった。
「まったく……」
そんな俺の態度にため息をつくと、織斑先生は気絶したオータムに止血処置を行って、どこかに通信をし始めた。おそらく、回収用の人員を呼んでいるんだろう。
「そして、こいつか……」
通信を終えた織斑先生が、この状況でも椅子に座ったままの女の子?を見る。
「アドヴァンスド、か」
「織斑先生?」
こいつのこと、知ってるのか?
「篠ノ之箒、ワールド・パージ突破、任務続行不可能。命令を。命令を。命令を。命令を。命令――」
「もう休め」
織斑先生が首に手刀を決めると、女の子は黒と金の目を閉じて倒れ込む。
「先生、さっきの『アドヴァンスド』って何ですか?」
「お前には関係ない、と言っても聞かんだろう。こいつとボーデヴィッヒを会わせる時に、一緒に聞かせてやる」
「ボーデヴィッヒ?」
あのドイツ娘とどういう……いや、どことなく似てる? だが、似てるって言っても銀髪と顔立ちぐらいなもんだ。目だってボーデヴィッヒは黒眼球じゃねぇし……。
「ところで、織斑先生はどうしてここに? 地下の防衛は?」
「山田先生と布仏に任せた。お前や更識妹が部屋を飛び出したから、仕方なくな」
「簪も?」
その割には、ここにいないが?
「やつなら、あそこだ」
そう言って織斑先生が指さす先には、
「……ああ、そうですか」
打鉄弐式が、サイレント・ゼフィルスを蹂躙しているところだった――
ーーーーーーーーーーーーー
「くそっ! くそぉ!」
嫌な予感はしていた。
『オータムの回収任務』、以前IS学園襲撃の時にも同じ指令を受けて、私の誇りはズタズタにされた。そして今回も――
――ドドドドォォォォンッ
あの時のビット兵器の代わりと言わんばかりに、今回はマイクロミサイルが四方八方から私を狙ってくる。だが、これぐらいはいい。
(クロスレンジに入られるわけにはいかない! そうなったら、また――!)
あの右腕に掴まれたら最後。そう自分に言い聞かせながら、ビットで牽制しつつ距離を維持していく。だがこれでは……
「埒が明かない……!」
このままでは、オータムの回収どころか自分の撤退すら覚束ない。
「うん、埒が明かない」
突然声が聞こえたと思えば、敵は持っていた薙刀を戻してロングライフルを展開した。
「だから、これで終わらせる」
それが聞こえたと同時に、敵のライフルから何かが射出される。それはビームではなく、何かの塊?
「舐めるなぁ!」
(この期に及んで実体弾とは。それぐらい、今の私でもどうとでもなる!)
未だ震える指でトリガーを引く。ライフルから放たれたレーザーは相手の実体弾を問題なく砕く。だが、
「それを待ってた」
「は?」
敵は何故か、まったく的外れな方向に砲口を向けていた。そして、放たれたレーザーは何もない空間に……いや、さっき私が砕いた実体弾に当たって――
――チュィィィィィンッ!
「な、なんだとぉぉぉ!?」
実体弾の破片に当たったレーザーが乱反射し、それがまた別の破片に当たり反射される。そして砕いた破片群の中心にいるのは……私。
次々にレーザーが被弾し、サイレント・ゼフィルスの装甲とSEを削っていく。
――ヒュッ
「あ」
「これで、終わり」
レーザーを耐えるのに集中していて、気付いた時には敵の薙刀が眼前まで迫っていた。
――ガァァァァァンッ
顔を覆っていたバイザーが砕ける音がして、次いで衝撃が頭の中をかき回すように揺らす。最後にサイレント・ゼフィルスが
そこで、私の視界と意識は途切れた。
いや、途切れる瞬間『織斑、先生?』という声が聞こえた気がした。
オータム、足切られてまた捕虜になるの巻。大丈夫、今度はエムも一緒だから。(何が大丈夫?
今章はギャグが不足してますよね? なら、次回からギャグをぶち込まなきゃですね!