「ん…んん……」
顔に当たる光が眩しくて、私は目を覚ました。
「ここ……医療室?」
保健室とは別にある、治療施設のベッドの上に私はいた。
「私……どうしてここに……」
まだぼんやりする頭を働かせて、これまでのことを思い出す。
「侵入者を撃退したと思ったら返り討ちに遭って、それから陸君におんぶされて……?」
おかしい。どうしても、思い出せる記憶の前後が繋がらない。
私が返り討ちに遭ったのはいい。そこから、どうして陸君が出てくるの? だって、もしその間に何もないなら、あの米軍の特殊部隊を思われる侵入者は、陸君が――
「お姉ちゃん!」
「簪ちゃん!?」
突然部屋のドアが開いて、簪ちゃんが私に向かって飛び込んできた。
「良かった、無事で良かったよぉ……!」
「簪ちゃん……心配かけちゃってごめんね……」
泣きじゃくる簪ちゃんの頭を撫でる。
「お姉ちゃん、怪我の方は大丈夫なの?」
「全然問題ないわ。今もこうやって――いたたたっ!」
力こぶをしようとしたら、腹部の傷が攣ったみたいで刺すような痛みがががががが
「アホなことしないで下さい。一応、銃弾で腹に穴開けられてるんですから」
「陸君……」
陸君が、両手に持ったパイプ椅子をベッドの近くに置く。それに簪ちゃんが座ると、彼ももう片方に座り込んだ。
「織斑先生曰く、弾は貫通していて医療用ナノマシン注射もしたそうなので、2,3日で動けるようになるって話です」
「そう。撃たれた割には軽傷で良かったわ」
「もう! お姉ちゃん!」
「あ、はい。すみません……」
簪ちゃんに怒られた。そしてそれも、簪ちゃんが私のことを心配してのことだって分かるから、素直に謝るしかない。
「まったく……今は自愛しといて下さいよ」
そう言って、今度は陸君が私の頭を撫ぜてきた。少し荒っぽいけど、優しい手つき。
「ところで、何か欲しいもんあります? 俺か簪で持ってこれるもんなら取ってきますけど」
「うん、遠慮せず言って。……みんなに迷惑かけない程度に」
「簪ちゃん、釘刺さなくっても……」
欲しいもの、か……うん。もう、素直になってもいいわよね?
「それじゃあ陸君、ちょっと」
「はい?」
私の手招きで、陸君が近づいてくる。そして手が届くまで近づいたところで、私は彼の腕を掴むと、そのまま勢いよく引き寄せると
「んっ……!」
「んん!?」
「お、お姉ちゃん!?」
陸君の顔に両手を回して、彼の唇を自分の唇に押し付けると、胸がドキドキして止まらない。でも、苦しくは無い。温かくて、すごく嬉しい気分……
「ぷはっ! た、楯無さん……!?」
「刀奈」
「はい?」
「私の本当の名前。簪ちゃん以外に人がいない時は、その名で呼んで?」
「お姉ちゃん……本気なんだね?」
簪ちゃんが、真剣な顔をして聞いてくる。そうだよね、でも、ごめんね。
「本気よ」
「……そっか」
私の
「いやあの、簪? 何がなんやら分かってねぇんだが、説明求む」
「お姉ちゃんの"楯無"は、代々更識家の当主が襲名する名前。本当の名前は刀奈。家族以外には決して教えてはいけない名前」
「はぁ……ん? ならどうして今、その名前を? 遠くない未来、楯無さんとは義姉弟になる予定なんだから……って、まさか」
「うん、そのまさかよ」
「うわっ」
一度は離れた陸君の体を、再度引き寄せて、抱き締める。
「最初はね、義姉弟の関係でもいいと思ってた。けど、簪ちゃんを通して一緒にいる内に我慢できなくなってきちゃって……そして今回の
だから――
「私、更識刀奈は、貴方のことが好きです」
言った。更識家当主ではない、一人の女である、更識刀奈として。
「……楯無さん、いや、刀奈さんは……簪はそれでいいのか?」
陸君が、真剣な顔をして私を、そして簪ちゃんを見る。
「私は構わない。というより、こうなると思ってた」
「え、ええ?」
ど、どういうこと?
「だから、私言ったよ? 『例えお姉ちゃんでも、第2夫人だからね』って」
「お前、それマジで言ってたのかよ……」
簪ちゃん、
「だから、後は陸の気持ち次第」
「だー……こんな重要な決断を、俺に振るなよなぁ……」
いくら織斑君と同じように重婚の特例が出てるって言っても、難しい、か……
「そうよね……ごめんなさい、陸君。今の話は――っ!?」
言い切る前に、陸君に引き寄せられて、胸元に顔が埋もれるように抱き締められた。
「簪にも言ったが、クーリングオフは受け付けないからな」
「だから、覚悟しておけよ――刀奈」
「……ええ、もちろんよ……!」
腕を背中に回して、思い切り抱き締め返した。腹部の痛みなんか感じないぐらい、幸福を感じるために――
ーーーーーーーーー
二人の抱擁は、お姉ちゃんが私に見られてることを思い出して終了。今は顔を真っ赤にしてシーツにくるまっている。
「それにしても、お姉ちゃんに対してため口なんだね」
「そこは勢いというか、自分の女に敬語っていうのがしっくり来ないというか……もちろん、周りの目があるときは"楯無さん"呼びで敬語を使うがな」
「呼び間違えないように」
「鋭意努力する」
陸なら大丈夫かな。万一口が滑っても、うまく逃げ切れそうだし。
「それで、お姉ちゃん」
「簪ちゃんに見られた簪ちゃんに見られた簪ちゃんに見られた……」
「てい」
「きゃんっいたたた!」
シーツの上から脇腹だろうところを突くと、くすぐったさで悶えた時に傷口が攣ったのか、今度は痛みの方で悶え始めた。
「それでお姉ちゃん」
「な、何かしら……」
「これを付けて」
そう言って、私が拡張領域から取り出したのは
「……簪、それってゴーグルだよな?」
「陸君が作ったっていう、電脳ダイブと似たことが出来るって奴よね? 私のクラスにも数台入ってきたけど」
そう、例のアレ。
「これの中に入ってるデータを、お姉ちゃんに見てほしい」
「はぁ……」
最初は訝しんでたお姉ちゃんだったけど、最後はゴーグルを受け取って被ると、ベッドに横になってスイッチを押した。
「なぁ簪、このゴーグルには何のデータが入ってるんだ?」
「陸がロキさんの部下になってから、今日までの記憶」
「簪さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
目を見開いた陸に、両肩を掴まれた。
「何してくれちゃってんのぉぉぉぉ!? というか、そんなデータどうやって用意したんだよ!?」
「陸が寝てる間にゴーグルを被せて、データ送信の向きを逆にして抽出した」
陸が寝てから仕掛けて、起きる前に回収する必要があったから、あの日は寝不足で大変だった。
「俺のプライバシー……」
あ、陸がorzった。
――♪
そして鳴り出すスマホ。
「もしもし?」
『何してくれちゃってんのぉぉぉぉ!?』
予想通り、ロキさんからだった。
『言ったよね!? 外史の人間には現地作業員の素性はバレないようにするルールだって! 何事故でもないのにバラしちゃってんの!?』
「お姉ちゃんが陸のお嫁さんになるには必要」
『無いよね!? 必要性無かったよねぇ!? また僕が主神に折檻されるって分かってる!?』
「コラテラルダメージ」
『みぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』
受話器の向こうから、ロキさんが頭を搔きむしるような音が聞こえてくる。あんまりやると頭皮に悪いですよ?
『リク! 一体どうすんのさこれ!』
「あ~……コラテラルダメージ」
『おまっ ごぽっ』
……すごく汚い水音を最後に、通話が切れた。たぶん陸のセリフで、ロキさんの胃が限界値を超えたんだと思う。
「うぅ……」
そしてちょうどいいタイミングで、お姉ちゃんも起きた。ゴーグルを外して頭を振るお姉ちゃんの頬には、涙が伝った跡があった。
「今のって、陸君の記憶? 本当に?」
「ああ。信じられないだろうが」
「……ううん、信じるわ。陸君の目、嘘を言ってるようには見えないもの」
そう言ってお姉ちゃんは目頭を袖で拭くと、私の方を向く。
「簪ちゃんがこれを見せたのは、私の覚悟を見るため?」
「うん。陸の苦しみを知って、その上で陸を支えるために並び立つ覚悟があるのか」
「それだと俺、なんか精神的ヒモじゃね?」
陸、そんな微妙そうな顔しないで。
「陸からは幸せを貰ってる。なら、こちらから陸に何かをあげるのが当然」
「それが簪ちゃんが言う、支えるってことなのね?」
「お姉ちゃん、その覚悟、ある?」
「馬鹿言わないで。これでも簪ちゃんのお姉ちゃんなのよ?」
「きゃっ」
「ま、また!?」
腕を引っ張られて、私と陸がお姉ちゃんにまとめて抱き締められる。
「支えて見せるわよ。陸君も、簪ちゃんも。更識家当主の……お姉ちゃんの名に賭けて」
やっぱり、私とお姉ちゃんは似てるのかもしれない。こうやって抱き締めるのが好きなのも――男の人の趣味も。
姉妹丼(超下品)
企画当初、たっちゃんは一夏組にと考えていました。それが学園祭辺りから脳内軌道が曲がっていき、今回思いっきり路線変更しました。さてはて、今後のプロットがどうなることやら……。
簪さん、とうとうやらかすの巻。オリ主や神様すらぶん回す原作ヒロイン、新しい。もうね、オリ主のためになるなら何だってやります。
次回は明るい(?)拷問回です。オータムのアットホームな悲鳴にご期待ください。