亡国機業のオータムがいなくなった、IS学園地下区画の収監エリア。そこにいるもう一人と、私は対峙していた。
「まったく……自分と瓜二つな顔なんぞ、面白くないな」
「それはこちらのセリフだ、織斑千冬」
後ろ手に拘束されたサイレント・ゼフィルスの操縦者が、私を睨み返す。ふん、2,3日食事と睡眠を抜いた程度では、獰猛さは抜けないか。
「それで? 貴様は何者だ?」
「まさか、本気で聞いてるわけではあるまい?」
「それこそまさかだ。貴様が亡国機業のエージェントであることぐらい、調べはついている」
「なら、これ以上私が答えるべきことはないな」
「いや、まだ貴様の名前を聞いていない」
「エムだ」
ずいぶんあっさり白状してきたが、そうじゃない。
「それはコードネームだろう。名前だ」
「違うだろう? お前が知りたいのは、私の名前などではない」
「……」
「"私以外の存在はいるのか?"、だろう?」
「……ああ」
そうだ。それが私が聞きたかったことだ。こいつだけなのか? 私の、
「ふっ、その悔しそうな顔に免じて、特別に答えよう」
「私『織斑マドカ』が、唯一の家族だ。
ーーーーーーーーー
会議室でクロエさんのことやら亡国機業の話を聞いて、混乱した頭がようやっと再起動したところで、俺は思い出した。いや、忘れてたことを思い出したというか。
「う~む、参ったなぁ……」
「どうした一夏」
「ああ陸。千冬姉に提出しなきゃならないプリント、すっかり忘れててな。しかも今日締め切り」
本当は昨日出す予定だったのが、今回のハッキング騒動でドタバタしてたせいですっかり忘れてたのだ。
「まじか、織斑先生のことだから、遅れたら……」
「言わないでくれ、怖いから」
うん、間違いなく出席簿アタックは免れないな。理由を言っても『ならもっと早く出せ』とか言って、さらに追加攻撃されるのが目に見えてる。
「千冬姉、話が終わったらすぐいなくなっちまうし……」
会議室での話が解散になったのが20分ほど前。職員室にいるかなと思ったら『織斑先生ですか? 今はいませんね』と山田先生に言われるし。
「もしかして、まだ地下にいるんじゃね? あのオペレーションルームとか」
「あ、それはありそうだ」
「けど、あそこ普段は立ち入り禁止だから、入ったら別の意味で出席簿アタック食らうかもしれんな」
「うわぁ……」
陸が言った光景が、すぐ目に浮かんだ。だけど、今日中に出せなくても出席簿なんだよなぁ……。
「とりあえず、もう少し校舎内を探してみるわ」
「おう、頑張れよー」
陸と別れてから、あちこち回ってみたが、やっぱり千冬姉は見つからなかった。
「こりゃ、本当に陸の言う通り、地下区画か?」
ちなみに、さっき千冬姉のスマホにかけてみたが、『電波の届かないところに――』という自動音声が流れるだけだった。
どうする? 諦めて明日怒られるか? それとも――
「……行くか」
100%怒られる道より、99.9%怒られる方を選んで、俺は地下区画に通じる廊下に向かっていった。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……迷った」
俺は、薄暗い地下通路で迷子になっていた。前に陸から送られてきたマップデータ、どうして消しちまったんだ俺は……。
――亡国――
なら――――
その時、近くから声が聞こえてきた。千冬姉と……もう一人は聞き覚えのない声だ。
「た、助かった……」
このまま、学園の地下で遭難とか御免だ。プリント渡すついでに、帰り道も聞こう。
そう思って、声のする方に歩いていくと、途切れ途切れだった話し声も鮮明に聞こえてくるようになった。扉が開いてる、あの部屋からか?
その部屋を覗き込もうとして、
「私『織斑マドカ』が、唯一の家族だ。
「……っ!?」
手が、足が、止まった。織斑、マドカって、誰だ……? それに織斑計画って、一体……。
「やはり、そうか」
「白々しいな、予想はしていたんだろう? かつて究極の人類を作り出そうとする狂気の計画、プロジェクト・モザイカ。その成功体であるお前に対して、あの倫理観など持ち合わせていない連中が、スペアを用意していないとでも?」
「くっ……!」
究極の人類を作る? 成功体? 千冬姉が? なんだよ、それ……。
理解が追い付かず、動くことも出来ない俺に気付かず、千冬姉と、マドカと名乗ったやつとの会話が続く。
「天然物の超人である篠ノ之束が見つかったことで、計画は頓挫。
ふた、り……? 千冬姉と、まさか……。
もういい、引き返そう。引き返すんだ。引き返すんだ引き返すんだひきかえすんだひきかえすんだひきかえすんだヒキカエスンダヒキカエスンダヒキカエスンダヒキカエ――
「忌々しかったよ。なぜ私ではないのかと。なぜ、出来損ないのあの男、織斑一夏がお前と同じ、成功試験体なのかと――」
「あ……」
それが耳に入ってきた瞬間、俺は走り出していた。道なんか分からない。ただ、ここから逃げ出したかったから……!
ーーーーーーーーー
「あ」
「どうしたの陸?」
「教室に端末忘れた」
会議室で束にデータ渡して、その後机に置きっぱなのに気付いたのが寮への帰り道。今日の一夏を笑えんぞこれ。
「簪は先に帰っててくれ。ひとっ走りして取ってくる」
「分かった。気を付けてね」
「いやいや、学園の中で何を気を付けろと」
というやり取りをして、教室に戻って端末を回収。さて、さっさと戻って……なんだ? 階段の陰に……は?
「一夏、お前何してんだ?」
そこには、膝を抱えて蹲る一夏がいた。声をかけても返事が無い。
「おい、具合でも悪いのか? それなら保健室にでも……」
そう言って、一夏の腕を引っ張ったところで、俺は固まった。
「陸……」
やっと声を出した一夏の顔は、土気色を通り越して、死人かと思えるほど血の気の引いた真っ白だった。
「陸……俺、人間じゃなかった……」
「はぁ?」
突然、一夏が突拍子もないことを言い出した。
「何を馬鹿な事……じゃないんだな?」
「……」
一夏は馬鹿だ。だが、こんな顔をして面白くもないことを言い出すような馬鹿じゃない。
「……話してみろ。聞くぐらいは聞いてやる」
「……あの後、地下区画に行って……」
ボソボソと、蚊の鳴くような声で一夏が話し始めた。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
織斑計画。作られた存在、か。
「俺、両親の顔、知らないんだ。ずっと昔にいなくなったって、千冬姉から聞いてて……違ったんだ。元々いなかったんだ。ツクリモノに親なんかいるわけなかったんだ……」
「……」
「俺は……俺は……!」
「ふ~ん、で?」
「……え?」
「お前達姉弟が人工的に生まれた存在なのは分かった。で? それが何だって?」
「いや、だから……そんな俺が、みんなと一緒にいるなんて……」
「おうおう、人工生命体が人間と一緒にいちゃいけないなんてルール、IS学園の規則にはねぇぞ?」
「ふざけんな! 俺みたいな、作られたバケモノが……!」
「せいっ!」
――バッ! ギュッ!
「いだだだだだだ!」
話を聞かねぇ奴には、久々にお仕置きアームロックだ。
「言っとくが、俺はお前との付き合い方を変える気はねぇぞ。織斑計画? 作られたバケモノ? 知るかそんなもん」
「けど……!」
「お前はお前だ。織斑一夏以外の何者でもねぇ。それ以上でもそれ以下でもねぇんだよ」
「り、く……」
「篠ノ之達に体の匂い嗅がれる運命を背負った、ただのシスコンだ」
「てめぇふざけんのも大概にしろよぉぉぉ!!」
「……」
「……」
「「ぷっ」」
「「ぶはははははははっ!!」」
誰もいない校舎、しかもIS学園っていうほぼ女子校で、野郎二人が大声で笑っていた。
「ちくしょう! ふざんけんなよ! 真剣に悩んでた俺が馬鹿みたいじゃねぇかよ!」
「だからお前は馬鹿なんだよ! そんな心配するぐらいなら、オルコットの料理食わされる心配でもしてろ!」
「うるせぇよ馬鹿野郎!」
そんなじゃれ合いに近い罵り合いを何度も続けた。
「もう一度言うが、お前はお前だ」
「ああ、俺は俺だ。少なくとも記憶がある……小学生の時から今までの9年、俺は『織斑一夏』として、千冬姉の弟として生きてきた。それだけは否定しないし、誰にもさせねぇ」
制服の袖で目元を拭った顔は、まだ不安な気持ちが残っているが、最初よりは大分マシになっていた。
「さて、差し当たっての問題は、篠ノ之達へ話すタイミングだな」
いきなり『俺人間じゃなかった』とか言われても、向こうだってどう反応したらいいか分からんだろうからな。
「いや」
「ん?」
「それよりも、先にやることがある」
そう言って立ち上がった一夏は、どこかに向かって歩き出した。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと、"家族になる予定"の奴に会いに行く」
マドカを出すことには成功したものの、話が長くなりそうだったので、泣く泣く分割しました。ユルシテ…
いっくん、自分の出自を知るの巻。結構ヘビーな内容ですが、原作より心が鍛えられてる(オリ主に振り回されてる)ので、比較的早く復帰してます。
次回でちゃんとワールド・パージ編終了、したいなぁ……。