英雄の夜明け、古き時代の終焉   作:シャッチトムソン

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もう少し書こうかと思いましたが加筆する所が見つからなかったので泣く泣く投稿。短いです。
後、前話のフレイヤとミラのやり取りを加筆してます。
既読者の方も暇な時にでも駄文を読み返して見て下さい。


暗黒期の訪れ

 

「ほらあーんしなさい」

 

とある一室のベットにて少女は手に持ったスープをすくい相手の口元へと持っていく。

だが、部屋主はなかなか口を開いてくれない。かと思えば、ようやく口を開いてくれたかと思えばスプーンを噛まれて離してくれなくなった。

 

献身的な少女に対してアルフィアは不満な表情を浮かべていた。

 

「それくらい自分で出来る」

 

そう言ってミラからスープを奪い取るとアルフィアはスープを食べ進める。すっかり仕事を奪われてしまったが、だからといって離れる事はしない。最後まで見守ってあげるのも勤めの一つだからだ。

 

それにそう言うアルフィアも絶対安静という形で自室療養に努めろと医者から言われている立場。

 

全ては3大クエストにて体に負ったダメージが原因であり、だからこそアルフィアはファミリアでも重要な立場に居ながらも黒龍討伐に組まれる事なくこうしてファミリアで過ごしている。

 

「欲しいものはない?」

 

「今の所はないな。また寝るから静かにしてもらえると助かる」

 

空になった容器を手渡すと頭まで毛布を被り横になる。

 

「それなら子守り歌はどうかしら?」

 

「静かにしてくれと言っているだろう」

 

アルフィアの言葉虚しくミラは容器を机に置くと歌を奏で始めた。

 

透き通る声は部屋に響くがそれは実に心地よく自然とアルフィアの心の内まで入り込むと気持ちを安らげる。否定したいが事実として眠気が湧いてきて眠りに就こうとする自分に嫌気がさしてくる。

 

 

 

___聞き慣れた声。

幼い頃寝れない日には決まって聞かされた優しい声だ。

 

彼女が口にするものは毎回決まっている。

レパートリーが少なすぎるなんてものではない。ミラの子守唄はそもそも一つしか存在しない。そのお陰で今では自分でも暗唱できてしまう。

 

 

 

昔から何の変わりない言葉の羅列。

なのにそれを聞けば心が落ち着く。

 

部屋には自分と目の前の背丈がまるで子供みたいなエルフの2人だけ、彼女だけを見ていればあの頃からなんら変わってないとすら錯覚する。

 

ベットに横になり目線が下がる。そして彼女を見上げる形となればますますそう感じる。だが痛みが走りふと視線を逸らせば、そこはあの頃とは違う自分の部屋だと気がつく、当時とは違う私だけの部屋。

 

一度夢から目覚めれば違和感はより一層に襲いかかってくる。それはこの身を蝕む痛みと共に現実から目を背けるなと警告されているかのようで。自身の心と身体のギャップ、目線の違い伴って世界の小ささ。

浸れば浸るほどに返ってくる反動は大きなものになってくるような気がした。

 

 

世界は雑音だらけだ。

それなのに。そんなくだらないと一蹴してしまうものでも耳は何でもかんでもとりあえず拾ってくる。

 

その癖に情報の取捨選択はこちらに任せられるときた。

ありがた迷惑とはこの事であろう。

こればかりは優秀すぎる自分の耳にも苦情を言いたいもののそれを素直に実行してもらえるはずもない。

自分の体だというのに目を向ければ細かい所で融通が利かず不便極まりない。

 

ならば自分で行動するしかない。

幸いこの体を動かす所有権は私が握っている。

雑音が嫌ならその元を断てばいいのだ。

 

だから私は人との関わりは好きではない。

 

 

自分より弱い者に同情だけする集団。

情けを掛けて本当に必要な時に何もしてくれない自己満足の塊。アイツらにとっては興味があったから相手をしていたそれくらいの軽い考えだったのだろう。

 

 

興味が無くなった。

ただ、それだけの理由。

 

 

私達からみんな離れていった。

あれだけにぎやかだったのに。

 

 

この世界は嫌いだ。

雑音が多いから。

 

 

 

アルフィアは周りとの関係を最低限に過ごしてきた。

そうすれば彼女が言う雑音が耳に入らないからだ。でもそうやって遠ざける続けるモノの中に例外が生まれるのはよく話で。

そのアルフィアにとっての例外はメーテリアとミラの2人であった。

 

・・・いやその表現も正しくないのかもしれない。

 

それらはアルフィアを形成している根幹と呼べるもの。そう定義するとなれば2人はそもそも外ではなく内。彼女達なくして今現在のアルフィアはこの世に生まれていなかっただろう。

 

もっとも本人が素直にそれを認めてそれ相応の振る舞いを見せるかと言われると首を傾げざるおえないわけだが、、、、そんなアルフィアの態度を彼女らしいと問答無用で受け入れ接することの出来る2人との関係は誰がどう見ても個人と個人で分けるには適さず、その1人とは血の繋がりはないとは言えそれもまた一つ人類の家族在り方、家族の繋がりを他者に感じさせた。

 

 

「メーテリアの容態はどうだ?」

 

身体を横にしてミラとは反対に向けたまま、頭まで被った布団に少し言葉を奪われつつアルフィアは言う。

 

「とりあえず落ち着いてはいるみたいだけど、健康かそうでないかで言うなら正直あまり良くはない。と私は思うわ」

 

アルフィアは先の戦いにて床に就いているが、妹のメーテリアもまた体調を崩して自身のファミリアではなく医療設備の整った医療系のファミリアの経営する病院へと居場所を移していた。

 

面会は全面的に拒否をされ、主神であるヘラでさえ病院に入ってからは会うことは叶っていない。きっと家族であるアルフィアでさえ立ち入ることは許されないだろう。

 

普通であれば何かしら重度の病気を抱えない限り他人はともかく家族の面会が拒否られることなどないはずだ。しかしとりあえず病気の度合いはおいておいおくとして、それも本人が例えば拒否したとするとどうだ?その場合は身内といえども本人に会うことはできなくなるだろう。

 

ここまで言えばなんとなく分かるかもしれないが、同じファミリアの家族達、主神であるヘラ、そして身内であるアルフィア。それらからの面会の申請を拒否しているのはメーテリアに従事する医者ではない。

それはメーテリア本人である。

 

そしてその本人が嫌だと言うのなら医者は首を縦に振るわけにはいかない訪れた見舞い人達を無慈悲かもしれないが門前払いするしかない。

 

医者として本人の意向を蔑ろにしてそれが原因で症状が悪化すれば目も当てられない事態だろう。何より自己決定をする権限は本人に委ねられるのが医術の基本。

その観点からみても医者は患者の要望に出来る限り答え彼らの言う通りに実行するしかない。それによって毎度毎度ヘラから好き放題罵声を浴びせられる医者はたまったものではないだろうが。間違えても患者様の意思ですなどと自分の身の可愛さからの発言を決して言うことの出来ない、板挟み状態を強いられる担当医にはミラも同情せざるを得ないと感じる。

 

「ヘラはともかくとして、私まで入らないとはどう言う事だ?」

 

「それはお医者さんの判断でしょ?なら大人しく私達は従っていた方がいいと思う」

 

「でもお前だけは入れてもらっているではないか」

 

アルフィアの顔をみるだけで不満の声が聞こえてくる。

ただ面会を許されている少女との間にどの様な関係があったとしてもその矛先が向くのは避けることはできないだろう。

自分の大切にする真に心を開ける者であるなら尚更だ。

 

(お姉ちゃんとヘラ様には上手く言っておいてね。)

 

今日また会ってきた子供の顔を思い出しつつ内心はぁ〜とため息を吐き今回の言い訳を考える。

 

同じ手を使い過ぎるのはアルフィアが納得してくれない。

でも今は違う。

アルフィア側にも問題を抱えている最中、それを理由にすれば彼女も強くは出れないはずだとミラは今日はそれでいくことを決めた。

 

「アナタの言い分も分かるけれど、でも今はアルフィア。アナタも憔悴しているんだからしっかり休まないと、ね?」

 

毛布からはみ出た頭を撫でてやると撫でんなと抗議される。

 

もうアルフィアも就寝の時間だろう。

部屋のカーテンを閉めて灯りを消すと部屋は薄暗くなる。光源はカーテンの隙間から漏れ出す光くらい。

 

すっかりと空になった容器をトレイごと持ち上げ、再度子供の様子を眺めるとミラはアルフィアの部屋を後にするのだった。

 

 

 

___世界は進む。

 

寝て起きて食事を取って目の前に現れた知り合いと会話してはまた寝てある種昨日と同じ様な生活を繰り返す。

 

それは平凡そのもの。

誰に語るまでもない面白みも無い変化のない日常。

ありふれた1日。

 

だとしてもどこかでは何かしら劇的な変化が起こっている事もあるのが世界というモノである。

 

見方を変えれば選ばれたと言うのだろうか?

 

平穏という繰り返す日々を過ごす人。

命を秤に掛けて激動に身を置く人。

 

ダンジョンで思わぬ臨時収入が入りいつもとは違う店で食事をする者。

飢えや渇きにもがき苦しむ者。

 

それは世界が今を生きる者達、各々に手渡す挑戦なのかもしれない。

地に足を付けて生活する人々には足元の反対の出来事など知る由もない定かではない事象であるが、それもまた世界なのだろう。

 

選ばれた者もそうだ。

今回はそれが自分達だった。

それだけの話。

 

 

「...女神ヘラに顔合わせを」

 

ある日、1人の男がやってきた。

その身につける装備はボロボロでそこから伸びる手足はとても見えたものではない程に包帯塗れ、その包帯からは赤く染みた血。

 

男子禁制を敷くヘラ・ファミリアではあるが、その人物の容態、なにより弱々しくもただ唯一鬼気迫る眼光が彼が只者ではないとその場を長年務めてきた受付嬢は瞬時に察知し、ヘラへの取り継ぎをと部下に告げるとその場を任して訪れた男の脇に腕を通して自身の洋服が汚れる事も気にせずヘラの元まで歩き出す。

 

彼から滴るその血は一面し敷かれた真っ赤な絨毯に染みを残していった。

 

 

玉座に通された男の口から放たれた言葉はその場に居た者達を戦慄させた。ただ1人を除いて。

 

豪華絢爛この世の富を象徴する様な玉座に腰掛けた主神は深くその言葉を受け止めるとただ瞳を閉じた。

 

「子供達はどうだったの?」

 

「我々を逃すために誰もが最期まで黒龍と勇敢に戦いました。我々はただ逃げる事しかできませんでしたが、臆する事無き真の英雄の姿でした。」

 

「そう」

 

男にある腕章は確か補給と衛生の部隊だったか。

後方の部隊だった為、損害も最も低くオラリオに一番早く辿り着き救援を呼ぶ為の任を承ったのだと言う。

 

 

彼からの言葉を受け止めたヘラはゼウスの子にもう下がるように告げると連れてきた受付嬢にゼウスの所まで早急に安全に送り届けるように命令を出す。彼女も頷き了解の言葉を口にして玉座を後にするのを見送るとヘラ自身もその場にいる子供達にオラリアを目指している残存部隊へ救援部隊を出し、それから人払いをする。今は1人になりたい気分だった。

 

 

数日後、オラリオへと帰還した黒龍討伐部隊の面を見て人々は直ぐに理解した。汚れの無い者に支えられたボロボロになった者達を。

 

まともに歩けるものなど数えるほどしかいない。

そしてなにより悲壮感溢れる雰囲気はゼウスとヘラは黒龍に敗れたのだと思わせるに時間がかからなかった。

 

それは実質的なオラリオの敗北。

トップファミリアの状況と彼らが纏う雰囲気は瞬く間に言葉と一緒に伝染する。

 

ある神は祈りを捧げ。

 

ある神は闘志をその目に宿す。

 

ある神は口に弧を描く。

 

オラリオ史に書かれた暗黒期と呼ばれる時代の幕開けである。

 

 




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