英雄の夜明け、古き時代の終焉   作:シャッチトムソン

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ワイルズは神ゲー
操作してて楽しいです。


人並みの幸せ

 

「それで、どうしてこんな場所を選んだの?」

 

普段なら物音少ない路地の一角ではコンコンと至る所から何かを打ちつける音が響き渡る。

 

その音に目を向ければ、

そこには人、人々の人の群。

 

廃れた場所にはもう何年も見たこともない。似合わない人が列を成して一つの建物を目指して往来していく。

 

ミラもまた中の一員としてその建物の中で自分よりも何倍もある建材を抱えては指示された場所に届ける単純作業をもう何度目かもわからないくらいに繰り返していく。

 

細かな作業が苦手というわけではない。

何事も適材適所があるだけ。

 

そこに何も知らない素人に1から10まで教えて一人で作業できる様にするよりも、雑用や誰でもできる下準備をやってくれていた方が結果として速いという至極当然な理由があったのだ。

 

教えを受けたとしてもこの人数。

作業は進み続けきっと彼女が現場に入る頃には教会は綺麗さっぱり本来の姿を取り戻し、したがってその腕は振るわれることなく徒労に終わるのだ。

 

一人の白いエルフは黙々と木材を手に人混みの中へと消えた。

 

 

 

___少女は規則的に整理された建材の上に羽を休める。

 

今は休憩時間。

建材などが溢れかえる中でも比較的少ない開けた場所に座る家族の側に座り込むと水を口にしつつなんとなく尋ねてみることにした。

 

人の気が無い立地は確かに言葉通りの意味で良い。

が、利点はその程度くらいしかない。

 

市場からは少し遠く買い出しには苦労しそうで、治安も悪くはないが静かだからこそその手の人間は好むもので、だからこそ無条件で頷けも出来ず、衛生環境は人気のある土地に比べてお世辞にも整っているとは言えない。

 

金さえ積めばここより良い場所はきっとあるだろう。

 

それこそオラリオの市街にこだわる事なく壁の外の郊外に目を向け身を置けば自然と共存した素敵な暮らし方も見つかるやもしれない。

 

そんな事を一応は提案してみたが、本人に拒否されてしまえばもはや関係ない。

そしてその現状が新しい家をファミリアのみんなの協力を仰いでリフォームの最中というわけだ。

 

「物好きね。わざわざ不便な場所を選ぶなんて」

 

少女が目線を前にしたまま告げると彼女も応える。

 

「だって壊されるって聞いたから」

 

彼女の言葉は真実だ。

 

土地は有限である。

その都市のさらなる発展の為に立ち上がった再開発計画。その中にこの寂れた地区もまた再開発地域に指定されたことはなにも驚くことではない。

 

問題点はそれだけではない。

廃れた場所を放置する事は時として家主の居ない空き家をこれ幸いと利用する輩も現れてくる。

 

一時の雨を凌ごうとする旅人、

だが、その来訪者が善人ばかりでもないからこそ無視できぬ案件へと浮上する。

 

そんな場所が何かの罪を犯し人前に顔を出せなくなった不届者達の溜まり場になるのはある種の必然で、そうした治安維持の理由も含まれた案件は多方面からの支持を受けて障害少なく事はスムーズに進んでいった。

 

誰も居なくなったその中の一つ。この協会が壊されるのも時間の問題であったが、それに待ったをかけたのがこの場所への新たな入居者。

すなわちミラ達であった。

 

「人って新しいものが好きなのにね...アナタは物好き」

 

「はぁ〜ミラさんって時々そう言う所があるよね」

 

ため息を吐き少し呆れたとばかり口にこそしないが、声の質がものを言う。

 

「そうだね。私もここに住むなんて少し前まで考えてなかった。でもね。私達家族にとってここは特別な場所。だから壊されるって聞いて私は守りたかった。うん。それだけだったんだ」

 

彼女の口にする言葉の一つ一つは感情が込められてた。人の感情に疎いミラもその言葉に並々ならぬ想いがある事くらいは流石に理解できる。

 

後悔もなさそうだ。

その行動に確信があるというのなら、そこまで本気だとするなら野暮というもの。もうミラからは何も言うことはない。

 

「あっ!!もちろん今は住むつもりだからね!?」

 

「ええ、そうね」

 

コロコロ移り変わる表情

そんな様子の彼女に一つ頷くとミラは立ち上がる。

 

 

 

まあ、悠久を生きる少女にとっては最低限のものがあれば寝床の場所などはどうでもいい事か。

 

それ以降、何も言うことなく立ち上がり足は動きだす。

 

すれ違うと思わず目を惹く小さく可憐な白き少女。

突けば倒れてしまいそうなその背は歩みを始めたら最後、群れの中へと入ると瞬く間に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ご飯の時間よ。

ほら、早くしないとあの子の機嫌が悪くなる」

「ああ、もうそんな時間か...すぐ行こう」

 

礼拝堂で膝を折って祈りを捧げる女性を少女が呼びにくると女性はその声を聞いて閉じていた目を開けることなく立ち上がる。

 

「またお祈り?」

「まぁな」

 

お前には関係ないとばかりに素っ気なく答える子供に対してつまらなそうな少女。頻繁に祈りを捧げる彼女の姿を普段から見ていればその理由を知りたくなるのは当然の事、

 

ミラは関わるなと言わんばかりに足早に地下へと降りようとするアルフィアの意思を無視して話を続ける。彼女達のその様子を表すなら大人に構ってほしい子供という構図だろう。

 

「気になってたことだけど、いつも何を祈ってるの?神様?そんなのもう居ると思うけど?」

「ただの昔からの習慣だ。深い意味はないさ。それよりも急ぐのだろう。アイツを怒らすと後々面倒だぞ?」

 

気が付けば自分を離し下へと続く階段を一段一段先へとどんどん歩いていくアルフィアに置いていかれる形。自分は呼びにきたはずなのにいつのまにか何故か逆の立場で扱われているのはなぜなのだろうか?

 

「...私のせい?」

 

ミラの声に答えてくれる者はおらず。

自身が放った言葉が地下へと続く狭い階段に反響し、返ってきた己の声は妙に耳に残った。

 

 

「今日のスープは結構自信作よ」

 

そう言ってミラは真ん中に置かれたバスケットからパンを取って席に着くとあむっと一口齧ってモグモグと食べ始める。

 

この家の家事担当はミラが務めていた。

淡々と口にする言葉とは裏腹にそのコーンをベースにしたいわゆるコーンスープは食卓に並ぶパンと実に合いそうでその他に置かれたベーコンやスクランブルエッグの匂いは食欲をそそるまさに朝食の形の模範では無かろうか?

 

...意外に思っただろうか?

怠惰を司ると言われても信じてしまいそうな自堕落でマイペースなミラがキッチンに立ち料理を作るなど、彼女をよく知っている人間からすると驚きの変化だろう。

 

家庭を持つというあり得ない巡り合わせが生んだ彼女の中の変化。

 

ダンジョンに赴き稼ぎや任務に勤しむアルフィアは家を留守にすることが多く、一応の家事は出来るが体調の不安定なメーテリアに火や刃物を扱わせるのは酷だろうと。ならば残るはメーテリアの手足となっているミラが作ることになるのはこの家に住み始めてから少しして決まった家族ルールの一つ。調子がいい時は手伝いが入る事もあるが基本的にキッチンはミラの領域である。

 

ミラも最初こそは面倒だと思っていたものの。毎日繰り返せばそれが1日の生活の一部となる。今では自然とキッチンに立ち料理を作る自分がおり、かかる手間に面倒だと思いこそする日はあれども、その感情にしても食べ始めると分解され忘れてしまうような極小の泡みたいなもの。

ミラはその行いに対して疑問を抱く事はもうなくなった。

 

それにただのパンと水を出そう物なら間違いなくアルフィアがなんだこの飯は?と絶対に文句を言ってくる。メーテリアはいつもありがとうと不満は漏らさず笑顔で食べてくれるだろうが、手を進めるスピードが彼女の内心を見ている人に伝えてくる。

 

そうして何かの拍子にアルフィアにでも告げ口されようものなら自分達の主神が緊急の家庭訪問に来るのは間違いない。それは嫌だ。

 

「もう!!ミラさんったらまだ食べちゃダメだよ!!」

「今日の祈りはミラだな」

 

しまったと思うがもう遅い。

勝算のない反論は諦めて喉の奥にパンを飲み込むと机に肘を付き手を組む。それに続いて二人もミラと同じく祈りの体制をとると祈りの儀が始まる。

 

「我らを見守りし空よ。感謝します」

 

___生命を包み込む大海に感謝します

 

___豊かな恵みを授ける大地に感謝します

 

___あとはえっと...

 

「こうしてみんなで食卓を共に囲める事に感謝します」

「「感謝します」」

 

その言葉が終わると同時に姿勢は解かれ瞼は開かれる。

各自が一斉に動き出しその手にパンをスプーンをと思い思いに食事が始まった。

 

「ミラにしては上出来だったな」

「うん。良い祈りだった。きっと神様も喜んでいるね」

 

食卓を囲めばそこには話が生まれる。

最初の話題は先程の祈りについて。

当初は慣れなかった行いも場数を踏めばなんとやら。

 

捕食者としてそれらを自らの糧にする事への感謝自体は納得出来る部分はあったので抵抗もなく。

だがしかし、やはり言葉を選ばなければならないので苦手である事には変わりない。

 

「流石に何度かやればやりようはあるわ...苦手だけど」

 

事の発端である一足先にかじってしまったパンをむしゃむしゃと食べ進めながら少し疲れた顔をする。

 

「そんな事ないよ。最初よりかはマシだから」

「あぁアレか...確かあの時は祈りというか、目の前の料理の感想ばかりだったな」

 

二人が笑顔を浮かべ話を広げるその光景はなんだかんだ仲の良い姉妹だと再確認できた。いや仲の良いなんて物ではない。

 

普段から素っ気ない態度を見せつつもアルフィアという人物は昔から変わる事なく妹が好きである。長く留守にすればお土産を必ず買って帰り、妹の為に用意した物を顔を背けつつ手渡すのは素直になれない年頃の女の子といった感じ。

 

笑顔の妹とプレゼントを渡す姉それは家族としてありふれたものかもしれないが、さぞかし微笑ましい場面でもあった事だろう。

同時に妹を不幸にする輩が現れたとすると、静寂がどの様な行動に出るかなどは考えたくもない。

 

 

「あぁそうだ。少し家を空けることになる」

 

「遠征?」

 

尋ねてみれば合っていたみたいでアルフィアからは肯定で返される。メーテリアは少し寂しそうな顔をするが、切り替えて頑張ってねと笑顔で送り出す。

 

離れ離れになるのは辛い事だ。

でもそれはファミリアに所属する冒険者としては避けられない当然の義務。トップ・ファミリアならば尚の事か、、、身体が弱くダンジョンにすら入れない彼女には想像も付かない危険と困難が待っているのだろう。

 

無力を嘆きたくなる気持ちはあるとも。

しかしそんな事をしたとて何も変わらない。

 

生まれながらにしてどうしようもない事はあるものだ。そしてそれは自分が自分である以上はどうする事も叶わないこと。

 

ならばこそメーテリアが選んだ道は戦うことではなく祈りを捧げること。

遠征に出向く彼等の背を見送りそして帰るまで。家族の無事を日々祈り続けることだった。

たとえダンジョンに潜らなくとも彼女は彼女にできる精一杯の務めを果たし、その行いを咎めるものは誰も居なかった。

 

「お前が居れば問題ないとは思うが、頼んだぞ」

「わかった」

 

 

 

 

 

朝食が終わりアルフィアがほどなくして家を出ていくとミラはふぅ〜と一息つくと近くにあったソファーへと倒れ込む。

そうして尻を付けた後は身体を横に倒し、ソファーに身を任せればフカフカの生地は彼女の持つ質量にめり込み彼女の身体を支えてくれた。

 

その一連の動作は流れるかの如く無駄の無い洗練された動き。

側に立てかけられていたブランケットを手繰り寄せ身に被せこの場所はもはや自分の物だと占有する。

 

___洗い物は後にしよう。

 

早起きはできるようになったが、だからといってその分の眠気が消えるわけでは無い。だから寝る。

そこに一抹の迷いはない。

 

 

この場合は昼までコースになるだろうか。

何かあればもう一人の住人が言いに来るだろうとミラは眠気に従って毛布に包まり目を閉じる。

 

家族を持ち成長したかの様に思えたが見るからにして完全に親モードOFFである。外部にもたらされる要因が変化をもたらすこともあるが、だとしても個々が持つ本質は中々に変わることはない。

 

ヘラは目の届く範囲におらずアルフィアは家を発った。怠惰を邪魔する監視の目が遠のいた今、抑圧されてきた感情を解放する絶好の機会。

 

 

かくしてミラは眠りにつく。

3人用のソファーは少女の身には大きい。それは横になるならもはやベットとして活用できる程に。

 

別に自分用のベットはあるのだが、頭に募る感情に億劫になればこそ移動にかかる些細な時間さえ、それさえも手間だと思考が無意識に自動で処理を行い。結果として晴れて誰も使わない時に限ってこのソファーこそが彼女の第二の寝床としての資格を得ている。

 

フカフカの慣れた感触に安心感を覚えそれが更に欲望を加速させる。なんとなく手が寂しいので側のクッションを抱きしめればピースは揃いもう求めるものはただ一つしかない。

 

ウトウトとまどろみがミラを支配しきる。

その直前に気配がしたので思考の何割かが覚醒してしまう。

 

安眠を阻む者が居たとすればその主の声を聞かなくとも想像はついた。何しろこの家には二人しか居ない。外へと通じる玄関が開かれた訳ではないので来訪者やアルフィアが戻ってきたわけでも無いので確実。

 

それにもしそうなら...ガチャリと玄関が開く瞬間にそれを察知したミラは飛び起き今頃は何事も無かったかのように振る舞っている。今もこうして気にせず眠りにつこうとする時点でその人はこちら側、自身の味方である。

 

そして外敵でないのであるならば、気にもせず毛布から顔を出す事なく、中断された眠りを再開するだけ。しかし、声をかけられてしまえば悲しいかな。それは叶わない。

 

「その、ミラさん今日もいいかな?」

 

外を出歩けないという生物として致命的で欠陥。

助けがなければ満足に生きることすらままならぬ自然の中では淘汰されるであろう弱者。例え人種の中で限定してみても彼女のその立ち位置が変わることはない。

 

「少し待って」

 

横になった事で固まった身体を伸ばし体を通常モードに移行させる。人の身は疲労が溜まり感じやすい。それを差し引いて彼等の営みは魅力的ではあるが、毎回毎回その時になると面倒だと思わざるおえなかった。

 

「それで?今日はここ?それとも別の場所?」

 

親の問いに子は首を横に振る。

 

「今日の場所はね___」

 

話題を投げかけると見るからに機嫌が良くなり比例するように声質も一段と上がった気がする。まだ眠たげな目蓋を擦り、これまでの経験からそう判断を下したミラは手を差し出す。

 

外を安易に出歩かせるなど、姉が知ればどうなることやら、、、

 

そんな事など知らないとばかり差し出された手をメーテリアは掴む。二人を照らす太陽の恵みは平等に。歩みと同時に話は広がり年若い女性と少女の楽しげな声は周りの視線を和ませる。

 

最強と最弱。

本当ならあり得なかったであろう邂逅にしてこれもまた宿命か。いや、それもはたまた自分達はその在り方を意味を履き違えてしまっているのだろうか。

 

 

 

 

 




さぁセリエナに戻るか、、、
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