英雄の夜明け、古き時代の終焉   作:シャッチトムソン

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Switch2が当選したので初投稿です。


珍しき来訪者

 

集る妖精を除いたとしても彼女の周りには意外にも人がいる。

 

でも、人との関わりよりその人が何をするのかを見たいミラにとって人付き合いは余り得意な方ではなく、故に顔見知りは居たとしても友人と呼べる者は少ない。

 

彼女の人間関係はそんな具合だ。

 

だけれども不思議とミラを尋ねる人は少なからずいるもので

 

 

「やあ、会いにきたよ」

 

コンコンと呼び出しベルが叩かれ扉を開けば噂をすればなんとやら訪問者がいた。

 

扉を開けるとなんとそこには眩しいくらいのにこやかスマイルを浮かべるイケメンが立っているではないか。

 

「・・・」

 

だがそれは一周回って人を不快にさせる事もあるだろう。

せっかく開いた扉はすぐさま閉じ始めた。

 

「まって!!無言で締め出さないで!!せめて何か言ってくれないかい!?」

 

扉は完全に閉まる事なくフレームの間に挟まった手が喋っていた。

 

「それで、何か用?」

 

とりあえずは客という事で住まいに入れたのなら一応は歓迎の意思は見せなければならないだろう。

 

席を案内しては自分はまだ座る事なく、側にあった適当な袋に入った茶葉を手に取りカップに置くと沸かせたお湯を入れて差し出す。

 

菓子類も差し出した方がいいのだろうか?と疑念が生まれると刹那の葛藤が生まれる。そうして先人達のマナーを参考にしていけばとりあえずは出した方がいいと結論が出ると、自分の食べようと思っていた今日のおやつのクッキーをなんとか差し出す。

 

「いや、特に用があってきたわけではないんだけどね」

 

「それならバイバイ」

 

もちろん用済みになったクッキーも忘れずに引っ込める。

 

「待ってくれないかな・・・」

 

コホンと一呼吸開けてグダグダになってきた空気を元に戻すと男はいただくよと断りを入れてはお茶を口につける。

 

「その、なんだ...今日の予定は空いているかい?」

 

その言葉と共にスッと男の懐からチケットが2枚机の上に差し出されたのだった。

 

 

 

 

「ほら、急いで。早くしないと無くなってしまう」

 

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

 

男の手を少女はグイグイと引っ張って先を急ぐ。

その声色からは興奮が伝わってきた。

 

「絶対に早い方がいいに決まってるわ」

 

少女の態度は先程の冷めた態度とはまるで正反対。

家でのやり取りを見ていなければ互いの関係性を知らなくとも親しい間柄に映っていたかもしれない。

 

もちろん家族にも旨は伝えた。

そして問題なく了承をもらい現在に至る。

 

二人を見てキラキラとした眼差しで少女然とキャアキャアとはしゃぐメーテリアと目蓋を閉じたアルフィア。ほんの一瞬だけ薄く開いた瞳を覗かせれば射殺さんばかりの視線。

 

刹那ではあったが、最強と謳われる男が自身に向けられた明確な殺気に気付かない筈もない。それだけに能天気と言われようとも、相手の心中を察することなく気がつかなければどれだけ楽であったことか。この時ばかりは冒険者としての自分を呪った。

 

逃げるようにその場から去ると現在に戻る。

目的の場所はすぐそこまで迫っていた。

 

何故に珍しくもミラがそんなにやる気になっているかは程なくして分かることだが。

まぁ彼女の趣味嗜好を多少なりとも知っていれば今回の一件は想像することは難しくもない。

 

二人は一つの建物も前にして揃って足を止めるとその建物に歩みを再開し扉を開き中へと入っていった。

 

 

建物の中は見るからに人で溢れていた。

入ってすぐに見かけた女性に男が声を掛けつつ紙切れを渡せば女性は差し出した紙切れを受け取る。引き換えに彼女が先導してくれるようである。

 

椅子と机が規則的に並び用意された椅子一つ一つそれぞれに人が配置されていた。それらの空間を真ん中で割る通路を二人は進みながらも部屋全体に漂う匂いに少女の目と鼻が机につられる。

 

「こちらの席にお座り下さい」

 

あれだけ人がいたというのに丁度空いてる二人分の席。

 

「ではごゆっくりどうぞ」

 

席に着くのを確認するとここまで案内してくれた女性は会釈をしては立ち去った。それを見届けると早速動いたのは少女。まるで邪魔者が居なくなるのを待っていたかのような動き。

 

少女は机に置いてあったそれを手に取り開くと眺める。

書いてあるのは文字の羅列。

 

それを淡々と見てはページをめくる音だけが机を支配する。男はというと少女のそんな姿を見て満足そうに肘をついた両手の上に顎を乗せて見守っていた。

 

パラパラとめくられていた音が止まる。

 

「これね。これがいいわ」

 

少女は男に見せる様に手に持っていたそれを机の上に広げ文字の羅列の中の一つを指差した。

 

「うん。分かったよ」

 

男が手を挙げれば先程の女性は直ぐにやってきた。

 

男は書かれてある文字の羅列をなぞりながら言う。

まるで魔法の詠唱をしているかの様にスラスラとその名を言い終えれば、答えるかのように女性は動き出した。

 

そこからは何もない時間が始まった。

周りの席からは楽しそうな会話が聞こえてくるがこの席では会話の一つも存在しなかった。

 

少女はといえばあれほど読んでいたというのにまたページを開きその本に釘付けだ。まるで手に入れた魔導書を解読しようとする冒険者。

 

そんな彼女を邪魔するのも野暮というものだろう。

鼻歌を奏でながら肩を揺らす愛らしい少女を見つめる。男にとってはそれで満足だったのだろうか?表情は非常に穏やかであった。

 

コツコツとタイルを叩く音に尖った耳がピクピクと動く。

 

「お待たせしました」

 

その声が聞こえると同時、パッと顔を上げ誰より早く反応を示す。

 

少女は彼女がやってくるのを待っていた。

待ち侘びたと言ってもいい。

 

目線は三度目に顔を合わせる女性が手に持つ皿。

それが机に置かれれば少女のテンションは最高潮に達する。

 

そんな子供を見れば自然と女性も男と同じく穏やかな表情を浮かべ笑顔になるのは世界の共通認識ではなかろうか?正しくは定かではないけれども、彼女の一連の動作をを見ていた2人の瞳には少女が映り込む。

 

「ごめんね。待たせちゃって」

 

最初は事務的だった女性の声も柔らかく親しげ。

 

人によって態度を変えることは基本的にない。

思い返せば今よりも若く新しく慣れない仕事に着いた時、その頃はやる気と共にあった気がする。

でもそんなモノは時間と一緒にすり減っていた。

 

気がついた時には定型分を口にして流れてくる人を横から横へと流していく日々に変わっていた。毎日に数えられない人と接するのだ誰だってそうもなるだろう。客への感謝が足りないなどと言い出すならそっちも店員への配慮が足りないと軽口でも叩こうか?

 

変化のない日常に摩耗する心。

食事に趣味にと塗り薬を塗ったとしても原因が存在するのなら本質的な解決には至らない。それは延命措置でしかない。

 

そんな彼女にとって今日訪れてあった少女は枯れたオアシスに降り注ぐ雨。癒しだった。

 

いや収まらないこれはそれ以上。

彼女を蝕む原因を取り除く所か別の物へと変えてしまえるくらいの変化___人によっては劇物にもなり得る代物。

 

神に劣ることのない妖艶。

魔性とも言うべき人を惑わし一国すらも堕とす傾国の類。

 

現にエルフは彼女にその身を捧げる。

自身を供物にしたとて何の疑問を抱かないくらいに毒され、しかし一人のエルフがそれを行ったとしても何も思うことのないくらいの、その身だけでは返すことは叶わない。

 

それでも女性とエルフに違いがあるとすればエルフ達と少女の間には切っても切れないくらいに深く深く心の奥底、無意識と呼ばれる深淵まで繋がっていたことだろうか。

 

ただ一方的に思慕しているのではない。

彼らには彼らなりの恩義があるのだ。

 

 

女性は保つべき公平性を失った。

この場所に訪れた人全てに尽くす生業を放棄して今だけは少女だけを相手する。

 

唯一言いたいことがあるとすれば向かい側に座っている男の方だろう。二人の間にどんな関係があるのかはわからない。想像でしかないが、男の眼差しはなんとも優しげであり、年齢差的に兄妹にも見えなくないが容姿が明らかに違いすぎるからその線はないかと切る。

 

では知り合いか親戚か。

 

「こちら季節のショートケーキです」

 

「うん。ありがと...う?」

 

皿がたてる音に言葉を詰まらせつつ、男は男でまた何かやってしまったかと考える。

 

優れた容姿には女性トラブルがつきもの。

道ゆく女性の落とした物を拾ってあげたら後日籍を入れようと言い寄られたり、酒の席で団員に唆されて酔いもあってかつい見知らぬ店員に口説き文句を言ってみれば知らぬ間に恋人の関係になっていたり。

 

もちろん男の責任もある。

しかし中には相手の勘違い。その果てにトラブルに発展するのは男女の間柄必然、最後には顔にビンタ食らって嫌われてるまだが落ちだ。

 

 

いつもならその甘いマスクに奪われているであろう心は今回ばかりは冷静だった。最初来店してきて話しかけられた時はドキッとときめいたはずなのに〜なんか凄いイケメンがいるなとしか不思議と感じない。

 

 

さて、名残惜しいがここまで。

役目を放棄していては怒られてしまう。

 

女性はそれじゃあねと控えめに手を振り立ち去るが少女は目の前の芸術に夢中で気がついてくれなかったのだった。

 

 

「おお〜」

 

思わず感嘆の声をあげて左右から眺める。

 

空まで目指さんと重ね積み上げられた層。

パンケーキと呼ばれる料理の層間にはたっぷりのクリームやフルーツが顔を覗かせている。

 

見るだけでカロリー過多なのは確かだろう。

1日の摂取量を軽く超えた人によってはなによりもの天敵の類。

『バベルの塔』と名付けられたそれは言われてみればもはや見慣れた塔を連想させる。視線をはずして外へと続く窓を映せば建物の屋根から顔を出す塔が見えていた。

 

この都市のシンボルの名を冠しても決して名前負けしない自身の前に立ち塞がるが如く立ち塞がる建造物。

 

人間の想像力は無限大か?

こんなものを簡単に考え出し作ってしまえるなんて...

枝木を積み重ね続ける繊細さは自分には不可能だ。

 

崇める様に皿を持ち上げればもう一人にやめなさいと注意を受けたので渋々倒壊しないようにそっと机に置く。

 

「食べないのかい?」

「食べる」

 

手にフォークを装備していざとなると足がすくみ。

しかし躊躇いつつもグサリと一撃を入れる。

 

そう、塔に傷を入れてしまった。

芸術を壊してしまったという後悔はもう遅い。ならば削り取った一部を食するのがせめてもの情け。

 

口に入れれば広がるのは未だ感じた事のない味。

 

即ち未知の領域。

噛み締めのたびに認識が。

自分の世界がどんどん広がってゆくのを一番近く体の中で腹の内に感じる。芸術を創意を糧にして己の成長を実感する。

 

新しいものに触れた時、

その時に感じるなんとも形容し難い優越感。何度遭遇しても慣れも衰えることのない独特な心地よさ。

 

壊したくない。

食べられない。

食べたい。

壊さないといけない。

 

一度に数多の情報が駆け回りハイになっていたのかもしれない。

 

食べることしか考えられなかった。

考えることが頭からいなくなった。

 

思考を目の前の宝石に集中する。

それがきっと自分にできる獲物に対する最大限の感謝。

 

「おやおやおや。珍しい組み合わせがまあ〜いたもんだな」

 

不意に乱雑に頭を撫でられ髪がくしゃくしゃになる。

気を取られて過ぎて背後から迫る存在に気づかなかった。

急速に思考回路が顔を上げて表面に浮上する。

 

「ん?」

 

「水臭いじゃない。私も誘えよ女の敵」

「あいにくと手持ちがなくてね。君を誘え無かったことはお詫びするよ」

 

頭を撫でる手は止めず。

けれどもその矛先は自分ではない者に向けられていた。

 

周期的に訪れるオラリオでも人気の看板話題。

本人達も知らぬ間に勝手にランキングをつけられては公表される記事の常連。投票が開かれる時には神々達も参加する姿が見られており、一部だけではなくオラリオ全体が盛り上がっている証だろう。その一つの部門、こと女性の格を競う場において絶世の美女と名高く最高の冒険者の内の一人と表される女傑。

 

知らないわけがない。

なにしろ少女のファミリアを率いる団長なのだから。

 

「それにしても偶然だ。まさか君が来ているとは知らなかったよ。他には見え無さそうだけど1人かい?」

 

「連れにしようとした奴は誰かさんに攫われたからな」

 

ひらひらとその手にはもう用済みになった一枚の紙切れが手に合わせて揺れる。

 

団長さんは団長さんでミラの家に訪れていた。

けれども一足遅く目的の人物は不在。

 

そう言うことならまた日を改めて出直すかと予定を諦め家を後にしようとした所、できる団員が教えてくれたのだ。アイツなら男に連れて行かれたと。

 

そんな事を黙って見逃す程に潔い性格ではない。

彼女は欲しいものがあればなんとしてでも手に入れる派であり、それを取られる事が何よりも嫌いだった。

 

進言してくれた本人も行きたそうにしてはいたが、妹は妹であまり体調が良くないのだろう。甘味と男女の仲という自身の好物を前に拒否、そんな妹を放っておくわけにもいかず団長は誰も連れることなくその場から離れた。

 

「お前も知っているだろう。私は自分のものが奪われるのは嫌いなんだ」

 

「彼女は誰のものでもないと思うけどね」

 

「私が団長でコレは団員。互いに率いるもの同士だ私が何を言いたいか...惚けるなそれくらい分かるだろ?」

 

撫でていた手は離れ代わりに腕がミラの肩を包み込み首の前で交差する。

 

「食べにくいんだけど」

「少しくらいいいだろ?文句を言ってくれるな」

 

肩に顎を乗せ頬をくっつけられると流石に食べられる状況ではない。進む手を止めて抗議するが効果はあまり無さそう。

 

口は忙しなく動く。

少女を知らないとばかりに2人は2人で盛り上がっているらしい。

 

___自分は蚊帳の外

ならば他所でやってくれないだろうか?それなのに身体を締め付ける腕はいつまでも離してくれそうになかった。

・・・時間が経てばより一層強くなっているのは気のせいだろうか?

 

「それじゃあどっちがコイツに相応しいか決めるとするか」

「ああ、譲るつもりはない。望むところさ」

 

バチバチと目から出る閃光はただならぬ雰囲気を醸し出す。

 

「他の所でやってくれない?」

 

不満を口にする少女。

『女帝』の二つ名を持つ者がその対策をしていないわけがない。わかっていたかの様に彼女は冷静に対応する。

 

「ほらなんでも好きなだけ頼んでいいから大人しくしていろ」

 

「なんでも?___

・・・!?なんでも!!好きなだけ!?」

 

『なんでも』

『好きなだけ』

なんと...なんと心地良い響きなのだろう。

 

同時に差し出されるソレを収まらない動揺が前進して恐る恐る受け取る。

 

「うぅ嘘じゃないかしら!?」

 

「ふふふ、そうだとも。だから黙って此処にいよう」

 

ポンと手渡されるのを恐る恐る受け取り少女は目の色を変える。

 

ここに書いてあるものがなんでも手に入る。あるのは見渡す限りのスイーツ。そんな天国を想像して夢ごこち状態。

 

キラキラと目を輝かせる少女をチラリと見やる。

 

買収はこれを持って完了した。

少女が視線を外した時、ニコニコとしていた顔からスッと表情が消える。後は邪魔者である目の前の奴のみ。

 

両者には浅くはない因縁があった。

最強と最高。オラリオで一番有名だと言っても過言ではない2人は誉高き称号がより互いを引き寄せ合い拒絶する。運命はついぞ交わる事を許さず両者が手を取り合うことはなかった。

 

玉座はただ一つだけ過去にも未来にも増えることはなく。

一つ分の椅子には二人はいささか狭すぎた。

 

巷では不仲が噂されるが、噂される程に仲は悪くはない。

すれ違えば一言二言は会話するし、必要とあれば背中を合わせて戦う覚悟もある。好きか嫌いかで表せと言うなら嫌いにする。それくらいの認識。

 

なにも肩を並べられる存在だから、気に食わないからという理由ではない。これは互いが冒険者になる前から、いわば因縁である。

 

難しいことではない。

まだ幼い頃、困っていた自分を助けてくれた存在がいた。

 

感謝をした。

 幼いながら淡い恋心を抱いた。

恩義を感じた。

 あの様になりたいと思った。

あの人の近くに側にいたいと思った。

 役に立ちたいと願った。

 

そうしてある日出会った自分と同じくらいの人間。

そいつが恩人の側で尻尾を振っていた。

 

それはひどくエサに群がる害虫に見えた。

 

思えばその時から道は違えたのだろう。

今も昔も一つの椅子を取り合い争ってきた。

今更仲良く手を繋いで遊ぶなんてお互いに想像することなんて出来ない。

 

「で、どうやって決めるんだい?」

 

「そんなもの決まっているだろう」

 

ふふんと鼻を鳴らし自信満々に答える。

 

「どれ程にミラを想っているか。

これほどに簡単で明快な決着はなかろうに」

 

「ああ、同感だとも。負ける気はないけどね」

 

どちらが彼女に相応しいか。

 

相応しいものが隣に立つ。

至極当然の解に不満はない。

 

 

「はい。ご注文をって___ええっ...増えてる・・・」

 

呼び出しを察知してウキウキでまた訪れてみれば新しい人が増えていた。

 

「ここからここまで、全部下さいな」

 

「全部...へぁ!?全部ですか!!」

 

そうだけど?

そう言ってどうかしたのかと不思議そうに聞き返してくれる少女の態度から自分が呆けて書き間違えた訳ではない事が分かった。

 

いや、その量は無理があるだろう。

しかし頼まれてしまったのならオーダーを通すのが己の勤め。

 

店員は少しばかり考え、新しく増えた人物の注文だろうと自身を納得させた。そうして少女と距離の近い女性を一見するにその人は同性として嫉妬したくなるくらいに整った容姿をした成人の女性だ。

 

手入れされた髪に身なりも良い。

裕福な人物なのだろう事が直ぐに見てわかった。

 

「ここからここまでよ。願いするわ」

 

「ありがとうございます。少々お待ち下さい」

 

少女はと言えば再三すると同時に満面の笑みでニコニコと自慢するように見せてくる。いつ見ても愛らしいが、やはり賑やかになった周りが少しばかりうるさすぎる。いやうるさい。

 

「手を繋いだくらいで一喜一憂とは、私など小さい時に何度も握ってくれたものだ」

 

「当たり前だと思って今では何も感じない。それは望ましいことかもしれないが、僕には実に残念に思えて仕方ないよ」

 

「ふ〜ん♪ふ〜んふ〜ん♪」

 

売り言葉に買い言葉。

止まらない途切れを知らない言葉の数々。

足を揺らす少女に言い合いをする大の大人。

 

「はぁ〜」

 

店員のため息が漏れ、誰にも知られる事なく静かに世界に溶けゆく。せっかく見つけたはずの安住の地は荒らされて体を成せずに消えていった。

 

 

 

 

 

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