「ねぇミラさん生まれてくる子はどんな子供なんだろう」
そう言って母になる悩みと嬉しさを胸に抱え、膨らんだ腹を撫でていた自分の子供と呼べるであろう者は未だ目を覚まさず指ひとつ動かない。
物音一つない静かな部屋。
それに応えるように腕に抱えた小さな命が自分の存在を主張するかのように泣き叫ぶ。
その腕に抱いた目を離せば潰れそうな儚い生命を身体を揺らしながらあやす真似ごとをやってみるけれど改善は見られない。今は物言わぬ人だったモノを見つめながらその行為を繰り返した。
___人であれば涙の一つも流すのだろう。
今を生きる者達にとって死とは避けられないものだ。
なのに、それは等しく訪れるというのに。
別れは必ずあるとわかっていながらも
しかし、だからこそ別れを惜しむのが人。
後日葬儀が開かれミラも参列した。
少し前にも開かれた戦死者達を弔ったあの時みたいにただそれを見つめ
今に始まった話ではないけれども、
それなのにこの時ばかりは冷静にそれはもう肉塊だと判断している自分に引っ掛かりを覚えた。
でも、それが正常なのか異常なのか少女には分からない。誰もが口を閉じ聞こえてくるのはすすり泣く言葉になれなかった声。
そんな静寂が支配する空間はとてもでないが、誰かに尋ねその気持ちを代弁してもらえる雰囲気ではないだろう。
「ねぇあの人って親族の人よね?」
「冷たい人。別れに涙の一つもないのかい」
声が聞こえた。
きっと静かな場だからだろう。
「気にしなくていいわよ。
こういう事には人それぞれ差はあるものだから」
そう言って抱きしめてくる友人は自分と違い瞳を潤ませていた。
__少女は思う
__どれだけ容姿を似せることができたとしても
___家族になろうとも
____家族の一人として共に過ごしたとしても
その中身は、根幹の内は変わることはないのだと。
心配することはない。
また一人に戻るだけだ。
いつも通りまた一人になるだけ。
それだけの...
誰も居なくなった玉座に腰を預け静かに佇む王がいる。
それは種の頂に立つ者
避けられぬ滅び
祖なるもの
原初の理
彼等の呼び名は数あれど、かの者の意思は名に恥じることのない等しく訪れる終わりであった。時に絶望をある時は希望を、今を生きる生命を糧として星に種を蒔き新たなる生命を芽吹かせる。
まさに地表の全てを消し去る超自然による自浄作用。
ある一族は目の前で起きた抗いようのない末路を終わらせた奇跡に対して。
未来の無き生命を生かしたその御業を
その理解できぬ事象を
かの者を理解する為にその現象。
__ソレを神と崇め信仰の対象とした。
閉じたまぶたが薄く開き眉が顰まる。
また夢から覚める。
程なくして扉がバァン!!と遠慮なしに開かれるとその音に続いて人が雪崩れ込んでくると独りしかいなかった部屋には瞬く間に人。
そうして数多の種族が溢れかえるまで時間はさほどかからなかった。
先頭に立つ人物がその部屋のただ一人をいち早く見つけ、踏み込んだ時から感じていた異様な静かさを纏ったファミリアを今一度見渡し視線を部屋の主へと戻し口を開く。
「ヘラは何処だ」
自身の要件だけを簡潔に伝えるが少女は口を閉ざしたまま何も言わない。それどころか興味なさそうに再び目蓋を閉じようとする彼女を見て男はその態度が気に食わなかったのだろう。
口調を強めて再三と問いつつ部屋へと踏み出したその時。
「______」
少女の口元が僅かに動いた気がした。
__刹那に閃光
か細い指先から放たれた緋色は己が領域へと踏み入れようとした男の足をその場へと踏み留まらせ、下に敷かれた大理石にまで届くと次に横へと駆け消える。
その足もとを見れば男の前には一線。
赤雷の後には黒く砕け焼け焦げ煙をあげながら溝が現れた。
言わばそれは内と外。
境界線を表していた。
「面倒事は余り好みじゃない。そこを超えられるとみんなの相手をしないといけなくなるから...だから大人しくしてて」
眠たげに欠伸をしつつ、しかしさっきと違い目蓋は開かれ赤い瞳がジッと見つめる。しかし彼とて幾多の危険を乗り越えてきた冒険者である。たかだか小娘一人の魔法に怯む道理はなく、自身の目的を果たす為に行動するのみ。
「我ら主神の命により悪神ヘラの居場所を話せば荒事はしないでやろう」
「それは言えない事だから...そうね。他の場所は好きに調べて貰って構わない。けれど、ここから先はダメだよ。そういう事になってるから」
「笑わせるな。もはや三大クエストで主力を失ったヘラ・ファミリアの残党など我らの敵ではない。ゼウスとヘラの時代は終わったのだ!!」
男が背後に号令を送ると話し合いは決裂を意味する。詠唱が始まり武器を構え順次に戦闘体制は取られ準備が終わると男は最終通達をする。
「これが最後だ。大人しく吐かないと後悔するぞ。子供相手だからといって手加減はせん。お前も恩恵を与えられた者ならばわかるだろう?」
魔法使いは脅威である。
魔法は時としてたった一人で戦場を変えしまえる。
魔法の効果は絶大であり戦況をコントロールするからだ。
しかしてコチラは100の冒険者を有する連合。
魔法使いとてこれだけの数を捌けるはずもなく、その一騎当千の魔法も無限ではない。いずれ限界は訪れる。ならばあとに残るのは魔力を失って何もできなくなった子供だ。
男の言葉には慈悲もあった。
これだけの数の冒険者でたった一人の少女に戦いを挑むなど、人としてどうなのかと心の片隅にある人としての常識が叫んでいたからだ。
確かに神の恩恵を刻んだ以上、双方にはレベルという絶対的な格付けがされる。それは見た目に左右されず、だからこそその気の迷いは油断となり命取りになる。これはダンジョン内のモンスターにも言えることだ。儚そうなモノや美しいモノ程、宿す毒は強かったりする。
だからこそやると決めたら誰であろうと全力でやる。誰もが自ずと自然と身につける戦い生き残ってきた冒険者としての生存意識にして教訓である。
動かず何も言わず。
そんな態度の相手には最終通達を果たした男にもう迷いはない。邪魔者は排除するだけ。
「魔法隊放て!!」
合図と同時に背後から幾つもの魔法が敵に向かって放たれ爆発を引き起こす。それを皮切りに部隊を率いて玉座の中心部に雪崩れ込むと巻き上がった煙が徐々に晴れてくるにつれて影は大きくなる。背丈は大人の背にはあまりにも届かない。
完全に煙が消えると立っていたのは玉座に腰を下ろしていた白い少女だった。その背後の玉座は先の魔法によって粉々に砕け散り、少女体には傷一つない。
「そうね...よく知ってるわ。アナタ達人類は歩み続ける宿命があるのことを、こうなる事も仕方が無いこと」
ファミリアのみんながオラリオから無事に逃げる為の時間稼ぎの手筈だったが、気分が変わった。
退屈そうな雰囲気の少女はもう居ない。
瞬時に意識を切り替えるとそこにあるのは人類の壁として相対する者。
玉座に足を踏み入れたものは全員が理解した。
その者が放つオーラを、もはやこの世を去ったと思われた一級冒険者と呼ばれる者達、その所以を。
「なら、試練をしてみない?退屈なんてさせないわ」
ニヤリと弧を描き目を細める姿は捕食者。
獲物が誰かなどは言うまでもない。
いや、生態系すらも超越した者にとっては同じく頂に立つもの以外、他は虫と変わらない。ミラはゆっくりと掌を上げて前へとかざして集団に向けると口ずさむ。
「サンダー」
今度はハッキリと言葉が聞こえた。
聞こえると同時にその手からは目を覆いたくなる程に極太の光が放たれた。
その光の進行方向は真っ直ぐに集団に迫ると男もそれを黙って見ているわけもない。
「!?陣形!!」
男の声に応じる様に重装を見に纏った人物達が先頭に立つと手に持っていた人一人隠せる程の大盾を地面に突き刺す。
光と部隊が相対するまでに時間はかからない。
その衝撃に盾が押し返されのを必死に防ぐ。
遮蔽物の無い空間は光に覆い尽くされ眩い光が視界を埋め尽くす。
それ程の威力の魔法だ。
背後にあったはずの壁が光の中に消えていくのは必然の光景だった。
己の身が呑まれたら最後__待っているであろう姿に既視感を、盾の後ろに集う者の中には戦慄を覚える者もいた。
隣に居たものが光にさらわれて懸念は確信へと変わる。盾から漏れ出す光の海が後方部隊に及んだのだ。
動揺は生まれ一度広がったそれは一気に拡散する。
「陣形を乱すな!!維持しろ!!恐るな所詮は魔道士。いつまでも続く訳ではない」
下がる指揮を放置しては部隊が崩壊する。それは何としても防がねばならないことだろう。秩序を守ろうと男は部隊長として鼓舞する為に叫びを上げる。
これ程の大規模魔法。
流石は最強のファミリアとして頭上に君臨し続けてきただけはある。
主力を失っても尚、これ程の眷属。魔法だけで語るなら今のオラリオにおいてあの少女もまた上澄みの部類。
元トップファミリアの層の厚さには驚かされるものの。
だが、その程度でしか無い。
当時みたく絶望的な差もなく予想の域は出ない。
きっと、その大技はさぞ消耗する精神力も詠唱も膨大だ。そう考えるなら相手には今以上の次の手は無いと見えたからだ。
先手こそ譲ってしまったが、相手が不意打ちで決めきれなかった時点で我々の勝機は揺るがない。魔法発動までの時間、魔導士には避けることの出来ない致命的な隙そこで倒せばそれでこの戦いは終わりである。
これがオラリオの歴史上、伝説的な冒険者としてこの世を去った女帝や全ての魔導士を無価値へと変えてしまった存在、神に最も愛されたと言われたかの静寂ならば変わったかもしれない。
そう。
偉大な先人達はもう居ないのだ。
未だ残っているのは黒龍討伐に参加できなかった英雄になる資格のない者達と黒龍討伐において戦意を失い剣すら握れなくなった抜け殻達。
この戦いに負ける道理はなく、自分達は必然の勝利を掴む。
ヘラとゼウスの身柄を捉えて我々の時代が来たことをオラリオに証明し、新しい時代の幕開けを飾り産声を上げるのだ。
その為の連合。
その為の共同部隊。
それぞれの仲を乗り超えて結んだヘラとゼウスを強制送還させる為だけに組まれたオラリオの包囲網。
だとしてもフレイヤファミリアが参加の意思を見せなかったのは神々にとって想定外であった。
神の中には偉大すぎた背に苦渋を飲まされ続け恨み嫉みを持つ者は少なく無い。フレイヤはその筆頭、彼女のヘラ嫌いは本人達の仲の悪さも相まって他の神にも広く知られている事だった。
なのに今回の戦線に不参加を示したのもフレイヤ。
「嫌よ。貴方達で頑張りなさい」
何人もの神が集まる場にてさも当然とばかりに空気を読まずにNOを即答したフレイヤに一人の神は興味深そうに尋ねた。
「なんや、拍子抜けするやないか。
自分、ヘラに相当やられたと聞いたで、なのにその態度。逆に気になってしゃあないわ」
神はフレイヤの性格をよく知っていた。
これでも同郷の出身だ。自らが知るフレイヤという神は自分自身が一番でないと納得が出来ない奴であり、欲しいものを全て手に入れたいと思うような強欲な女。反面その日と気分で行動する自由奔放で気まぐれ、正直言って何を考えているのか分からない。その真意を確かめる為に神は細い双眼で嫉妬したくなる程に女という性の概念が完成された美の女神のその瞳を覗き込む。
今度はただの自己中が発動しただけなのか、はたまた別の何かか。理由があるなら知りたいと思うのが人でも神でも一緒。
「隠し事かいな。それはアカンよアカへんで、ゼウスとヘラをやっつけたら今度は自分になるで」
少しでも女の腹を探る為、脅しを加えつつ反応を伺う。
が、向こうはいつもと変わらず柔らかい笑みを浮かべてはいつも通りの態度で涼しい顔して居るのだから地上でもやはり侮れない女神という認識は変わらない。
「今度は私?ふふふ、面白い事を言うのね。なら今度、戦争遊戯でもやってみる?」
「ほー言うやないか」
「おいやめてくれ、味方同士で争っていい状況では無いんだ」
見かねた他の神が割って入ると会話は中断する。
これ以上の交戦的な態度は場の雰囲気を悪くするだけだろう。一緒に戦おうと集められ結成しようとするのに、これでは本末転倒になってしまう。
神は態度を改めて今度は媚びる様に声を出す。
「ええやんか〜こっちでは自分の方が先輩なんやから、同郷のよしみとしてアドバイスしてぇ〜な」
「そうね。攻めるのも大事、私もそっちの方が好みだけれど、、、けれども時には待つ事も大事なの」
「はぁ?」
「それじゃあ私はもう行くとするわ。せいぜい頑張りなさいな」
颯爽と去る女神の後ろ姿に全員の視線が突き刺さる。常日頃、熱の籠った視線を受けるその身であるが、今のそれは困惑。
「まさか、アレがアドバイスのつもりかいな...」
ため息混じりに放たれた言葉はこの場にいた神達の内心を簡潔に表していた。
光は晴れて眩しかった景色が鮮明になっていく。
目の前に居るのは相変わらず一人のエルフの子。
攻防の余白に生まれた一瞬の間に空間を静寂が支配する。
静寂は双方によって破られる男が動こうとするがまたしても先に動いたのは少女である。
構えた手をそのままに若干の位置を調整しつつ、その異変に男が察すると隣にいた治癒魔導士が口を開く。
「隊長、魔素が急速に集まってます!!これって!?」
それが分かれば敵が何をしようとしているのか直ぐに理解できた。
「陣形そのまま!!各班は被害報告しろ。魔導隊は詠唱を始め終わり次第放て!!お前たち二発目がくるぞ!!」
男の言葉を飲み込むが如く、雷は再来し遅れて雷光が鳴り響く。
超短文魔法。
ウワサに聞いたことがある。
発するだけで魔法を発動させる。
詠唱を必要としない数ある魔法の中でも特に優れているとされる魔法タイプ。
それは魔導士ならば何がなんでも欲しいとされる理想の魔法。切っては切れない詠唱の時間を無視して魔法を扱えるのだ。魔導士じゃなくともその利便性は理解できるだろう。
部隊に動揺が広がる。
もはや止まらない。
これだけの威力の魔法がこれからも連発されるとするなら量によっては陣形を維持できず崩壊する。男からは余裕が消え真剣な表情からも事態の均衡が対等になったことがうかがえた。遅れて詠唱を終えた複数の魔法が盾と拮抗する最前列に加わり衝撃を和らげるが消すどころか相殺すら叶わない。
それでも無いよりかはマシである。
なんとか対処できたおかげで初撃よりも損害なく2撃目も受け止め続ける事に成功したのが幸いか、損害報告も同時に問題なく行われ事態を把握。
この攻防だけで3分の1の被害が出ている状況に頭が痛くなる。特に最後尾の魔導隊は半分が戦闘不能状態。男にはもはや選択の余地は無く男には目の前の敵をなんとしてでも倒すという使命を帯びていた。
疲弊する集団を前にミラの様子は変わらない。
小細工などなくただ圧倒的なスキルによって正面から叩き潰す。
そこに生まれる事実こそが互いの実力差を決定づける。何よりこれは原始から変わらない戦闘において単純にして目の前の敵を倒すだけの為の最適解。
冷静に状況を見られる第三者がこの場に居たとしてその人が抱く感想はきっと蹂躙だっただろう。
その姿は容姿も相まって不気味である。
少女からは恩恵だけでは説明できぬ品位があるからだ。
熟練の冒険者の様な。
いや、違う。
それはどちらかといえば長い月日を、人生という道の中の数多の経験によって得られる過程で形成される成熟した精神を思わせる。
言葉にするならば
___そう、絶対者。
集団を成す人類に必ず出現する王たる資格を持つ存在に近く。しかしそれは彼女を表すにはひどく的外れな例えであった。
___元より連なりの無き種。
生態系の枠より逸脱した故に隔絶された個。
___時に天候さえ操り世界を我が物にする自然の理。
その中でも至高の個の一つ。
___生殖機能は無く
生物として欠陥を持ち。
だが、一つの生物として完成された種にして謎多き種。
よって、古代の人類は生物達に名前を授けた。
自分達の理解が及ばぬ存在を理解する為に
彼女もまた、かつての姿を捨て去り人並みを手に入れたとはいえども同族にとってはまだまだ強大すぎる個である事には変わらない。
それが今、同族と相対している。
かの者が他の種と同じ土俵で争うなど本来ならあり得ないことだ。これこそが神の恩恵、俗に言う神の奇跡だったのだろうか。それとも巡り巡って訪れた運命と呼ぶべきものか?
それは定かではない。
無論加減はするつもりだ。
でなければ、この一帯が持たない。
__それに膨大な力を行使すれば器は壊れてしまうだろう。
多少は頑丈になったとはいえ、それでも結局はどこまでいっても仮初。
それは惜しい。
ようやく営なみ方が分かってきた所なのだから。
自身の手から雷は消えると人が一斉に距離を詰めてくる。
多方向から迫られては魔法を撃つだけでは役不足。
相手もそれをわかって距離を詰めてきているのだろう。
それは悪手だった。
纏めて
でもまあ、相手に乗ってあげるのも一興か。
どうせ時間はいくらでもあるのだ。
存分に知恵を絞り考え披露して欲しい。
それが進み乗り越える歩みだと言うなら
___ならば喜んで立ち塞がろう。
それが己が役目であるならば
___その悉く滅ぼし促そう。
「__サンダー」
掌に形成した魔法は相手に放たれることはない。
放ったのは他でもない自分自身。
それは誤爆したかの様に思えるが、しかしそれは違う。
次に彼女を見た時にはミラの身体は眩しいくらいに光を放つと時折バチバチと辺りを鳴らし始めていた。
その姿。
まるで稲光、雷の様であり。
__突如として掻き消える人影
点火した火の出力を調整し、全身に魔力を激らせ負荷を測り。その結果として身体は雷と一体と化した。
それはもはや肉眼で捉える事すら難しい。
彼女を視界に収めていてもそれらの出来事は瞬く間に起こった一瞬の出来事であり、気付けば彼女の様子が変わっていたとしか__
__いや、常人には目の前に立つ人が突如として消えたとしか認識出来なかったろう。
『
この時を持ってエルフの少女は雷へと還る。
高レベルの冒険者の足を持ってすれば数十mの直線などは無いものと同じである。レベル2以上が軒並み揃える部隊を任され率いる男はその中で最高のlevel 6。その領域に位置する彼は必然的に誰よりも速くミラの元へと辿り着くと剣を振り下ろすのは至極当然な事で。
が、その剣は空を切るだけ
虚しい音だけが耳に届く。
次に聞こえるのは後方で鳴り響く稲光。
それと部下達の悲鳴。
思わず振り返れば集団の中心で雷は四方に放電し人が僅かだけ空を飛ぶ事を許されるとその代償に地面に叩きつけられる。
意思は刈り取られそれなのに体は震え続け焼け焦げたみたく体から煙が出る姿は確認しなければ生きているのかどうかも怪しい。
もはや被害を数えるまでもない。
被害は甚大。ヘラ本人を見つけたとしても場合によっては任務に支障をきたすレベルである。
「これ以上は好きにはさせんぞ!!」
瞬時に反転、ミラへと飛び込むと剣を振るうもまたもや手応えはない。またもや何もない場所を切る剣ではあるが男の手は止まることはない。
勢いそのまま自らの感のままに隣の何もない空間を切る。
「驚いた。まさかついて来られるなんて思ってなかったわ」
何もないはずの場所にはミラがいた。
いつの間にか抜いていた剣で男の剣を防ぎ止めると彼女の表情になんの変わりもないが、その声には少しの驚きがあった。
「魔道士とばかり思っていたが、そちらでも腕が立つ様だな。楽しめそうだ」
「奇遇だね。私も貴方に興味が湧いてきた所」
剣は拮抗し鉄が不快音を奏でる。
押し切れないのは少女が自分と同等かそれ以上のステータスを持っている事を示している。
それでも男は構わず薙ぎ払うつもりで力を加える。
両者の拮抗は長く続かない。
先に根を上げたのはミラの方、それもミラの剣が折れてしまったからだ。
「あれ?」
その手にあった物がガラクタに変わったと分かるやミラは首を傾げる。
「ふぅん!!」
ミラの持つ剣は二つに折れて破片は飛び散り阻むものが取り除かれた剣が次に向かうのは本体。でもミラの体を刃が捉えることはない。その前にミラは電気の残滓を残し消え去るとそうしてまた別の方向で雷撃の音と悲鳴が共演する。
「狙いはそっちか!?」
「仲間外れにはしない。しっかりとアナタも入っているから安心して」
「くそっ!!逃げ足だけは早いな」
目の前にあるはずのモノがまるで幻影に思えてくる。
「ほら、こっちよ」
そうして微笑む姿はまるで戯れているようで。
「うん。当たり」
ようやく当たった一撃も2本目の剣によって防がれるのだからタチが悪い。
「なんとなく分かった。アナタって感覚の強化...そうね。例えば直感系のスキル持ちでしょ?」
ミラの問いに男は口を開くことなく常人には見えることのない高速の剣撃で応えるが飛び退き二人は見つめ合う、
「もう。お話くらいいいじゃない」
「時間稼ぎのつもりか?」
釣れない態度にミラはムッと顔を膨らませ抗議する。
それは非常に愛らしい姿であった。
さながら蜃気楼を思わせる戦闘スタイルはまさに童話に描かれた
しかし仲間がそこら中に倒れ伏しその元凶がその愛らしい仕草をする少女の仕業とくればアレは悪魔の名の方が似合うだろうと男は心の中で軽口を叩く。
甘い言葉を囁き人を誑かして獲物を死へと導く悪魔。ならばこの手にも力が入るというもの。
「そうね。そうかもしれないわ」
男の問いに対して素直に答えてくれる事も調子が狂う。本当に目の前の存在は悪魔なのかもしれない。
「誰だって楽しい時間は長く楽しみたいって。そう思わない?」
「あいにくこちらは急いでいる身だ。遠慮する!!」
振るわれた剣はミラの剣を砕きこれでミラの手持ちの武器は何一つ残されていない。文字通り丸腰。持ち手だけになってしまったミラは困り顔で武器を投げ捨て悩む。
「ちゃんとした武器にしないとやっぱりダメね」
その絶好のチャンスを見逃すわけがない自身のスキルを信じて踏み込み剣を前に進め消える少女を追う様に剣を走らせ足を出す。
先には手応えがあった。
ならば後は剣を阻むソレを両断する。
だが、剣は進まない。
微動だにせずその場に留まり続ける。
男がその事実を確認した時驚愕に染まるなんと少女が刀身を素手で受け止めていたからだ。
彼女とて無事ではない。
その代償に掴んだ手からは血が流れていた。
だが、それは先程の一撃はその身で受けてもその程度でしかないという意味も含まれる。
「これは...
不意に剣が解放された事で体勢が崩れる。
「なんのつもりだ」
「ごめんなさい。手に何か握ってないと加減が分からないから」
少女は申し訳なさそうに伝える
「アナタを殺してしまうかもしれない。けれど、それもまたしょうがない事よね」
手から滴る赤い血潮。
感じられる確かな痛み。
「___戦いってそういうものだもの」
発する言葉とは裏腹に疑念も迷いもなく純粋無垢に少女は笑う。
ニッコリと目を細め何度目かの微笑みを送る。
好奇心は時として残酷である。
足元の虫を踏み潰してただケラケラと笑い楽しむ幼子が居る様に。
そこにはきっと善悪は無く。
だからこそ生と死が釣合う天秤は強大なナニカによって簡単に引かれ傾いたのだった。
・雷属性を無効化。
・雷属性を受けると精神力・体力の回復。
・スキル使用中のみ敏捷に対する