広間からは楽しげな声が聞こえてくる。
ざっと数えれば10と数人。
比べてみれば慎ましいがそれでも負けず劣らずこの場所には活気があった。
「よかった。楽しんでもらえているみたいね」
「そう?」
「ええ、最初会った時より顔が穏やかになってるもの」
彼女達とは初めてあったのに見えてくるのは何度も体験した馴染み深い光景。数多にダンジョンに潜り時には未知を掻き分けまだ見ぬ世界を踏破した。
町に帰れば酒場で宴会が開かれる。
それを誰かが酒を片手に不意に語り出せばそれはもはや英雄譚になる。
給仕に努める子供達が寄り集まり輝く瞳で心躍らせた。
そうして心躍らせる者達の中には白いエルフの少女も入っており、彼女たちの口から語られるそれは同じく見てきたはずなのに心が熱くなった。
机に並べられた料理に喉を鳴らし聞こえてくる物語に心が酔う。
そこはいつまでも浸りたくなる程に心地良い世界だった。
「しかし団長さんも考えて行動してもらいませんと困ります。いくら最近ランクアップしてレベルが2になったといいますけれど、その人攫いがそれ以上だった場合はどうなさるおつもりだったのですか?浮かれるのでは?」
「そんな時も大丈夫!!腕に抱えてダッシュで逃げるつもりだったから」
「またメチャクチャな事を...貴女はいつもそうやって」
「いいじゃんか。ウチらの団長のネジが外れてるのは今に始まった話じゃねぇーしな」
赤い髪の女性が団員に囲まれていた。
年は周りと変わらないだろうに立派に団長を務めているらしい。
町娘に比べて凛々しく大人びて見えたのは冒険者だからだろう。ダンジョンでの死線の数々が未熟な精神を同年代と比にならないくらいに強固にする。このファリミアがどれほど冒険者を続けているかは知らないが生き残り、そして未だ冒険を諦めない。彼女ら面々の顔色からは恐怖は見えず、今を楽しみ生きている事が伝わってくる。
まさに冒険者の鏡だろう。
しかしそれは冒険者というファクターがあってこそ。
今こうして仲間達と騒ぎ見せる表情には年相応があり、初めて会った時の凛々しさはなく。そこに居る全員は少女にとってはただの子供にみえた。
「いい子達でしょ?」
隣から声が投げかけられる。
少女が目の前で騒ぐ集団から視線を逸らさすことはない。
「ええ、見ていて微笑ましいね。
・・・それにしても皆幼すぎる」
ミラから見ても彼女達は成人すらしていない子供達であるのは明らかだった。
夢に夢見て大地を駆ける。
良い事だとは思う。
世界を知らないその無鉄砲さは幼き者の特権とも呼べる。だが、それは管理する者が居てこそ成り立つ。
即ち家族。
まだ加減という天秤を知らないなら親が、経験豊富な大人がその加減を見極めその手綱を引いてやる必要がある。頑張れば褒めて間違いを犯せば叱る。そして彼女達も天秤を知りいずれ大人になっていく。
でも目の前の子達の中にはそんな大人は見られない。
団長であるアリーゼも変わらず年若い。
「今年で3年目に入った所よ。私がまだファミリアを立ち上げたばかりということもあるけれど、それは今後の課題の一つ。何処かにあの子達を引っ張ってくれるお姉さんが居てくれればいいんだけど」
「それはアナタの仕事じゃないの?」
至極当然な解にアストレアは思わず笑ってしまった。
「ごめんなさい他意はないの。でも...ふふふふ」
おかしな事は言った覚えはないのになにがどうなって彼女の笑いのツボを付いたのか。昔もヘラと会話して突然笑われた事はあったし、それは他の団員とて同じ。そういえばあの子達と生活していた時も何度も笑われた。そんな事を思い返せばそれは今に始まった話ではなく、ならば原因は相手ではなく自分にあるのだろう。でもその原因が分からない。
「私が悪い?」
首をコテンと傾け顔をコチラに向けその純真さ。容姿も心の在り方も何処までも白く穢れを知らなそうな心。その本心こそわからないが今、エルフの子が疑問と謎を抱いているのはハッキリと分かった。
子供の様で子供ではない会話の所々で垣間見える達観した視野。エルフの子とはこの様に不思議を感じさせる存在なのかと。会ったことのないタイプの人に彼女を知りたいと思う好奇心が自らの瞳を好意的に映す。
「ううん何も悪くないわ。みんな私を慕ってくれるけれど、やっぱり神様だからと遠慮がある。これは外でも一緒。でも貴方にはそれがないの」
「神様だろうと誰であろうと何も変わらない。
特別はない。特別があるとすればそれは全部よ。アナタもワタシもこの世界に生まれた一つの生命だもの」
ほら。やっぱり面白い。
こんな子が居ればどんな神だろうと欲しがるだろうと。本人はそう言うれけど彼女は紛れもなく特別な子。いいなとこの子が居ればもっとこの場所が賑やかになるだろうと華やかな未来設計を立ててしまうのはなにもおかしいことではない。
「一人で暮らしているのよね。他に帰る場所はあるの?帰りを待つファミリアは?」
「ううんもうないわ。だからオラリオではもうあそこだけが唯一の私の場所」
理由は様々だが何度も耳に入る話だ。
それを聞かされるのはやはり心を傷ませる。
それに闇派閥の影響によって昼間から犯罪が横行してさらにその手の話は増えたとも聞く。
「知らなかったとはいえごめんなさい」
「気にしなくていい。ここでは日常でしょ?」
__天涯孤独の身
少女はなんともないと口にするけれど、一人というものは誰しも辛いものであろうに。もし子供の1人がまだダンジョンから帰ってこないなどと聞けばきっとその日、自分は眠れないだろうとアストレアは思う。
1人だけでもそれだとするなら、もしも自分ただ1人になった場合の苦痛はもはや理解の範疇を超えている。
胸の痛みは強くなるばかりだ。
それをこんな小さな子が__そこまででアストレアは思考を切り替える。
今は楽しい場なのだ。
こんな暗い話題をわざわざ続けなくともよいだろうと。
「そう...なら困ったら遠慮せずここに来て」
「料理も凄く美味しいし断る理由は今の所はないけれど、いいの?私達は会ったばかり。実は悪い子かもしれないわよ?」
お人好しが過ぎるとは他の神からもよく言われる。
偽善だのなんだの徒労だと暇人かと笑われることもある。
例えそうだとしても。
一つ一つが直ぐに吹き飛んでしまう塵だとしても難しい理由などいらない。それが自分がやりたい事なのだから。だからしょうがないのだ。
でもこれは違う。
確かにこんな世の中、一人だなんていつ今日みたいに人攫いに襲われるか早いから遅いかの違いで分かったものではなく。
その点で言うのなら他の神が言うおせっかいなのだろうけれど、アストレアは彼女の在り方に価値観に興味がある。どんな神であろうと動くに値する正当な理由だ。
「私は貴方の事、凄く好きよ。
それにアリーゼが認めた子だものいい子に決まってる。他の子達もきっと貴方を好きになる。この場所を明るくしてくれる。そんな気がするの」
「そんな事を言われたのは初めて。他の神と同じでどうせ勧誘されるのかと思ったけど、どうやらアナタは違うみたい」
ヒヤリと背中を伝う汗を無視してとりあえずは平然に何ともないとウフフと笑っておいた。
___ターニングポイント。
分岐点と色々な言葉が頭をよぎるが自分はその選択肢を間違えなかったらしい。ドキドキと心臓の音が聞こえてくる。こんなやりとりを地上の子とやるとは思ってもみなかったから尚更だ。それと達成感。
「なら...そうね。美味しい物が食べたくなったらまた来るわ」
「とは言ったけれど...」
顔を見たらため息が漏れた。
___ドンドン__ドンドン
___ドンドンドンドン
人様の家だと言うのに遠慮もなく経てば経つほど大きくなる音。けたましく叩かれるそれは扉を壊そうとしていると思われてもしょうがない。
やめてくれと急いで扉を開ければ昨日ぶりの顔。
「ヤッホー☆正義の美少女ですよ」
関わる相手を間違えたのかもしれない。
後悔するがもう手遅れ、コチラの気分なんか知らないと自信満々な恩人が立っていた。これは朝日が登り始める刻、早朝の出来事。
眠たい瞼を擦り瞳を開けば早朝だというのにどうしてそこまで元気なのか。
「・・・何しにやってきたの?」
「見回りだよ!!み・ま・わ・り。ここら辺は特に静かだからね〜。足を伸ばす事にしたの!!」
「うるさいわ。周りにも迷惑」
入り口へと続く地下階段は音の逃げ場がなく反響する。彼女の元気な声は反響を繰り返し何倍にもなって数少ない逃げ場に立つミラの耳を加減なく攻撃した。キーンとなる耳を思わず手で押さえボーとする頭がつられて頭痛を引き起こす。眠気など一気に吹き飛んだ。
「大丈夫!!大丈夫!!人が住んでるのはこの教会くらいだから」
「調べたの?」
「私にかかれば朝飯前。どう?仕事の出来るいい女。ダメダメこれ以上人気になったら私の身が持たない。いやん、みんな私で争わないで!!」
まるで言葉の暴力。
会話しているだけで起きて空っぽになったはずの腹ぎ今度は胃もたれしそうになる。
「それで、もういい?」
それじゃあと別れを告げてこの短時間で積み上げられた感情をウンザリした顔で隠す事なく、もう寝る邪魔をするなと暗に示す。
早起きすればお得などと誰かが言っていたが、眠気に悩まされるくらいなら好きなだけ寝た方が良いに決まっている。持論をコチラに押し付けられても困るだけ、そもそも種が違う相手同士を同じ尺度で比べてどうするのだ。神と人を比べたとして決着がつくとは到底思えない。
「待ちなさい。そんなに急ぐことなんてないじゃない。見回りついでに散策なんてどうかしら?今なら美少女付きで!!」
「あいにくそんな趣味はないわ」
伸びてきた手が扉を持つ手に重ねられる。
「可愛いお嬢さん。貴女は今、損をしているわ!!それにそんな時からお寝坊さんなんてのはお姉ちゃんは許しません。なので私が素晴らしい世界に案内してあげましょう」
重ねられた手に力が入る。
次に体が引かれ無理やり引っ張られて少女は扉の外へと追い出された。
「それじゃあ行きましょうか」
「あぁ...お布団...それにフカフカのベットに枕」
仲間達との別れに思わず弱音が漏れる。
この手を無理やり振り解けば再会を果たせるが、きっとこのニコニコした悪魔はそれを許してはくれない。抵抗しても振り出しに戻るだけ。そうして相手の方は悪い事をやっている癖に悪びれもせず、『今日も頑張るぞー』とミラとの間に未だ問題点があるというのに次のステップへと移行した悪魔を見て何度目かのため息が出るのは仕方がないことだ。
「ため息すると幸せが逃げちゃうわよ」
「大きなお世話だね」
アリーゼの後ろを突いて歩く。
最初は手を引かれ引っ張られていたが、眠気が覚めればもういいと手を振り解いた。
__困っている人に話しかけて助ける。
__暴れている不届きものを追い払う。
__不安に思う人々の話し相手になる。
オラリオを探索して気がつけば太陽が高い。
今は彼女が案内してくれた場所で少女は景色をぼーと眺めているが、これまで行動を共にし見て思ったがあまり面白いものではない。
見下ろせば目の前には昼頃でも変わらず物静かなオラリオがあって人も探さなければ見つけられない。
「よかった。みんな喜んでくれてたね!!」
「そうね」
人助けは善行できっといいことだろう。
たが、ミラは早起きしてやろうとは思わない。アリーゼの行動に対して善はあっても、ミラの判断に良いも悪いはない。この違いはそれぞれの感性の違いであって咎められる類のものでもない。
人助けもそうだ。
それはきっと___
「あら...もうお昼の時間!?急がないと!!ほら行きましょう!!」
思考は中断される。
まだ来たばかり連れてきておいてまったく忙しい。
もっとゆっくり過ごせばいいのにと思うが、彼女はヒューマンだという事を思い出した。許された時間は少なく、そう考えれば妙に納得ができた。そしてその時間を最大限まで使い切ったとてあまりにも短いそれを長命種であるエルフがすべてを理解する事は永遠に叶わないだろうがでも付き合い方は心得ている。
過ごし方も知っているつもりだ。
だから今日をアリーゼに譲歩するのは何もおかしなことではないはず。
もう少し眺めていたかったが、仕方ないと彼女に導かれるままにまた歩みを再開するのだった。
「ふう。なんとか間一髪ってやつ」
時間にはギリギリで間に合ったらしい。
たどり着いた場所では声が聞こえた。
荒んで久しくないオラリオには珍しく人が集まっていた。声の主たちは間違いなくあれらだろう。同時に漂ってくる匂いは空腹を誘ういい匂い。
なんでもこの場所で炊き出しが行われるらしい。
そんないいスポットがあったとは知らなかったと列に並ぼうとするが首元を掴まれて前に進まない。
「ちょいちょい。私達はこっち」
どうやら自分達にはあれとは別のものが用意されているらしい。
「やっときたか。忘れてるかと思ったよ」
「下々の者よりも遅れて出てくる。まっこと団長の鏡でございますね〜」
ライラと輝夜が見つけるなり声をかけてきた。
ライラはともかく輝夜はニコニコと笑みこそ浮かべてはいるが、口ぶりや態度からは穏やかな雰囲気は見られない。ここは自分のファミリアだけではなく他のファミリアの団員が居るのも影響したのだろうか?きっと内心は彼女の顔とは正反対で悪態をついていることだろうに。
目の前の2人以外に目を向ければ大きな鍋が幾つも煙を立てながら通路を多くの冒険者が忙しなく動き回る。強くなった匂い。間違いなくここら一帯に漂う原因の元がそこにはあった。
「ごめんごめん。今日も私を求める子が多くて多くてモテる女は辛いわね」
横に向ければうっとりと自惚れた顔は匂いにつられていた少女をしらけた顔に戻させるには十分で。
「で、アンタも助けられた口かい?」
「冗談、私は被害者よ」
「だろうな」
首を振りいたく冷めた声に察したのかライラはポンポンと肩を叩いてきた。
「団長がごめんね」
「おつかれですか!?こちらに椅子がありますのでどうぞ!!」
アリーゼの大きな声が聞こえたのだろう。
ライラや輝夜だけではなく他の団員も続々と集まりだす。
騒ぐアリーゼとミラのやつれた顔で察したのだろう。
各々が労いの言葉が迎えてくれた。
「こちらお水です。お口に合うかどうか、、、」
「ええ、ありがとう。
・・・もう。水なんて飲めるならたいして変わらないわ。そんなにビクビクしないで?」
「申し訳ありません!!」
居心地が悪いので言ってはみたもののお盆で口を隠しつつ恐る恐る見やるエルフの態度が変わる事はない。
この場所に初めてきた頃よりは人の世を知り恩恵も相まって扱いも上手くなってきたが、やはり時間を共にすればする程に多少は勘付かれてしまうのは防げない。その最たる例が付き人の様に側で佇むセルティと名乗るエルフの子だ。彼女はアストレアファミリアに足を運ぶたびに自分に尽くすようになっていった。
思えば少女にとってこの状況も久しぶりだった。
迫り来るファミリアを壊滅させその後は歩けば暴漢が蔓延る街で面倒事を避け静かに人目につかないように細々と食べては寝るを繰り返した。
人との交流を断ち。もっぱら郊外の森や山など自然の中で過ごすことも増えた。少女が魚釣りに励む一方、平時でも暗黒の時代は街の住人を死に至らしめる。帰ってくる頃にはお気に入りだったお店の店主が強盗に殺された事で廃墟になっていた。
時が別れを勧めた。
黒龍が多くの戦友を屠った。
残った数少ない家族は唯一の主神と共にこの街を去った。
故に彼女をよく知るものは実際に矛を交えたフレイヤファミリア面々くらいだろう。実際あそこにいるエルフ達はミラの毒に侵されている。そうして日々を敬愛する二柱の神の間で心を揺れ動かせる自身の子供をフレイヤはいたく面白そうに眺めていた。それもまた愛の形なのだろうか。
「美味しいわ。ありがとう」
「こここ光栄の極みですぅ」
じっと見つめられるのはやはり居心地が悪い。不安そうな顔を向けてくるのでとりあえずお礼は言ってはみたが、今度は顔を真っ赤にしてブンブンとお辞儀を繰り返すだけになってしまった。
「あまり虐めんといて下さいね」
「そう見えた?」
「いえ、まったくもって」
エルフ同士のやり取りを見ていられなかったのか輝夜がやってきたが、彼女もどうやら少女の敵の類いらしい。
朝から始まり今日は厄日か何かか...
こうも揶揄われては自身に原因があるのではないかと思ってしまう。
彼女も彼女で笑うわけでもなく何ともなく淡々とこちらを貶すような。
いや、何とも思ってないのは本当だろう。
これは彼女の性格か。
「___もしアナタが何処ぞの高貴なお方でも、生まれも育ちもここでは関係ありません」
今の言動には打って変わって瞳に力が籠っている気がした。
「お二人方の関係は存じ上げません。
アストレア様もそんなのは家族達の仲に不要と仰るでしょうが、、、アストレア様の意向は置いておいて。ファミリアとしては一応の年功序列は必要だと思いません?となると当然一番下になるのは覚えておいて下さい」
ニッコリとスマイルを浮かべてくるのも毒突く様な物言いも形だけの笑顔も彼女の性格か。
人は生まれた環境によって千差万別に成長する。
豊かな環境恵まれた場所で生を授かれば教養を与えられ、部族になれば狩を覚え一族の大切さを覚えてゆく。幹から枝分かれする木々のように彼等の行方を想像するのは不可能だ。
誰の目にも留まらず。
足を踏まれ潰れても空を目指す道端の雑草の様に誰かに貶されても反抗し続ける者もいればそれを受け入れる者もいる。
何が言いたいかというと人の思いというのは理解できないものだ。結局はどこまで行っても自分と他。近しい者あろうとそれは変わることがない。
___家族がいた。
医者に言われてもそれを受け入れず子を産んで生き絶えた強き者。
共に暮らし、誰にでも優しい彼女が唯一の肉親である姉にだけは一層な特別な思いを抱いているのは分かった。
しかしあれだけ家族を愛しながら思い合いながらも結局、彼女はその姉に訳を伝える事は無かった。血の繋がらない自身に告げ、2人だけの秘密だと楽しげに笑い。日に日に衰弱し歩く事も目すら見えなくなっても最期の時が訪れても。
それでも彼女は笑顔だった。
___友人がいた。
己の人生を焚べて他人を思いやる優しき者。
そうして他の為に尽くし導いた彼女は今も忘れられずこの世界に存在している。燃える森に辛そうな顔を見せながら戦場で死にそうな状態になりながらも決して曲げる事なく皆の前に立ち己の意思を貫いた。苦難と困難の数だけ彼女の人生があるとも言えるだろう。遥か昔の出来事の様なのにその姿を記憶に残しているのは彼女が己によって特別なのだろうか?
それでも彼女の最期は笑顔だった。
彼等笑顔の意味を考える。
少女は未だ理解できていない。
「何が言いたいの?」
「新参者にデカい顔されんのは癪に障ると...ほら私。セルティに今、睨まれてもうてますさかい。これでもお互い仲良うつもりでしたのに焼けてしまいます」
「輝夜さん。今すぐに謝罪してもらえますか?」
ほら見ろと輝夜は顎を動かした。
「こうも家族から刺されそうになるのは耐えられませんし〜物騒な世の中、家くらい安心して眠りたいと。そう思うのは不思議なことで?」
「・・・ほら、君も私は何も思ってないから」
エルフの一声があればセルティは元通り
「輝夜さんすみません。思わず...」
少女の顔を伺い了解を得てペコリと頭を下げセルティが謝罪をしてたことで輝夜はホッと一息ついた。翻し背中を向ければ刺されそうな危険性があったからだ。
「ご協力感謝します」
「何やってんだ?遊んでないでささっさとこいお前ら」
前に並んだ人の列に何が楽しくて食べ物を渡すのか。手渡された汁物を先頭に立つ者に渡せばその人物は列を逸れて去っていく。ただでさえお腹が空いてしまう状況に任された役目とはいえまるで生殺し状態である。
「それで?いつから君はアストレア・ファミリアに?」
いつも通りにフラリと風の気ままにいつのまにかやってきたであろう男は人の列の先頭に立ちクイッと帽子を人差し指で持ち上げつつミラに問う。
「違うけど」
「それはよかったとも。改宗なんてものそもそも許すわけがないしね。
さて...この光景を見て女神ヘラにどう報告しようかと今は唸っている所さ」
おどけたように肩をすくめてはそうそうとゼウスとヘラの間に挟まれた神は吟遊詩人みたく口達者に愚痴もとい世間話をし出す。
パシリには若干の哀れみを覚えつつそれを何故に自分が聞かされないといけないのかと不満も覚えてくる頃合い。
「みんなは元気?」
「ああ...言葉にするには俺の口からは難しい。
ただ酷い状況だ。目を瞑ればうなされて起きたと思えば部屋に何も無いのに怯えていた。あれがオラリオで頂点に立っていた者達の姿とはね。女神ヘラも子供達に付きっきりさ。そのおかげで俺にゼウスと君の件を押し付けられてるわけなんだが」
思い出せば身震いする。
ヘラの前では口に出す事は決して出来ないが、あれでは生きてる事の方が辛いのではと思ってしまう。回復の見込みはなく、下手をすれば死ぬまで永遠と苦しみ続ける。ならばいっそ...いや、もう考えるのはよした方がいいだろう。あれが黒龍に挑んだ代償なのだろうか?あの戦いでの戦死者と違いなまじ生き残ってしまったが故の地獄。いずれにせよ敗者に救いは無いらしい、
「君もいい加減さ手紙くらい出してくれないかい?俺に対してのヘラからの圧が凄くてね」
「書き方なんて知らないわ」
頼みの本人は興味なさげに淡々と言い切るがそれでそうですかと済ませれば己に負債がやってくる。今日はなんとしても書いてもらわねばならない。
「ほら、元気にしてますってここに書くだけでいいんだ」
「手はもう塞がってるから残念ね」
懐から準備してきた封筒から紙を取り出して差し出せば向こうは両手でお椀を差し出してきた。湯気からはいい香りが漂いスープの中からは野菜や肉が顔を覗かせる。多分それは極東で好まれるみそ汁と呼ばれるものだろう。
「おい。兄ちゃんさっさとしてくれ。いらないならそこ退けよ」
当然。列はこのやり取りの間、今も先止まっている背後の連中が黙って見ている訳もない。待ってくれる間柄でもない。1人が不満を漏らせばその背後も不満を言い始め徐々に声は大きくなるとヘルメスもこれには慌て出す。
「ほら、まだ話したいならまた並べばいい」
グイッと押し付けられ咄嗟の状況から受け取ってしまったら列を離れざるおえない。次の相手をしている少女を見て手元に目を落とす。
白紙の紙と美味しそうなスープ。
遠くに目線をやれば最後尾が見えない長蛇の列。
ヘルメスの口から自然とため息が漏れた。
この列を並び直すのは並大抵ではないだろう。
そも、果たして無事に少女まで辿り着くまでにスープが残っているのだろうか。ならばこれが終わった後にでも...
考えを巡らせてはみたものの肝心の彼女が紙に書いてくれるビジョンはいつまでも見えてこなかった。
手持ち無沙汰にお椀を啜れば豊かな風味が広がりキリキリと痛む腹を癒やし満たす。
「最後に一つ。
これは神としてではなく、君の友人としての言葉だと思ってほしい。子の成長とは早いものだ。小さい内に会っておいた方がいいと思うそれだけ____」
「・・・いや、まだあった。
『静寂』君のもう1人の家族の姿が見えない」
背で語り背後の様子を探りつつしかして彼女からの返事はない。
歴代最強とまで呼ばれた桀物のファミリア。
その一柱にして未だ当時の力を残す怪物その行方。
ヘラから頼まれた依頼ではあるが、個人的にも彼女の行方は気になる。そしてできる事ならその知恵と力を後人の我々に貸してほしかったのだが、それは望み過ぎだったか、、、そうして頭で考え事をすれば今、現在進行形で話している彼女もまた怪物だった事を思い出した。
忘れるのも無理はない。
存在感はフワフワして掴みどころがなく。
動向を観察すればダンジョンにも潜らず一日中景色を眺めているせいで結果的に自分もその景色を見る羽目に。家から出てこないせいで居るのか居ないのかすら分からない日もある。
尋ねれば一応居れば出てきてくれるのは救いか。
顔を見て嫌な顔をされるのは男として少し傷つく。
整った容姿だから尚更だ。
頼みは余程のことでない限り断られる。
その癖に食事に誘えば着いてくる。
警戒していたのに餌を出せば寄って来てまるで猫。
あれだけ美味しそうに食べてくれれば見ているこちらも気持ち良くなってくる。普段見せない笑顔と共に楽しませて無くなれば途端に素っ気ない。笑顔を一欠片も残さず、あれは猫だ。
そんなだから忘れてしまう。
が、彼女は現最強のあのフレイヤ・ファミリアを過去に一度、戦争遊戯にて打ち負かし一瞬で勝利を収めるキッカケとなった正真正銘、英雄に成り得る資格の持ち主。黒龍討伐に参加しなかったのが悔やまれるが、結果が惨状であればこうして残ってくれた事はむしろオラリオにとってプラスになった。
だからこそ未練がましくフラフラしていることに納得がいかない。いっそのことフレイヤの所に改宗でもしてくれたらどれだけ救界が進む事か。ヘラが許さない事は頭では分かっているが、それでもやり用はある。
正攻法でダメなら誰も思いつかない奇策を。
合法でダメならそれこそ非合法。
なに人生っていうのはその時バレなければ大概何とかなるものさ。
そうこの男、ヘルメスと言う男は英雄の為とくれば何でもする。言葉通り何でもだ。
人が躊躇する行いも相手の立場なら咎める行いもそれが己が望みに歩む手段とくれば備わった倫理さえ蹴飛ばせる。見たい景色があるならばどうする?ならばその景色をそこに作ってしまえばいいと。
実に神らしい行動力である。
「はぁ〜い。炊き出しはこっちですよ!!」
__まぁ今ではなくともいいさ。
この混沌の時代。
芽吹いた種は確かに土から顔を出し始めた。
少し寒くなってきた世界、雪が降るにはまだ早いだろう。しかし体は外の空気に寒いさを感じ始めてる。
「さて、女神にはどう言ったものか。気が思いやられるね」
今日の褒賞を啜りながらなんとかなるさとヘルメスは歩みを再開する。